Violetルート
Vくんのルートです。夢に向かって突き進みたい主人公に、担当の人魚が優しくアドバイスしてくれます。
「両親をどうにか説得したくて。」
私の言葉に、シーラさんは何か思い出したのか苦しそうな顔をして呟いた。
「ご、ご両親かぁ...。」
「お願いします。私、どうしたらいいか分からないんです。」
私がそう言うと、シーラさんは更に困った表情でこう言った。
「うーん。今日は、ライちゃんか...な。」
ライちゃんって誰だ?シーラさんは私の疑問を解決することなく、
「じゃあ、ライちゃんの所へ行ってね!多分ライちゃん訓練場に居ると思う、自分で探してね!じゃあ、私は紅茶飲んでくる!」
と捲し立ててシーラさんは私の背中を押して、部屋から強制的に出してしまった。
「え?シーラさん!」
返事はない、後ろを見るとマッハでシーラさんは泳ぎ去っていった。
「...行った方が良いよね。」
そりゃそうだ、ここまで来て願いを叶えられないとか、元の子もない。
私は広すぎるお城の廊下を歩き始めた。さっきのシーラさんの表情、ご両親に何かトラウマでもあるのだろうか。
訓練場?どこなんだそこ。それに加えシーラさんの言ってたライちゃんと言う人は誰なんだろう。
海の中に居るってことはやっぱり人魚なのかな。
まぁ、当たり前か。と、考えていた。
かれこれ十分近く周りを見つつお城を歩いているのだが、お城のマップのようなものが何一つ見つからない。
周りにはマーライオンの像が置いてある場所やお城の主と思しきシーラさんによく似た人魚の描かれた絵画がある場所などがあった。
そして、
「あれ?ここどこだ?」
周りに人は居ない、完全に迷子になったようだ。終わった。そう思った次の瞬間、
「どうしたのお姉さん。」
急に後ろから少年の声がして、驚く。
後ろを振り返ると、淡い紫色の尾鰭の茶髪の子供の人魚が立っていた。
「お姉さん、何でこんな所にいるの?それにお姉さん、人間だよね。まさか、不法...新郎だっけ...あれ?えっ
と、あ、不法侵入だ!」
まずい、完全に誤解されてる。
「違うよ、人魚さん。不法侵入じゃないよ!私、シーラさんに紹介されて、ライちゃんって人を探してるの。けど、迷子になっちゃって。」
私がそう言うと、目の前の人魚は少し安心したような柔らかい表情になった。
「シーラ様からか。じゃあ、願いを叶えに来たんだね。僕はハシド、よろしく!」
「よ、よろしく。」
「お姉さんが言ってるライちゃんって人は、恐らく僕の兄ちゃんだと思う。今兄ちゃんは、訓練場に居るんだ。着いて来て。」
ハシドくんはそう言って、奥の方へ泳いで行った。私も着いていく。しばらく泳いで行くと、
「さぁ、ここがライ兄のいる所だよ。」
目の前には大きな扉があった。私が小学性の頃居た学校の体育館のようだ。
扉には『training ground』と描いてある。
ここがシーラさんの言ってた訓練場か。
ハシドくんは力いっぱい扉を開く。中には、後ろ髪の上の方はお団子結び、下の方は長い三つ編みになっている紫色の髪と尾鰭の人魚が日本刀のようなものをを振り回していた。
「兄ちゃん!お客さんだよ。願いを叶えに来たんだって!」
「おお、ハシド、案内ご苦労。ウーナ様やエーギル様には見つかっちょらんな?」
「もちろんだよお兄ちゃん。」
シーラさんの言っていたライちゃんと思しき人魚が、こちらに泳いでくる。
「こんにちは、お嬢ちゃん。ワイはペール・ライラック、このモルーア王国の外務大臣で、シーラ様の部下をしちょるばい。」
「よろしくお願いします。」
「えーと、君の願いは、さっきシーラから連絡があったんやけど、忘れてしもうた。えっと、両親に復讐したいだっけ?」
「え?!違います。どこで間違えた!?」
後ろからハシドくんが、
「ごめん、兄ちゃん忘れっぽくてこう言う所あるんだ。」
と、申し訳無さそうに言った。
「私は、両親を説得する為に、ここに来ました。」
