表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/75

底辺配信者、トレンド1位となる。

 その後も会長室にて俺と七海さんの会話は続く。


「で、今日も魔石を持ってきたのかしら?」


「はい、換金お願いします」


 俺はバッグからトカゲたちの魔石をたくさん取り出す。


「えーっと、レッドドラゴンの魔石が18個、それに90階層のフロアボスの魔石が1個ね。相変わらず理解できない数を持ってきてるわね」


「俺を褒めても良いことなんてありませんよ」


「安心して。褒めてないわ」


「………」


 どうやら褒められたわけではないらしい。


「じゃあ、いつものように魔石は私が預かっておくわ。換金できたら裕哉くんの口座に振り込んでおくから」


「ありがとうございます」


 俺は毎回、七海さんに魔石の換金をお願いしている。


 理由は良くわからない。


 聞いても「他の冒険者の前でS級モンスターの魔石を大量に換金される方が私の手間を取られるのよ」と言われるため、面倒な理由があるようだ。


 俺は七海さんが手際よく魔石を片付けている様子を眺めつつ、七海さんに話しかける。


「それにしても冒険者って良い仕事ですね。ちょっとモンスターを倒すだけで数100万も稼げるんですよ。俺より強い冒険者は、どれくらいお金を持ってるんですかね?」


「そうね。少なくとも裕哉くんよりかは貯金がないと思うわ」


「またまた〜、俺なんて2年間冒険者して20億しか稼げてないんですよ。さすがにS級モンスターを常日頃から討伐するベテランの冒険者には勝てませんよ」


「1年で10億稼ぐ時点で冒険者の中では勝ち組だということに気づいてないのかしら?」


「当たり前ですよ。冒険者って仕事はハイリスクハイリターンの仕事です。俺なんて雑魚モンスターを討伐してるだけなので死ぬ可能性はゼロですが、モンスターが雑魚なので魔石が数100万でしか売れません。そう考えるとS級モンスターの魔石は100億くらいするはずです。『俺もいつかはS級モンスターを倒すぞー!』って思わせてくれますね」


「…………裕哉くんがアホすぎて訂正する気にもなれないわね。本気で星野さんのようなツッコミができる人を雇おうかしら」


 七海さんが本気で困った表情で、そんなことを呟く。


(どうしたんだろ?ツッコミが必要な状況に陥ってないはずなんだけど……まぁ、いいか。話は終わったようだし帰ろ)


 そんなことを思い、帰れると思った俺は椅子から立ち上がる。


「じゃあ、俺はそろそろ帰りますね」


「あら?3時間は帰れないと言ったはずよ?」


「ですよね〜」


 その後、七海さんから色々と言われたが、なに言ってるかわからなかった。




 七海さんからのお話が終わり、七海さんからもらった変装道具を駆使して家に帰る。


「おかえりー!お兄ちゃん!今日も良かったよ!」


「ユウ、おかえり。今日の配信も面白かった」


「そうか。やっぱり2人からそう言ってもらえると嬉しいな」


 2人の笑顔を見て、今日も配信して良かったと思う。


「あっ!そうそう!お兄ちゃん、すごいことになってるよ!」


「ん、ユウが有名人になってる」


「どれどれ?」


 俺は2人から差し出されたスマホを確認すると…


「『トレンド1位』が俺の名前なんだけどぉぉぉぉ!!!!」


 なぜかトレンド1位に俺の名前があった。


「えっ!ちょっ!ナニコレ!?」


「なんかねー、お兄ちゃんが瞬殺した『空飛ぶトカゲ』をS級モンスターのレッドドラゴンと勘違いしてる人が続出して、お兄ちゃんが世界で初めてレッドドラゴンを討伐した冒険者ってことになってるらしいよ」


