異世界転移8
俺は魔王に向け駆ける。
目は魔王から切らずに三人へ指示を飛ばした。
「鏡花はいつもの様に後方支援、リリーは状況を見て『複合転身』で装備を換えて鏡花をサポート、朔夜は俺の近くで援護を頼む!」
「「「了解!!」」」
始まった、が・・・アレがまだ間に合ってない・・・何とかなるか?
魔王の目前まで迫る。
何もしてこない? 戦えない、という事は無いだろう。魔術か?
俺の『把握』はもちろん使ってる。見た限りでは特殊な能力は見えなかった。
鏡花の『完全把握』は練度からもう少しかかる・・・ならまずこちらが先手を取る。
俺は魔力を込めた拳を魔王に向けて叩き込む――が、寸前で足を取られ前につんのめった。
「おや、コケてしまったでござるな攻一氏」
プププとバカにしたように笑いながら言う魔王。
「攻一、離れろ!」
朔夜が俺と魔王の間に割って入り持っていた剣で斬りかかる。
が、無造作に上げられた右手でガンッという音と共に簡単に弾かれてしまった。
「馬鹿なっ」
その隙に体制を整えていた俺は魔王の後ろに回り込み腰に向かって蹴り込んだ。
ドンッという音が響くが魔王は微動だにせず見るからにダメージは入っていない。
「え、な、何かおかしくないー?」
リリーが少し慌てたように言う。
いや、おかしいわけでは無い・・・これは恐らく・・・。
「じゃあこちからも少しだけ攻撃するでござるよ?」
そう言うと魔王の周りで魔力が膨れ上がった。
「魔導術式展開」
「朔夜離れろ!」
俺は叫び、即座に魔王から距離を取った。
数瞬後、魔王の周りに魔法陣がいくつも現れボンッという爆発音が響く。
「・・・・・・は?」
攻撃に身構えていた俺は呆気に取られた。
大掛かりな魔術が飛んでくると思いきや、実際は魔王の周りに花畑が出現したのみだ。
「お花はどうですかな?」
一輪の花を持ち、差し出す魔王。
「ふざけるな!」
朔夜は叫び距離を詰めようとする。
「待て! 落ち着け!」
「お、朔夜氏、剣も似合うでござるが花も似合うでござるよ?」
「っ?!」
足を止めた朔夜は驚き、眼を見開いた。
先ほど魔王が持っていた花が今は朔夜の髪に飾られていた。
「止めます!」
鏡花が能力を使って魔王の動きを止める。
「攻一さん、『完全把握』が終わりました!」
「あ、思ったよりも早かったでござるな」
「えっ・・・?!」
鏡花の能力で止められているはずの魔王が何事も無かったように話しかけてくる。
そのまま右手を上げて魔力を集中し始めた。
「解除解除ー!」
リリーが『解除封印』を行う――が、魔王はそのまま魔術を発動した。
魔王が魔力を込めた右手を振ると強風が吹き、近くに居た俺と朔夜は大きく後ろに後退する。
「ええーっ! 何でー?」
「魔王の能力です・・・」
だろうな・・・さっきから明らかにおかしな点がいくつもある。
「魔王の能力名は『想造』です」
「効果は、自分がやりたいと望んだ事を実現する、でござるよ」
「え! 自分で言っちゃうの?!」
驚くリリーの傍ら、俺は色々と腑に落ちていた。
「攻一氏が最初にコケたのも、持っていた花が朔夜氏の髪へ移動したのも、鏡花氏やリリー氏の能力が無効化されたのもこの能力の効果でござる」
「反則みたいな能力だな」
「いやいや能力の強さだけなら貴殿達の方が上でござるよ朔夜氏? なにしろ我輩の能力はやりたいと望んだものしか実現しないでござるからな」
・・・つまり実質勝利といえるような事も望まなければ実現されない。
「多分今攻一氏が考えた事は合っているでござる。加えて余りに規模が大きいものも実現できないでござる。何を基準にしてるかは我輩も解らんでござるよ」
人類へ趣味、嗜好を布教するという野望が未だ実現されていないのが証明だな。