いざここから先のことを話そうとすると、喉が詰まったように声が出ない。
「なるほど、辛いならゆっくりでええで。」
「え?」
「いや、だから、無理に今すぐ話せとは言わんで。お嬢ちゃん、すごく辛そうな顔しとるけん。」
そ、そんなに私、表情にでてたのか。願いを叶えるためにここに来たんだから、話さなくては。私は大きく息を吸って、話し始めた。
「私には、本当に厳格な両親が居ます。幼い頃から厳しく育てられて、お行儀が少しでも悪いと『ご飯抜きにするぞっ。』と怒られて、小学生の頃は午後四時から、九時に寝る直前まで勉強させられていました。両親はよく、『お姉ちゃんは出来るのに何であんたは出来ないの?』と言って来ます。私、ちょっとそれが嫌なんです。けど、確かに姉は優しいし、勉強もスポーツも得意なので、返す言葉もなかったんです...。」
...ライラックさんが、先を促すように頷いた。
「私、比べられるのは嫌なので、沢山勉強して、座学の方は姉と同じくらい出来るようになりました。スポーツは、運動神経無いなりに頑張っています。けど...。」
ハシドくんが言う。
「けど?」
「私には夢があるんです。今はその夢を両親に反対されているんです。その夢は、フリーランスのイラストレーターです。私、昔から絵はずっと描き続けて来たので。けれども両親からは、弁護士になるように言われてて。素直に私の夢を話したら、『自分がやりたいことばっかりやってたら、今の世の中やっていけないよ!ちゃんと大学まで行って、弁護士になれるように努力するべきよ。』『お父さんとお母さんは、イチカに幸せになってほしい、その為にこうやって人生設計をしてあげてるんだ。』って言うんです。それでもイラストレーターになりたいって言ったら、『そうやって一生努力することから逃げてな!』って大きな声で怒鳴られました。『お願いだからお姉ちゃんみたいに良い子にしててくれ。』とも言われて。心配から来てる言葉だとは思うんですが、私、何とか両親に夢を追いかけることを認めて欲しいんです。」
ハシドくんとライラックさんが、複雑な顔で目を瞑ってだまり込んだ。
数秒後、ライラックさんが沈黙を割いた。
「何悩んどんの?同意なんざ必要無いやろ。」
「???」
この人は何を言ってるのだろう。どういうことだ?
「いや、あのな。自分の夢追いかけるのに両親の許可は、必要やと思わんでええで。それに、あんたの両親は厳格な人間なんかやない。『人生設計をしてあげる。』って、勝手に子供の人生を決めつけて支配して自分の思い通りにしたいだけや。『お姉ちゃんは出来たのに何でお前はできない。』?あんたとお姉さんは別の人間やろ。お姉さんもあんたにも長所も短所もそれぞれある。本当に良い親ならそこもひっくるめて愛すべきや。自分の夢を応援してくれないどころか全力で邪魔して来て、あまつさえ比べても仕方ない所を比べてくる親とは、距離を置いたほうがええ。『そうやって一生努力から逃げてろ』なんて言う親の呪縛に自ら縛られる必要はあらへん。親は親、あんたはあんたや。自分が本気でやりたい夢なら、全力で、自分の力で掴み取るんや。そうやって結果をだせたら、ご両親も認めてくれるんとちゃう?勿論、結果を出すのは難しいけど、今じゃなくてええ。自分が生きている間に何らかの功績を残せたら、それだけで万々歳や。」
ハシドくんも言う。
「兄ちゃんの言う通りだと思う。自分の嫌なことを強要してくる人とは、無理に関わる必要無いよ。」
少し不安になった私は二人に聞いた。
「本当に?それが、親でも?」
「どんな相手でもや。そりゃ人を殺したいとかそう言う願いなら止めて当然やけど、別に悪いことしようとしてる訳やないんやから。親なら心配するんは普通やけど、子供の夢を全力で否定するのは良くないわ。そもそも、どんな仕事でも大変で努力が必要なのに変わらないんやし、子供が自分の望まない職を選ぼうとしてるだけで『努力から逃げてる。』ってのは可笑しい。」
