殺し屋とウソつき娘とそれは怖い奴
新宿歌舞伎町路地裏 午前三時
「オエーッ」
「だからぁ言ったでしょ、飲み過ぎなのよ」
「うエッえええ」
「ホラ、全部出せば楽になるから」
ウグルルル
「ナニ? 今のあんたじゃないよね…」
「ああっ?」
ガァウッ
「ひいっ!」
9月末、残暑きびしい真夏日。オレは仕事の依頼主と会うために新宿駅東口にやって来た。
平日だが、待ちあわせのこの場所は人だらけだ。
その中にひときわ目立つ人物が居た。
この暑いのに黒のニット帽に黒いサングラス。首に巻いてる黒いショールは多分シルクだろう。
服装はやはり黒い着流しにセッタ。鼻の下の多いヒゲは白い。老人だ。
胸に目印のムーミンに出てくるニョロニョロのバッジを付けてる。この老人が待ちあわせの相手らしい。
オレが近づくと老人は脇にはさんでいた新聞を見始めて言った。
「一昨日の早朝歌舞伎町の路地裏で女性が二人、野犬に襲われたとういう記事を読んだかな」
「はあそんなニュースありましたね……」
老人は新聞をたたみ。
「行こうか」
老人は歩き出し、駅前にある地下の喫茶店に入った。
喫茶店はガラガラでテーブル1つ1つがボックス席になっている。
密談するにはイイ店だ。
老人は席につき水を持ってきたウェイターにメニューを見ずアイスココアを注文し、オレを見た。
「同じものを」
老人はウェイターが持って来たアイスココアをストローで一口吸ってから黒い大きな革財布から名刺を出した。
テーブルに置いた名刺には筆文字で渡三十郎と書いてあった。依頼の電話の時に名乗った名だ。
「ターゲットは女だ」
渡老人はそう言いながらセカンドバッグからB5くらいの封筒を出した。オレは封筒を取りショルダーバッグにしまった。
「中を見ないのかね」
「こんな場所でも、どこからか見られているかも知れませんから」
「用心深いんだな。さすがだ。おおっそうだ前金を」
老人は茶封筒をオレの前に置いた。
「あの……御老人は誰に私のことを」
「すまんが、それは言えない約束なんでの」
「それはそうですね。わかりました、あなたを信用することに」
「他に聞くことはあるかな」
「余計なことは聞きません。仕事に影響が出ますから」
オレが席を立ち千円札を置くと。
「ソレはいらんよ。ココは私が」
千葉県外房大花町内にあるJR駅大花
ほとんど何もないような駅前にそびえ立つ十二階建ての古いマンション。ココにターゲットの女が住んでいる。
資料によると25歳OL、ここから約1時間半かけ都内の某商社へ通勤していることになっている。
しかし、三日張り込んでいるが女が部屋に帰った様子がない。
どこか友人の家か男の家にでも泊まり込んでるのか? それとも旅行にでも行っているとか?
オレはマンションの一階にあるコンビニへ出かけ新聞と漫画雑誌とちょっとした食料と飲料水を買ってクルマに戻り新聞を見た。
池袋駅近くの路地で早朝獣に引き裂かれた女の遺体が発見された。
という記事が出ていた。コレはあの渡老人が言ってた記事と似ている。
ケモノ……老人の記事は野犬と……。
なんなんだ東京で獣って。ありえないだろ。
ふと、駅の改札の方を見ると。
女だ、資料の写真のターゲットだ。
写真はご丁寧にいろんな角度、通勤時の何種類かの服装が数十枚入ってた。
間違いない、あの女だ。なんだってこんな時間に。
午前10時だ。朝帰りか?
