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後編 幻想と平和




「……い! おい! 蓮也!」


 暗闇の中、どこかから俺を呼ぶ声が聞こえる。声のする方へと歩き出す。

 ……そして俺は、目が覚めた。


「ぅ……ゲホッゴホッ! ア、はぁはぁ……」


「大丈夫か?」


「……ありがと」


 俺の背中を擦っていた影夜にそう言い、周りを見渡すと牢屋のような檻の中だった。


「一体何があったんだ?」


 ボロボロ? な状態の俺に影夜は訊いてきた。


「それが……」


 俺は説明をした。

 急に皆が居なくなったこと、敵に遭遇し戦う隙もなく意識が薄れいったこと。そして……ヤツに会ったことを。


「そう……か」


「ああ、それと……ヤツらが俺をお前と間違えたんだ」


 は? とでも言うような顔をする影夜。


「俺が……お前と間違われた?」


「ああ、その後不自然に放置されて……俺は情報を集めるために探索を開始したんだ」


「それで?」


 先を促す影夜に語る。


「ウラノスとエネンに遭遇したから、気づかれないように追っていたんだが……後ろから来ていたルイスに襲われて、目が覚めるとここだったんだ」


「そうだったのか……」


 今までの経緯を伝え、俺はふと思った。


「そうだ! 他のみんなは?」


「お前と一緒にいたやつは向かいに居る、先輩と先生は隣に……この牢屋には俺とお前だけだ」


 と、思っていると……。


「あのぅ……私もいるんですけど……」


 ぬっと出てきたのは見覚えのない少女だった。


「うおっ!?」


 急に出てきたので驚いて声が出てしまう。


「すまん……気付いてなかった」


「いえいえ……全然、平気ですよ……」


 そう口では言っているもののどこか寂しそうだった。


「あ……その、名前なんだったか?」


 そんな彼女に向けて追い打ちをかけるようにそう訊くと……。


矛根むね 百寿音もずねです……百寿とでも呼んでください……」


 と、少し俯き自身の名を告げたあとどうみても無理やり笑ったような顔で言った。そんな彼女に本当に申し訳無さを感じてしまう。


「百寿、忘れててすまん」


「いえ……大丈夫ですよ」


 そう、仕方ないんですよ……私影薄いですし。ボソボソ呟く百寿に顔を背けてしまう。


「……そうだ影夜、そっちは何があったんだ?」


 気まずい空気を打ち払うように影夜へ訊いた。


「ああ……街の結界を張り終わって俺たち後続遊撃部隊はお前たちの後を追ったんだ。森の中を歩いたよ。そんで……」




¥¥¥¥¥




「あだっ!」


 森の中、一人が転けた。

 おいおい、おっちょこちょいだなぁ……まあすぐ起きるだろ。そんな感じに思っていたらいつまで経っても起きない。


「大丈夫か?」


「…………」


 近くにいた俺は手を差し出し転けたやつの手を取ろうとした。だけど、顔をバッと上げてすっと立ち上がる。

 無言のまま、俺へと近づく。


「な、なんだよ?」


 少し不審に思い、ビビりながらそう訊くと急に殴りかかってきた。俺は咄嗟に避けて殴ってきたやつの顔を見た。


「チッ!」


 怒った顔で舌打ちをする。


「なんなんだよ!?」


「うわぁっ!」


 急に殴りかかってくるし、舌打ちされるし! わけわかんねぇ!

