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006 依頼達成

「瀬田さん、先ほどのお願いは問題ありませんか?」

 瀬田さんの質問タイムも済んで、エイコさんが念押しに瀬田さんに聞いた。

「はい、トレジャーハンターに通達は出します。ただ、彼らは我々が雇っているわけではありませんから、無視するかも知れません。それに、すべてのトレジャーハンターが代々木公園にキャンプを張っているわけでもなく、現地で野営する者もいますから、全員というわけには……」

 瀬田さんの語尾が曖昧になった。


 瀬田さんへの、って言うか、首都防衛軍へのお願いとは、明日と明後日、江東区の旧地下鉄沿線に立ち入らないよう、トレジャーハンターたちに通達してもらうっていうもの。少しだけ派手にやることになったから、周りに人がいると巻き込んじゃう可能性があるのよね。

「それは仕方ありません。彼らも、トレジャーハンターという職業に就いている以上、命の危険は承知しているでしょうから。一応、現地にいる人たちには被害が及ばないように、できる限り注意します」


 あたしが周囲を警戒していれば、余程の大人数でなければ対処できると思う。

「そうですか。先程聞いていた話では、地下に潜っていると危険そうなので、特に注意しておきます」

「よろしくお願いします。それから、広い訓練場みたいな場所はありますか? 少し身体を慣らしておきたいのですが」

「はい? はい、解りました」


 少々首を傾げた瀬田さんと共に、あたしたちは部屋を出た。エイコさんとトワさんは、昨日この部屋に来るときに自動車から下ろした、布に包まれた長い得物を持って。

 あたしは、練習のために広い場所は必要ないんだけど、エイコさんの武器の調整のために一緒に行かなくちゃ。



 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



 次の日、あたしたち三人は瀬田さんを伴って、埋立地を歩いていた。旧地下鉄の有楽町線?に沿って、地上を歩いている感じ。ここより北の、東西線?にも出没するらしいから、どこかで海と繋がっているんだろうね。

 今は有楽町線の方に、海竜に撃ち込んだ魔鉱石の反応があるので、こっちを歩いている。

 エイコさんは長砲身の魔銃を、トワさんは彼女の身長と同じくらいの大剣を、それぞれ背負っている。普段の仕事ではあまり使わないけど、今回の海竜相手には、いつもの武器よりこっちがいい。


「ミキ、どう?」

「一応、こっちに向かってる。動きが鈍いから、積極的にこっちへ来ようとしているわけでもなさそうだけど」

「上手く追い込める?」

「やってみないと判んないけど、多分いけると思う」

「距離は?」

「約三キロ。追い込んでくるよ」

「気を付けなさい」

「うん」


 あたしは一人で一・五キロほど瞬間移動。ここからなら、エイコさんたちの待機している場所と、海竜の場所、どちらもあたしの魔力の範囲内に入る。

「はぁ、海竜を直接瞬間移動できたら良かったんだけどな」

 けれど、魔鉱石を撃ち込んだのに、できなかった。普通の生物なら体表面を覆っているだけの魔力(フィルム)なんだけど、この海竜は体内すべての魔力が魔力(フィルム)になってて、魔鉱石の魔力を染み込ませられない。こんな魔力の使い方は初めて見たよ。まったく、どこまで規格外なんだか。

 そうでなくても、あたしは魔鉱石の魔力を六メートル程度しか広げられないので、体長二〇メートルの海竜の全身に染み込ませるのは無理なんだけど。


 のろのろとあたしの方へ向かっている海竜。周囲に人はいない。いや、いなくはないけど、一番近くても一キロメートルくらい離れているから大丈夫。

 海竜の後方の地下鉄の軌道を、その上の地面を崩して埋める。後でこの辺りの地盤が沈下するかも知れないけど、首都防衛軍で注意喚起してくれるはず。

 海竜が速度を上げた。うん、上手くいきそう。途中で脇道に逸れないように、横道はさっき埋めておいた。


 海竜を追い立てるために次々と軌道を埋めて行く。地面が揺れ、地響きが走る。この分なら、予定より早く追い込めそう。

〈エイコさん、トワさん、もうすぐそっちに行きます。周囲一キロに人は無し〉

〈解った。予定通りに〉

〈タイミングよろしく〉


 足の下をずどどどどどっと音が過ぎて行く。それを追いかけるように、軌道を魔法で崩してゆく。

 そして海竜がトワさんの待つ地点に差し掛かる。

〈今ですっ。気を付けてっ〉

 念話で伝えるのと同時に、海竜の前方の軌道を魔法で潰し、地面に穴を開ける。行き場を失った海竜が地上に出た。


「キシャアアアアアアアアアアアッ」


 わーお。ここまで声が届くよ。あたしは現地、エイコさんの近くに瞬間移動する。

 トワさんはすでに海竜に斬りかかっているけど、やはり有効なダメージは与えられない。エイコさんは、長砲身の銃を海竜に向けて構えている。あたしは瞬間移動で地中から何十個もの石を空中に浮かべ、魔力でその場に留める。魔力を消費し続けるけれど、あたしにとっては大した量じゃないし、いつまでも維持しておくわけじゃない。