千葉県東京近郊の某市
房総の田舎町から引っ越して来て5年。
家は新築一戸建てで良いが場所がイマイチ。
最寄りの駅から都内への直通電車がない。
あたしは都内にある専門学校に通ってる。
今日、学校に行ったが、つまらなかったので途中で出て来た。
たまたまバイトが休みという元同級生の家に行ってゲームして遊んで、そのまんまお泊まり。
翌日バイトだという友人と朝、別れた。
家に帰ろうかと、家でごろごろしている無職の姉に電話したら無断外泊したんで母が怒っている。帰ったらうるさいらしいので、今は帰るのはやめたほうがいいと。
平日街中にいると、よく補導員に声をかけられる。
コンプレックスの一つなんだけどあたし童顔で背が低いせいで小中学生に間違われる。
なので最近は髪を金髪に染めてる。さすがに小学生とは言われないが、ヤンキー中学生と思われたりすることも。
メンドーなんで平日昼間に街中をあまりうろつきたくなかったので、山手線に乗ってボーッと2周していた。
秋葉原に着いたとこで房総のお婆ちゃんチが頭に浮かんだ。
あたしは千葉方面へ行くことにして、あわてて山手線を降りた。
千葉県 大花町。
オレは仕事は夜することにした。
帰っ来た女はマンションから一度も外へは出ていない。
午後1時をすぎた頃マンションのコンビニへ弁当を買いに行くと、女がコンビニに入ってきた。
女は、飲み物とサンドイッチに雑誌と袋物のスナック菓子買って出て行った。あの買物だと出かけることはないだろう。
オレが買い物をすまし愛車へと戻っると、クルマの横に女の子が立っていた。
「おじさん、海岸の方まで乗せて」
女の子は背が低く顔は幼いが金髪だ。
子供じゃないな。
手に大きなスケッチブックを持っている。デザイン関係の学生かなんかだろう。
海に写生でも行きたいのか?
あたしはお婆ちゃんチのある最寄りの駅に着いた。
むかいに来てもらおうた思ったが、今日は平日、お婆ちゃんは仕事に出ていることに気づいた。
夜まで暇つぶそうと思い、海を見に行くことにした。
改札口から出ると目の前にあるマンションの一階にあるコンビニが目に入った。
まえに来た時はなかった。
コンビニの駐車場に停めてある青いクルマが目にはいった。青はあたしのラッキーカラーだ。きっとうまくいく。
すぐにクルマの持ち主らしいおっさんが、こっちに弁当とペットボトルを持って歩いてきた。
海に向かう車中。
「助かったよ、おじさん。イイ人で良かった」
「お婆さんが危篤なら早く行ってやった方がいい。オレは好きだった祖母の死に目に会えなかったんだ……」
「田舎よね、バスが一時間に一本なんて」
「やられた……」
海岸通りクルマを停めると娘は海岸の方に駆け出し風にあたってる。
「わーいっ。ヤッパ海はいいなぁ海の風好き!」
オレはまんまとだまされた。クルマを降り娘の背後から言ってやった。
「おまえのばあさんの家は竜宮城か?」
「そうお婆ちゃん人魚なの」
娘はそう言って笑っている。出かける前に弁当を買うとか、おかしなとこに気づくべきだった。ばあちゃんっ子だっオレがうかつだった。
オレは堤防の上で弁当を食べはじめた娘をおいて駅前に帰った。
往復三十分ちょっとだターゲットの女は動いていまい。
女が夕食かなんか買いにコンビニへ入ったのを確認しオレはマンションに忍び込んだ。
このマンションは築三十年以上たつ古い造りで新築当時は高級アパートのような物だったようだが今じゃ時代物の中古マンションだ。 忍び込むのは簡単だった。
女の部屋は最上階の一室。ドアの鍵も簡単に開けられた。
奥の寝室に入りチャンスを待った。居間に小型のカメラを仕掛けスマホで女を見ながら女の様子をうかがった。
テレビを見ていた女は突然立ち上がり服を脱ぎ始め全裸になった。
風呂にでも入るのかと思えば、トイレに入った。オレは動いた。
トイレから出た女の背後をとり、素早く頭と首を両手でヒネった。
グキッ
女は首が曲がったままグッタリとなる。女を抱き居間のテーブルに置き。
冷蔵庫の物と中の棚を壊し出して女を中に入れた。一人暮らしの女だ、一ヶ月は見つからないだろう。
そして玄関のドアの鍵をかけマンションを出た。
マンションから5分ほど歩く空き地に停めたクルマにもどった。
「あっ帰ってきた」
海につれていった娘がまたオレのクルマの前に居た。
「なんだ? なんでソコに居る」
「偶然、ここを通ったらおじさんのクルマ見つけちゃってさ」
