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期末と理想と変態3

「じゃあ次は私の番だな」


「え、これ順々に言っていく流れなの?」


※ ※  ※


 見渡す限り青く生い茂る芝が広がる広場。


 爽やかな風が吹き、空は雲一つない快晴。


 何て清々しい日なのだろうか。


 今日私は攻一と一緒にドッグランデートに来ていた。


「ワンワンワンワン!」


「ハハ、そんなに鳴くなよ朔夜」


(犬お前かよ)


(理想の未来だな)


(ただただ怖い)


「こんにちはー元気な犬ですねー」


 他の参加者が声を掛けてきた。


(この状況でよく声を掛けてこれるな。世界観どうなってんだ)


「大型犬で大変ですよー。あ、実は最近芸を覚えたんですよ。朔夜お手」


「ワン!」


「よく出来たな。ご褒美だ」


 バチィン!


 攻一はお尻を思い切りひっ叩いてきた。


「ワンワンワン!」


「朔夜ちゃんすごい喜んでますね!」


「ワウンワウン!」


「じゃあ、そろそろ失礼しますね。お邪魔してもいけませんし」


「いえいえそんな。ありがとうございました」


 頭を下げながら去っていくのを二人で見送る。


「…………………………なんか飽きてきたな」


(回想の中の俺情緒どうなってんの?)


「攻一……大丈夫か? 少し疲れたか?」


(そんでお前も普通に話しかけてくるのな)


「いや……そうだな、少し疲れたのかもしれない」


「じゃあ家に帰ったら次は椅子になろう。好きなだけ座ってくれて構わない」


「朔夜……ふっ、俺は良い彼女を持ったな」


「ははっ、よしてくれ。照れるだろう」


※ ※  ※


「どうだ?」


「怖い」


 何だろう、純粋な恐怖を感じた。


「最後は私ですね」


「いや鏡花さん、割ともうお腹いっぱいなんですけど」


「デザートは別腹と言いますし」


「よく自分の事デザートだと言えたもんだな」


※ ※  ※


「ここは……? 確か鏡花と出掛けていたはずだが」


 暗い室内。


 気が付いた時にはコンクリートの床に横たわっていた。


(ん?)


 眼を凝らすが辺りはよく見えない。


 と、その時目の前のテレビに光が点った。


(あれ?)


 遅れてノイズ混じりの声が響く。


『おはよう攻一君。ではデスゲームを始めよう』


(ストップストップ! 止めろ止めろ!)


(どうしました攻一さん? そんなに大きな声を出して)


(いやデートじゃないじゃん! デスゲーム始まってるじゃん)


(まぁまぁまぁ……ここからですからちょっと聞いていてください)


「くそっデスゲームだと! これで四回目だ!」


(ねぇ俺デスゲームに巻き込まれるの初めてじゃないみたいなんだけど)


『ククク、今回も無事に鷺ノ宮鏡花を救い出す事が出来るかな?』


(原因お前かよ)


(囚われのお姫様役です)


(四回も捕まるってお前ピー〇姫かよ)


『攻一さん、助けてください!』


「鏡花!」


『ククク、これで無事は確認できたかな? ではそろそろゲームを始めよう』


(ちなみにゲームマスターはボイスチェンジャーを使用して私が行っています)


(お前かよ)


(一人二役って大変そうですね)


(大変なのは回想の中の俺だと思うけどな)


※ ※  ※


 鏡花の話を聞いている中、ふと我に返る。


「いやこんな事してる場合じゃなくね?」


 始めてからほとんど勉強していない。


 やった事と言えばリリーの惨状を知って現実逃避をしたくらいだ。


「そうですね。今の話はまた別の機会に話しましょう」


 やめて?


「良い点とらないと今話したデートも現実にならないしね!」


 現実にはならないよ?


「攻一、私はお尻を一発ぶっ叩いてくれるだけで構わない」


 何譲歩しましたみたいに言ってんだ。


「とりあえず時間がひたすら無い。俺と朔夜である程度ヤマを張る。鏡花はその部分をリリーに教えてくれ」


「解りました」


「了解だ」


「うう……ありがとう」


 早速俺と朔夜の二人で一年期末で出された問題や出題傾向をピックアップしていく。


 当時の問題用紙が残っていれば良かったんだが生憎残しておくほど真面目じゃない。


 朔夜も一度解いた問題用紙はわざわざ手元に残さないらしい。


 まぁそれで全国一位を取っているのだから誰も文句は言えないな。


「これから長い戦いになるでしょうし、お菓子と飲み物を用意しておきましょう」


 椅子から立ち上がる鏡花。


「攻一さんはコーヒーに砂糖二つ、朔夜さんとリリーさんは紅茶の方が良かったですよね」


「ああ頼む」


「ありがとー!」


 テキパキと俺たちの分のお茶を用意していく鏡花。


 ……こういうのを見るとこいつらとの付き合いも何だかんだ長い事を実感するな。


「攻一さん? コーヒー以外が良かったですか?」


「ああ、いや、コーヒーで良い」


 そう伝え、試験範囲のヤマ張りに戻る。


 ……学年末試験か。


 もう少しで年度が変わるんだな。


※ ※  ※


 その後、食事の時間や寝る時間すら削りヤマを張った部分を詰めに詰め込んだ。


 結果、全教科31点という奇跡のような点数を取った。


 クラスメイトや担任はこれに対し――


「奇跡だ! まさか10点を超えるなんて!」


「我が校始まって以来の奇跡だ!」


「ありがとう! ありがとう!」


 褒めてるのか貶してるのか解らない歓声にリリーはとても喜んでいた。


 ……いやお前、本当にそれでいいのか?


小ネタ

次回から最後のお話を始めていきます。


※ ※ ※


読んでくださりありがとうございます。

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