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異世界転移1

(起きな……………………勇者よ起き…………さい……)


 頭の中に声が響いて、俺はゆっくりと眼を開ける。


 すっかりと慣れた鏡花の屋敷の天井はそこになく、真っ白な空が広がっていた。


 よくよく確認すればベッドではなく白く硬い地面に寝っ転がっている。


 俺はゆっくりと体を起こした。


(起きましたか勇者)


 神々しい光と共に美しい女性が空からフワリと舞い降りてくる。


(今からあなたには別の世界へ行き、ある事をしていただきます)


 その声を聞きながら俺はゆっくりと立ち上がった。


 そして――


(安心してください、あなたには――あ痛ったぁ!)


 スパーンと女性の頭をぶっ叩いた。


「おいおいおい久しぶりだなクソ女神」


「ちょっとー! 女神の頭を叩くなんて前代未聞ですよー!」


 さっきまで頭の中に言葉が響いていたのに、いきなり普通にしゃべり始める女神。


 そう、目の前に居るこの女性は女神。


 前に遭難した時、朔夜に言ったように俺は以前異世界転移したことがある。


 その際にもこの女神に会っているのだ。


「それで? さっきなんて言った? 別の世界へ行く? また?」


「またとか言わないで下さいよー。こっちだって大変なんですから―。ちょっと聞いてくれますー?」


「いや聞かんけど」


「毎回トラックドライバーとか不審者を装った天使に転移、転生対象者を天界に送ってもらってるんですけどー」


「まずお前が俺の話を聞け。そんであの人たち天使だったの?」


「その送り方が今天界でパワハラじゃない? って問題になってて―」


「天界にもあるんだパワハラ問題。いやパワハラどころの騒ぎじゃないけどな」


 実際のところぶっ殺したり、いきなり異世界に飛ばしてるわけだし。


「だからー中々転生とか転移とか今は難しくて―」


「いや今現在進行形で転移させられそうになってんだけど俺」


「攻一さんなら良いと思ってテヘペロ☆ ……え、あれ攻一さん? ちょ何を――あ痛たたたた!!」


 手加減無しのキャメルクラッチをお見舞いした。


「うう……仮にも神に対してなんたる蛮行」


「仮にもとか自分で言うなよ」


「それに最後まで話は聞いてください。先ほどぶっ叩かれる寸前に言いかけた事ですが」


「女神が自分でぶっ叩かれるとか言ってるの笑える」


「ぶっ叩いた本人が言わないでください! ……コホン。話がそれましたが、攻一さんあなたには転移するにあたって特典があります」


「特典? しょうもないのだったら電気アンマしていい?」


「女神どころか女性に対してしてはいけないやつ!」


 女神はガタガタと震え始めた。


「……い、いや大丈夫です。これは間違いなく攻一さんの助けになりますから!」


「で、内容は?」


「攻一さんといつも一緒にいる鏡花さん朔夜さんリリーさんも一緒に転移しちゃいまーす! わーいやったね☆ ……え、あれ? ちょ攻一さん? 攻一さん?! いや待っ――」


 電気アンマを断行した。


「アッ、アアアアアアアアアアア!!!」


※ ※  ※


「ひ、ひどい……やめてって言ったのに・・・言ったのに……」


「めちゃくちゃ内股で生まれたての小鹿みたいに震えてるのめちゃくちゃウケる」


「鬼ですか!」


 女神は涙目になりながら叫んだ。


 人を勝手に転移しようとしてる奴にだけは言われたくない。


「それで? 今から転移中止とかはできんの?」


 どうせ無理だろうけど。


「もう書類提出しちゃったんでちょっと厳しいと思います……」


 転生転移って書類制だったの? ……いやそんな事はどうでもいい。


 俺は深いため息をついた。


「転移先での目的は? これ完了したら元の世界に戻れるってやつ」


「あ、行ってくれる気になりました? 良かったー」


 安堵の表情を浮かべる女神。


 まだ内股でガクガク震えてるけど。


「攻一さんに転移先の世界で行っていただきたい事は魔王の討伐もしくは野望の阻止です」


「魔王の野望ってなんだ?」


「知りません☆」


「前から筋肉バスターの実験台が欲しいと思ってた」


「勘弁してください! 違うんです! こっちも救う世界の書類が上から回ってくるだけで詳しい情報が知らされないんです!」


 お役所仕事か。


 しかしだ……つまりは目的以外何も解らないって事か?


 何そのクソみたいな労働状況。ブラック企業なの?


 ……いや直接殺られる可能性がある分ブラック企業より真っ黒だな。


 そこでふとある事を思いついた。


「なぁ俺が前に転移した時に手に入れた力がほとんど使えないんだけどこれは使えるようにならないのか?」


 その力が使えれば相当有利に進められる。


 いや……それどころか即転移を終わらせられる可能性もある。


「あー……それはですねー」


 少し言葉に詰まる女神。


「実はですね……攻一さんの力は攻一さんが言うところの師匠の方達に封じられているのですが」


「まぁそんな気はしてた」


 あんな力があったら日常生活を送るのに苦労しそうだし。


「それでですねー……もちろん封印を解けばその力を使えるのですが……」


「使えるのですが?」


「封印が難解過ぎて私には何が何だが……」


「お前よく神様名乗れるな」


「言ったー! 攻一さんが一番言っちゃいけないこと言ったー!」


「ちっ!」


「舌打ちしおったでこの人」


「え? 1割とかほんの少しも封印って解けないの?」


「2割……いや1割なら解けます! 頑張ります!」


「ペッ!」


「唾吐くのだけは止めてくださいよー!」


 本当に使えねぇなこの女神。


 ……いや逆に師匠達がすごいのか?


 考えていると、涙目になりながら雑巾で床を拭いている女神が視界に入った。


 ……この女神がポンコツってのもあるな。


「おい女神、100歩譲って転移は良い。もう諦めた。だが一割解放の他にいくつか条件がある」


「条件ですか?」


「ああ、一つ目はあいつらと俺を同じ場所に転移する事、二つ目はあいつらにも自分の身を守れるように何か力を授ける事」


「うぅ……結構細かい……」


「言っておかないとお前にやらかされるからな」


「そんなー何もやらかしませんよー」


 信用無いなー、そう呟く女神。


 お前ほど信用という言葉から遠い神もいないだろうよ。


「条件は後三つ」


「えぇー……後三つもー……?」


 不満たらたらな女神を無視して言った。


「三つの内の一つ目は――」


小ネタ

前回の話とのこの落差。


※ ※ ※


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