 内心思っていると違うところから声が聞こえてきた。


「なんだ!?」


 声の元を見るとそこには女が二人いた。


「ん〜、はずれか? 弱いな」


 一人は深緑の髪をしている、軽い口調で誰かの頭を持っていた。


「ガイア、早く片しなさい」


 そんなふうに声をかけられて持っていたやつを放り投げる。


「へいへい、真純さん」


「一条と呼びなさい、ガイア」


 もう一人は黒髪長髪の女性。どこかスラッとしていて綺麗めな感じだと思う。

 ふとガイア、と呼ばれているやつがこちらを見てきた。


「お? なんだ、まだ意識があるのか」


 俺は一瞬ビクつくがそれより怒りが勝った。


「どうなってんだよ!? お前らの仕業かッ!?」


 そう訊くとガイアは愉しそうに顔を歪めこちらを眺める。


「ああ、そうだが? 中々楽しめそうなやつだな」


「そんな暇はありません、早く片しなさい」


 言葉を遮るようにそう告げる一条。


「はいはい『チェンジ』」


 どこか嫌な予感がして俺は横に避けた。だけど、なんかふらつく……。


「ッ!? 『バネ』!」


 このままじゃいけない気がして直感的に技を出した。


「おお、避けた」


「手加減してないで、早く」


 無情にもそう告げる一条。


「わかってるっつの、追尾『チェンジャー』」


 見えないけれど、俺は避ける。訓練をしていたから異能力の気配を読めるようになっていた。

 だけど……。


「なっ!?」


「これで終わりですね」


 そこで、俺の意識は途絶えた。




¥¥¥¥¥




「ってことがあってな……」


 喋り終わった影夜に俺は言葉に詰まる。


「それは……」


「俺が覚えているのはそこまでだ、その後はわからん」


 間が空く……。


「そうか……」


 俺は声を絞り出しそう言った。


「寝るか……」


 影夜はそう言って寝転がり寝始めた。




 一晩が経ち……。


「おい! 起きろ!」


 ゴン! と檻を叩く音と同時にそんな声が聞こえた。


「うおっ! なんだっ!?」


 俺は飛び起きて周りを見渡す。どうやら檻の近くに誰か立っているようだ。


「んあ……?」


 まだ寝ぼけている影夜を起こし、檻の外へと意識を向けた。


「お前らに伝えてやる! 明日、世界を滅ぼす!」


「なっ!? どういうことだよッ!?」


 そこに居たのはウラノス、それと……。


「あたしらナナシの組織はこの日をずっと待ってたんだ! だからお前らが邪魔だったんだよ」


 ガイアと呼ばれる女だった。


「お前らはそこで指でも咥えて見てろ!」


「まあ、ここからじゃ見えないだろうけどね!」


 愉快そうに嗤いながら俺たちにそう言ってくる。


「ああ、忘れてた。ムネモシュネ様からの言われてたんだった」


 ほらよ、と俺に見せつけるように出したそれは……人間だった。


「確か、お前の親友? だったな、コイツ」


「ぐっ……!」


 牢の扉を開け中へと放り込んでくる。


「お前……智博!?」


 檻の外は薄暗くてわかなかった顔が見えて、俺はそう言った。


「オラッ! ……!?」


 近寄ろうにも体が動かない……影夜は扉を開けた二人に攻撃を仕掛けようとしたが、止まったように動けないようだった。


「まさか裏切るなんてな〜……」


 思ってもいなかった……みたいな顔をするウラノス。


「ムネモシュネ様が記憶を植え込んだんだっけ? まあ、気にしても面倒くさいし」


「んじゃな! お前らは世界が滅ぼされるのを待ってろ!」


 檻の扉を閉め去っていく。




「智博……? 一体何がどうなってんだよ!?」


 声を荒げて俺は言った。


「僕は……いや、俺は智博だ。そう、俺は智博……」


 どこかおかしい様子の智博に俺は迫るように言う。


「なあッ! どういうことだよ!」


 どうして、お前がここに……!?


「俺は……お前らの味方だよ」


「は……? ふざけんなよ! お前……俺は、お前のこと親友だと思ってたのに……!!!」


 そうだ……あの時、お前は裏切ったじゃないか。


「落ち着け、蓮也」


 影夜にそう声をかけられたけど……。


「落ち着けるかよ! 信じられるかッ!」


 俺はやっぱり信じられない……。


「お前らに話したいことが……ある」


 そう告げる智博に、俺は……耳を傾けない。


「聞くかよッ!」


「いや、聞いたほうがいい。……いったん落ち着け、蓮也」


 影夜は俺の目を見て話してきた。


「なんで……なんでお前はそんなに冷静なんだよ!?」


 そんな影夜に俺は訊いた。すると……。


「俺だって……冷静なわけじゃないさ! 今だって混乱してるよ!」


 急に大きな声を上げる影夜、その顔はぐちゃぐちゃで……。


「ッ!」


 そこで俺は気づいた、不安なのは俺だけじゃないんだって。


「けど、世界が滅ぶんだろ!? 感情的になったら……誰が世界を救うんだよ!?」


「……」


 俺は静かに影夜の話を聞く。


「そりゃ、俺だって世界を救おうだなんてスケールのデカいことは言わねぇよ……でもな! 目の前で困ってる人がいたら助けるだろ! 昔っから俺たちはそれに憧れてきたんだから!」


 その影夜の言葉で、俺は目が覚めた。

 そうだ……俺は、人を助けるのに憧れたんだ。


「……わかったよ」


 一度深呼吸をして、俺は落ち着いて言った。


「すまん、ちょっと熱くなりすぎだ……」


 そんな俺を見て大きな声を上げたことを気にするように影夜はそう言った。


「いや……ありがとう。そうだよな、感情的になってもしょうがないか……」


「ああ……話を聞こうじゃないか」


 影夜がそう言って、智博の方を向く。


「ああ……智博、お前の話を聞かせろ」


 俺も智博の方を向いて、そう言った。


「今から話すのは俺と、僕の話だ」




¥¥¥¥¥




 俺は智博、名字はない。孤児だからな。


 孤児になった理由? さあな、親に捨てられたってことしかわかんねぇよ。

 家もないし親もいない、食べるもんもない。必然的にホームレスにしかなるしかなかった。


 しかも当時は六歳、普通なら小学校に通う年齢だ。物心なんてあってないようなもんだろ。

 んで、まあ食べるもんがねぇから盗んだりゴミを漁ったりして過ごしてたさ。飲水? それは公園の水を使ってた。


 その頃は異能力なんて知らなかった、だってそうだろう? 誰も教えてくれなかったんだから。

 でもまあ、その頃から無意識に使ってたんだろうな。物を盗む時、俺はあんまり怪我を負わなかった。

 汚えガキが商品を盗むんだぞ? 普通捕まえるじゃねぇか。

 なのに店員は捕まえようとしなかった。俺の能力は暗示、犯罪に使い放題だ。


 あ? お前の異能力は記憶じゃねぇのかって?

