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クルージング、からの遭難、からのいつものやつ8

「えぇ……」


 ドン引きながら俺はそそくさとゴムボートの端に横になりシートを被った。


「………………………………」


 鏡花は無言で俺の隣に横になってシートを被った。


「あ、鏡花卑怯だぞ」


「あー私も攻一の隣が良いー」


「いいから、体を冷やす前に早く寝ろ」


 二人はぶつぶつと言いつつもゴムボートに横になった。


 その後、やはり体に疲れが溜まっていたのか隣りからすぐに寝息が聞こえ始め、俺も眠りに落ちた。


※ ※  ※


 ふと、眼が覚めた。


 まだ周りは暗く、深夜である事が解る。


 普段と違う環境で眼が覚めたのかと思ったが、違った。


 俺の隣で寝ていたはずの鏡花がいない。


 トイレにでも行ったのかと思ったが何だか胸騒ぎがする。


 俺は寝ている朔夜とリリーを起こさない様ゴムボートから出ると、林に入っていった。


 光源が月明かりくらいしかなく、それも林の中ではほとんど意味をなしていない。


 危険だ。鏡花がゴムボートから遠く離れた場所に居る保証も無いのに。


 今すぐ戻ってゴムボートの近くを探しつつ待っていた方が良いだろう。


 そこまで考えても俺は林を進む足を止めなかった。


 なぜ? いや答えなんてわかってる。


 もし鏡花が何か不測の事態に襲われて最悪の結果になるのが嫌だからだ。


 普段の行動はストーカーそのもので迷惑防止条例も真っ青だが、何だかんだ俺の中で大事な友達程度にはなっているのかもしれない。


「……だ……………………よ……」


「ん?」


 林を進む中でふと声が聞こえた。


 鏡花か?


 俺は耳をすまし、声のする方向へ進む。


 少し開けた場所に出ると、そこには鏡花と見知らぬ40代くらいの男性がいた。


 声を落として話しているのか会話の全ては聞き取れない。


 あの男性はなぜ、こんな無人島にいるのか?


 そんな事を考えたその時、男性は鏡花の肩に手を置く。


 ――瞬間、様々な事がフラッシュバックした。


 海岸のライター、林の中の水、金持ちがキャンプに来ていたのではないかという疑念。


 そして鏡花との出会い。


 ――ヤクザに誘拐されていた鏡花。


 誘拐、という言葉が頭の中に浮かんだ瞬間に俺は飛び出していた。


「何を――」


「え、攻一さん?!」


 鏡花がこちらに気付き、驚く中で、


「――やってんだ!!」


 俺は隣の男性の腹に蹴りをぶち込んだ。男性は吹っ飛び林の中をゴロゴロと転がっていく。


「鏡花、大丈夫か?」


「………………………………」


 声を掛けると、鏡花は最初ポカンとしていたが、やがてハッとすると


「だ、大丈夫ですか? お父様!」


 と男性に駆け寄った。


 ん? お父様?


「オ、オロロロロロロロ」


 男性は地面に突っ伏したままキラキラしたものを吐いていた。


「「「総帥!」」」


 するとどこに潜んでいたのか黒服にサングラスな人々が次々に姿を現す。


 俺はその光景に先ほどの鏡花の様にポカンとなるのだった。


「……どういう事?」


※ ※  ※


「本当に申し訳ありません」


 クルージング、遭難とこれまでのいきさつを説明した鏡花は頭を下げながら謝罪した。


「攻一、鏡花は最後まで反対していたんだ」


「怒らないであげてー」


 寝ていた朔夜とリリーも起きてこの場に来ていた。


「お父様もしっかりと謝罪してください」


「……うむ、そうだな」


 鏡花の父は頭を下げる……が、


「あれ? お父様、土下座じゃないんですか?」


「えっ」


「え?」


 鏡花の言葉にガタガタと震えながらゆっくりと地面に両膝を付いて深々と土下座した。


「も、申し訳なかった」


 倍返し?


「攻一さんからまだお許しの言葉が出てませんよ? 頭の下げ方が足りないんじゃないですか?」


 鏡花はそう言うと父親の頭を地面にグリグリと押し付けた。


「もうじわげありまぜんでじだっ!」


「「「総帥――!!」」」


「いやもういいよ! やめたげて!!」


 流石に可哀相すぎて止めた。


 経緯を聞いた時に知ったのだが今まで不思議に思っていたライター、水、釣り等のあれこれは鏡花の父の指示で黒服の皆さんが動いていたらしい。


 一応安全は保障されていた訳だ。


「攻一さん、重ねて申し訳ありませんでした。罰は如何様にも受けます」


 鏡花も膝をつき綺麗な所作で頭を下げた。


 少し震えているその姿を見て俺はふぅと一息ついてから答える。


「罰なんか何も無いって。鏡花が悪い訳じゃないし……。そんな事よりもう帰れるんだろ? 疲れたしもう帰ろーぜ」


「い、いいんですか?」


「だから別にいいって」


 鏡花や、見守っていた朔夜とリリーから安堵の雰囲気が伝わってくる。


「攻一君」


 鏡花の父が声を掛けてきた。土下座したままで。


「……私は鏡花との結婚は反対していたが、今回の事で考えを改めたよ。……鏡花との結婚を認めよう」

「あそれは別に良いです」


「何でですか!」


 鏡花からのツッコミが飛んできた。


 いやだってなぁ……どっちかって言うと絶賛土下座中の鏡花父の方がドキドキするし。


「じゃあ帰ろうか」


 鏡花父が立ち上がりながら言う、が鏡花が止めた。


「え? お父様は無人島に残るんですよ?」


「えっ?」


「皆さん帰りましょうか」


 黒服サングラスの方が素早く動き始め準備を始める。


 先導され海岸へ歩き始める俺達。


「え? えっ?」


 取り残される鏡花父。


 こうして俺達のクルージングと遭難は終わった。


※ ※  ※


 後日、ネットニュースにとある世界的大財閥の総帥が行方不明になったとの記事が載ったが多分無関係だ。……多分。



小ネタ

攻一のストライクゾーン 14~49歳


※ ※ ※


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