Redルート
Rルートです。嫌な彼氏と別れられない主人公に、担当の人魚が優しくアドバイス。
「彼氏と円満に別れたくて。」
シーラさんは困った様な顔で言った。
「パートナーさんとかぁ、なんか大変そうだなぁ。今日はチーちゃんに任せるかぁ。」
「ち...チーちゃん?」
誰だその人。
「そ、チーちゃん。私の部下なの。さてそうと決まればチーちゃんのところまでレッツゴー!」
シーラさんは急に私の背中を押して来た。
「えっ!シーラさん?」
「ごめん私これから仕事なの、チーちゃんは多分広場にいると思うから!用事終わったらすぐいくよ!」
振り返るとそこにはもうシーラさんはいなかった。私はため息をついて、廊下を歩いた。しばらく歩いていくと、そこには大きな扉があった。おそらくここが、シーラさんの言ってた広場だろう。私は扉を開ける。
「多分、ここかな?」
そこには私の在校していた小学校の体育館の2倍ほどの大きさの広場があった。だが...
「誰も...いない。」
周りを見渡すが誰もいない。すると...
「わっ!」
「ああぁ!」
突然の出来事で大きな声を出してしまう。上からピンク色の何かが降って来た。
「おっとごめんなさい。久しぶりに願いを叶えて欲しい人が来たって聞いたから、驚いてもらおうと思ったんだけど...。」
そこには宙吊りになった淡い桃色の髪と尾鰭の人魚がいた。可愛い顔で戯けて笑っている。意外とガッチリした上半身はチョコ色のTシャツで覆っていた。
「誰ですかあなた...死ぬかと思った。」
目の前の人魚は宙吊りのまま自己紹介を始めた。
「ごめんなさい。私ペール・チェリーピンク。この国で文部科学大臣をさせてもらってるシーラ様の部下よ。えっと、シーラ様から連絡があったの。彼氏さんと円満に別れたいのよね。」
「そうだけど、その前にあなたいつまで宙吊りのままでいるんですか?!」
「あっごめんね、今降りるよ。」
この人は一体何がしたかったんだろう?この人がシーラさんの言ってた「チーちゃん」と言う人なのだろうか。
「えっと、私、イチカっていいます。シーラさんに...その、チーちゃんって人を探してって言われたんですが。」
「あぁ、それ私のことよ。」
やっぱりそうなんだ。結構話が脱線したけど、私は願いを叶えに来たんだ。
「そうね、お嬢さん。じゃあ改めてここに来た理由を教えてちょうだい。」
「え?」
急にチェリーさんが私の心を読だ様な発言をするのでビックリする。いざ聞かれると言葉に詰まるなぁ。まぁいいや、話そう。
「私には、半年前から付き合ってる彼氏がいます。1年前から好きで友達の後押しもあって私の方から告りました。彼は...すぐに付き合うことを承諾してくれました。最初はすっごく楽しかった。手を繋いだり、映画見たり、遊園地に行ったり。普段はとても優しいけど、最近あの人がおかしいんです。」
チェリーさんが言う。
「どういうふうに?」
「私がクラスの男の子と話してると、いきなり『俺以外の男と話すな!』って割って入ってきたり、『浮気とか絶対許さないからな。』って言って来たりするんです。しかもここ最近では塾のテスト中に何回も電話をかけて来てやっと出られたら大きな声で怒鳴られて。すっごく怖くて...。それに、『俺以外の男と連絡をとるな。』とも、言われて。さすがに家族との連絡先は...って言ったら、『俺のことが嫌いか?好きじゃないのか?』『俺と別れるならお前のことをネットで晒す。』って言われて。さらにその...エッチの時にコンドームを付けてくれないんです。そのことを友人に相談しても『ちょっと束縛激しいけど、好きだから構ってくるのだし、ちゃんと安心させてあげたらいいじゃん。彼の事好きなんでしょ?せっかく好きな人と付き合ったのに直ぐ別れるなんて贅沢すぎない?!』って、全然取り合ってくれなくて。けど、確かに自分の方から付き合ってと言ったのに別れたいと言うのはちょっと図々しいかなぁとも思ったり、優しい時もあるから今もちょっとだけ彼と別れたくない自分も居て。けど、私は人と付き合うのはこれが初めてで、よくわからなくて。これが普通なら仕方ないかなぁとも思うんです。」
チェリーさんは厳しく、真剣な眼差しでこちらを向いて居る。
「イチカさん、いいかしら。あなたは今デートDVを受けてるわ。」
「デートDV?」
チェリーさんは続ける。
「イチカさんは『ドメスティックバイオレンス』と言う言葉は聞いたことあるかしら?」
「ええ、知ってます。夫婦間での暴力ですよね。」