 ああ、それは俺の異能力じゃない。それに記憶の異能力は使えない。


 今までだって記憶を読み取ったり操作したりしたことないさ。俺が言ったことを思い込ませる、それで思っていることが当たったって思うだろう?




 で、ホームレスみたいな生活をして数年。俺はそんな生活に慣れてきた。

 そんな時だった、俺がアイツと会ったのは。


 ここからは僕が話したほうがいいだろう。


 話は一転するが、キミたちはムネモシュネを知ってるだろう? そう、ナナシの組織のボスだ。

 僕の存在はソイツによって生み出された。


 僕が誰かって? さあね、僕自身もわからないよ。


 智博はムネモシュネに会ったんだ。いや、会ってしまったんだ。

 ムネモシュネは人に対し、恨みを持っていた。何故かって?

 ムネモシュネの人生は最悪だからだよ


 ムネモシュネ、それは記憶の神の名前だ。神の名を人が騙るなんて馬鹿バカしいと思わないかい?




 異能力が出始めた昔、異能者によって異能力のない親から産まれた異能者の娘。

 それがムネモシュネ、あの子さ。


 最初は楽しく暮らしてたんだろう、けれどそんな日常は容易く壊された。

 当時は異能力なんてものは周知されていなかった。だから異端だと周りは思うだろう、排除しようとするだろう?