「えーでもそれでも強い能力だよ」
「そうですね・・・厄介な能力です」
いや・・・違うな。魔王の能力は確かに厄介だが、そうじゃない。
「朔夜、お前も鏡花とリリーの側で後方支援を頼む」
「・・・なぜだ? この局面では前衛は二人の方が良いと思うが」
「訳は後で説明する」
俺は会話を半ばで打ち切ると魔王へ向かって突っ込んだ。
魔王の厄介な部分・・・それは能力ではなく、言うならばステータスにある。
先の戦闘で朔夜の剣と俺の蹴りがノーダメージだったのは能力ではなくただの身体強化魔術によるものだ。
普通はいくら身体強化を重ねても攻撃を完全にノーダメージとはいかない。
ならなぜか? ・・・恐らく俺達と魔王の力量差にとてつもない開きがある・・・。
攻撃に転用すれば一撃で致命傷に至る程の・・・。
「攻一氏は優しいでござるな」
腹めがけて打った右手を軽く止め、魔王は言った。
「は? 何を言ってる?」
「・・・今の編成、攻一氏と朔夜氏が前衛で鏡花氏とリリー氏が後衛。確かに最善でござる」
俺だけに聞こえる声量でボソボソと言う魔王は、更に続けて話す。
「ただ現時点では、でござる。攻一氏は今まであまり三人を戦わせてこなかったのでござろう? 三人をかばい、戦闘はほとんど自分でやってきたのではないでござるか?」
「・・・・・・・・・・・・」
「本当の最善は朔夜氏を最前衛に、リリー氏は攻撃力と速度を成長させトドメ役や朔夜氏のサポート。鏡花氏の位置は変わらず、攻一氏がその守りと全体の把握、指示を出す。攻一氏も解っていたでござろう?」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・攻一氏はもっと三人を育てるべきだったでござる。現状我輩にダメージを与えられる方法が皆無でござるからな」
俺は魔王と同じように声を抑え言った。
「・・・育てるために戦闘に参加させて、痛い思いや後から思い出して震えるような恐怖を体験させて、帰った後に無事に帰れて良かったとそう言えるのか?」
転移対象に選んだのは女神だ。だが原因は俺にある。
なら、守るのは男以前に人として当然だ。
「それにお前を倒す方法も無くも無い」
「・・・なぁ攻一氏、魔王軍に入って我輩の右腕にならんでござるか?」
「さっきから話に脈絡がないな」
「正直、攻一氏ほど能力としても人としても優れている人間を見た事が無いでござるよ」
・・・これが倒さなくてはならない魔王以外の男に言われていたら嬉しいんだがな。
「悪いが、あいつらを元の世界に返さないといけない以上、イエスにはならないな」
「・・・そうでござるか。残念でござるね・・・でも裏を返せばあの三人がいなくなれば再考の余地あり、という事ですかな?」
――瞬間、魔王の身体から魔力が溢れた。
俺は抑えていた声を張り上げる。
「待て! そんな事をしても考えは変わらない!」
「まぁ流石に命までは取らないでござるよ。ただ一週間ほど寝ていてもらうでござるよ。攻一氏はその間にじっくり考えてほしいでござるよ」
「馬鹿がっ!!」
俺は三人に向けて走る。
油断した?
今まで攻撃らしい攻撃が無かったから?
逃げるべきだった?
あの女神、いつまで・・・。
「魔導術式展開」
魔王の声が聞こえ、魔法陣が三人に向けて展開される。
魔力が膨れ上がるのを感じた。
間に合――――
ドンッ――!
爆音と共に大きな地響きが地面を揺らす。
三人は土煙に覆われて見えない。
俺はもう足を止めていた。
小ネタ
この小説にあるまじき真面目な展開。
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