〈トワさん、離れてっ〉

 念話で伝えるのと同時に、宙に浮かべていた石を海竜に向け、頭を中心に広範囲にばら撒く。

 トワさんが跳び退き、石飛礫が海竜を襲う。ダメージは与えられない。第二陣の石を地下から取り出し、続けて撃ち出す。


「キシャアアアアアアアアアアアッ」


 海竜が大口を開け、飛ぶ石飛礫を吹き飛ばす。その瞬間、エイコさんが引金を引いた。六連射。

 あたしが渡しておいた、魔道具の弾丸が海竜に迫る。昨日のことを覚えていたのか、海竜は素早く口を閉じ、身体を捻った。しかし、弾丸をすべては避けきれず、一発がヒレに当たり、もう一発が身体を掠って軌道を変えた。

〈エイコさんっ、トワさんっ、これで身体強化は弱まるはずっ〉

〈解ったっ〉

〈後は任せろっ〉


 二人の返事を聞いて、あたしは近くにいた瀬田さんを振り返る。

「瀬田さんっ、少し離れますっ、手をっ」

「へ?」

 瀬田さんの手を掴んで、エイコさんから瞬間移動で離れる。そこからトワさんに当てないように気を付けつつ、石飛礫による攻撃。魔力障壁がある以上、魔力を直接海竜に当てての攻撃はできない。


 エイコさんに使ってもらった弾丸状の魔道具は、海竜の魔力に対して《隣接する同じ魔力(セルフ)に同じ命令を与え一秒間に九九・九パーセントの確率で魔力(ダスト)に変わる》命令を与えるもの。

 魔力を完全に(一〇〇パーセント)魔力(ダスト)にしちゃうと、さっきみたいに外れた時、身体中の魔力が魔力(ダスト)に変わると、それで効果が終わっちゃうから、〇・一パーセントだけ残すことにした。これなら、魔力生成能力で生成される〇・一パーセントまで魔力を減らせて、かつその効果が持続する。海竜が自分の魔力を意識的に対外放出するか、魔力(ダスト)に変えない限り。


 海竜は相変わらず魔力障壁を周囲に張っているけど、身体強化は弱くなっているようで、トワさんの大剣で傷付けられ、あちこちから血を流している。

 エイコさんの撃つ弾丸も、拳銃に比べて大きい加速を得られる長銃を使っていることもあり、海竜の鱗に喰い込んでいる。

 あたしの放つ石飛礫といえば……。

「弾かれてますね」

「はい……先を尖らせてるのに……」

 すべて海竜の鱗で弾かれていた。エイコさんの弾丸が有効なら、これでもいけると思ったのに。エイコさん、本条王国防衛隊の人から譲ってもらった徹甲弾を使っているな。


 尖らせて駄目なら圧縮して……と思うんだけど、石って圧縮するとすぐに砕けちゃうのよね。むしろ土の方が圧縮するには向いている。

 そう考えて地中から石ではなく土の塊を取り出し、周囲の魔力を力に変えて圧縮する。

 その時。


「もらったぁっ」

 トワさんの裂帛の気合い。

 海竜の首に振り下ろされる大剣。

 大剣の刃が海竜の鱗に当たり、喰い込んで行く。

 そして。

 ぶしゃっ。

 どすんっ。


 海竜の首が落ちた。その隣に降り立ったトワさんが、すぐに跳び退く。どしゃあっ、っと海竜の身体が倒れた。

「……終わりましたね」

「……はい」

 結局、あたしが一撃を入れる前に、エイコさんとトワさんの手でとどめを刺し終わってしまった。


「はぁ、せっかくの冒険者デビュー戦なのに……討伐なのに……一撃も入れられずに終わるなんて……」

 がっくりしつつ、海竜の死骸へと歩く。

「ミキ、どうしたの? 仕事が上手くいったのにそんなに残念そうな顔して」

 エイコさんが首を傾げた。

「それがですね……」

 あたしのさっきの呟きを聞いていた瀬田さんが、エイコさんとトワさんに説明した。


「そんなこと気にすることないって」

 トワさんが笑った。

「そうよ。そもそもミキの魔道具がなかったら傷を付けることもできなかったし、地上にに出すのも苦労しただろうし」

 狭い地下であんな巨体を相手にするのは無理だもんね。でもやっぱり、一撃くらいは当てたかったなぁ。


「それよりミキ、弾丸を回収してくれないかしら?」

「あ、はいはい」

 あたしはエイコさんの撃った弾丸を、海竜の遺骸から回収した。

「それより、こいつどうすんの?」

 トワさんが海竜の首と胴体を指差した。

「そうですね、できれば持って帰りたいのですが……」

 あたしたちは討伐依頼を受けただけなので、遺骸の所有権は首都防衛軍にあるのよね。

「それなら、持って行きましょうか? 生きてるうちは無理だったけど、今なら瞬間移動で持って行けますけど」

「いいんですか?」

 瀬田さんが喰いついた。


「はい。でも、輸送費として海竜の身体を、一メートルくらいいただきたいんですけど」

 ちらっとエイコさんを見ると、苦笑いを浮かべて頷いてくれた。

「それは……私の一存では何とも言えませんが、上に交渉してみます」

「よろしくお願いします」

 これで、海竜を試食できるね。滅多に出会える獲物じゃないんだもん、せっかくだから、食べてみたい。

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