 異能者に親を奪われて、あの子は異能力に、異能者に憎しみや恨みを持つようになった。


 異能力を疎ましく思う。


 だけど、ムネモシュネは優しすぎた。人に傷つけられてもなお、人を傷つけようとはしなかった。


 薄々気づいてるだろう? ムネモシュネの能力は記憶。気持ちを抑えつけるため、自身の記憶を異能力で封じたんだ。


 だけど所詮は子供、異能の使い方は全然だった。そもそも、異能力の使い方なんて知らなかっただろう。




 記憶をなくしたムネモシュネは孤児として日常に戻っていく。

 そんな中でも異能力や異能者の問題はあった。だけど、少しずつ緩和していったんだ。


 それから、あの子は学校に通うようになった。異能力は日常に浸透していく。


 けれど、無意識に出る異能力を疎ましく思う気持ちは漏れ出てしまっていた。

 それの影響で友人は作れない、接せれなかった。他人が自身を避ける。

 何も知らない自分、何もしていないのに煙たがれる。世間にとって、異能力や異能者の存在は概ね好意的に見られていた。


 当時、中学生のムネモシュネ。多感な時期だ。


 そんなことがあって、あの子は他人に興味や期待をなくした。いや、他人が自分に興味がないんだと。

 だってそうだろう? ムネモシュネは優しい、気遣いはあるし困ったことがあると手伝う良い子だ。

 けれど、そんなことをしてもみんなが避ける。辛かっただろう。


 それのせいだろうか? それから数日後、交通事故に遭って記憶喪失になったんだ。

 もちろん、何ヶ月かすれば治る。けど、やっぱり記憶はない。


 そんな状態であの子は一時的な記憶喪失で生活をするように。

 そんな中、とある子供からの言葉で全部の記憶が戻った。いや、戻ってしまったっていうほうがいいかな。

 その子供は、智博だった。


 記憶を取り戻したムネモシュネは自身のことをムネモシュネだと名付けた。優しい自分と決別するように。


 そして自分の人格を智博に植え付け、自身は異能力と人類を滅ぼすために動いた。

 だって憎いだろう? こんな人生にした理不尽な世界が、何も知らない自分を避ける他人が。


 そして、人類を滅ぼす準備ができた。それがあの惨劇の日だったんだ。それまで智博に植え付けられていた人格は大人しくしていた。


 そして、ムネモシュネと智博が合流し記憶を共有……するはずだったんだけどね。

 植え付けられた人格に自我が芽生えたんだ。それが僕なんだよ。僕はムネモシュネの記憶を持つ、だけどムネモシュネではない。

 どちらかというと、ムネモシュネになる前の優しい子に似てるのかな? 自分じゃよくわからないや。


 僕は自我が芽生えた。だからかはわからないけど、智博に愛着が湧いたんだ。

 ムネモシュネは用が済んだら智博を処分するつもりだ、もちろん僕もね。


 僕は異能力を持たない、ただの記憶のようなもの。だから智博の能力を使った。


 まあ、バレて今ここにいるんだけどね。



¥¥¥¥¥




 そう言って話した智博、いや智博たち。


「……お前は、なんて言ったんだ」


 沈黙の後、俺は訊いた。


「わからない、記憶を奪われているから」


「奪われている?」


 言葉を繰り返す俺に頷いて言う。


「ああ、俺の記憶は穴あき状態だ。……蓮也、信じてくれ。俺が頼れるのは、お前だけなんだ……」


 俺の目を見つめるその目は……俺が知っている目だった。少しいたずら好きでノリが良くて、何故か情報通で……あの頃の真っ直ぐな目をしていた。


「……ッ!」


 そう思うと、俺の心臓は跳ねていた。


「僕からも頼むよ。今のムネモシュネの考えはわからない、だけどあの子はいつまでも孤独なまんまだ。……助けたいんだ……」


 そう悲痛な声を上げる智博に、俺は……。


「……助けるってどうやってだよ……!」


「それは……」


 言葉に詰まる智博。




「信じられない」


 俺はそう告げた。


「……」


 少しの沈黙の後、俺は言う。


「だから……俺が直接ムネモシュネとかいうやつに会う、それでいいだろ?」


 俺は……そう言った。


「……あぁ!! それでいいさ!」




「それで、ここからどう出るんだ?」


「……さあ?」


 少し間が空いた後、おどけたようにそう言う智博。ムカッ……。


「おい!」


「冗談だよ。あの二人には暗示をかけていたんだ、だから」


 そう言いながら智博は扉に手をかけた。すると……。

 ギィ、と牢の扉が開く。どうやら鍵をかけていなかったようだ。


「マジかよ」


「マジマジ」


 暗示って強いな……。


「他のやつも助けないと……」


 影夜が呟いたその言葉で俺は思う。


「そうだな……世界を滅ぼすなんて、絶対阻止しないと……」


「ああ……」




 みんなを牢から出して話し合うように言った。


「ナナシの組織の規模がわからないから、俺たちはグループに分かれて敵を倒す」


「お前らもそれでいいだろ?」


 そう言うと、皆は頷いた。


「みんなちゃんと分かれたか? 各々、敵を倒せ! 殺すなよ?」


「殺したらそこで終わりだからな、生き地獄を味わえばいい。生きているならいいんだ」


 憎しみ、哀しみ、苦しみ、恨み、色々な感情が渦巻く。


「よし、じゃあ行くぞ!」


 外に繋がる扉を開けて俺たちは走り出す。




¥¥¥¥¥

玄師瑠海と本田根音



 扉を出て直ぐに敵と遭遇した二人。


「よっと……『蜃気楼』」


「『斬撃』!」


 キーン、と金属音が鳴り響く。


「根音さぁ、どうしてそんなになっちゃったの? 昔はもっと真面目っぽかったのにさぁ」


「ねねは今も真面目だよ!」


 問い掛けるように瑠海は言ったけれど……根音はそう告げる。


「あたしの目からは現実から逃げてるように見えるけど?」


 少しの沈黙の後……。


「……うるさいなぁ」


「それがあたしってもんよ。……根音はどうしてそうなの? 溜め込んでばっかり、なんであたしらを頼ろうとしないわけ?」


 ずっとしまっていた心からの本音が出てしまう瑠海。


「別に……いいじゃない」


 昔の言葉遣いに戻る。


「よくないよ! あたしら友達でしょ!? どうしていつもいつも自分で解決しようとするの!? そんなにあたしらは頼りないの!?」


