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小話 集え!王妃親衛隊


夏休みを終えてメイベルたちがオーストラク諸島から船で帰ってくると、部下を連れたバルシューンに出迎えられた。

ルスランは、バルシューンの律義さに感心している。


「狩りの収穫があったからな。戦利品は一度、王にすべて献上してから分配してもらうってのがダラジャド流だ」


ルスラン王が王都を離れている間、治安維持のためにバルシューンは自身の部下を連れてせっせと見張りをしていてくれたらしい。その道中で相手からぶん取ってきた収集品……もとい、手に入れた報酬をきちんとルスランに報告する。

ルスランが将軍アンドレイ、宰相ガブリイルと共に確認しているかたわらで、メイベルはバルシューンに話しかけた。


「バルシューンも一緒に来てほしかった」


アルフレートやヴァルターに、バルシューンのことを紹介したかったメイベルは残念でならない。

しかし、他ならぬバルシューンが嫌そうに首を振る。


「船は苦手だ。戦じゃないなら手柄を立てられるわけでもねえし、ついて行く理由がねえよ」


オーストラク諸島行きが決まった時にも、バルシューンからは同じことを言われて断られた。

メイベルが不満そうに唇を尖らせていると、バルシューンの部下たちもなんか似たような表情で上司を睨んでいた。

……なんでだろう、とメイベルが思ったように、バルシューンも眉間に皺を寄せて部下たちに振り返っている。


「……なんでおまえらまでぶーたれてんだよ」

「俺たちは行きたかったです!」

「可愛い女の子たちとバカンスを楽しみたかったのにぃ!」

「まだそんなこと言ってやがんのか……いい加減にしろ!」


バルシューンの部下たちは、以前から美人揃いの王妃付き女官とお近づきになりたがっていた。彼女たちと親しくなるチャンス!と思ったのに、上司のバルシューンはそういったことを配慮する気がなくてあっさり拒否したので、彼らはとてもがっかりしているようだ。

そんな部下たちを一喝して蹴散らし、バルシューンはため息を吐いた後、懐から髪飾りを取り出してメイベルに差し出した。


「それは?」

「おまえ宛ての土産。明らかに女物だし、一応、おまえも俺たちの王ではあるからな。受け取っておけ」


ありがとう、とメイベルは微笑んで言い、自分の髪に触れて……バルシューンにその髪飾りをつけてもらおうとする。

バルシューンには苦笑されてしまった。


「そういうのは旦那の役目だろ。ほら、ルスラン王のとこに持っていってこい」


バルシューンに手渡された髪飾りを持って、メイベルは素直にルスランのもとへ行く。

メイベルから話を聞き、ルスランは束ねられた妻の髪に、髪飾りを付けた――離れたところからその様子を見ているバルシューンを、ミンカはじっと見つめていた……。




「――そんで。さっきからなんだよ」


ルスランたちと別れた後、バルシューンは物陰からこそこそと自分を見る女に向かって言った。

港に着いた船から荷を下ろし、馬や馬車に乗り換える――その待機時間。彼女も、馬車に乗る王妃について行かなくてはならないだろうに。


ミンカが、そっと姿を現し……そそくさとバルシューンに駆け寄ってきた。


「バルシューン様、私、前から感じていたんです」


ミンカは目を輝かせ、バルシューンを見上げる。


「バルシューン様は、私たちと共に王妃様をお支えするにふさわしい御方だと!あなたこそ、王妃様親衛隊の副隊長の座をお願いすべき御人だと!」

「……はあ?」


身を乗り出す勢いでミンカは力説するが、バルシューンは引き気味だ。詰め寄る彼女に、バルシューンは退いている。


「見返りを求めることなく王妃様をお慕いし、尽くすそのお姿……感銘を受けました!一緒に頑張りましょうね!」


バルシューンの手をガッとつかみ、握手するように握ったまま、ブンブンと振り回す。

一方的に言いたいことだけ言い終えると、ミンカは鼻歌でも歌い出しそうな上機嫌さで、軽やかにスキップしながら立ち去っていった。


呆然となって彼女をただ見送るしかできずにいるバルシューンの肩を、後ろから誰かがポンと叩いた。

……ファルコだ。


「あんたも認定されたのか。ちなみに、俺が隊長なんだとさ」

「はあ?マジでなんだよそれ……」


意味分かんねえ、と呟くバルシューンに、ファルコも同意するような表情だ。


「俺も正直よく分かってねえけど……あいつら、怒らせると、ある意味ルスランより厄介だから……なんせ王妃付き女官全員だし……」

「マジでなんだそれ……」


思わず同じセリフを二回呟いてしまう。


メイベルは知っているのだろうか。

口には出さなかったが、顔に思いっきりその疑問は出ていたらしい。ファルコが首を振る。


「……お互い頑張ろうぜ。何をどう頑張るのかは俺に聞くな」


とりあえず、その日からバルシューンは王妃付き女官たちとはなんか接触する機会が増えたような気はする。同志と思われて、向こうが勝手に親しげに声をかけてくるというか。


別に実害があるわけではないし、妙なものに認定されたと言っても自分の仕事、やるべきことは変わらない……と放置を決め込んでいたが、一部で問題が起きた。


「バルシューン副隊長ばっかり女の子たちと仲良くなってズルい!」

「抜け駆けだぁ!」


美人揃いの王妃付き女官たちと仲良くなりたかった部下から誤解され、恨まれることになってしまった。

誤解を解くのも馬鹿馬鹿しくて、寝ぼけたことを抜かす部下たちはぶん殴って黙らせておいた。



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