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異世界転移10

 魔王城の外、暗い樹海の中で大の字になって倒れている魔王。


 俺はフワフワと宙に浮かびながらその姿を眺める。


「魔力感知に浮遊術式。先ほどの光系統の魔術も素晴らしかったでござる」


「何だ生きてたのか残念。ぐちゃぐちゃになって死んだと思ったのに」


「物騒! ……あー、『想造』のおかげでござるよ。死にたくないと心から思ったでござるからな。それでもこのダメージでござるが」


 魔王はゆっくりと起き上がる。


「なるほど……じゃあもっとぶっ殺す感じで行っても大丈夫って事だな」


「全然大丈夫じゃないでござる?!」


「なぁ、さっきの右腕にならないかって話、もし俺に勝てたら聞いてやってもいいぞ」


「本当でござるか?!」


「ああ、ただし俺が勝ったら俺の言う事を一つ聞いてもらうぜ」


「全然、構わないでござる!」


「よしじゃあ俺が勝ったらミンチにしようとしても生きていられるか実験――足がガクガク震えてるが大丈夫か?」


「勝てばOK勝てばOK勝てばOK……」


 冗談で言ったんだがトラウマになる勢いで信じたな……。


「ふぅ……となれば本気で勝ちを獲りに行かせてもらうでござる」


 魔王はそう言うと何も無い空間からズルリと二振りの剣を抜き出した。


「無手じゃちょっと勝ち目がないでござるからな。使わせてもらうでござる」


「ああ、じゃあ俺も使おう」


「えっ」


「そんなに立派なものは持ってないが……」


 俺は自分の身体と同程度の大きさの剣を10本、フワリと自分の周りに出現させた。


「えっ、ちょっ」


「じゃあ……行くぞ」


 魔王に向かって指を指す。


 10本の剣は切っ先を魔王へ向けると1本ずつ断続的にミサイルのように飛んでいく。


「うおおええええええええ?! もうやりたい放題過ぎでござろう!!」


 剣は木々をなぎ倒しながらそれぞれが意志を持ったように自在に魔王に襲い掛かる。


 魔王は魔術や剣を当てながら軌道を逸らし、宙に浮く俺に肉薄した。


 剣、魔術、体術と様々な攻撃方法で攻めてくる魔王。


 俺は身体強化を発動させ体術で捌いていく。


「……何か狙っているのでござるか?」


 不意に魔王が聞いて来た。


「そういう訳では無いが……どうしてだ?」


 俺は少し距離を取るとそう返す。


「制限時間があるにも関わらず受けてばかりでござったからな」


 ふむ……まぁ実際、本当に何か狙っていた訳でも、深い意味があった訳でもない。


 ただギリギリまで魔王の出方を窺いたかっただけなんだが……。


 そうだな、確かに魔王の言うように制限時間も後1分くらいなものだろう。


 こちらからも攻めよう。


 俺は魔王へ向かって一気に距離を詰めていく。


 魔王は一瞬驚きの表情を浮かべながらも魔術を複数展開し、放ってくる。


 それらを躱し、時には身体強化した腕で弾き、距離を詰めた俺は跳び蹴り気味に魔王の腹へ蹴りをぶち込んだ。


 体をくの字に折る魔王――そこへもう一発右の拳を腹へ決める。


「うお、ろろろろろろ」


 高く上空へ上がっていく魔王に更に10本の剣で襲わせる。


「もはやいじめでござるよこれ?!」


「いじめじゃない。いじめカッコ悪い」


 俺は魔力を集中させた。


「魔導術式展開、収束」


「死にたくないでござる! 死にたくないでござる!」


 空に広がる雷雲から光が魔王へ集中していく。


 雷のエネルギーを『想造』を使って集めているのか……。


 情けない事を言いながらも、流石に魔王と呼ばれてるだけはある。


「これが最後でござろうな……我輩が勝ったら、攻一氏は語尾にニャンをつけて魔王軍に入ってもらうでござる!」


 地獄か。


