期末と理想と変態1
ある日の事。
いつものように部屋でくつろいでいたら例によって訪問者という名の襲撃者が来た。
「攻一! 攻一開けて! 大変なのすごいピンチなの!」
リリーか……まぁ無視しよ。
「開けてくれないならもう扉の前でおしっこするしかないか……」
「早まるなおしっこテロリスト」
俺は即扉を開けるとリリーを部屋のトイレへぶち込んだ。
しばらくするとすっきりした顔のリリーが出てくる。
「おしっこ出たならついでに部屋からも出て行ってくれテロリスト」
「いや本題はおしっこの事じゃないんだよ! もう、私がおしっこする為だけに来たと思ってるの?」
割と思ってる。
「本当の本題はね……」
リリーは少し溜め、そして言った。
「とうとうテストで最下位取っちゃったの……」
項垂れながら言うリリーに対し、俺は……。
「お疲れ、扉はちゃんと閉めてから出て行ってくれよおしっこ」
「やだあああああああ勉強教えてよおおおおお! あとおしっこじゃないもん!」
「無理だって。いくら教えてももう手の施しようが無い状態だろ」
「今度の期末で一教科でも赤点取ったら留年って言われちゃったの! ねぇお願い!」
えぇー……なんか割としっかりまずい状況になってる。
「ったく、しょうがねぇな」
俺はスマホを取り出すと電話を掛けた。
「どこに電話してるの?」
リリーが聞くその横で相手に電話が繋がる。
『はい、あなたの愛しき隣人』
「あ、鏡花さん? 今からちょっと校長を札束で殴る準備を頼む」
「攻一?!」
※ ※ ※
「なるほど……そういう事でしたか」
「そこまでの事になっているとはな……」
俺の部屋に鏡花と朔夜も集まり事情を話す。
「うう……申し訳ない」
リリーは縮こまってぼそぼそと呟いた。
「まぁ校長どころか学校を買収する事すら可能ではありますが……」
こっわ。
「攻一さん……せっかくリリーさんが勉強する意思を見せているのですから勉強をしませんか? 私と朔夜さんも協力をしますので……」
鏡花と朔夜が俺をじっと見つめる。
……これで断ったら俺だけ悪者みたいだな。
「……はぁ、解った。まぁ正攻法で解決するならそれが一番だろうしな」
「あ、ありがとう……!」
リリーの顔がパッと明るくなる。
「ちなみにこの前の学年別全国模試は何位だったんだ?」
学校での順位よりそちらの方がより現在の学力の参考になるだろう。
「私は全国一位だった」
朔夜が答える。
「私も一位です」
鏡花も答える。
何だろう……変態が全国一位か・・・残念な気持ちになるな。
「それでリリーは何位だったんだ?」
「攻一、一つ教えてあげる……頭悪い人は順位なんて覚えてないんだよ。頭悪いだけにね(笑)」
「タメになったな。よしもう無理そうだから解散しよう」
「ああああああごめんなさいいいいい!!」
いやこんな事してる場合なのか?
一番焦る必要があるやつが全く焦らないから緊張感が沸かないな。
とりあえず部屋に四人で勉強が出来る机を用意する。
俺と鏡花と朔夜はリリーを中心にするように並んで座った。
「期末まであとどれくらいだったか」
朔夜が言った。
そうか、もう三年生は自由登校になっている期間だから期末はないのか。
なぜか朔夜も毎日登校していたから実感が無かった。
「あと……一週間ほどですね」
「え無理じゃね」
「むむむ無理じゃないもん! き、奇跡が起きればまだ……」
奇跡とか自分で言っちゃってる辺りやっぱりかなり厳しいな。
「まぁもうとことんやるしかないだろ。よしまずは数学からな」
「ば、ばっちこい!」
「えー……4×3は?」
「ちょっと攻一?! 私の事バカにしてるでしょ!」
「あー悪い悪い」
流石にちょっと意地が悪かったな。
「14でしょ!」
「「「……えっ」」」
「……ん? ……あっ! 違う違う12! 12だよ! あれ、あの勘違いしただけだから! 7×2かと思った!」
いや元の数字と一個も合ってねぇよ。
室内が沈黙で満たされる。
こいつ……これは思ったよりも覚悟を決めて挑まないといけないのかもしれない。
小ネタ
後5,6回くらいの更新で完結します。
※ ※ ※
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