「ユウは雑魚モンスターの『空飛ぶトカゲ』を倒しただけなのに大騒ぎしてる。SNSの人は勘違いしてる人が多すぎ」


「えっ!勘違いしてる人たちが盛り上がった結果、俺の名前が1位にあるの!?」


「そうだよー」


「ん、そういうこと」


「oh……俺、明日の配信、大丈夫かな?レッドドラゴンと同じくらい強いS級モンスターを討伐しろとか言われないよな?」


「そこは何とかするしかないね!」


「ユウ、頑張って」


「………」


 明日の配信辞めようかな?と少しだけ考える俺であった。




 翌日。


 美月と紗枝が楽しみにしてる配信を中止にするわけにはいかないので、俺は配信の準備をして昨日と同じダンジョンに向かう。


 そして、ダンジョンの入り口でドローン型のカメラを起動して、視聴者に向けて挨拶をする。


「こんにちは、今日も昨日と同じダンジョンで探索の様子を配信したいと思います」


〈きたっ!待ってましたー!〉


〈こんにちはー!昨日からずっと楽しみにしてました!〉


〈お兄ちゃん、頑張ってー!〉


〈ユウ、頑張って〉


 俺の挨拶に対して、さっそくたくさんのコメントをもらう。


「おぉ、今までだと妹と幼馴染しか返信がなかったけど、挨拶しただけでたくさんのコメントが返ってくるなんて。さすが、チャンネル登録者数5000万人越えの俺」


 唐突に自画自賛したくなる。


 今朝、通知がうるさかったので確認したら『yu-ya』のチャンネル登録者数が5000万人を超えていた。


 桁を間違えてるだろうと思い、何度も数えたが5000万人という数字は変わらなかった。


〈今日はどんな常識外のことをするんですかー?〉


〈ちょー期待!〉


〈今日はどこに潜りますかー?〉


「あー、ちょっと待ってくれ。ダンジョンに入る前に、視聴者へ言わなきゃいけないことがある」


〈何ですかー?〉


〈今日限りで配信を終了するとかじゃないですよね?〉


「大丈夫だ。妹と幼馴染からの要望がある限り配信は続ける。それよりも、昨日、俺の名前がなぜかトレンド1位になってた」


〈あれは笑ったww。SNS凄すぎww〉


〈レッドドラゴンを瞬殺すればトレンド1位くらいなりますよ!〉


「そう、それだ。俺が昨日瞬殺したのはレッドドラゴンじゃないんだ」


〈えっ!あれはレッドドラゴンじゃないの!?〉


〈『雪月花』の3人の攻撃が効かなかったんだ!S級モンスターしかいねぇだろ!〉


〈あれは専門家の人もレッドドラゴンだって太鼓判を押してたぞ?〉


「違うんだ。あれはレッドドラゴンじゃない。『空飛ぶトカゲ』というモンスターなんだ」


〈〈〈………は?〉〉〉


 俺の発言にコメント欄には混乱のコメントが多く見られる。


「わかってる。みんなが混乱するのは分かってた。でも事実なんだ。あれはレッドドラゴンじゃなく『空飛ぶトカゲ』なんだ」


〈『空飛ぶトカゲ』ってなに!?そんなモンスターいんの!?〉


〈待って!どゆこと!?〉


「『空飛ぶトカゲ』というのは赤い鱗で全身を覆い、空を飛ぶことのできる雑魚モンスターのことだ」


〈………え?それ、レッドドラゴンやね?〉


〈レッドドラゴンを雑魚モンスター扱いしてるのってホントだったんだww〉


「違う!あれはレッドドラゴンって呼ばれてるS級モンスターじゃないんだ!だから俺はレッドドラゴンを倒すこともできないし、レッドドラゴン並みの強さを誇るモンスターを倒すこともできない!それを知ってほしいんだ!」


〈昨日の配信を最初から見てない方へ。『yu-ya』はレッドドラゴンの存在を知らない。そのため、レッドドラゴンのことを『空飛ぶトカゲ』と呼び、雑魚モンスター扱いしている。レッドドラゴン=『空飛ぶトカゲ』で問題ない〉


〈なるほど。レッドドラゴンが雑魚すぎてレッドドラゴンの名前すら知らなかったのか。納得したぜ〉


〈今日もレッドドラゴン並みのモンスターを瞬殺するところ、期待してまーす!〉


「何で信じてくれないんだよ!くそっ!もういい!今日は95階で白い虎を倒しに行くからな!」


〈いや、90階よりも上に行くんかいっ!〉


〈レッドドラゴン以上の強さ持ってるだろ、ソイツww〉


〈ナチュラルに95階から始めようとするのヤベェなww〉


 通知がたくさん鳴っているが、誰も信じてもらえなかった俺はコメント欄を見ずに95階を選択した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