ゾンビVRゲーム(?)8
一階のフロア端にある扉を開けると地下へ続く階段が現れる。
俺は音を立てないように階段を降り始めた。
容易に予想できるが、ある程度のゾンビが配置されているだろうな。
改めて武器を手に持ち直す。
「少年……大丈夫だ。いざという時は私達が盾にでもなってやる」
ボブが言い、もう一人も力強く頷く。
「お前ら……」
初めてこいつらが頼もしく見えた。
「じゃあいざという時は頼らせてもらうぞ」
地下1階のフロアの扉を開け足を踏み入れる。
扉の先は十数メートル程続く廊下が真っ直ぐに広がっている。
床も壁も真っ白でここが警察署の一部だという事を忘れてしまいそうだ。
「なるほど、足しかに現実の警察署と離した造りだな」
廊下の左右の壁にはいくつか扉があり、目線の高さにある四角い覗き窓には鉄格子がはまっている。
留置場を模しているのか?
一番近くにあるドアに近寄って覗き窓から中を確認してみた。
部屋の中は薄暗くよく見えないが、そこまで広くない中で小さな机と寝台が置いてある。
そして、ゾンビが一体部屋の中央に佇んでいた。
俺はそこで鏡花の言葉を思い出しつつ、考える。
鏡花は言った。
有益な物資が置いてある、それと遊び心で開発されたと。
それらの話と今いる地下一階の構造、部屋の中にいるゾンビを合わせると……。
「これはゾンビを倒しつつ進む探索ゲーか」
よくよく見れば廊下の突き当りは見えているのにさらに地下へ進む階段は見えない。
おそらくはいくつかある扉のどれか先にあるのだろう。
そこまで解ったならやる事は一つだけだ。
(ボブ……)
俺は小声でボブ達に呼び掛けるとジェスチャーで扉の前で待機するよう指示した。
ボブ達が頷くのを確認してから俺はドアノブに手を掛けゆっくりと回す。
部屋の中のゾンビは動かずそのまま佇んでいる。
扉を開け中に入った俺はそこで勢いよく踏み込みハンマーでゾンビの後頭部を思い切り打ち砕いた。
オアア……と短い呻き声を上げつつゾンビは倒れるとそのままピクリとも動かなくなった。
倒せたのか?
「やるな少年」
声を落としつつボブ達が入ってくる。
俺はまだ倒れているゾンビを警戒していたがやがてもう動かないだろうと判断し、部屋の探索を始めた。
薄暗い中で机を物色する。
机にはいくつかの引き出しが付いており一つ一つ隅々まで確認した。
寝台の方はボブ達が確認してくれている。
「……うーん、ないか」
全ての引き出しを奥まで見たが全て空っぽだった。
「そっちは何かあったか?」
「おお少年、見てくれ。警棒があったぞ」
ボブがマッスルポーズを取りながら警棒を掲げる。
「おっ、警棒か」
物資はやはり警察に関係したものがあるって事か?
銃がある可能性が高くなったな。
「よし、次の部屋に行こう。その警棒はお前らのどっちかが使ってくれ」
「うーむ我々には武器は不要なのだが」
「少年からのせっかくのPresentなのだ。少年の一部だと思って大切に使おう」
すごい怖い事言い始めた。
あと一部だと言った警棒をズボンの中にねじ込むのは止めてくれ。
「さあ少年! 張り切って行こうじゃないか!」
「ああ……そうだな」
気を取り直し次の部屋へ向かう。
俺は廊下に出ると、改めて扉を確認した。
地下一階にある扉の数は3つ。
1つはもう確認したから残りは2つだ。
探索ゲームならば階を進むごとに難易度が上がっていくのはある意味常識と言える。
ここでもそうなら最低難度のこの地下一階は全ての扉を確認しておきたいところだ。
「とりあえず、近い方の扉へ行ってみるか」
「少年、次は我々に任せてくれないか」
片方のボブが言う。
「そうだな……武器の警棒も手に入れたし、NPCが戦うところも見てみたいし……任せる」
「おう」
「警棒が火を吹くぜ」
ボブ達は扉の近くに立ち二人でアイコンタクトを重ねる。
――そこからの‘手際は’すごかった。
扉を開け、巨体とは思えぬ俊敏さでゾンビの背後を取ると、まるで小枝を折るように首をその剛腕で捩り折った。
いや武器は?
「少年の警棒のお陰だぜ!」
いや使ってませんよね?
首が捻じ曲がったゾンビはピクリとも動かない。
俺とボブ達はまた部屋を探索する。
部屋の造りや置いている物は一つ目の部屋と変わらない。
結果として、物資は見つからなかったが寝台の下に、階下に降りる階段は見つける事が出来た。
降りる前に、残った一つの扉も探索してみたがゾンビも物資も何もなかった。
「この階はこれ以上何も無いか」
「下に降りようぜ少年」
「楽しくなってきたな少年」
ボブ達と三人で階段のある部屋に戻り、下の階へ降りる。
『攻一さん』
「ん?」
そこで鏡花が話しかけてきた。
『実は地下二階以降にはただのゾンビ以外にも敵が出現します』
「ゾンビ以外?」
と言うとゾンビ犬とかゾンビが更に進化した何かとかか?
地下二階の扉が見えてきた。
『はい、やはりゾンビ以外の生物を出した方がいいのではと意見が出まして、決定されたのが――』
俺は鏡花の言葉が終わる前に扉の前に着き、そして開けた。
目の前にいたのは――
『熊さんです』
「熊さん☆」
真っ黒な体毛に覆われた体長2メートルは優に超える大きな熊が廊下をノッシノッシと歩いていた。
俺は静かに扉を閉じる。
「鏡花さん」
『はい』
「なんで熊さん?」
ゾンビゲーだよね?
『開発の方は癒しが必要かと思ってと言ってました』
「癒しとな?」
この現実と見間違うレベルのグラフィックで熊に襲われてみろ。
二度と動物園に行けなくなるぞ。
小ネタ
「やはり虎とかの方が良かったですか? 可愛いですし」
「鏡花さんステイ」
「……ハッ、恐竜?」
「鏡花さんステイ!」
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