ふて寝
騒々しい日々を忘れ、何も考えずに過ごせる至福の日、日曜日。
朝は二度寝だろうと三度寝だろうと許される。まさに僥倖。
だけど、いつまでも眠り続けれるわけではない。眠りを阻害する要因は常に付きまとう。
(.......)
時刻は午前12時近く、蓮木はふっと目を覚ます。休日ならもっと長く寝ることもあるが、彼女は人に仕組まれた本能の一つにより、起こされた。
(....ひもじい..)
どんなに寝ていたくても、空腹には勝てない。
彼女はしぶしぶ起きて、リビングへと降りていく。
(....お母さん、いないのか)
リビングにいたのは飼い犬のペロだけだった。
ハッハッハッハッハッハ
「よしよし....。ごはんちゃんと貰った?」
休日といえども、いつもと同じように愛犬をなでることから始まる。
ひとしきり撫で終わるとペロは自分のベッドへと戻っていく。
(なにか....ないかな)
蓮木はパントリーや冷蔵庫などを探す。普段はたいてい何か食べるものがある蓮木家だが....。こういうときに限ってなにもない。
(バナナも...パンも...カップ麺もない...なんてこった。)
彼女は周りを見渡す。そこで目に留まったのは....犬用の菓子。
グルグルと彼女の腹の虫が悲鳴を上げるが...。
(いや....さすがに人間やめるわけにはいかん。)
あきらめて何か買いに行こうかとも思うが、外はどんより天気。
できれば出なくて済むものがいい。
強いて言えば野菜なんかはあるけど、作るのはめんどくさい。
(....そうだ)
蓮木は炊飯器を開ける。そこには少しばかり白米が残っていた。
(いっか..これで)
蓮木はお椀に白米をよそる。しかし...。
(このまんま食べるの...なんか味気ない。)
せめてご飯の友くらいなにかあるだろうと再び冷蔵庫を漁るが..。またしても何もない。
(そういえば...この間冷蔵庫整理するとか言ってたな..。)
その時彼女に一つの天啓がひらめく。
(握れば...いいか)
そうする彼女は電子レンジで程よく温めると、手をしっかり濡らして塩を用意する。
そして白米に手を入れる。
「...あつ」
少し温めすぎたのか、白米はすこし熱い。でも、熱いほうがおいしいはず。
彼女は手を再び水にさらして手を十分に冷やす。そうして手に塩をまぶし、再び白米にダイブ。
ずっと触ってるとやけどをしてしまいそうなので、リズミカルに白米を浮かせながら形を整えていく。
彼女が握った母直伝のおにぎりは、きれいな三角形を形成した。
それは見ているだけで食欲をそそるほど。
「...よし」
彼女はおにぎりを二つ作ると、冷蔵庫に辛うじて残っていた高菜と焼きのりを沿える。
おにぎりのにおいを嗅ぎつけ、ペロが足元によって来る。
「これは..私のだから..だめ」
そうして食卓に着くと早速一口目を....といったところで、スマホの音が鳴り響く。
(....?)
電話かと思いきや、それは過去の自分が設定したアラームだった。
『Blunder 先行予約開始 12:00~』
「!!!!!」
それは彼女のお気に入りV系バンド「Blunder」のライブチケットの先行予約の開始を示していた。なんとこの街のライブハウスでライブをするというのだから、行かない手はない。
しかし、彼らは大人気バンド。早めに購入しなければ即Sold Outも珍しくない。
(やばい...!これは...とっとかないと)
彼女は急いで席を立つ。
その時にペロと目が合う。
「...おにぎり..見守っといて」
そういって彼女は自分の部屋に入り、PCを立ち上げた。
―――――――――――――――
「たっだいま~」
その時に母は帰宅した。
「は~!町内会ってのもラクじゃないわ!どうしておばしゃんたちってのはああも無駄話が好きなのかねぇ!ああ!おなかすいた!」
母は荷物を置く。
「ペロ~ただいまぁ!鈴は起きてるのかな?」
そういってリビングを見渡す。その時食卓にあるおにぎりが目に入る。
「あら!おにぎり!きれいに作ってるねぇ。んで?鈴は...?いないの?」
見渡しても彼女がいる気配がなかった。
「出かけちゃったのかしら?もう。食べ物を出しっぱなしにして、もったいない!」
そういうと母はその席に着く。
「ま、誰も食べないんなら食べちゃいましょう!いっただきまーす!」
そこにペロが寄ってきて母に吠える。
「なによぉ!ごはんならあんた食べたでしょ!」
――――――――――
(...ふぅ、なんとか。..今度払い込みいかなきゃ)
チケットの手配をなんとか済ませた彼女は、背伸びをする。
しかし、彼女の空腹度はもう限界に来ていた。
(はやく食べて...ねよ...。)
そうして一階に降りていく。
そうすると一階から何か物音がする。
(..お母さん?帰ってるのかな)
そして、階段を降り切ったところで、その光景に彼女は絶句する。
自分が作ったおにぎりを、母が食べていたのだ。
「....それ...私の....。」
その声に母は驚いて階段のほうを見る。
「す...鈴...、居たんだ...。」
―――――――――――
「ご...ごめんってばぁ!鈴ぅ!」
昼飯を取られた娘はソファーの背もたれに顔を向けて寝そべっていた。
「ね!いまからなんか作ってあげるから!機嫌なおして!ね!」
(....ひもじい)
このあとパスタ作ってもらった。