 そんな根音に瑠海は怒鳴った。


「違う!!! ……ちがうよ……ねねは、あたしは……」


 すぐさま否定するけれど、言葉に詰まってしまう根音。


「あたしらに迷惑だって……そう思ってるんでしょ!? ふざけないでよ! 友達の迷惑なんて嬉しいもんなんだから!」


「……これは……あたしの問題だから」


 心を塞ぐ根音に、瑠海は土足で足を踏み入れる。


「そうやって! あたしを、私達を頼ってよ!」


 そう告げた瑠海の顔はどこか寂しそうだった。




¥¥¥¥¥

土竜念夜と特紗見戸



「……」


「……」


 気まずい空気の中言葉を発する見戸。


「念夜くんはさ」


「……なんさ?」


 方言が混じる念夜に見戸は言った。


「どうしてそんなに頑張れるの?」


 それは、核心を突くような……見戸の心からの疑問だった。


「それは……」


 急に言われた問いに念夜は少し言葉に詰まった。


「友達が死んだから? 自分が何もできなかったから?」


 理由を探すように見戸は告げた。


「そうっす、あっしは何もできなかった……ただ眺めるだけで」


「それだけで……頑張れるの?」


 見戸は心底不思議そうに言うと、念夜は見戸の目を見つめ言う。


「あっしは……もう嫌なんす、何もできないのは」


 ゆっくり……けれど真剣な声で念夜はそう言った。


「そう……ぼくとは大違いだ」


「それは……」


 見戸のその言葉にどう返せばいいか言葉に詰まる念夜。


「ううん、気にしないでいいよ。『視覚共有』」


 そんな念夜にそう言って、いつの間にか来ていた敵と目を合わせ視覚を共有し、目を閉じ敵を殴る。

 その間、敵は視覚を失い動けなかった。



¥¥¥¥¥

特紗菊と須鎗眠人



「ねぇミントくん!」


「なぁにぃ? 菊ちゃん」


 この二人は案外仲良しだ。


「ミントくんってさぁ! よく頑張ってるよね!」


 高校の頃から見てきた菊は眠人にそう言う。


「ふぁ……どうして?」


 欠伸をしながら不思議そうに聞き返す。


「だって、今も昔もミントくんは誰かのために行動してる! そうでしょ?」


「そう、かなぁ? ちゃんとできてる? みぃは」


 自身をみぃ、と呼ぶその行動はどこか幼くて。


「出来てるよ! ミントくん、ほんっと偉いよね!」


「そう言ってくれると……嬉しいかなぁ」


 そう菊が褒めると眠人は嬉しそうに言った。


「大丈夫! うちは見てるよ!」


「うん……ありがと」


「『聴覚共有』! っと、危ない……ありがと!」


 須鎗の後ろに居た敵に声を聴かせ、聴覚共有を発動し自分のヘッドホンから流れる大音量の音に敵は聴覚を失う。そんな敵に須鎗は攻撃した。


「ううん、怪我してない?」


 尻餅をついて座り込んでいた菊に手を伸ばした眠人。


「大丈夫!」




¥¥¥¥¥




 俺たちはムネモシュネの元へ走る。


「あっちだ!」


 案内する智博の後ろに着いていく。


「ここか?」


「ああ」


 大きな両扉の前、俺たちはそこで止まる


「……開けるぞ」


 ドアノブに手をかけゆっくりと下げる。中を覗くとそこには……。


「ぐぅぅぅぅ……」


 玉座のような大きな椅子に座る……少女。なんか、見覚えが……。


「って寝てんじゃねぇ!」


 雰囲気ぶちこわしだよ!


「んがっ……ああ、お前らか」


「なんかどっかで……」


 見たことあるような……。


「これか?」


 俺の目をまっすぐ見つめ、瞬間少女の目が光った。直後、俺の脳裏に蘇る記憶……牢の中で記憶を探られた記憶が……。


「お前……!!!」


「記憶なんて操りやすい……現にお前らは気づかなかったな」


 静かにそう告げる少女に俺は冷静さを失いそうになる。だが……。


「蓮也!」


 智博のその声で俺はハッとして目をザマス。


「すまねぇ……ありがとう」


 不自然に、そして不意に俺は冷静さを失いそうになっていた。


「残念だなあ、お前が裏切るなんてね」


 その声は智博に向かっていた。


「……」


「なんとか言ったら?」


「お前の目的はなんなんだ?」


 何も言えない智博を庇うように俺は尋ねた。


「私の目的なんて、そこのモドキから聞いてるでしょ?」


 モドキ……智博に植え付けた人格の事か。


「お前の口から聞かせろ!」


「フゥン? そう」


「……答えろ!」


 俺がそう言うと少しニヤつき、どこか自信有りげに話し始めた。


「いいよ、話してあげる。私の目的はこの世界を救うこと」


「救う……?」


 どういうことだよ……。


「そうよ、この世界は理不尽なことが多い。こんな世界で生きている人を救うのよ。そのためにこの世界を滅ぼすの。ね、楽しそうでしょう?」


 にっこりと笑うその顔はとても無邪気で……影があった。


「なんで、そんなことをするんだ?」


「……わかんないの?」


 けれど……俺のその一言で影のある笑顔から一変、表情から感情が抜け落ちたような顔になった。


「……ッ!?」


「あなた達にはわかんないよね。親が死んで憎むこともできなくて、異質なこの力は世間にとって悪で異端で……おかしいよね。世間にとって悪である異能者が同じ異端者である者を殺すなんて……」


 続けて話す。


「でも、私は殺されなかった。なんで? どうして? 私が、私の存在が異端だったはずなのに……どうしておとーさんとおかーさんはしんで僕は死ななかったの? わからないわからないわからない……」


 少しずつ……様子がおかしくなっていく。


「憎い憎い憎い……そんなことを思う自分が嫌で嫌で、そんな僕を私は殺した。でも、それでも世間は私を異端者として省いていく。僕が消えても私は誰からも見てくれない。私自身を見ない。理由なく、理不尽に」


「……」


 そんな姿を俺たちは眺めるだけで……。


「そんなとき、私は気づいたんだ。私は僕を殺してなんかいなかった。僕のせいで私が消えるなら、私は僕を消す。私はみんなを消す。そうすれば、そうすれば世間は私を許す。そんな考えをしてるとき、お前に会ったんだ。なあ……智博」