...でも、やっぱり両親と距離を置くのは怖い。また嫌なことを言われたら、私はどうすれば良いのだろう。
「ねぇ、お姉さん。クリエイター業は完全実力社会だし、そんな世の中を生き抜く自信はある?イラストコンテストとかに、応募したりしてる?」
ハシドくんの言葉に、私は、
「一応、両親に隠れて、美術の先生に紹介されたコンテストに応募しました。結果は、佳作でした。」
と返した。
「なぁ。」
今度はライラックさんが私に聞く。
「ご両親の他に、信頼出来て、あんたの夢を否定せず応援してくれている人はおるか?」
「美術の先生と、あと、父方の祖父が居ます。画力はまだまだだけど、努力すればイラストレーターにはなれる位の画力はあるって言ってくれました。」
「なら、全力でその二人に頼れ!味方になってくれる人は大切にせなあかん。これからは、自分の夢を追いかけるんや。それに、大人になったら家を出て行くことも出来る。」
「けど、私成人するまであと2年もあるし、大学も法学部以外認めてくれないんです。私は、美術大学に行きたいけど。」
「んー、そこが厄介だね。」
「お嬢ちゃん、奨学金をもらえるレベルで勉強するってのはどうや?さっきおじいちゃんが味方してくれてる言うとったやろ。おじいちゃんからも何か言ってもらうのも効果的やと思うで。」
「いざとなったら、私達が何とかするから!」
「あ、ありがとうございま...え?シーラさん?」
いつの間にか、シーラさんが話に入って来た。
「いやー、ちょっと、台所の紅茶切らしちゃってたから。とりあえずイチカちゃん何してるかな〜って思って。ずっと聞いてた、ごめん。」
ライラックさんが呆れたような顔でシーラの方を見ている。
「シーラ、お前なぁ、この広い城の中客を放置して!ウーナ様達に見つかったらどうする気でおったん?」
「大丈夫大丈夫、おばあちゃんとパパはここら辺うろつかないから。」
そしてハシドくんが、
「シーラ女王、何とかするって、具体的に何をしようと思ってらっしゃるのですか?」
「え、シーラ女王?」
すかさずライラックさんが、
「あ、言うとらんかったっけ。シーラはこのモルーア王国の女王陛下なんや。」
衝撃の事実に頭が混乱する。
「え、初耳なんですけど。」
「シーラ、何する気でおるん?」
「後で考える!」
「おい!」
「まぁとりあえず、今日は帰りなよ。イチカちゃんのイラストレーターになる夢、とても素敵だと思う。私も応援してるから、私達に任せて。じゃ、また今度〜!」
「え?!」
シーラさんがそう言うと、私はいつの間にか元居た地底湖にの入り口に戻っていた。
髪も服も濡れていない、これも海の中に居た時息ができていたのと同じ魔法なのだろうか。
本当に私の願いは叶えられるのだろうか。
「帰らなきゃ。」
私は不安な気持ちを抑えて帰路に着いた。
家に帰ると、両親はカンカンに怒っていた。
「イチカ、こんな遅くまで何してたんだ。」
そう言う父の言葉に、私はふと時計を見る。時計の針は午後5時を指していた。
「何してたのって聞いてるでしょ?」
まさか、一人で地底湖まで行って人魚に協力をお願いしていたなんて言えない。
「お母さん、お父さん、私、やっぱりイラストレーターになりたい。」
「ダメよ、自分のやりたいことで食べて行くことができる人はそうそういないんだから。」
私は意を決して、両親に言う。
「お母さんとお父さんは、今の仕事、嫌々やってるの?やりたいことじゃないの?」
「いや、やり甲斐を感じてるわよ。」
「じゃあなんで私はやり甲斐を見出せるかもしれない職業を目指させてもらえないの?」
「それは...。」
両親は黙り込む。
「お前にはまだ早いからだ、老後の楽しみにとっておけ。」
「私は大人になったらすぐ仕事にしたいの、おばあちゃんになってからなんて絶対嫌!」
私がそう言うと、父は机を叩いて、荒い声で、
「いい加減にしろイチカ、俺はお前を愛してる、言うことを聞け!」
そう父が私を怒鳴る。すると、リビングのドアから、人が入って来た。お姉ちゃんだ。
