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堕女神と戦乱

作者: ぬぬしば

見つけていただきありがとうございます。

珍しくハッピーエンドで混乱してます、

恋愛要素は薄い気がしますが一応。ファンタジーになるかと思ったらなりませんでした(?)

「ああ、もう……やってらんない!こんなの、やめてやるから……!」


ある小さな祠が、ある日壊されたと噂された。

それはとある地方の山近くにある、神社の片隅に置き忘れられたような、小さな小さな祠。

しかしそこには周囲に迷惑をかけたくなさすぎて小さくまとまり、遠慮しすぎてかえってだれも助けられない神がいた。

鳥居だけは立派に7本たてられ、まあまあ丁重に扱われていた。

ある日、そのあたりの老婆が家庭内の事件により亡くなった。

それから祠も不思議なほどぼろぼろになっていき、ついに壊れた。

この祠がいつしか誰かに壊されたこととして噂が飛び交い、犯人の目星すら立てられた。

―――――で、あるとき犯人として槍玉に挙げられたのは、他でもないこの俺だった。

一時期はそれで学校からも説教されたり、まともに過ごせなかった。

ということもあり、俺はその間、無実の証明のため、ある日あたりを調べようとした。

が、とくにあまりなにも見つからなかった。

やがて、俺はあきらめた。俺はまわりに白い目で見られながら、やがて、高校卒業とともに隣町に引っ越した。


そのまましばらく数年を過ごし、俺はある世間の変化に気がついた。

「は、アメリカが戦争だと」

新聞がわりにすっかり定着したお決まりのニュースアプリがまことしやかに伝える。内容以外文面などに違和感はなく、ただ日常的に淡々としていた。

「しかも中東まわりを含めいろいろ騒がせてると思いきや、ヨーロッパやアジアまで動き始めた」

世界各国、とくに大国は足並みそろえたように軍備増強、情勢はいきなり物々しくなってきたらしい。

「はあ、日本は大丈夫かよ」

俺は一応歴史くらいはすこしは学んだ覚えくらいあるつもりだが、詳しくはない。

が、アジアやアメリカが動くなら日本も巻きこまれざるを得ない、とは、ニュース中心にテレビ漬けでいつもなんか言ってた父親から学んだ。

アメリカ軍基地が日本国内にもあるし、たぶんいろいろ理由つけて、またはつけなくても金くらいは出させられるんだろう。

「また税金の無駄遣いだな」

俺はスマホをベッドに投げ捨て、支度をした。

ひさびさに取れた2連休は、なんとしても無駄にしたくない。

俺は綿密な計画をたて、ひとりたのしく街に繰り出すことにした。

都会的な風景にまれにある、街中にそびえ立つ小さな観覧車……ローカルガイドでそこそこ有名な近所のレストラン……珍しい展示をしている博物館に、そろそろ閉館するらしい美術館の最終展示。行きたいところは2日では足りないくらいだ。

俺は路地裏のアパートを飛び出した。街へ行くため、駅へ速歩きする。いつものコンビニなど目もくれない。

ふだんの曲がり角。

俺は海で打ち上げられたばかりの昆布とぶつかった。正確には人間…のようだが。

「いたたた〜」

アニメかよ、音声だけならそう思えるほどの少女の声がした。人間としてはたしかに、それは少女くらいの大きさだろうか。

それは起き上がると、人間の足を生やし、人間の服を着ていた。どうやら裸足だが、まあ普通の少女らしい。昆布の塊ではないようだ。

「だ、大丈夫か?急いでいて……」

少女はすると、じっと責めるように上目遣いに見つめてきた。片手は腹に、首はかしげがち。

「腹減ってんのか」

「は、はい」

少女はつらそうに覗き込んできた。いかにもだが、最近ここらはそういうのが多い。

「ほかあたれ、おれなんかより金持ちのおっさん狙えば、お前ならただでもっと食える」

「そういうわけには……」

俺はいらいらして空気を振り払うように手を動かした。

「おれも忙しいんだ!なんで乞食を助けないと……」

「あーいやですね、いやです」

すると、いきなり少女は棒読みで、しかし高らかに話し始めた。

「たしかに物価はあがり、食べものは少なく、貧乏人ならいまどきいくらでもいます。わたしのようにご飯もたべれず、学校にも行けない子供もよくいます」

「俺のせいじゃないだろ」

「でも、だからといってそんなの……」

「日本人の心がすさんでる、だろ」

「ですよ!」

一瞬詰まった少女に後付すると、少女はこくこくと食いつくようにうなずいた。

「だが、しかし俺も金はあまり……いまどきコンビニ飯すら高いのに」

すると、少女ははあ、とため息ついた。

「じゃ、おはなしからでいいです」

きびすを返し去るかと思いきや、少女はさらにぐい、と一歩近づいた。

「あなた、この世界を救いたくありませんか」

「はあ」

またか、これは新手の宗教勧誘の一種だろう。

「なんで乞食とセットにしてやってんだよ、普通逆だろ」

「あなたのためです、来てください」

少女は俺の手をつかんで引っ張った。あまり洗えてなさそうな手で。そしてそのままぐいぐい進む。

「は、離せよ」

俺は半泣きで言った。頭が浜辺の昆布みたいな少女はぼろぼろの白かっただろう薄灰色のワンピースに裸足。いまどきとはいえなかなか見ない。せめてまともな古着くらい見つかるだろ普通。ホームレスだってもう少し着てるかと。

