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ゾンビVRゲーム(?)10

 攻一が横になるのを見てから私は鏡花へ通信を行う。


「鏡花、私だ……朔夜だ。聞こえるか?」


『はい、問題ありません』


『私も聞こえるよー』


 ヘッドホンからはリリーの声も聞こえる。


「計画通りだ。攻一の拠点へ潜り込めた」


『はい、お見事です』


『やっぱり怪しまれない為に行動をほとんど全部NPCに任せたのが良かったよねー』


 ゾンビで行動している時になぜ攻一が私達だと見抜けたのか。


 それは今でも解らない。


 大まかな行動を入力してNPCに任せたのは賭けだったが上手くいって良かった。


『ここまで……私達の目的の為に多くの事を為してきました』


 鏡花が言う。


『私がゲーム内に入らずアドバイザーとして立ち回る事。攻一さんに拠点の作成を促した事。全てが目的を達成する為の準備でした。二人が男性NPCになった事も良い方向へ動きました』


「ああ」


『うん!』


『では、三日目が始まると同時に始めます』


 とうとうこの時が来た。


 私は鏡花からゲームの事を説明されたあの時の事を思い返した。


※ ※  ※


「実はこのゲームは催眠機能があるんです」


「えっ?」


「は?」


 私とリリーはそろって声を上げた。


「催眠って……テレビとかでよく見る、体を動かせなくなるとか嫌いなものが美味しく感じるようになる……あれの事?」


「そうです……けど、それよりもより科学的です。先ほど説明した通り、このゲームは脳波を受信して操作する事が出来るのですが受信だけでなく送信もする事が出来ます」


「つまり、その機能で催眠状態にして行動を操作出来るようになるという事か?」


「その通りです。ある程度の制限はありますが……私達の思うように行動や言動を行わせる事が出来ます」


「そうか……なるほど……」


 私は紅茶を一口、口に運ぶ。


「鏡花……すまないが、私は反対だ」


 そしてカップを置きながら重く告げた。


「私は……言うなればありのままの攻一が好きなんだ。心からの言葉や行動にこそ真の価値が宿るとそう思っている」


 鏡花は私の言葉を聞き、静かに頷いた。


「朔夜さんの言う事は至極もっともです。私もそう思います」


「ならば何故?」


「……攻一さんと出会い、共同生活を送る事になって半年以上。ですが今だに芳しい結果を得られていません」


「……ああ」


「そうだね……」


「このままでも良い、と言ったらそれは私にとっては噓になります。一度だけでも……そうですね……」


 鏡花は少し考えるような仕草をした後に言った。


「監視カメラで監視し合って、朝には盗聴器に向かっておはようを言い合うようなそんな生活を送ってみたいです」


「それならば私だって挨拶代わりにお尻をひっ叩かれた後に、おいメス豚良い鳴き声を上げられたらご褒美にもう一発ぶっ叩いてやるよ、とか言われたいさ」


「え、それだったら私も、お前にその服は似合わねぇから俺の服と交換だ、って言って私の服を着てる攻一を見てみたいなー」


 三人の溜まっていた要求が噴出した。


 ここに攻一が居たら、イカれてる、とか言いそうだ。


「加えて、もう時間がありません」


「………………………………」


「朔夜さん、リリーさん、誓います。このゲームの催眠機能を使うのは今回限り。ただ一度だけと。だから私に力を貸してください」


「椅子から立ち綺麗な所作で頭を下げる鏡花。


 私はすぐに鏡花の肩に手を置きそれをやめさせる。


「私の考えが足りなかった。甘かった部分もある。……すまない。鏡花、私は全力で協力する」


「……あっ! もちろん私も協力するよ!」


「お二人とも……ありがとうございます」


 鏡花は笑い、そして言った。


「攻一さんを罠に嵌めて忠実な催眠人形にしましょうね!」


「ああ!」


「楽しみー!」


※ ※  ※


 ――現在。


 攻一は今、拠点である複合施設のスタッフ休憩室の床に座りマップを開いて考え事をしている。


 私とリリーはボブの視点からそれを眺めていた。


『朔夜さんそろそろ始めたいと思います』


「ああ」


 鏡花とリリーにのみ声が聞こえるようマイクを操作して答える。


 やっとこの催眠作戦の成就の時が来たのだ。


 思い返せばここまで色々と準備をしてきた。


 鏡花がさりげなくナビゲーターで攻一のプレイを誘導。


 催眠時にゾンビの邪魔が入らないように拠点の作成を指示して……。


 男性キャラになってチヤホヤはされなかったが拠点の中に入り込む事も出来た。


 三日目……最後の一日は存分に攻一と楽しむ事にしよう。


『では作戦の最終段階を開始します』


 その声を皮切りにマップを閉じ、歩き出そうとしていた攻一がビクンッと痙攣したかと思うとその動きを止めた。


 成功……したのか……?