そう言えば最近部活で忙しくて全然話してなかったな、とこの緊迫した空気の中、考えていた。
「お父さん、何してるの?」
「イチゴ、お前には関係ない話だ。」
「関係なくなんかないよ。全部聴いてたよ。それに、今、イチカに愛してるって言ったよね。大きな声で怒鳴って将来の夢を否定するのが愛って、何を言ってるの?」
「イチゴ...。」
お父さんが吃る。
「私、昔からずっとイチカと比べられるの嫌だったの。父さんと母さんがイチカの方が出来が悪い子みたいに言うの、ほんっとに不快だった。お互いにもっと夢も長所も短所も受け入れようよ!だって家族でしょ!」
「イチゴ、お前。」
お姉ちゃんは優しい眼差しで、私を見る。
「イチカ、あなたは絵を描いて、それを仕事にしたいんだよね。前に父さんと母さんに隠れて、イラストコンテストに応募したよね。おじいちゃんから聞いたよ。佳作だったみたいだね。」
そう言ってお姉ちゃんは私の応募したコンテストの結果表を取り出した。
「「え?!」」
両親が驚く。
「ほら、イチカは勉強も出来るし、絵も描ける。やりたいことに精一杯頑張って、努力出来る子よ。本当に私達のこと愛してるなら素直に夢を追いかけさせてよ!そうやって我が子の人生を邪魔するなら、私は父さんと母さんからも卒業するよ。」
お姉さちゃんはそう言い切った。
「お姉ちゃん...。」
数秒沈黙した後に、
「...イチゴ、イチカ。ごめんね、お母さん達が間違っていたわ。知らない間にこんなに努力していたのね。結果がすぐに出ることはないけど、お母さんはあなた達を応援するわ。」
母がそういうと、父も少し悔しそうな表情で、
「分かった。お父さんも、子供の夢を否定するのは良くなかった。済まなかった。イチカがやりたい生き方で生きれば良い、けど、お父さん的には大学まで行って欲しい。学費は出すから自分が行きたい学校に行ってくれ。ただし、一度やりたいことが決まった以上は真っ直ぐ前を向いて進んでいくんだぞ。」
「勿論だよ、お父さん。」
そう言って私は、姉と部屋に戻った。
「ねぇお姉ちゃん、さっきは何でお父さんとお母さんに抗議してくれたの?」
「いやー、なんかさっき仮眠をとっていたんだけど...、何か妙な夢を見たんだよね。」
「夢?」
「そう、白い髪を二つ結びにしてて、髪の先がウミヘビみたいになってて、尾鰭も白い人魚の女の子。後ろにも何人か人魚が居たけど、顔は見えなかった。」
「!!!」
「そして髪の白い子から、『親に対する不満は早めにぶつけた方がいい、それが大切な人の為になる。ほら、さぁ今こそ思いをぶつけ合おう!』みたいなことを言われて、そこで目が覚めた。そんで起きてリビングに行ったら、イチカが父さん達と喧嘩してたの。だから私は長年の不満を父さんと母さんにぶつけた。お陰でスッキリしたよ、今はすごく心が軽くなった感じ。」
私はすぐに、お姉ちゃんの夢に現れたのは、シーラさん達だと気づいた。
(そっか...ありがとうシーラさん。)
その日の夜、私は夢を見ていた。
目の前には、昨日私の話を聞いてくれていたライラックさんとハシドくん、そしてシーラさんが居た。
「やぁ、お嬢ちゃん。」
「ら、ライラックさん!」
「お姉さん、無事願いを叶えられたみたいだね。良かった良かった。」
「いやー、イチカちゃん、良いお姉さんを持ったね。夢の中に入ったけど、心が本当に綺麗だった。」
「やっぱりシーラさんだったんですね。」
「さてと、後は自分の目標に向かって突き進んでいくだけだね。イチカちゃんならきっといいイラストレーターになれる筈だよ。いつか私達のことも描いてよ。またいつでも来ていいから!」
「シーラさんライラックさんハシドくん。ほんっとうにありがとう、私努力して、立派なイラストレーターになります!」
私は、自信を持って、そう言った。
いかがでしたでしょうか、今まで書いた小説の中で一番長くなりました。2日かけて書いたエピソードでした。明日はRVくんのルートを投稿します。