泣きたいのはたぶん、あっちもだろうに。正直、なんとかしてやりたい気持ちもなくはないかも、だが……。

しかし、俺は手を払うのに熱中していた。周りに振り回され巻きこまれて生きてきたせいで、保身のため逃げ回るくせがついている。

「来てくださいってば」

少女はしかし、それらしからぬ強い力で掴んでいた。俺はとまどう。俺達は進み続けた。あたりを見回し、振り返るとさっきまでの駅前通りは消えていた。

たくさんの枯れた雑草の、風に吹かれる音。冬間近の秋の田舎を思わせる。薄い野山の匂いとともに、とくになつかしい風景が目に浮かぶ。いや、まてよ、実際にいま、俺はそこにいる……?

「ここは……高校の近くか。実家から電車を乗り継いでよく……」

「覚えてます?」

後ろ手に組んで振り返り、少女は言った。

「な、なんで」

のんきだとよく言われた俺にも、じわじわと実感が押し寄せる。これはきっと普通のことじゃない。そこにはちいさな7本鳥居。あの山近くの神社。

「ああ…」

俺は半笑いでうなずいた。疑われて、一人アリバイになるものはと、いろいろ調べようとした当時の記憶が蘇る。あのときは一人だった。今もあまり変わらないが。

俺は拳を握りしめた。

「あの件の神様は、俺になにかまだ用事ってわけ」

「そうです」

うなずいた少女は真剣そうだ。

「これ、わたしの職場なんですけど、ご存じのとおり壊れちゃってて」

「あんたの?あんた、清掃とか手伝ってたのか、あのおばあさんの」

「いえ、わたしが……」

「あんたが神か、そんであんたの職場なのか、あの祠。でも、まさか……」

「はい。もどすには、あなたのご協力が必要で。……どうしたらいいかはさておき、たぶんなんですが」

え?

「俺は関係ないだろ」

俺は笑った。あのとき勝手に壊れたほこら。あれが目の前で崩れたのをたまたま通りがかったはしに目にしたのは、ほかでもない俺だ。

知らない婆さんが不幸にあい、以降ほこらを世話できなかったくらいしか理由なんて思いつかない。

「あれは、あなたのせいなんです」

「え?」

「この祠を壊したのは、毎日ここを近道にして通るあなたを見ていて、わたしが神様やめたくなったから」

「え?」

「だから、願っちゃったんです、わたしが自由になるのを……そしたら……死んじゃって」

「え?!」

「わたし、ほこらのお手入れのためのおてつだいを用意しないといけなくて。それがあの、近所のおばあさんだったんです。でも、どうしても他人に頼れなくて、わたしが人間に化けてたんです。」

「ええ……?それはそれで迷惑なような。おばあさんの人生だってタダじゃないだろ」

「まあそれはそうですよね、でも差し引きで考えたら、わりと働いてもらったほうですけど。そしたら、おばあさんの家庭にも限界があって、苦労してる間に、いつしか私自身がおばあさんの生活にすっかりしばられちゃったみたいで……神様の仕事もちょうどたてこんでて、つい……」

「そ、それはつまり……あの事件と関係が」

一家心中だった。おはあさんは世話していた同居人とともに、二人で……。

「はい、おばあさんはつい、本来の神としての力で願いを叶えてしまい、死んでしまった。そして、こんな私に生まれ変わったんです。」

「ええええ!?」

俺はしばらく考えこんだ。なんだそれ。カレーに花を入れていた妹に思考停止したりもするが、こんなのは一生かけても時間が足りない。ちなみに花は隠し味らしい。

「ほんとに、自分の願いで死んだんだ。あのおはあさんは……」

ゆっくりわかるとこから聞き返す。

うなずく少女。

「で、そこの祠の神だったと」

「はい」

「で、あんたに生まれ変わったんだ。にしても、なんでまたそんな姿に」

「はい……」

少女はぼろぼろの衣装でうつむいた。

「でも、後悔してます。死んだとき、もう神なんてやめる!って願いすぎて、そしたらこうして、ただの人になっちゃいまして。あまり力もなく……」

「ぼろぼろだしなあ」

さっきワープ?したのは、たぶん大したことないほうなんだろう。

「じつは、わたしの家は有名企業で裕福だったんです。なのに、わたしが生まれたとたん没落して……最近の海外の戦争の影響ですけど、その準備で十数年前からいろんな大財閥がいろいろ方針を決めたらしく、いろいろ煽りをうけたかたちなんだそうで」

「あー」

十数年前に潰れた企業……、名前が浮かぶ。この子、うまくいけば今も名家のご令嬢だったってわけか。いまは没落し、こんな姿に……。

「きっと、戦争もわたしのせいなんです」

少女は言った。

「わたしが神様やめちゃって、平和パワーが失われ、やがては人権より金や権力が勝つ社会に逆戻り……」

「いや、そんなことないだろ?」

「ならいいんですが……でも……」

少女は悲しそうにうつむいた。

「戻したいんです、世の中を……また、神様に生まれ直さないと。ということなんですが、あの、勇気が出ず……」

「……え」

それって、また死ぬってことか?それが頼み?