 しばらく攻一の様子を観察する。


 攻一は中空をぼんやりとした様子で見つめている。


「少年、どうした……?」


 ボブの口調を真似して攻一に話しかけるも反応はない。


「攻一……?」


「………………はい」


 恐る恐る呼んだ私の声に攻一はゆっくりと振り向き答える。


「攻一、右手を上げてみてくれ」


「分かった」


 先ほどよりも反応も良く口調もいつも通りに答える。


 これは……これは成功だ!


 すごい! すごいぞ!


「鏡花、作戦は大成功だ!」


『………………………………』


「……ん? 鏡花?」


 鏡花からの応答がない。


 通信エラー……? いや待て、おかしい。


 ……先ほどからリリーの声も聞こえていない?


「――作戦は成功だよ」


 不意に声が聞こえたと思ったら装着していたゴーグルが取られた。


 現実の世界で目の前に居たのは――


「俺の作戦がな」


 催眠状態にしたはずの攻一だった。


※ ※  ※


「……何故だ? なぜ攻一がここにいる?」


 理解が出来ないという様子で朔夜が尋ねてくる。


「まぁ……簡単に言うならお前らの作戦は俺にバレてたって事だな」


「……どこだ? どこで解った?」


「詳細は解ってない。あと確信した訳でもない。ただ二日目には全く姿を現さなかった朔夜とリリー。そして代わりに登場した二人組のNPC」


「……………………………………」


「ここまで来るとNPCの中身はお前らじゃないかと考えるが二日目に何もしてこなかった。じゃあ三日目に何かしてくるつもりだろうと現実に戻ってみたらビンゴだ」


「くっ……たったそれだけの事で……!」


「まぁ一番最初に違和感を感じたのは鏡花がナビゲーターを名乗り出た時だけどな。別に四人で遊びながらナビゲートしたら良いだけの話なのにわざわざゲーム外でナビゲートする……俺に聞かれたくない話をするって言ってるようなもんだ。一日目の通信不良はそういう事だろ?」


「何もかもお見通しか。……鏡花とリリーは今どうしている?」


「二人とも催眠を体験してもらっている。ゲームの俺が三日目に入って動いていたのは催眠状態の鏡花が動かしていたからだ」


 種明かしは大体これで全部だろう。


 俺は朔夜に優しく微笑んだ。


「なぁ朔夜。普段お前はいじめてほしいと口癖のように言っていたな?」


「何だ? なぜ今その話をするんだ?」


 朔夜の顔に少しの期待と緊張が混じる。


「ゲームで三日目がまるまる残っているのはもったいないと思わないか? そうだなもったいないな」


「いや何も言ってな――」


「喜んでくれて良い。朔夜の願望と残りのゲーム時間を両取りで有効活用できる案があるんだ」


「な、何だ……何をする気だ」


「なぁに、そこまで大層な事はしないさ。ただゾンビや熊を限界まで増やして催眠でゲームからログアウト出来なくするだけだ」


「攻一。それは私の願望とは違うような気がする。だから止めよう。他の二人もそんな事は望んでいないさ」


「どうした震えているぞ朔夜? 念願が叶うからか? 安心してくれて良い。催眠機能のやり方はマニュアルを読んだから完璧だ」


「そこは心配してな――まて攻一行くな!」


「朔夜……このゲーム、最初に何てモノローグが流れたか覚えてるか?」


 まさかあの言葉がフラグだったとはなぁ……。


 最後に装置の扉を閉めながらその言葉を告げた。


「これは、ゲームであっても遊びではない」


※ ※  ※


 後日。


 三人の変態行為がゾンビのようにしつこくなった。


 朔夜曰く――


「良い経験になった。何事も学びだな」


 お前らほんと怖い。


小ネタ

決して3日目を考えるのがめんどかったとかそんな事は決してありません。決して。


※ ※ ※


読んでくださりありがとうございます。

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