護岸飛行隊、発進
海上自衛隊第二護岸艦隊。誤字ではない。護岸艦隊。この部隊の主たる任務は、文字通り海岸線の護岸である。
昨今の異常気象は海岸の侵食を一気に進めるほどに深刻であり、早急な対策が必要だった。そこで2000年、防衛省は陸海空合同で海岸線護岸専門の部隊を編成し、日本中の海岸線の護岸に当たらせた。
陸上自衛隊からは護岸旅団が、海上自衛隊からは護岸艦隊が、航空自衛隊からは海岸線観測隊がそれぞれ発足、大本営ならぬ海岸営が設置され、総力戦の如く運用されることになった。
私は2015年に航空自衛隊 第一護岸飛行旅団 第3観測飛行艇大隊に配属された。
それからは沖ノ鳥島や北海道日高沿岸で護岸訓練をしながら、出動の日を待っていた。
そして、2021年。福徳岡ノ場で海水の変色がある、そう通報があった。
すぐさま港併設の飛行場からG1哨戒機が発進する。レシプロエンジンの(ジェットエンジンに比べれば)慎ましやかな音が通りすぎていく。
「なあ神岡、うちの飛行機はなんで砲をつけてるんだ?」
「噴石を撃ち落とすためだろう。芦屋は教育隊で何を学んだんだ?」
決して頓珍漢な会話ではない。G1哨戒機には76mm速射砲が二基ついている。
G1哨戒機は護岸部隊専用の哨戒機だ。噴火する火山、特に海上火山の噴煙の中を飛行するための飛行機だ。灰を吸い込んでエンジンが止まってはいけないからレシプロエンジンを搭載し、塵がつまってはいけないからと星形エンジンにも関わらず完全な液冷、すべてのエアインテークにフィルターが被せてあり、噴煙の侵入を防いでいる。
また、多少の噴石が飛んできても飛び続けられるように、と機体は鋼鉄製で、分厚く頑丈。そのせいか、水陸両用機でありながら喫水がかなり深く、着水には細心の注意を要する。ぶっちゃけ言うと燃料満載で着水できないらしい。沈没するそうだ。
頓珍漢な会話をしながらも私たちも後続のG1哨戒機に搭乗し、一直線に福徳岡ノ場へ向かった。
ちょうどその頃、横須賀基地では第一護岸艦隊に護岸ブロックを積載していた。
私は、私たちは、日本の領海を増やすための、戦後初の(自然)侵略戦争へ突入したのだ。