佐藤攻一 今まであった色々な事
ふと気付いた時、真っ暗な闇の中にいた。
ぼんやりと浮いているような、立っているようなそんな感覚。
いくら眼をこらしても何も見えない。
ただ俺はここがどこだか覚えがあった。
ここは俺の夢の中だ。
夢を見る時は決まってこの暗闇でそして夢を見ている事に気付く。
――今まで色々な事があった。
ふっと、そう思った。
あの三人の事だけじゃない。
三人と出会う前……もうそれがいつだったか忘れてしまうくらいから。
本当に色々な事があった。
そこまで考えた時に目の前の暗闇が明け懐かしい風景が広がった。
よくあるような公園。
時間は夕方で空は少しずつ赤くなってきていた。
ベンチにはイケメンが一人、項垂れて座っていて公園内に他に人の姿は見えない。
この夢の便利なところだ。
思い出したその場所に行く事が出来る。
「どうしたんだ?」
そうだ、俺はあの時そう声を掛けたんだった。
ベンチに座るイケメンが力無く答える。
「株でね……ちょっと……いやすまない、初対面の相手に言う事じゃないな」
「話だけでもしてみろよ」
俺は隣に座る。
「何かあったんだろ? 偶然、俺が解決できる何かを持っている可能性だってある」
「……そうだな、じゃあ話だけ聞いてくれるか?」
イケメンの男性――ショウさんがゆっくりと話し始める。
何て事はない、という程軽い話でもなかったが。
株で失敗したというどこかで耳にした事があるような話。
あの時は……10分くらい話したかな?
「よし任せろ」
話を聞き終わった俺はショウさんにそう言った。
「俺が力になってやる」
そこで場面が切り替わった。
公園の風景はそのままに空が夕暮れから雲一つ無い晴天へと移り変わる。
確かこれは……株の問題を解決した時か。
「攻一、本当にありがとう! 感謝をいくらしてもし足りない」
ショウさんが俺の両手を掴み言った。
「別にいいよ、こっちだってちゃんと分け前の10億はもらってんだから」
この時のお金を渡して朔夜と出会う事になるんだったな。
「いや、とてもじゃないがそれじゃ足りない! やっぱり俺の取り分からもう少し渡す――いや渡したい!」
「馬鹿だなー相変わらずショウさんは馬鹿だなー。そのお金を渡して奥さんや子供はどうするんだよ」
「うっ……じゃ、じゃあせめて妻と子供に紹介させてくれ。俺の大恩人だって」
「いきなりお金のお世話になったって知らない人紹介されても怖いだけだろ。もう良いから帰ってやりなよ」
「ぐぅ……うぅー……ああああじゃあ! 何かあったら連絡してくれよ! 何を置いても助けに行くから! あと、俺の方からも電話くらいなら良いだろう?」
「……ああ解った」
そういやそれから俺の方からは何も言ってなかったな。
まぁ俺が居ない方がショウさんは幸せになれるんだからそれでいい。
また目の前の風景が切り替わり場面が変わる。
ここは……鏡花を助けた後辺りか。
何の変哲もない街中で俺の前には一人の男性が立っていた。
鏡花をさらった組の組長の息子――シゲさんだ。
「攻一……無茶しやがって」
「まぁ……解決したからいいじゃんか」
「一人で組に乗り込むなんざ自殺しに行くようなもんだ……無事で良かった。いや右手が大事になってたな。素手で日本刀掴んで止めるなんて相変わらず馬鹿だな」
「馬鹿とは失礼だな。この怪我のおかげでなんかよく解らないけどそこに居た女の子だって助かったんだぞ」
その女の子は後にストーカーになるけどな。
「……攻一、いや今度からは兄弟と呼ばせてくれ」
シゲさんは両膝に手を置き頭を下げる。
「一生かかっても返せるか解らない程の恩だ。俺がこの先、幸せを感じる事があればそれは全てお前のおかげだ」
「大げさだってシゲさん」
「お前がそう思っても、俺はそう思わない。この恩は絶対に返す。お前が良いと言っても絶対に返すからな」
「はいはい、解ったよ」
兄弟か……結局それじゃあ結ばれないじゃないかシゲさん。
またそこで場面が切り替わった。
辺りは暗く、夜の森の中のようだ。
その中で焚火が一つ燃えており辺りをぼんやりと照らしている。
焚火の傍には俺ともう一人、男性が居た。
「お前とも長い付き合いだな攻一」
「そうですね、師匠」
今日の夢にはこの人まで出てくるのか。
俺が異世界に飛ばされた時、戦い方や異世界での生き方を教えてくれた恩人。
俺は愛と尊敬を込めて師匠と呼んでいた。
ちなみにイケメン。
「長くこの世界に居すぎて元の世界に戻った時が大変ですよ。……帰らなくても俺的には良いんですけどねー……チラッ」
「ははは、面白い冗談だ」
朗らかに笑う師匠。
全然冗談で言ってなかったんだけどな。
「けど、そうだな……元の世界に戻った後の事は俺も心配だな」
師匠は焚火の中に薪を一つ放り込む。
「誰かをいつも助けて回るお前に、いつか……」
師匠はそこで言葉を切り黙ってしまった。
言葉の続きも気になったが、俺が助けて回ってるというのがそれ以上にクエスチョンマークだった。
いや、俺はそんな聖人君子じゃないぞ?
何言ってるんだ師匠?
師匠は最後に小さく悪いなとそう呟いた。
見えている景色がぼやけていく。
薄く薄くなっていき最後はまた始めの暗闇に戻って来ていた。
夢の終わりだ。
そう思った時には夢は明け、俺は目を覚ましていた。
ベッドの上でもう見慣れてしまった天井を見上げる。
何で今、あの人達の夢を見たんだろうか。
最近は思い出す事も少なくなってきていたのに。
「攻一さん、おはようございます」
声のした方を向くと鏡花が椅子に座り紅茶をゆっくりと口に運んでいた。
自然に俺の部屋でお茶するのは止めてくれ。
……もはやこういう事にも驚かなくなってきたな。
「寝坊をしたらいけないと思いまして」
「それだったらリリーの方へ行った方が良いんじゃないか?」
寝坊の常習犯といったらあいつだ。
加えて確信犯で下着忘れちゃった☆とか抜かしてきやがる。
「ふふ、もう起きて準備してるみたいですよ」
「珍しいな。朔夜の方は……まぁあいつは大丈夫か」
何だかんだあいつはそういう部分はしっかりしている。
伊達に生徒会長をやっていたわけじゃない。
毎朝、毎晩ケツをぶっ叩かれにくるドMだけど。
「それに、今日はあいつが主役みたいなもんだしな」
「そうですね」
「遅れないように着替えたいから出て行ってくれるか?」
「攻一さん」
「何だ?」
「この部屋にはカメラが100台以上あります。任せてください」
「いつまで経っても慣れない怖さだわ」
それに100台以上て。名探偵Lでも止めに入るレベルだわ。
俺は半ば強引に鏡花を追い出し手早く着替える。
こんな日でもあいつらはいつもと変わらないのだろうな。
「さて行くかね」
今日は卒業式……朔夜が高校を卒業する日だ。