「で、なんだ? 今度はカチカチ山の爺さんが危篤か」
「あはっ海のことはゴメン。実は本当のお婆ちゃんに電話したら旅行行ってたんだよね」
「なら家に帰りな。まだ電車あんだろ」
「それがさ、お婆ちゃんあてにしててゲーセンとファミレスでお金使っちやってさ……」
そう言って娘はオレに手を合わせた。
「見知らぬ奴に金は貸せないぞ」
「じゃなくてさ、帰り道途中でもいいからさ乗せて。都内に帰るんでしょ」
娘はクルマのナンバーを指さして言った。
「あのなオレがこの辺で泊まるとか考えなかったのか」
オレはすぐ近くのビジネスホテルを見て言った。
「だったら一緒に泊まろう」
「なに考えてんだ!」
思わず大きな声を出しちまった。
娘は頭をカキ、舌を出して笑った。
大丈夫か、こんな娘、夜中にフラフラしてたら簡単に拉致されるか暴漢に襲われる。
数分後。車中。
「ぜったい、おじさん乗せてくれると思ったんだ。イイ人だもん」
自分が、こんなにお人好しだったのに気付かされた。
この娘、別に好みのタイプでもない。なんだろう妙に人懐こい明るいこの娘と一緒に居ると気持ちイイというか癒やされるとでもいうか。
都内へ行かず県内にある娘の家まで送るつもりで近道になる裏道に入った。
そこは田畑の真ん中の道路で家が少ないので外灯もあまり無い。他のクルマもほとんど通らない。
夜空の欠け始めた月がよく見えた。
「ありがとうね、あたしは鬼頭かざり。鬼の頭のキトウよ。よくへんな方に間違われるけど」
「そう。まあウソだろう」
「ホントだよ。かざりって名は飾り職人だったお爺ちゃんがつけたんだってお父さんが」
「飾り職人……名前は秀か?」
「当たり。なんでわかったの?」
「……。オレは、落花生畑三十郎」
「あっ外見て言った」
オレが外の落花生畑を見て言ったのわかった?
「バカにしないでよ、おじさん! あたし『用心棒』、十回以上觀てんの。お父さんに無理やりだけど」
「バレたか、本当は野原しんのすけだ」
「しんのすけ! かっこいいじゃん」
おい。三十郎知ってて漫画のしんちゃん知らねーのこの娘?
「しんのすけは、なんの仕事してんの?」
「自営業だ」
「自営業か。ふーん」
興味はないらしい。
「音楽でも聴くか?」
「いいよ、それよりおもしろい話し聞きたくない?」
「笑い話か?」
「友だちのお姉さんの彼氏に友だちが聞いた話よ」
「なんだかなぁ~ソレって怪談のウソ話だろ」
「友だちがちゃんと聞いた話よ。その彼氏の友だちの兄が免許とりたてで新車のならし運転に出た時の深夜」
「やっぱり、もろウソ怪談のパターンじやねーのオレは怪談は嫌いだ」
やめる気はないらしい。
「深夜だったこともあり道に迷って知らない道路を走っていたら霧が出てきて周りが見えなくなったんだって。それでも先にバス停が見えて、そこに手をフル女が」
「よくあるパターンだな。知らんぷりして通り過ぎてミラーで見ると誰も居ない。気がつくと隣に女が座ってた。てーのか?」
「ブーッハズレ! ミラーに四足で追って来る女が見えました」
「そうか、走るばあさんのパターンだな。うん? なんだ。なんかミラーに」
サイドミラーに何か写ってるのが見えた。
「おじさん、あたしを驚かそうってつもり」
「いや、後を見てくれ暗くてわからないが何か走っているだろう」
エーッ? と、言って娘はふりかえり後ろを見た。
「なに! 今の」
丁度外灯の下を通った時だ。
後ろの奴の姿が見えた。
「熊か猪か?」
「よくわからないけど、人が乗ってた……」
次の外灯ではもっと近づいた。アレは熊や猪じゃなかった。熊の様な体だが頭がなかった。頭があるべき所に大きな口が。
「おじさん見た、アレ人が乗ってるんじゃなくてクマの背中から女の人が生えてた」
生えてた? ナンダそれは?
「キャーッ、横見て!」
クルマを追ってきたケモノがついに横に並んだ。
オレはスピードを上げたが奴は並んだままついて走ってる。
横を見て女を確認した。おんなは裸だ。乳房が揺れているのが見えた。
しかし、なんてぇ速さだ。さすがに田舎路で100キロが限界だ。これ以上はあぶない。
と思った瞬間、奴がクルマの前に出てスピードをおとした。
オレもクルマのスピードをおとした。
前を走る奴の尻がヘッドライトでハッキリ見えた。尻尾に見えるのは蛇体だ。
それに娘が言ったように裸の女が乗ってるのではなく、上半身が背中から生えているのがわかった。アレはなんだ?