 焦点の定まっていないような、暗く底のない目が向かっているのは智博だった。


「……きみはだれ?」


 静かに……その一言を発した智博を見て、愉快そうに顔を歪めてまた話し始める。


「そう! そうキミが行った瞬間、私は私だと気付くことができた! そして、この世界を救うことを決めたんだ! ね、そんなキミが私の邪魔をするなんて」


 そこで言葉は止まった。


「俺がいけなかったんだ。俺の能力が暴走していたから……」


「だから、君も救うことにしたよ。そうだよね、世界を救ったって個人個人が救われなかったらいけないよね」


 ゆっくりと……大きく手を広げてそう言うと何かを始めようと……直後。


「だめだ!」


「もう、遅いよ」


 智博のその言葉を遮るように声を紡ぐ。


「「蓮也!」」


 影夜と智博、二人のその声を最後に俺は目が覚めた。




¥¥¥¥¥




「ふぁ……」


「おはよー! れーくん♡」


 朝日が窓から降り注ぐ中、ベッドの上で起きた俺にそういったのは風夏だった。


「あぁ……おはよう」


 床に足をつけ、俺は伸びをした。


「ご飯できてるよ、準備ができたら降りてきてね?」


 ショートカットの髪の毛を揺らして、エプロンを身に纏う俺の可愛い嫁の風夏。そんな風夏に俺は言った。


「ああ、毎日いつもありがとな」


 そんな嫁に俺は思ったことを言った。


「ふふっ、どーしたの急に?」


 照れくさそうに笑いながら、不思議そうに首を傾ける。


「いや、言いたくなってな」


「もう……早く着替えてよね」


 照れ隠しなのか、そう言って一階へ降りていった。


「今日もいい天気だな」


 カーテンを開けて外を眺めると、青い空に暖かい太陽。ああ……いつもの光景だ。


「おっと」


 着替えなきゃな。俺ももう社会人なんだから。




「お、今日はカレーか」


 朝にしては珍しいけど……。


「あ、ううん! それは今日の晩ごはん、昨日から煮込んでるの。朝ごはんはこっち」


「おお、そうか。すまん」


 皿に乗っていたのは真っ黒な影、ではなく焼いたパンの上に卵焼きが乗っていた。

 気のせいか……?


「いただきます」


 椅子に座って手を合わせる。カレーを煮込む風夏の後ろ姿を俺は眺めながら食べていた。

 ふと、テレビから流れてきたニュースが耳に入る。


「昨日……二人の学生が登校していた道路にて、火事が発生しました。一軒の家が不自然に吹き飛ばされ、その隣の家から火の手が登っていたそうです」


「最近、物騒だな」


 異能力事件、異能者が異能力を使い犯罪を犯す。どうやら、その登校していた二人は異能力を鍛える学校に通う生徒らしい。

 一人は火を操り、もうひとりは影を操るそうだ。……なんか、へんだな。


「そうだねぇ……あ、そろそろ時間じゃない? 大丈夫?」


「え? あ、ホントだ! やっべ!」


 今日は初めての出勤日、こんな大事な日に遅れるとか……信頼がなくなる! ただでさえ、面接でも痛そうな目で見られたのに! なんでか知らんけど!


「あ、ネクタイ曲がってるよ」


 玄関で靴を履いてカバンを持つ、後ろに居る風夏に立って振り返るとそう言ってネクタイを直してくれた。


「あ、ありがと……じゃ行ってくる!」


 俺は急ぐように玄関開けた。




「おはようございます!」


 会社に入り、会釈をして自分の席に座る。不意にトントン、と肩を叩かれ振り返ると。


「よ、新入社員」


「あ、どうもです……」


 手を上げてこちらに挨拶をする男性は。


「もうちょいしたら朝礼だから、そこでお前の紹介と仕事を教える。わかったな?」


 と、教えてくれた。恐らく先輩社員だろう、返事をしなければ。


「はい!」


「あ、そうだ。お前、スマホ持ってるだろ? 出せ、連絡先交換してやるよ」


 矢継ぎ早にそう告げられ少し戸惑いながら俺はスマホを出す。


「あ……えと、どうぞ」


「…………よし! おっけーだ、そんじゃまた朝礼でな」


 嵐のような人だったなあ……俺はそう思いながら後ろ姿を眺めていた。




「おっほん! えー……今日からこの課に配属になった……えーと、誰だったかな?」


「あ、谷口蓮也です! 宜しくお願いします!」


 身体が少し丸く、髭を生やした課長らしき人に言われ俺は自己紹介をした。


「おお、そうだ。谷口くん。谷口くんには書類作成や書類整理など、書類に関する仕事を割り振る。暇になったら書類室の整理でもしてくれ。それじゃあ、朝礼は終わりだ。今日も一日がんばるぞい!」


 そう言われて皆は席に戻る中、俺はどうしようかと動けないでいた。そんなときに話しかけてくれたのは先程声をかけてくれた男性だった、


「谷口」


「あ、先程の……」


 えーと……なんだ? 名前が分からねぇ……。


「俺は智博ってんだ、宜しくな。見た感じ何からすればいいか分からなさそうだから声かけたんだがお節介だったか?」


 首から提げていたネームプレートを俺に見せるように少し持ち上げ、声をかけた理由を話す。


「あ、いえ! 助かります!」


 そうか……名前とかはネームプレートを見ればわかるのか。


「そうか……じゃあまずは書類の作り方を教えてやろう」


「ありがとうございます!」


「その後、どんな書類を作るかっていうのを指示するチャットの見方を教えてやる。あとは……そうだな、書類室も案内しないとな」


 色々と言われて少しパンクしそうになるけど、頑張って理解をする。


「智博、谷口くん混乱してるじゃん」


「んあ? あぁわりぃ、いやぁ……この会社ってホント不便だよなぁ」


 何も教えてもくれないんだから、と聞こえそうな口調でそんなことを言う。少し棘のある言い方だった。


「そんなこと言わないの、上さんは上さんで忙しいんだよ。使えない社員でも使おうとするんだ」


「それはそれで谷口に失礼じゃないか?」


「あ、えと……」


 これは……どう返せばいいんだ?


