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鷺ノ宮鏡花Ⅱ 1

 学校に登校する朝。


 まだ皆が寝静まっている朝早くに、私はベッドから体を起こし朝の準備を始める。


「鏡花お嬢様、入浴の準備が出来ております」


「ありがとうございます」


 使用人に感謝を述べ、脱衣場にて服を脱ぎ浴室へ移動する。


 朝早くの寒い時間に熱いシャワーを浴びて少しぼんやりとした意識が覚醒していく。


 入浴を終えると使用人に手伝ってもらいながら和服に身を包む。


 太陽も起きた頃に比べると高く昇っていて温かみを感じた。


 部屋に戻ると、テーブルに朝食が用意されている。


 トーストが一枚と、コンソメのスープが一杯。


 和服を着ているから和食ばかり食べていると思ったと、攻一さんには最初言われていた。


 別に、こだわりは無かった。


 一年程前は和食だった気がするし、わざわざ変えるように言った事もおそらくは無い。


 服も幼い頃から着ていて慣れているから今さら変えようと思わなかっただけだ。


 そこまで思い、ふと昔を思い出す。


 物心が付く前からの事だ。


 私は幼い頃から様々な事に対してこだわりや興味が薄かった。


 家にほとんど帰る事のない両親が、代わりにという訳では無いがやりたい事は何でもやっていいと言ってくれた。


 別にやりたい事も無かったけれど……。


 でもせっかくだからと色々な事をやってみた。


 華道、書道、舞踊、料理……。


 多くの事をやって、でもそこで自分が何にも熱意を持っていない事に気付いた。


 自分は感情が無いのだろうか? なんて事を当時は思ったような気がする。


 呆然するとか、落ち込むとか、そんな事は無かったけれど。


 自分の感情にも熱意を持てなかったのかもしれない。


 惰性で習い事を続けて、極めるでもなく、やめるでもなく。


 まぁでも人生なんてそんなものでは? と子供ながらに達観した事を思った。


 そのまま年月は進み、私はある日、攻一さんに出会った。


※ ※  ※


 学校帰り、迎えに来てくれた車の中で使用人と話す。


「お嬢様、今日は華道の習い事の予定になっていますが……」


「……ああ、そうでしたね」


「……予定通り向かわれますか?」


「……そうですね」


 私はふぅと一つ息を吐く。無意識だった。


 それを聞いて使用人は少し心配そうに口を開く。


「もし体調が優れないようでしたらお休みになっても……」


「え? なぜですか?」


「いえ……失礼しました。このまま向かいます」


「はい」


 そのまま少しして、疲れていると思われたのでは? と考えたけれど口に出したところで別に何も変わらないだろうとそのままぼんやりと外を眺めていた。


 しばらくの後、華道の先生の家に着く。


 辺りは豪勢な家が立ち並ぶ住宅街。


 その中で白く高い塀に囲まれた、小さな庭園も広がる大きなお屋敷が建っている。


 ここの先生に師事して、もう5年か、6年か……。


 使用人が先に車から降りて、私の側のドアを開けてくれる。


 ゆっくりと降りて、身だしなみを軽く整えた。


 別に怒られた事は無いけれど、見た目を正すという事は最早礼儀の一つだと別の

習い事で教えられて癖になっていた。


 整えている間に使用人がインターホンで着いた事を伝えてくれている。


「あの、すみません……」


 少し離れた場所で使用人を見ていると突然話しかけられた。


 振り返ると年配の、おじいさんと言ってもいい見た目の方が立っている。


「どうされました?」


「道を聞きたいのですが」


 そう聞かれて、少し考える。


 私自身ここには車で来ているぐらいで土地勘などは無い。


 その事を告げるべきか……とりあえず確認してから判断するか……。


「ここなのですが」


 一歩近付いて一枚の紙を差し出してきた。


 紙を受け取ろうと手を出したところで――急に手を掴まれ引き寄せられる。


「……っ!」


 驚きと腕の痛みに顔をしかめている間に猛スピードの車が一台真横に止まった。


「お嬢様!!」


 異変に気付いた使用人が声を上げる中、私は車の中から伸ばされた手によって無理矢理車内に連れ込まれた。


小ネタ

少し大事なお話。


※ ※ ※


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