「そう、良く知ってるわね。『ドメスティックバイオレンス』は一般的には夫婦や恋人など親密な関係の中で起こる暴力」を言うわ。」
私が、あの人からDV?私はまだ15歳だし、結婚もしてないしまさか、子供の私に起こるわけ...。
「起こるわよ。未成年でも、カップル間のDVは決して少なくはないわ。」
チェリーさんのまたしても私の心を読んだような発言にドキッとする。それでも、チェリーさんは続ける。
「実際、交際経験のある人は女性で44.5%男性で27.4%が、恋人からの暴力を受けたことがあるという調査もあるわ。最近では未婚のカップルの間の命に関わるDVも増えて来てるし、未婚だから、未成年だからDVを受けないという考えは危険よ。近年ではこういった暴力を『デートDV』と呼んで、社会全体が防止しようと取り組んでいるの。」
「そうなんですね...。」
「人と話すのを制限される、これは『束縛』、デートDVの一種よ。それにセックスの時にコンドームをつけてくれない、これも性的DVよ。あと、『別れるならネットで晒す』このセリフは脅迫よね。」
「ちょっと待ってください!私がDVを受けてるのはわかったけど、これから私どうしたらいいんですか。」
チェリーさんは優しい顔で言う。
「あなたはまず、ご両親や先生に相談するのがいいと思うわ。まだご両親には話していないようだしね。『ネットで晒す』なんて脅迫をするような人は最初からあなたを愛してなんかいないわ。あなたを支配したいだけ。優しい時があっても暴力はダメ、今すぐ信頼できる人や警察に相談してその彼氏さんとは別れなさい。対等な関係になれない恋愛は幸せに繋がるお付き合いではないわ。」
そういえばまだ両親には話してなかったな。
「けど、私の方から付き合ってって言ったのに図々しくないですか?」
「さっきも言った通り、DVをするような人と関係を持ち続けるのは幸せに繋がるお付き合いではないわ。今のあなたとは縁がない人だと思って別れなさい。あなたを傷つける人と無理に一緒に居ても、心の傷が増えるだけ。それと、帰ってご両親に相談したらすぐに病院に行って性病の検査をしてもらいなさい。妊娠してないかも確認するのよ。コンドームを付けてくれない、避妊に協力してくれない人はただセックスがしたいだけ、ということも忘れないで。」
「確かに...そうですね。」
チェリーさんは優しい顔で言う。
「別れるのに双方の同意はいらないわ。どちらか片方が『別れたい』って言ったらそこで交際はおしまい。引き止める資格は誰にもないわ。」
チェリーさんは、ただ淡々と優しく今私が取るべき行動を示した。
「そうだったんですね。」
チェリーさんは申し訳なさそうな笑顔でこちらを見つめ返している。
「チェリーさん、私、帰ったら両親や先生にも相談して、あの人とは別れて別の優しい人と幸せになります。ありがとうございました!」
「いいのよ、私ができることは少ないけど、応援してるわ。」
「よかったねー。」
背後から聞き覚えのある女の子の声がする。振り返るとそこにはシーラさんが居た。
「シーラさん...。」
「ずっと聞いてたよ〜。それはそうと、イチカちゃんの彼氏さん、なかなかに酷いパートナーさんだねぇ。別れる選択をして正解だよぉ。あと、私もイチカちゃんを応援してるよ!」
「これからは、悩み事は信頼できる大人にしてね!」
「ありがとうございます!」
数日後、私は母と一緒に警察署に行って彼にもう私には近づいてはいけないと言ってもらった。その時彼は私にDVをしていたことをあっさり認めたけど、
「あんなに愛してやったのに別れるのか?向こうから付き合ってと言ったくせに自分から別れるのか?ふざけるな!」と言っていたそうだけど、そうしたら警察の方が、
「自分の方から相手を傷つけて困らせたくせに、別れたくないの?そんなのそっちの方がふざけてる。」
と叱ってくれたようで、彼はしょんぼりしていたみたい。
次からは、ちゃんと自分の好きな人を大切にして欲しいな。
病院にも行ったけど、幸いなことに性病も妊娠もしていなかかった。
もしあの時あの地底湖に行って無かったら、私は別れる勇気は出なかったと思う。ありがとう、チェリーさんシーラさん。
「ねぇ、チーちゃん、この間のイチカちゃん、ちゃんと彼氏さんと縁切れた見たいだよ。」
「良かった良かった。これからは、自分を傷つける悪い縁を切って...。」
「次は、自分を大事にして、良い縁を見つけ出せるといいね。さ、パーティーの準備しよ。」
そういいながら、二人の人魚は笑った。
どうでしたでしょうか。明日はYRルートを投稿しようと思います。人魚っていいよね。