佐藤攻一 卒業と
高校の校庭にある桜が、特に理由はないが好きだった。
外周に沿って植えられていて登校して学校の近くになると見えてくる。
満開になると普段景色なんてものに興味なんてない俺でも目を留めてしまう程の景色になる。
今日は卒業式だ。
桜は当然満開に――はならなかった。
というか毎年そうだよな。
卒業式は時期的に早くて一切咲いてなくて、入学式にはもう散っている。
まぁでも代わりに春休みなんかには満開になっているか。
どうせまたあいつらが誘ってきてとんでもない何かを起こすんだろうな。
※ ※ ※
『これにて卒業式を閉会致します』
そんなアナウンスと共に卒業式は終わり、卒業生が体育館から退場していく。
式での朔夜はまさに生徒会長といった見事な振る舞いだった。
一挙手一動作に美しさすらあった。
うん……。
あれが家ではドMメス豚ムーヴかましてるの何ともいえない気分になってくるな。
嘘だと言ってくれ。
※ ※ ※
生徒が皆、それぞれの教室に戻り、HRも終わった頃。
卒業生は今頃騒ぎに騒いでいる頃だろうけど。
在校生はまぁそこまででもない。
終業式がまた後日あるわけだしな。
精々仲の良い友人と来年のクラス替えについて話したり、卒業生が最後に部活に顔を出す事について話していたりするくらいだ。
俺もイケと話しつつクラスのやつらが帰り始めるのを待つ。
――ブブッ
「ん」
ポケットに入れていたスマホが揺れる。
「どうした攻一ー」
「あー……LINEが来ただけだ」
「そっかー。あ、俺ぼちぼち時間だわーまたなー。あ、また同じクラスになれると良いなー」
「ああ、神に祈っとく」
「大げさ過ぎてちょー面白い」
イケは笑いながらクラスを出て行った。
俺はスマホの画面を見る。
鏡花からのメッセージを通知していた。
『攻一さん、家に帰ったら少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか』
※ ※ ※
日も落ち、外は完全に真っ暗になった頃。
俺と鏡花とリリーの三人は俺の部屋に集まっていた。
朔夜は剣道部の方に顔を出さなければならないらしく少し遅れるらしい。
「なぁ鏡花、全員集まらないと出来ない話なのか?」
「はい、全員に関係している話ですので」
全員に関係している?
うーん……思い付かないが、まぁまた何か面倒な事になりそうな話が始まるのだろう。
「すまない、待たせたな」
ドアを開き朔夜が入ってくる。
「来たな。で、何の話だ?」
「……はい」
鏡花がリリーと朔夜を順にゆっくりと確認するように見た。
「では……いいですか?」
?……二人に確認するように言ったその言葉に何か違和感のようなものを感じた。
「ああ」
「オッケーだよ」
朔夜とリリーの二人が答える。
「……何だか変な雰囲気だが、何かあったのか?」
「いえ、何かがあった訳ではありません」
ただ……と、鏡花が付け加える。
「朔夜さんが卒業するこの時に攻一さんにお話ししようと思っていた事があります」
「話そうと思っていた事?」
「はい」
鏡花は薄く微笑みながら言った。
「攻一さん、私達三人は攻一さんの事を心より愛しています」
「ああ」
「その事に対する返答を改めて明日頂きたいのです」
「……何でわざわざ明日なんだ?」
「時間が欲しいからかな」
鏡花ではなく朔夜が答えた。
「……攻一さん、もし私達への気持ちが出会った時と変わっていないのであれば――」
鏡花は淀みなく微笑みもそのままに言った。
「私達のこの共同生活を終わりにしましょう」




