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好きな女と守りたい女

 質が悪いことに、クジャの言ってることは全て正論であり、事実である。


 

 例えば魔眼所持者の話。



『あたしはハルのことを愛しておる。できた娘ぞ。健気で眩しい。しかしだからこそ、壊したくなるのだ。お前と同じように、あたしの精神の半分は死界に依っているでな。殺せ殺せと、頭の中で呪詛が渦巻く』



 これは、クジャ、ではなく、魔眼所持者、と置くなら 百パーセント正しい。俺も元魔眼所持者だからよくわかるのだ。



 魔眼所持者は、色々な意味で人を愛せないのである。高い確率で、死聴ずつうがそれを許さないからだ。



 魔眼所持者は、人を育むためではなく、物質を滅ぼすために生誕した、半ば神に近い側面がある。それでも誰かを愛せば、脳の血管が切れて、魔眼所持者の役目を終える。



 つまりは絶命するということだ。

 


 これだけ聞くと、クジャが不憫に思える。

 だが先も言った通り、これは、クジャ、ではなく、魔眼所持者の話だ。

 


 クジャが本当にそう考えているかと言えば、そんなことはないだろう。



 つまり、嘘ではないが本当のことは言っていない。俺を飼い慣らすための方便である可能性が極めて高い。しかしそれを証明する言葉がないのなら、クジャの言葉は嘘でも全てが正論となる。



 ……いや、本当にそうか?

 逃げていないか?



 クジャを悪党にすることで、パミュを選ぶ、という道から、逃げてはいないだろうか?



 面を上げた。

 パミュを見つめる。

 パミュは、糸で釣られた人形のように、力なく俯いていた。



 何一つ興味がない。

 というより、全てに決定権がない。

 だから、この場の全てに無関心。



 すぐに泣く。

 口を開けばわがままばかり。

 何でもかんでも口を出す。  



 十五歳とは思えぬほどパミュは子供だった。

 どうしてエルメルリアでああだったのか。

 今のパミュを見れば、よくわかる。


 

 多分パミュは、そういう経験をほとんどしたことがなかったのだろう。



 泣いたことがないから、愛されているかもわからない。

 わがままを言ったことがないから、生きている意味もわからない。

 何も口に出せないから、考える意味もない。 



『人生楽しくてしょうがない』

『そう顔が語っている』



 以前、水浸しの橋の上で、パミュと話していた時、俺はそんなことを考えた。



『この容姿でこの若さ』

『そりゃ、楽しいだろうな』



 無責任にも。



 それは、今のこの状況だけを見れば、大外れもいいところだ。

 しかし、あの状況だけを切り取って見れば、やはり正しかったと思える。



 パミュは、エルメルリアですごすあの時間だけが、楽しくて仕方なかったのだ。



 ここでもし、俺がパミュの手をつかまなかったとしたら、パミュの人生はまた、魔王クジャ=ロキフェラトゥという闇一色に染まる。



 俺がエルメルリアの代わりになるとは思えない。

 だが、一筋の光にはなるんじゃないのか?

 ほんの少しの支えには、なるんじゃないのか?



 振り返る。


 

 ティアラナも、俺を見つめていた。



 不謹慎を承知で思う。



 俺は多分ティアラナのことが好きなんだと。

 見つめられる。ただそれだけでも嬉しく思う。

 でもきっとそれは、誰もが思ってんだ。



 だってお前は……完璧だから。



 誰でも選べる。見つけられる。選んでもらえる。



 そう。

 パミュとティアラナは、違う。


 

 あまりにも、状況と立場あいてが、違いすぎるんだ。



 正面。



 パミュの隣で玉座につく、クジャを見据えた。

 紅い瞳。

 九尾の魔装。

 顎を持ち上げ、口の端を吊り上げ、俺の魔装を見下ろしている。



 確かに……最強だろう。



 魔術師としても破格だが、舌だけで相手を望みの場所に引きずり込む技術がある。力に関しては言うまでもない。



 腕を振るえば国が飛ぶ。

 鶴の一声で国が滅ぶ。



 交鳥暦が生んだ化物だ。パミュの手に負えるわけがない。

 交鳥暦最強こいつとぶつかれるのは、虹玉暦末期最強と呼ばれた、俺しかいないと断言して言える。



 だが……。



 唇が震える。

 本能がその考え方を拒否している。

 永く生きているが、こういう時、本能が言っていることは、ほぼほぼ正しい。



「……即答はできぬか?」



 迷っている俺の心を見透かすように、クジャが声をかけてきた。



「当然よな。白亜のは美しいからのう」



 言われるとカチンときた。

 この状況で、色恋に没頭したがるバカ。

 そう言われている気がした。



 事実その通りなのだった。



「時をくれてやってもいいぞ? 自分の一生を左右する、大事な決断じゃからのう。じっくり考えたくなる気持ちはよくわかる」



 しかしである。

 今一度よく考えてみろ俺。



 本当にこれが正しい選択なのか?

 何か大事なことを、俺は見落としていないか?



 言葉に甘えたわけでも、従ったわけでもなかった。

 ただ思考が堂々巡りに駆け回っていた。



「まあ……今でなければ伝わらぬもの、というのも、あるかもしれぬがの。タイミング一つで結ばれるものが結ばれなくなり、あまつさえ解けてしまうこともある。逆もしかり。女心とは複雑怪奇なものじゃからのう。くっくっく……」



 こいつ……っ。



 だが言っていることは間違ってなかった。正論だ。

 悩めば悩むほど、きっとあいつを傷つける。悟られる。



 シンプルに言って、俺の気持ちに沿うか、パミュを救うか。

 この二択でしかないんだ。

 だったら答えは、一つしかない。



 というより、俺にはこれしか選べない。

 これ以外の選択肢を選ぶなんて、俺にはとても、できそうにない……。



 答えは――



 


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