……もしかして、俺に殺してほしいって言ってる?

思考停止しながら、とりあえず何か俺は言った。

「いや、もし死ぬなら、命がもったいないだろ。神様とはいえ考えろよ」

「う。」

少女は戸惑ったように後ずさった。

「また失敗するとこだった、私。前もよくわかんない人の不幸に同情して力を分けたら、悪いことに使われて、神界で咎められ……またある時は、助けた命が来世の計画との折り合いがつかない、とクレームが入り……」

細かいなあ。神様もこんなもんか。いや、クレームつけるのが人間だから、神様も人間も変わんないのか?そういやいろいろ調べてるとき、ほこらの立て看板に書いてあったな、この神様は人に遠慮してばかりだから、わりとあらゆる願いを聞くって。いやでも、もしかしたら、それはやばい気がするが……。

「いろいろ気を使いすぎたんだな。ま、たしかに人相手だと、そういうのもあるよ。もうするなよ」

「でも、どうしましょう?」

神の少女は不安そうに見上げてきた。

「おい、よくわからんが、神ならしっかりしろよ!」

俺は空気を振り払いながら言った。よく見るほこらの小さな神様が、こんなに弱気だったとは。

「神様だって、できることの分、自覚や責任を問われるんです。神界の下の宇宙すべてに配慮しないとだし、ほんとは一個人に同情したくらいじゃ動けない……でも慈悲を慈悲をといろんな人に願われ、断れば怒られ……そんな窮屈さからあなたに嫉妬して、自由になりたがるくらいなんですよ」

「神様が、俺に嫉妬?」

神様がねぇ……宇宙にも人類にも配慮の板挟みとか、まるで中間管理職じゃないか?仲いい先輩の愚痴を思い出し、辛くなった。責任ある立場というなら政治家なんかもだが、宇宙やその中のあらゆる人類を含む責任とはどれほどのものか。想像を絶する。政治まわりには、たまに責任などから命すら危ぶめる方もいたような。国内に限らなければもっといそうだが。その苦労は、たぶん毎日見ているニュースだけでは推し量ることもできない。神様だからって簡単というわけでもない気がしてきた。

「そっか、大変なんだな」

俺は笑った。

「でも死ぬのは考えすぎだ。とりあえず、いまの命でなんとか頑張ってみないか?」

「でも、もうぼろぼろだし……」

神の少女は自分の身なりを見た。まあ、薄汚れたワンピースを着た昆布みたいだが。

「そんな取り替えきくもんじゃないだろ、命は。全く神様はこれだから」

「すみません。すぐ神界視点になって、地上の苦しみを忘れちゃうんです」

神様は頭を下げた。神様がそんなにあっさり頭を下げたら、誤解されるだろ。

「じゃあ、えっと、……」

「いまのまま、神様に戻るのは?」

「うーん、検討しますか」

少女は難しそうに考えこんだ。しかし、少し表情が和らいだようだった。俺は言った。

「じゃ、行くぞ」

少女はきょとんとして見た。

「どこへ?」

「俺がうらやましかったんだろ?あと一日はあるから、少し体験させてやるよ」

「え」

こんな俺みたいな、日本によくいる人間の暮らしくらいならな。街でひとり遊び回る予定だったが、二人になっても気にならない。

少女は戸惑った表情だったが、どこかほっとしたようすを隠しきれないようだった。それでも渋っている。

「まあ、ほんとは多分ダメですが……一日くらいなら」

俺は笑った。そしてスケジュールを見た。一人でするつもりだったカラオケも焼肉も、まだちょっとくらいは余裕があった。

まあ、その日が楽しかったかどうかはさておき。時間が足りず、その日はやがて日々となり……


数年後。

「ようやく各国が軍事的解決に乗り出さないよう、ふたたび調停したか。」

俺はほっとしてニュースを見ながら言った。明るいリビングには朝日が差し込む。俺はまた引っ越していた。今度は一軒家だ。あの神社の近くの。

横で食事しながら、女性は笑って言った。

「ようやく私が神に戻った効果が?」

「いや、まだまだ未熟だな」

かつてのぼろぼろ昆布ワンピース少女はまあまあ小綺麗になっていた。と同時に、あの祠もいつの間にか建て直され、またすぐ汚れたが、徐々にきれいになってきていた。

祠のそうじには、横の女性は毎日のように行き、俺もたまに行く。

すると、小さな子供の声が外で響く。

「はーい」

女性は声のほうへ駆けていった。

俺は笑った。そろそろ、俺も準備して出かけよう。

彼女がちゃんとした神でいられるよう、今後もよーく守らないとな。


読んでいただきありがとうございました。

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