yellow redルート
YRくんルートです。友達と分かり合えない主人公に担当の人魚がするアドバイスとは?
「友達と分かり合いたくて。」
「お友達?」
「はい、もうここにしか希望がないんです!」
頭を下げる私にシーラさんが言う。
「友人関係って難しいよね。うーん、今日はシフォンにしようかな。」
「し、シフォン?」
「シフォンは、私の部下。多分シフォンはキッチンでお菓子盗み喰いしてると思うから、突き当たり左に行って...、あとは、自分で頑張ってね。て訳でシフォンの所へレッツゴー!」
そう言ってシーラさんは私を追い出す。
「え?シーラさん、案内はしてくれないんですか!」
「ごめん。今、私パパ達に呼ばれてて!ごめんね、頑張って!」
「え〜!」
後ろを見ると、シーラさんは既に泳ぎ去っていた。キッチン?どこだそこ。不安や、本当に願いを叶えられるのかと言う恐怖が、私の中で錯綜する。私はあの子と昔のような関係を取り戻す為にここに来たんだ。自分を見失っちゃダメだ。それにしても、シフォンと言う人はどんな人なんだろう、シーラさんの部下ということは、やっぱり人魚なのかな。そう考えながら、この広すぎるお城の地図を探した。
「どこにあるんだろ、キッチン。かれこれ五分は歩いてるんだけど。」
未だにお城の地図が見つからない。早く地図を見つけようと、辺りを見回す。すると、左からむしゃむしゃと音がして来た。恐る恐る音が鳴る方に目を移すと、そこには扉があった。中からは甘い匂いがする。私は決意を固めて、扉を開けた。
「!?」
やはりそこには人魚が居た。目の前の人魚がこちらを向いて目を見開く。オレンジ色のボブカットの髪にセルリアンブルーの瞳、こんな所で盗み喰いするなんて、かわいい女の子だな...と思った次の瞬間。
「ちょっと待ってお嬢さん。何でここが分かった?」
女の子だと思ってた目の前の人魚から発せられる声は、どう考えても男性のものだった。
「え?!男の子?!」
「あぁ、男だけど...。」
「あなたがシーラさんの言ってたシフォンさん?」
「ああ、そうだ。お嬢さん、願いを叶えに来たのか?」
私は笑顔で頷く。
「あー、その前に一ついいか?」
「大丈夫ですよ。」
「俺がここでお菓子盗み喰いしてたって、みんなに言わないでくれるか?」
「え、あ、はい。言いません。」
まぁ、もう少なくともシーラさんにはバレてるみたいだけど。
「バレてんの!?」
え、今、私、心読まれた?
「...はい。さっき思いっきりシーラさんが『多分シフォンはキッチンで盗み喰いしてる。』って言ってました。」
私が正直にそう伝えると、目の前の人魚はため息をついて、私に言う。
「うわー、マジかよ、最悪。まぁ、もうバレてんなら仕方ない。改めましてこんにちは。ようこそモルーア王国へ。俺はペール・シフォン。この国で財務大臣をやってる。シーラ様の部下だ。よろしく。」
「よ、よろしく。」
「とりあえず、ここに居るとウーナ様やエーギル様に見つかりそうなんで、別の所へ行こう。」
「ウーナ?エーギル?誰ですかその人。」
「ウーナ様はこの国の先先代女王陛下、シーラの父方の祖母だ。エーギル様は先代国王、シーラの実の父だ。」
「じゃあ、シーラさんはモルーア王国の王族なんだ。」
「そうだぜ。シーラは現女王だけど時々わがままでさ。だけど、根は優しいし、かわいいから、みんなに愛されてる。」
シーラさん、女王様だったんだ。
「何でシーラさんは呼び捨てなんですか?」
「シーラが『好きに呼んで』って言ったからだ。」
「そうなんだ。あと、何で見つかっちゃいけないんですか?」
「あぁ、ウーナ様やエーギル様はシーラや俺達が人間の願いを叶えることを良く思ってないんだ。見つかったら怒られるかも知れないし、俺達大臣達を解雇するかもしれない。」
「何でシフォンさん達はシーラさんと一緒に人の願いを叶えてるんですか?」
「うーん、まぁ、俺達はシーラが大好きだからな。あと、厳密には『願いを叶える人魚達』ではないんだけどな。」
そうシフォンさんと会話しながら、泳ぐ。しばらく泳いで行くと、タツノオトシゴの像が置いてある部屋に着いた。
「此処ならウーナ様にも見つからない...、よね?」
「いや、知りませんよ。」
シフォンさんは、少し気まずそうな表情で、私に聞いて来た。
「さてと、君の願いはどんなものなんだい?」
「えっと、私は...、友達と分かり合いたいんです。」
「そっか、それは何故なんだい?」
ここまでは来たんだもの、ちゃん話そう。
「私には、幼稚園の頃からの幼馴染の友達が居ます。よく、アイス食べに行ったり、映画を見に行ったりプールに行ったり。あの子と私は、本当に仲が良かったんです、以前は。」
「以前は、か。」
そう言うシフォンさんに、私は続ける。
「はい。最近、あの子がおかしいんです。ある日突然『もう話しかけないで。」って言われて、話しかける度にあの子が私を無視するんです。ここ数ヶ月では更に酷くなってるんです。関わらないで欲しいって言われて、それでも私、友達で居たくて。最近では話しかける度に大きな声で『話しかけんな!』って言われて。何か嫌なことしちゃったのかなって考えたけど、心当たりが無くて。私、前みたいにあの子と仲良くなりたいんです。」
