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マリオン

「ここが協会区。ここにはねー、魔術設備一式が固められてあるの。灯台もここね」

「ふーん」

 


 橋の上では、銀具店やら絵描きやら、色々な商売が繁盛していたのだが、陸に近づくにつれ、人が減っていき、辿り着いた先は、猫が往来で堂々と昼寝していられるぐらい、静かな場所になった。



「有り体に言えば、隔離されてることだな、魔術師が。魔王クジャ=ロキフェラトゥの治める国なら、あるいはとも思ったが、さすがに無理か」

「そ、そんなんじゃないもん! ただちょっとその、もしもってことがあるから、ここに魔術の設備を集めているだけだもん! 勘違いしないように!」

 


 プクーっと頬を膨らましながら、パミュが言う。



「随分と怒ってるみたいだけど、脱魔の動きは正解だぜ」

「そうなの?」

 


 今度はシュンとした顔で、パミュが尋ねてくる。

 本当感情表現の豊かなやつだぜ、こいつはよ。

 今日一日で、全部の表情をコンプリートできんじゃねぇのってレベルだ。

 俺は、黒の長手袋で包まれた人差し指をピンと立てた。



「魔術は色々な意味で危ないからな。変獣、魔力による数多の症状、実験による爆は――」



 ドォォォォォォォォォォォォォン!!



 その時、誰もが振り向かざるおえないような爆発が、協会区の一角で起きた。

 四角形に囲まれた木の壁の中から、黒い煙がもうもうと上がっている。



 実演を交えてくれてありがとう……なんて言ってる場合じゃねぇ。

 魔術師の腕がヘッポコだったら、グロ画像出てくるぞ、これ。



 ガチャリと、柵に備え付けられた扉が開く。

 俺は心臓をバクバクさせながら、その扉の先を見つめていた。ってのも、俺は結構白魔術が苦手なんだよ。

 グロ画像が出てきても、どうにかできる自信はあんまりない。

 扉が開かれる。出てきたのは、所々を煤けさせた獣娘、南尾でいうところの、フェルナンテだった。ケホケホと、蜂蜜のような甘い声で咳き込んでいる。

 空色の三角耳が頭頂でピョコピョコと動き、同色の尻尾が臀部でフサフサと揺れていた。



「ゲホゲホっ。失敗しちゃったー」

「失敗しちゃったーじゃないよ、マリオン。大丈夫ー? すっごい爆発だったよー」

 


 パミュが慌てて駆けていくので、俺も遅れて、ついていく。



「え? あー、誰かと思ったらくそバカパミュじゃん。どうしたの? 例の件だったらお断りしたはずだよ? マリオン清流派魔術師だから、対価がないと動くに動けないから」

 


 パンパンと煤で汚れた服を叩きながら、マリオンが言った。声音は蜂蜜のように甘いのに、発言内容は安易に触れると切れてしまいそうに刺々しい。

 

 背丈はパミュよりも低く、腰回りは、抱きしめれば片手で一周できてしまいそうなほど華奢だった。フロントホックのデニムミニスカートから露出した綺麗な足は、圧倒的に細いが枯れ枝、という風でもない。細い、というより、若々しい、という例えがピタリで、その細さには力強ささえ感じさせる。上はボーダーのノースリーブで合わせているが、爆発の影響で煤こけていた。

 

 俺は目を見開きながら、マリオンの全身に視線を這わせていた。別にイヤらしい意味からではない。

 

 こいつ……あれだけの爆発に巻き込まれて、外傷が一切ない。

 

 ふと、マリオンが、ジッと俺のことを見つめてきていることに気がついた。ついで、マリオンがパミュを見る。そしてまた俺。それを交互に三回ぐらい繰り返す。

 パミュは、結構ひどい言われようしたからか、歯を剥いて怒っていた。そりゃそうではある。

 あんな言われ方したら、誰だって怒る。



「むーっ。誰がくそバカだよ誰が!! ほんと口が悪いんだから、マリオンはー!!」

「正直者と言ってほしいなー。ちゃんと用量用法守って正しく使わないから、そういう目に合うんだよ? パミュ」

「うっ……」

「まあでも人の字の一件は、放っておいても大丈夫だと、マリオンは思うけどな。だってパミュってば、近年稀に見るくそバカなんだもん。むしろその心獣が、どんな変化するのか気になるーっ」