「あ、僕は百寿音っていうんだ。書類室を案内するときはぜひ呼んでね、それじゃ自分の持ち場に戻るよ」


 そう言うとこちらに手を振りながら自身の席に戻る百寿音さん。


「ああ、ありがとな」




「あー……」


 疲れた。書類作成のしごとって意外と手間かかるんだな……智博さんにも結構面倒かけたなぁ。

 一応、書類作成とチャットの見方もわかって……キリがいいから休憩行ってこいって言われたけど……。この後は書類室に行って整理しないといけないんだなぁ……。


 はぁ……


「ため息ついてると幸せが逃げるぞっ」


「ぬおっ!?」


「あはは、そんなに驚くとは」


 急に聞こえた声に俺はびっくりして体を揺らす。


「あ、えと……百寿音さん?」


「そそ、僕は百寿音……谷口くんだったっけ?」


 自信なさげに問うと肯定され、逆に名前を聞かれる。


「あ、はい」


「谷口くんは昨日のこと、覚えてる?」


 なんだ急に? そんなの……。


「もちろんですよ! 昨日は確か……嫁と一緒に家でダラダラしてました」


「……そう、ならいいよ。そろそろ休憩終わりにしてね……そうだ! 僕キミが来るまで書類室で待ってるね」


 少しの間、俺の目をじっと見つめたと思ったら急にそう告げて休憩室から去ろうとする。


「え?」


 いまなんて? 書類室で待ってるって? なんでだよ?


「そんじゃ」


「えぇ……?」


 おかしな事がいっぱいだな……とりあえず休憩室から出よう。




「よし、そんじゃ書類室に行くぞ」


「はい!」


「智博さーん! 〇〇さんが呼んでるってー!」


 不意に聞こえたのは智博さんを呼ぶ声だった。


「はいよ! 今行く! 谷口すまんな、ちょっとまっててくれ」


「あ、もちろんです!」


 呆然と立ち尽くす俺に話しかけてきたのは茶髪の男性だった。


「谷口くん、だったかな」


「あ、はい。谷口です」


 確認するかのような問いに俺は答える。


「俺は影夜だ、よろしくな。今はどこに向かってたんだ?」


「あ、えと……智博さんに書類室へ案内を」


「そうか、困ったことがあったら教えろよな。連絡先渡しとくわ、んじゃ」


 と、強引に話を進め連絡先をメモした神を渡された。


「あ、俺の連絡先も!」


 そう言うも既にそこにはいなかった。


「谷口、待たせたか? すまんな」


「あ、いえ! 大丈夫です!」


「んじゃ、行くか」




「きたきた、いらっしゃい」


 蛍光灯に照らされた明るい廊下を歩き、一つの扉を開ける。中にいたのは先程休憩室で話した百寿音さんだった。


「ん? どうして百寿音がいるんだ?」


 呼んでもないのに……と言いたげな表情で言う智博さんに百寿音は告げる。


「ね、智博。谷口くんと二人で話したいことがあるんだけど……いい?」


「ん、ああ。構わないが」


「ありがと、ちょっと奥で話してくる」


 俺の同意も得ず、さり気なく手をつなぎ奥へと進んでいく。あれ……?


「あの……」


 ここ……どこだ?


「蓮也、聞いて」


「え、あの」


 周りを見ていた俺の顔を固定するかのように手ではさんで目と目を合わせる百寿音さん。俺の言葉を遮りそのまま言葉を続ける。


「いや……気づいて、あなたはだれ?」


「え? 俺は谷口蓮也ですけど……」


 一体何だってんだ?


「あなたはだれ?」


 なんだよ? なんなんだよ?


「俺は谷口蓮也です」


 俺は谷口蓮也だ。そのはずだ。


「もう一度聞くよ、あなたはだれ?」


「俺は……谷口蓮也だ」


 俺は……俺は谷口蓮也、異能力は炎。AKCに入って奴らに復習するために……。俺は……俺のはずだ!


「ようやく気づいた。そう、キミは蓮也。僕には名前がない……智博の中にいる人格だからね。君が気づけば後は智博に話すだけだ」


「いったい……どうなってんだ?」


 確か……そうだ、あいつになにかされたんだ。


「とりあえずこの世界から脱出しなければならない。そもそもこの世界が何なのかすらわからないんだ。キミは恐らく今日目覚めたばかりだ。おそらくキミにヒントがあるはず。何か覚えてないか?」


「何かって……なんだよ」


「なんでもいい、とにかく情報が足りないんだ」


 そんなこと言われても……あの後の記憶なんて、いッ!?


