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羊数え

いつもの昼休み、二人の少女が眠たい少女を囲んで談笑に花を咲かせているところ、一人の少女がなにやら険しい表情でずかずかと三人のもとへと近づいてくる。


「ちょっと!蓮木さん!木塚さん!」

そこには眼鏡をかけたおさげ姿が印象的な女生徒。

「あ!ヒツジだ!」

井辻(いつじ)です!!ヘンなあだな付けないでください!!」

井辻は眉をひそめて切り出す。


「お二人とも!この間の学級アンケートの提出がまだみたいですが!」

「学級....?」

「アンケート...?」

ふたりはポカンとした顔で井辻に視線を向ける。


「ま...まさか、失念していたなんて言いませんよね!今日が締め切りだと伝えてたじゃありませんか!」

「..そんなの、あったっけ?」

視線は田沼に向けられる。

「ええ...一週間くらい前に..ヒツジちゃんが、確かね?」

「井辻です..!」

「あ!..ごめんなさい!」


井辻は腰に手を当て、仁王立ちで彼女らにいう。

「まったく!失念していたというのであれば、今すぐこの場で書いてください!今日の放課後まで待ってあげますから!」


そういうと彼女は去っていった。


「ちぇー!もう、いばりんぼめ!」

「まぁまぁ。私たちのために頑張ってくれてるんだから。悪く言っちゃダメよ。」

「....」

(...紙?..記憶に...ない)


―――――――――――

―放課後―


「......で。」

腕を組んで険しい顔をする彼女の前に二人は、背筋を伸ばして直立する。


「用紙がないってどういう....ことですか!」

彼女は眼をかっと見開いて、怒る。


「だってぇ。」

「だってじゃありません!もぉ~!!」

「ヒツジはメェ~だよ。」


その時、井辻の怒りが頂点に達する。


「せからしか!!もぉ!!ほんに、にやがっちゃでけんよ!あんたら!!」

その気迫と普段とは異なる言葉遣いに二人は固まった。

ふぅふぅと肩で息をする井辻だが、次の瞬間はっと我に返る。


「や...やくざだ..。」

「九州やくざ..。」

木塚は例に倣って蓮木を盾に後ろに隠れる。

「だれがヤクザですか!私は反社会勢力ではありません!..ただ、その。あなたたちが怒らせるから..。」

彼女はバツが悪そうにそっぽを向く。


「と..とにかく、用紙がないって!ちゃんと管理してたんですか!」

「私...もらってないかも..。」

「もらってない?」

井辻は顎に手を当てて左上を眺める。


「....あ!!確か蓮木さん。その日、お休みだった..?」

「...多分」

先週の水曜日、蓮木は親戚の結婚式へ出席していた為、学校を欠席していた。


「あ..それは、私が失念していました....すみません。」

井辻は軽く蓮木に頭を下げる。

「...?ですけど、私は確か、木塚さんに蓮木さん分の用紙を託していたと思うんですが..?」

二人の視線は木塚に移る。


「....へ?」

ぽかんとする木塚。

「キツネ...。」

「あー...。なんか..そうだったような..そうじゃなかったようなぁ...。」

ずりずりと後ずさりながら釈明の弁を考えるが。


「木塚...さん?」

蓮木と井辻の冷たい視線に刺され、冷や汗がダラダラ。

「で..でも!あたしだってもってないんだよ!!ほら!」

バッグを開いて見せる。

「自宅に忘れたんでしょう!!」

「でも!あたし基本家でバッグ開かないからさぁ!」

そのとき、蓮木がそのバッグの側面のチャックをジャっと開けた。


「そこにもないって!」

その中には、雑誌の切り抜きやカフェやアパレルのチラシ。...そして、同じ印刷がされた白いヨレヨレのアンケート用紙が二枚..。


「あ...。」

「....」

「....」


軽蔑にも似た二つの視線が木塚を襲う。

「...てへぺろ!!」

とっさに舌を出してごまかそうとするが。


「すぅ~......」

井辻は大きく息を吸う。そして

「ふざくんなぁあ!!!!!」


と、井辻の怒号が学校中に鳴り響くのだった。


登場人物紹介

井辻 遥(いつじ はるか)

蓮木たちと同じクラスの学級委員長。生真面目な性格で責任感が人一倍強い。

福岡県出身で普段は方言が出ないように標準語で話すことを心掛けているものの、感情が爆発するとつい方言が出てしまう。

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