 


 掌を広げて、口元を隠すマリオン。もっとも、広げた指の隙間から、小生意気な笑顔が駄々洩れだったが。



「むーっ。ふ、ふーんだ。いいもーんだ。あの件だったら、ティアラナさんが引き受けてくれることになったもーん。二度とマリオンなんかに頼まないよーだっ。べーっだ」

「え? ティアラナさんが?」

「ふっふっふ」

「いや、どういう意味の笑いなのかよくわかんないんだけど。でも意外だなー。ティアラナさんもマリオンと同じ清流派魔術師のはずなのになー。どんな対価渡したの?」

「言わない!! んべーっ」

「ふーん。まあいいけど。まあティアラナさんに対価渡して依頼したのなら、まず間違いないよ。腕だけは信用できるからね、あの人は。それ以外は嘘塗れだけど」

 


 マリオンがペタペタと全身を叩きながら言った。叩く度に、自分の手を見つめて確認する。

 だからマリオンは気づかなかった。 

 パミュが、そんなマリオンを、半目で見つめていることに。どうやらティアラナを悪く言われたことに、腹を立てているみたいだ。



「むーっ。……あ!! もー、マリオンさまー」

「ふぇ?」

「そんなそんな、自分で服の汚れを落とされなくても、おっしゃってくだされば、この不肖パミュがやりましたのにーっ」

 


 意味の分からないコントをしながら、マリオンの横につけるパミュ。そして。 



「……ふわ!!」

 


 マリオンの胸やらお腹やらを叩きまくった。これといってヤラしい手つき、というわけでもないのに、マリオンは破顔して身体を丸めた。



「あはは!! ちょっとパミュ、くすぐった!! くすぐったいー!! あはは」

 


 マリオンが、尻を突き出すようにして腰を曲げ、内股にしていた太腿を、時折、高々と持ち上げる。

 先にも言ったが、マリオンの下は、フロントホックのデニムミニスカートである。

 そんな足持ち上げた状態で、足開いたりしたら、そこに隙間ができて、真っ白い何かがって、あーもう見てられない。



「ほぅら、これでさっきよりもずっと綺麗に――」

「なってないじゃん! ってか、絶対人のことくすぐってたでしょ!? このくそバカ変態パミュ!!」

 


 マリオンが涙目でパミュを見上げる。よほど苦しかったようだ。これはどう考えてもパミュが悪い。

 しかしパミュは、マリオンの言い分に、頬を膨らました。



「むーっ。確かにちょっとくすぐったりもしたけど」

「やっぱりくすぐってたんじゃん!!」

「でも、ちゃんと叩きもしたもん! 半分はティアラナさんをバカにした分だけど、半分はマリオンのためにちゃんとやってあげたんだもん!!」

 


 これ以上ないほどの逆切れだった。

 マリオンが、頭一つ下から、呆れがちな目を向ける。

 


「まぁその気持ちは買うよ? いややっぱり買わないけど。だけどこんなの無作為に叩いてもただ伸びるだけでしょ?」

「自分だって一杯叩いてたじゃん!!」

「あのねー、パミュ、マリオンはただ叩いてたんじゃないんだよ? 魔力の伸縮性を利用して、煤を吸着してたんだよ。まあでもこれはさすがに捨てるしかないかな――うわ!!」

「キャっ」

 


 マリオンに真っ黒の手を向けられ、パミュはトカゲでも向けられたように、後ろに下がった。

 それを見て、日向のように笑うマリオン。

 獣のように唸るパミュ。

 どっちが獣の死念に憑かれてるかわかりゃしねぇな。



「で?」

 


 マリオンが両手を合わせる。

 すると、手品のように、両手から水が溢れ出した。

 銀器という術式で、指にはめている銀具を起動し、水を呼んでいるのである。

 マリオンがパッパと手を振るって、デニムミニスカートで手をふいた。

 腰に手を当てる。臀部で尻尾がフサフサと揺れていた。



「例の一件でないなら、今日はどういう理由で協会区ここに来たの? ってまぁ、聞くまでもないっかなー」

 


 マリオンが、これでもかってぐらい小生意気な笑顔を、広げた掌で隠す。例によって、全く隠せていないが。

 もっとも、シュンと、肩を落としているパミュには、その絵面は見えなかったようだが。



「それがさ――」


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