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遅すぎた愛の言葉


「愛している、メイベル」


その言葉に、彼女は目を見開いた。

黙り込んでじっとしていたが、やがて涙をこぼし始め……それが、喜びの涙でないことはルスランにもすぐに分かった。


俯き、夫と目を合わせることもなくメイベルが言った。


「……ごめんなさい。こうなる前なら、私はきっと、その言葉を素直に喜んだ。でもいまは……どうしても信じることができないの……」


静かに泣き続ける妻の顔に手を伸ばし、頬を濡らす涙を拭う。それでもメイベルは顔を上げることはなく、ルスランは彼女を抱きしめた。


――どんな時でも、メイベルはルスランを信じてついて来てくれた。何をされようとも、どんな役目を押し付けられようとも、耐えてくれた彼女が……。


なんという皮肉だろう、とルスランは自分の愚かさを嗤う。

言葉にせずとも伝わると高を括り、自分はずっと、この言葉だけは伝えずにいた。


照れくさかったというのもある。

浮気はするし、自身の野望のためならメイベルを他の男に宛がうこともする、ろくでもない夫だった。

実は彼女にべた惚れで。周囲からそれを指摘されると、素直に認めることができずに意地を張って。

信頼や感謝は何度か口にしていたが、一番大切な言葉は伝えずじまいであった。


言葉にせずとも彼女には伝わっているという驕りもあった。

結局のところ、ルスランは自分で思っていた以上にメイベルに甘えていたのだと思う。そうして彼女の寛大さに甘えて自分勝手に振り回し続けた結果、取り返しのつかないところにまで来てしまって、ルスランは生まれて初めての後悔をしていた。


心からの愛の言葉が彼女に届くことは、二度とない。

永久に、その機会は失われてしまった。


自分を見ることのない妻の姿に、ルスランは己の罪を突き付けられていた。

それでも、ルスランは伝えずにはいられなかった。例えこの先、メイベルが自分の言葉を受け入れることがなくとも。


――贖罪などではない。許しを乞うために、彼女に愛を伝えるのではない。

ルスランにはこれからも彼女が必要で……ただ、メイベルを愛しているから。


もう届くことはないのだとしても。メイベルに何度拒絶されようとも。

自分は、永遠に彼女に伝え続けるだけ。




ヴァローナ王国の王ルスランと、その妻メイベル。


二人が結ばれたのはいまより七年前のこと。

当時ハルモニア王妹であったメイベルは、祖国ハルモニアがヴァローナ王国との戦争に敗北し、兄王を喪ったことによりルスランのもとに嫁ぐこととなった。


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