一気にクルマをひき離した奴は50メートルほど先で止まり、こちらを向いた。奴がハッキリ見えた。長い髪の女の上半身の裸体。その下の体毛におおわれた熊のような体。
オレは奴にクルマをぶっつけるつもりでスピードを上げた。
四駆の頑丈なやつだ、ケモノくらいハネても大丈夫だろう。
と、ぶっつかる瞬間、奴が飛んだ!? クルマの上に重たい物が乗った音がした。
「おじさん! あいつ上に乗った」
「わかってる、奴を落とす」
「ひいっ!」
急ブレーキをかけた。クルマがバランスを失ってか、スピンし道路脇の畑の中に突っ込んだ。
「おじさん、あたし殺す気、あっ前に!」
ギアを入れ替えて、奴に突進した。今度は奴の後ろ足あたりをハネた。
ハンドルをまわし奴の尻へぶつけた。奴が倒れかけたところへもう一度突進。
フロントガラスに血が飛び散った。
一旦バックして道路に戻ろうとしたらクルマが動かない。
なんだ後部タイヤが空回りしている。穴にでもハマッたのか。突然クルマの後部が上がった。
後ろを見ると笑った女の顔が見えた。あの熊みたいなケモノが車体を持ち上げたのだ。
なんていう力だ。
「ウソ! キャー」
奴はクルマを投げた。クルマは横回転して逆さになり止まった。
「おい、大丈夫か」
声がない。横を見ると娘は気を失っている。
オレはシートベルトをはずしフロントボックスの拳銃を取り出してヒビだらけのフロントガラスを砕き外に出た。
ヘッドライトは点いていたのでまったくの暗闇じゃなかった。
奴の、ケモノのいる気配がする。
護身用に持っている小銃をかまえた。こんな銃で奴を倒せるのか、ないよりましだが。
ヘッドライトの前に黒い大きな影が現れた!
銃を連射した。
当たったはずだが怯まず近寄ってきた。
熊の様な黒い毛で覆われた四足の体、前方の大きなアギトから長く太い舌をたらしている。
背の女がオレをにらみ笑う顔。
こいつどこかで見たことがある顔だ。誰だ。最近見た記憶が。
「おまえは、マンションの女か!」
ウガゥルルル
立ち上がった奴は、前足の鋭い爪を振り下ろした。
とっさによけると奴は後ろのクルマを横転させた。
次の奴の攻撃が来る前に奴の横腹に銃を連射し、移動した。
横転したクルマはうまく元にもどった。
そこへ走り乗ってエンジンをかけたが動かない。
横に座った娘はまだ気を失ったままだ。
そのほうがいい。
オレは後部シートの下の隠しボックスからM870ショットガンとイーグル50AEを取り出しクルマから出た。
あたりを見回す。
奴は闇の中に潜んだか。姿が見えない。
ウォウォオオオオ
奴が背後の闇の中から襲って来た。
横っ飛びしイーグルを連射した。
今度の大口径のガンは効いたのか奴は怯んでまた闇の中に消えた。
イーグルをベルトのホルダーに入れ背にしたショットガンをかまえた。
また背後から襲って来た。
奴の口にショットガンを撃ち込んだ。
効いたのかケモノはよろよろとして倒れた。
やったか。
が、背中の女体が動き出し、ケモノの体から離れた。
女の下半身は蛇体だった。
なんつー化け物だ。コブラのように立った女体は蛇の動きで俺をイカクした。
シャーッ
舌は蛇のソレで二本の大きな牙が見えた。
オレは容赦なくショットガンを奴の腹へ撃つた。
「腹じやダメだ頭を撃て!」
突然闇の中からした声に、ショットガンを上に向け的を変えた。
腹への連射で弾切れだった。
とっさに場所を変えイーグルを出し頭を狙って撃った。
全弾撃ち込んだ。奴の頭は吹っ飛んだ。
闇の中から現れたのは黒装束の白い口髭の老人だった。
あの依頼人の渡とかいう老人か。
「見事だ」
黒いニット帽に黒い着流しにセッタ履きは新宿で会った時のまんまだ。
しかも夜の闇の中、黒のサングラス。
見えるのかよ。
「なんだこいつは?」
「キマイラの一種だろう」
「キマイラ?」
「フランス語で有り得ない架空のものをさす言葉だそうだが、一般には、身体に複数の動物の特徴を備えた怪物のことをいうよ」
「怪物だって……怪物が存在してるのか……」
「目の前のそいつだ」