シフォンさんは焦ったような、と言うか、明らかに引いてる顔でこちらを見ている。
「どうかしましたか?私の顔になんかついてますか?」
「ちょっと待て、あのな。君は嫌なこと言われても、友達で居たいって思ってるみたいだけど、『話しかけるな。』って言ってる人にしつこく話しかけるのは良くないと思うぞ。」
「どうしてですか?」
目の前のシフォンさんがため息を吐く。すると、どこからかお菓子の袋を取り出した。多分さっきキッチンから盗って来たんだろう。シフォンさんは、袋を開けて、中に入っていたチョコバーのようなものをボリボリ食べながら言った。
「君さ、去るものを追ってはいけないぞ。君はその子と友達で居たかったみたいだけど、『話しかけるな。』って、明らかに拒絶してるだろ?そう言うってことは、もう君と関わりたくないってことだ。君の元を去って関わりたくないってことは、君のことを大切にする気がないんだよ。今の君とは縁がないってことだ。例え以前は仲良かったとしても、そんな人を無理に引き止めても、良い結果は生まれないし、心の傷が増えるだけだ。今は距離を置いた方がいい。」
シフォンさんの言葉に、私はとても悲しい気持ちになった。
「そんな、私はシズカと一緒に居たいだけなのに。せめて、何でシズカが私を拒絶してるのか、知りたいです。」
シフォンさんは厳しい顔で言う。
「まぁ、モヤモヤするのは解決したいよな。けど、分かったところで、君や俺達が出来ることはないと思った方がいいぞ。君のこと拒絶してくる人と無理に解り合おうとすると、関係が更に悪化する可能性が高いし、最悪二度と会えなくなっちまうかもしれねぇぜ。」
...そっか、もう、出来ることは無いのか。もうあの子と私は、昔みたいな関係には戻れないのか...。
「今は、な。今無理矢理聞き出さなければ、もしかしたら後からどうして嫌がっていたのか話してくれる時が来るかもしれない。まだ友達で居たいなら、いつでも万全の状態で友達の話を聞けるように、準備しておくことだな。だから、今は待つだけでいい。待つのは、何もしないということではないのだから。」
シフォンさんの言葉にハッとして、涙がポロポロ出た。待つだけでいい、確かにそうだ。私はシズカとの友人関係を上手く諦められなかった。思い出がありすぎて。
「人間関係に執着して、囚われて動けなくなるのは君の人生から見ても良くない。悲しみに呑み込まれるな。理由が分からないなら君が悪いわけではないかもしれないだろ?今は他の身近な人との関係を大切にすればいい。」
私、ずっとシズカと話せないのが嫌だった。けど、今は話しかけるのは辞めておこう。
「はい、私、今はシズカと話すの止めときます。今はシズカとまた話せるように、心の準備して待っていようと思います!」
「それがいい。」
「うんうん。それがいいよ、イチカちゃん。」
いつの間にかシーラさんも来ていた。
「シーラさん、お父さんとのお話しは終わったんですか?」
「いや、イチカちゃんの願いが気になりすぎて、パパとの約束ブッチした。」
「「ダメじゃん。」」
私とシフォンさんが同時に言う。
「まぁ、ずっと聞いてたんだけど、イチカちゃんの悩みが解決してよかったよ。今は、他の身近な人を大切にすれば良いと思う。」
「ありがとうございます!」
そう私とシーラさんが会話してると、
「シーラ様〜!」
茶色の長い髪でややオレンジ寄りの黄色をした尾鰭の人魚の女性が私達の居る部屋に飛んで来た。
「モス、どうしたの?」
どうやらこの人魚はモスと言うらしい。
「いやー、シーラ様、さっきお父上様と会う約束してましたよね。エーギル様とグレンダさん、カンカンに怒ってます!シーラ様を探してこっちに来てます!」
「まずい、パパにバレたらお終いだ!じゃあ、イチカちゃん、私達はイチカちゃんを応援してるよ!また何かあったらパパ達に見つからないようにしてくれるなら来ていいからね。とりあえず今日はバイバイ!」
「さよならお嬢ちゃん!」
シーラさんとシフォンさんがそう言うと、私はいつの間にかさっきの地底湖に戻っていた。
これからは、自分を大切にしてくれた人との関係を優先しよう。理由が分からなくても、答えがはっきりしてなくても、とりあえず待っているのも、方便かもしれない。
その後、シーラはお父上様にめっちゃ怒られた。
「シーラ、何やってたんだ。パパとの予定を無視して。」
「いやー、キッチンでお菓子探してて。」
「おいコラ。シーラ、お前な、女王になったからって調子乗るなよ、大事な仕事の時間くらい守らなきゃダメだよ。」
「で、その大事な仕事って?」
「知らなかったのかよ。書類の整理と、今夜のタイダル王国とのパーティーの準備、あと、着るドレスも決めるんだ。」
「ごめんパパ。」
「ん?」
「お断りだねー!」
そう言うと、シーラはエーギル様の元から泳ぎ去っていった。
「まてゴラァ!」
今日もモルーア王国は平和だな。と、シフォンは思うのであった。
明日Yくんルートを投稿します。みんなお楽しみに!