「ガッ……!」


「大丈夫か!」


 そうだ、あいつは……アイツが苦しんでる。助けないと。


「だ、大丈夫だ。とりあえずこの世界の脱出方法はわかった」


「そうか! とりあえず影夜くんはそこにいるだろう? 僕は智博を呼んでくるよ」


 そう言って書類室の入り口まで戻っていく。そして、隅にあった暗い影から人影が出てきた。


「バレてたか」


「呼んできたよ、智博……もうそんな猿芝居やめていいよ」


「そうか? まあ、結構楽しかったな。で、脱出方法はわかったのか?」


 智博が百寿音、いや名前はないのか……にそう訊くと俺の方を見てくる。


「あぁ、蓮也くんがね」


「そうなのか」


 俺は三人を見渡し、言った。


「行くぞ! 暗く儚い情景を灼き尽くせ! 『冥界の炎爪』!」


 白く青い炎の爪ができ、目の前の空間を引き裂く。瞬間、空間は引き裂かれ真っ黒な割れ目は広がっていく。




¥¥¥¥¥




「……ハッ! ここは……」


 意識が明確になり、それを認識した途端俺は立ち上がり周りを見渡した。そこにアイツは居た。

 アイツは立ち上がった俺を見て言った。


「驚いたなぁ、まさか立ち上がるなんて」


「はっ、あんなつくりもんに騙されるかよ!」


「作り物……ね。それじゃあ聞くけど、きみの記憶は本物かい?」


 俺の記憶が本物かだって?


「当たり前だ!」


 本物に決まってる。


「フゥン? じゃあ聞くよ、きみの幼なじみの名を言ってみな」


 幼なじみ? そんなん……。


「風夏だろ!」


「一人だけかい?」


「そうだ!」


 俺は堂々と答える。


「じゃあ、君は本物の記憶を持って……るんだな」


「……なんだ……?」


 なんだか様子が……。


「君は……本物の記憶を持ってる、はず」


「おまえ、なんだよその顔は……」


 悲しそうな顔をしていた。


「あ、あれ……おかしいな」


「お前……」


「なんで、どうして?」


 声が震えている。


「いったいなにが……」


「嫌だ嫌だいヤだイヤだ、思い出したくない!」


 急に叫び出す……それと同時に、俺の頭は痛くなる。


「なんだ……頭が……」


「こんな結末望んでなかった! やめ、やだよぉ」


 周りの景色が……揺れる。


「お前の記憶は本物か……って、俺の記憶は本物のはず。なのに、なんだよ……この記憶は……!」


「忘れたのに……忘れたはずなのに!」


 俺の頭に流れ込む、見覚えのない景色。


「お前、ホントに……」


 見覚えのないはずの人物、目の前にいるはずの者が昔の記憶の中に……。


「もう、すべて知っちゃった……思い出しちゃった」


「なんだよ……なんだよ!?」


「きみは悪くない、私も悪くなかった……」


 誰も悪くないという、その姿に俺は声を漏らした。


「でも、もう……」


「そう、もう遅いんだ」


 俺の言葉に間髪入れず声を出す。


「は、はは……」


「もうこんな結末……でもいいんじゃないかなって」


 ふざけんな……こんなの、だって……。


「おかしいだろ……おかしいだろッ!」


「世界を騙して、自分さえも騙して……僕は一体何がしたかったんだろう」


「お前は……お前はただッ!」


 愛が欲しかったんだろう……?


「ごめんね、本当にごめん」


 謝るな、謝るなよ……!


「ふざ……」


「こんな……理不尽な世界じゃなかったら私も、君に会えたのかな」


「……ッ!」


 それは、悲痛な声だった。苦しく、暗く、色々な感情が入り混じったようなそんな声だった。


「私の名前は――――……」


「お前は……!」


「あは、どうしてだろう……なんで忘れてたんだろう」


 そういって涙を流すのは俺の目の前にいる、ただの少女だった。


「ふざ、けるなよ! こんな最期って……」


 俺はおろした拳を握りしめる。


「ふふ……僕は君に恋をしてたのかもね……」


 そんな……こと……!


「なんでだよ、どうしてだよ……」


「最後にお願いがあるんだ、僕を……空へ連れていってくれないか?」


 それは、俺に殺せと……同じだろ。


「クソっ! ……『蒼炎の煙弾そうえんのえんだん』……!」


 俺は最後の力を振り絞り、アイツ……いや彼女を燃やした。


「ありがとう……僕、さようなら私」


 こうして俺たちは世界の危機を救った。

 世間に踊らされ、自分自身を操った人形のような少女はもう……いなくなった。

 人形少女は俺に恋をした。そんな少女はもう、誰からの記憶からも消えていく。


 俺が力なく倒れていると、バタバタと扉の向こうから足音が聞こえた。多分、AKCの人だろう。

 それからの記憶はあんまり残っていない。

 恋をしたならば、自分の思いを告げたいな……。




お読み頂きありがとうございます。

初めて?の長編?完結です。完結と言っていいのか……分かりませぬがまあ、頑張って完結させました。

色々と伏線をぶちまけた挙げ句、回収をしないという問題作の誕生です。そもそも伏線になっていたのかどうか……ただただおかしい描写とシーンがいっぱいな気がします。


と、まあ愚痴は程々に。

色々と手を出してるんで他のも完結させないといけません。

恐らくその頃にはきっと、恐らく、今よりかは成長してるでしょう……多分。

成長していたらリメイクしたいなあ……というより成長するために駄作を作るというのはどうなんだ?

そんで駄作をリメイクするとかもうわけわかんねぇよぉ……。


長々と話しましたがほんとに読んでいただきありがとうございます。

他の作品もぜひ読んでみてください。

それでは〜。

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