 魔王は雷のエネルギーに加え、自身の魔力も合わせて練り込んでいく。


「なぁ魔王知っているか?」


 辺りは魔王から発せられる魔術の光でまぶしいくらいに明るい。


 その光が直視できないほどに輝いた時、雷のように魔術が放たれた。


「始まりの街のギルドではバカみたいな冒険者がアホな事したら」


 俺は収束させていた魔術を更に一つの指に集中させる。


「看板娘からデコピンでお仕置きされるんだぜ」


 指を弾き魔術を魔王へ向かって撃つ。


 魔王に比べて遥かにか細い光のその魔術は速度を上げながら上空へ飛んでいく。


 地面から空へと逆に流れる流れ星の様にも見えたその時、魔王の魔術とぶつかり、そしてその魔術を霧散させた。


 当たった端から解けていく魔王の魔術は細かな光となって雪の様に地面に降り注ぐ。


「ぐ、ぐぎぎ」


 歯を食いしばり必死に抑え込もうとする魔王だが、俺の魔術は速度を落とす事無く昇り、やがて魔王に当たると――その場に七色の花火を思わせる爆発が輝いた。


 その魔術は雷雲を吹き飛ばして円状の晴れ間を作り、花火状の爆発と雪の様な光も相まって息を飲むような光景を作り出す。


 鏡花達三人も城からこの光景を見て、目を奪われているようだ。


 そんな中で俺が思う事はただ一つ。


「やっと終わった……」


 本当に長かった……。


※ ※  ※


 その後の事を簡単に話そう。


 樹海の間に倒れていた魔王を叩き起こし、魔王軍の解散と勝負に勝ったらと約束していた内容の確認、伝達。


 そして各街への凱旋――は一切せずに即座に帰る意志を女神へと示した。


 三人からはもちろん不満の声が聞かれたがデコピンで黙らせた。


 朔夜だけは満足そうにしていた。


 その後、無事に元の世界に戻り、何十日振りかの平穏を自分の部屋で満喫していると、


「攻一ー! 異世界で手に入れた能力が使えないよー!」


 バンッという音と共に扉を開きリリーが部屋へ入ってきた。


 後から鏡花と朔夜も入ってくる。


「後三つと言って女神に頼んだ条件の二つ目だな。元の世界に戻ったら、全員完全に転移前の状態に戻してくれってやつ」


「ええーっ! そんなーっ!」


 記憶はそのままだが、楽しそうな俺達を見て女神が気を利かせたのだろう。


「異世界での能力なんてこっちでは使えない方が良いくらいだ」


「うぅ、それはそうだけどぉ……」


 リリーが何とも言えない表情を浮かべる。


 理解は出来るが納得は出来ないんだろう。


「攻一さん、三つの内の二つ目と言いましたが最後の三つ目は何ですか?」


 鏡花が聞いてくる。


「ああ、それはな――」


 何かに使えないかと、保険の様に入れた条件だったがある意味一番役に立ったな。


※ ※  ※


「女神氏、女神氏―。我輩が自作したこのコスを着て下されー」


「………………………………」


「我輩、女神氏はキュン☆っていう語尾が似合っていると思うでござるよ」


「…………………………うぅ」


「いやーしかし攻一氏との勝負に負けてどんな事をさせられるか不安でござったが、まさか女神様のお手伝いをしろ、とは!!」


「ひぎぃ……!!」


「女神氏も条件として、叶えられる範囲で願いを聞き入れるって言われていたのでござったな?」


「うぐぐ……」


「しかし、魔王である我輩を助手にする事を承諾するとは、なんと懐の深い!」


「そ、それは無理矢理……」


「というわけで女神氏! やってもらいたいポージングがあるでござるよ!」


「こ、攻一さん……攻一さん……謝るから……許して下さーい!!」


小ネタ

予想より異世界編長くなってごめんね。


※ ※ ※


読んでくださりありがとうございます。

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