逆行転生4
学校の図書室というものは街の図書館と違い静かじゃあない。校庭からは野球部やサッカー部の声がするし、音楽室からは吹奏楽部の音が聞こえる。
でもそんな雑音をBGMに、詩と知恵と物語の世界に浸るのが情緒的で好きだった。
つまりオレは当時図書室に入り浸っていて、どんな本がどこにあるかなんてほとんど把握していたし、アンデルセン童話の本なんてすぐに見つかるはずだった。
が、何故か見つからない。
しょうがないから、しらみつぶしに探そうと童話コーナーの背表紙を端からなぞりはじめたところ。
「あれ?マキマキじゃん。童話コーナーなんか漁って、どしたの?」
うるさいのが来た。
「ははーん、さてはお主ロリコンに目覚めたな。子供を絵本で釣っていけない悪戯を…」
「シアっ、おまえ人聞きの悪いことを言うんじゃない!!」
こいつは有栖川 紫杏。オレの幼馴染で、かつ唯一仲良くしてた女友達。
「はっ、まさかワタシも貞操の危機!?」
「だから違わいっ!!」
確かにこいつは見た目が子供っぽい、身長も低いし胸もぺったんこ、しかもその栗色の髪の毛を、どこかのラノベの名前の長い人みたいにゆるふわロングにしてるから余計そう見える。
「というか子供扱いされるの嫌なんじゃ?」
「う〜ん、マキマキは幼馴染だから許す」
なんじゃそりゃ。
「んで、何探してたの?」
「あ、そうだ。なぁ紫杏、マッチ売りの少女の内容って覚えてるか?」
「アンデルセン童話の?あらましくらいなら覚えてるけど、でもなんで?」
「あ、ああ。さっき陽奈…荻野さんの机にアンデルセン童話の本が入ってるのが目に入ってさ、それでアンデルセン童話といえばで連想したんだけど、何故か内容が思い出せなくてさ」
さすがに勝手に見た事はふせとく。
「ふーん、てかヒナ?陽奈!?」
「うん、今日ちょっとした事で仲良くなってさ」
「…あ、そう。」
「うん、とりあえずオレは内容思い出せたらスッキリだから教えてもらえる?」
「う〜ん、…やだ」
何故かコイツはたまにこういうイジワルをする。
「…けどいいか、ウチの本屋にあるはずだから明日持って来てあげる。図書室にないんでしょ?」
「今、教えちゃくれない?」
「私が覚えてるのもあらましだからね、全文見れた方がスッキリするでしょ。」
「その代わり明日までもやもやが続くんだけど」
「それくらい我慢しなさい」
紫杏はそう言い捨てるとそそくさと帰って行ってしまった。相変わらず嵐のようなヤツだ。
あ、しまった。一緒に帰れば紫杏の家の本屋でそのまま見せて貰えたんじゃ…。
まぁ仕方ないか、なんか地味に怒ってたし。
さて、オレもいい加減教室に戻ってカバンを回収して帰るか。