「あんた、あの女が怪物だと知っていてオレに」
「お前さん、余計なことは聞かないと言っていたろ。だから話さなかったんだよ」
「もしかして、新宿や池袋の獣って、こいつか?」
「多分な……違うかもしれない。一匹居れば複数存在してもおかしくないからな」
「こんなのは、もうゴメンだ」
「お前さん運が良かった満月だったらもっと苦戦しただろう。死骸の始末はワシに任せなさい」
「あたりまえだ。あとクルマの中の娘を……」
「あの娘か……そうだな」
「殺すのか」
「そんなことせんよ。まあ心配はいらん。そうだ残りの報酬」
「ターゲットが怪物だ、はじめの金額じゃたりない」
「そう言うと思ってな。三倍入ってる」
老人はぶ厚い封筒を懐から出した。
「わるいが次からは振込にしてもらいたい」
「次はない。あんたは何者なんだ」
「そういうことは知らん方がいいだろ……」
「ああっ。それからオレのクルマは」
「アレは修理しておく」
老人が合図だろう指笛を吹くと闇の中から黒服の男たちが数十人現れた。こいつらは? オレの頭の中に三文字がうかんだMIB。
アレはUFO関連じゃなかっか。UMAもありなのかも。
もしやあの怪物は宇宙生物。
いやいやつまらん詮索はやめておこう。
オレは渡老人の黒いベンツで都内まで行き降りた。
妙な仕事をしてから一年たった。
あれからターゲットが怪物化する悪夢が続くという殺しの仕事師として情けない日々が続いて、仕事のやる気が失せていた。
まあ、仕事をしなくても当分困らないだけの金は貯めてある。
海外へでも行こうと考えている。
最近買い替えた新しいパソコンを使っていたら、ネット通信が入った。コレは仕事用のアドレスだ開いて見ると。
〘やあ今泉房之介くん元気かな?〙
画面に現れたのはあの渡老人だった。渡三十郎とか、おそらく偽名だろうが。
おい、なんで新しいアドレス知ってんだ?
だけじゃない、オレの本名まで。
〘仕事を頼みたいんだが。もちろん報酬はそれなりだ〙
オレはすぐにNOと打ち送信した。
〘嫌かね。君ほどのハンターはそういないのでね〙
なんだ、ハンターって、そんな商売してねーよ。
〘君の仕事ね、世間的にどうかと思うよ〙
なんだ脅しか。
〘あんたサツか?〙
〘イヤ違うよ。しかし、彼らとそんなに遠くない組織とでも言っておこう。仕事をことわるのもいいが、すぐにお客さんがみえるよ〙
イヤな予感がした。窓から外を見ると数台のパトカーが見えた。オレ一人にちょっと多くないか。
〘そういうことか、ジイさん〙
〘ものわかりがいいようだ。まだ確認は出来てない、この前のとは別の種類のようだ〙
〘条件がある〙
〘なにかな〙
〘武器がいる。オレの所持する中古の武器じゃイイ仕事が出来ない〙
〘そういうことか。よかろう。私は君を信頼している。できるだけの物を揃えよう〙
〘今からリストを送る〙
オレは思いつく限りの最新鋭の銃器等の兵器をリストアップして送った。
揃えられらものなら揃えてみろ。コレが全部揃えば怪物の一匹や二匹。いや戦争だってやってやらぁ。
それから一月かけて全品揃って送られて来た。
あのジイさん、本気だ。
オレは北海道の国道を走っている。
武器が揃って、沖縄で3日、九州で4日かけて4頭の怪物を倒した。それから関西で1週間、関東で一ヶ月。奴等は都会の方が多かった。餌が豊富だからか?
東北で1週間滞在して北海道に来て三日目だ。
広大なハイウェイを走っていると前方に大きなカニの看板が見えた。
北海道に来たのにまだカニを食べてなかった。今日の昼飯はあそこにするか。
カニ鍋定食を食べ終えて、駐車場に戻ると新調した愛車の前に女が立っている。
長い黒髪が風で乱れている。
「すみません。富良野に行きたいんですけど」
ヒッチハイカーか、富良野は逆方向だ。
風に舞う乱れた髪をおさえて見せた童顔は見覚えがあった。
「祖父が危篤で早く行かないと……」
「あんた、ジイさんは飾り職人か」
「えっ」
おわり
投稿初の短編です。十年以上前に書いた作品を書か直してみました。