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この続きは木祭で

「ちょっとマリオン!!」

「パミュは他にも仕事あんじゃんー。人の字を探すっていう大事なお仕事がさ」

「むー」

「だから、パミュはそっちの方を片付けておいでよ。こっちの仕事はマリオンがしといてあ、げ、る、か、ら。ね~?」

「いや、ねーって……」



 一体こいつの中でどういう感情の変化が起きたのか。

 見鬼を使えばわかるけど、そういうわけにもいかない。

 やっぱりよくわからん。女ってやつは。

 


 俺は蒼天を見上げて、今の状況に甘んじた。

 決して気持ちがいいから、というわけではないことは、今までの俺の紳士的な振る舞いを見ていれば、明白であるからして、これ以上、ここで議論をすることの無意味さは、一魔術師としては看過できな――



「む~。ダメ! だってティアラナさんに頼まれたんだもん! 二人仲良く案内してって!! だからこの仕事はあたしがするの!! ティアラナさんの言うことには、いつだって間違いはないんだもん」



 今度はパミュが俺の手を引いてくる。

 ポヨヨーンとした感触が二の腕にあたり、これはこれでいいものだったが、平静を装うのが大変だった。

 

 

「でたでた。くそバカパミュはいっつもそれだもんなー。やれティアラナさんが正しい。やれティアラナさんには間違いがない。たまには自分で考えることしてみたらー?」

「むーっ」

「今回の一件を一人で片づけることは、パミュが独り立ちすることの、いい試金石になると、マリオンは思うなー」

「むむむーっ」

「だからお兄さんはマリオンに預けておきなって。大丈夫大丈夫。お兄さんもその方が絶対幸せになれるからー」



 言葉を締めくくるや、マリオンが俺の腕を引いてくる。

 マリオンに押し当てるような胸はない。

 それなのにこの気持ちよさは一体全体何なのか。

 


 着衣の感触。女特有の柔らかさ。温もり。香気。

 


 全てが相まって、生まれてきた意味を知るRPGが、これから始まるのではってぐらい気持ちがいい。

 


 こんな意味不明の言葉が、脳内に飛び出してくるほどだ。

 

 口からじゃなくて、本当によかった。



「むーっ。考えてるもん!! 考えた結果、今回だけはその、ティアラナさんに頼ろうかなーって、そう思っただけなんだもん!!」



 引っ張られる俺を押し止めるために、パミュが俺の腕に自分の腕を絡ませて……というか、自分の胸に俺の腕を沈み込ませて、踏ん張った。

 

 

 こっちの柔らかさは、やはり一味違う。

 マリオンの感触が、ずっと味わいたくなるようなものならば、こっちのぶつは、思わず動かしたくなるような感触だって、いかんいかんいかん。

 


「今回だけー? 今回だけねー?」



 トンボの目でも回すように、マリオンがパミュの前で指を回す。

 お前はクルクルパーだ。 

 ……という意味が込められているのかどうかは定かではないが、なんにせよ、おちょくられているのは間違いない。

 当然パミュは顔を真っ赤にして怒った。



「むーっ。とにかく、ビュウを返して!! ビュウは、あたしと一緒に行くんだもん!!」



 あーでもないこーでもないと、幸せの中でもみくちゃにされる俺。

 まるで幸せのサンドイッチ状態だ。って意味わからん。そんなわけわからん思考に陥ってしまうぐらい、脳がとろけきっていた。

 そんなとき。



「こらあああマリオン!! まーた調合施設一つ――というかあんた怪我は……ないのか――壊してええええ!!」



 向こうから、声を荒げる女が一人。多分魔術師だろう。前にも言ったが、肌の色を見れば魔術師かどうかはすぐにわかる。

 その魔術師は、見鬼を使うまでもなく、自分の本心を語っていた。ちと間抜けなのか、マリオンがそれだけ愛されているのか――

 多分、両方だろう。

 生意気ながら構ってやりたくなる。二三言葉を交わしただけの俺がそう思った。長い付き合いならもっと思うことだろう。



 ……決して、なつかれたからそう思ったわけではないことは、ここに明言しておく。



「あたー!! ロゼかー。しょうがない、口惜しいけど、マリオンもう行くね」



 マリオンが駆けて、途上で振り返った。

 その場で足踏みしているところが、ちょっと可愛い。



「忘れてた!! 今日の木祭で、また会おうねー」



 手を振りながら、マリオンが言う。

 そして今度こそ、上司らしき女のところにまで戻っていった。



「あいつ……ちょっと、いや、かなり将来有望だな」



 平常に戻った俺は、キリリとした『つもり』の顔で、言った。



「ロゼッタさん?」

「いや、あれがどうかは知らんけど。あの獣娘の方、マリオンっつったかな? あいつ」

「むーっ」

「なんだよ?」

「べっつにー。ただ現金だなーと思っただけ。ちょーっと女の子に好かれたからって、そんな根も葉もないこと言っちゃってさー」

「さっき爆発が起きたろ。あいつはその中心地にいたのに、煤けただけですんでる。どうしてかわかるか?」

「知らない。ギャグキャラだからじゃない?」

「おい」



 正解は、爆発に己が魔力を流して統御、魔術に転換して外に流したから、だよ。

 仮にも白い肌してるんだから、それぐらいわかれ、このバカ。


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