狸寝入り
早朝の教室。
まだ人も少なく、少々冷えるこの空間に蓮木はいた。
通学用の電車やバスのダイヤの関係で家を出ると、大体このくらいの時間に学校についてしまう。
HRまでまだ1時間近くはあるこの時間を蓮木はいつも通り、机で寝て過ごしていた。
(ここ、ちょうどいい...。)
教室は寒くても、この時間帯、蓮木の席にはちょうど日の光が差し込む。
日光を直に享受するそれは、布団よりも暖かい。
(....快て「おっはー!」
(.....。)
そこにいつもの邪魔者が現れる。
「おはよー!ハスキー!」
「......。」
「えーい!起きてんでしょ?寝たふりはだめよ!」
木塚は蓮木の頬をつんつんと突く。
「邪魔....しないで...。」
「もー!若いモンが、こんな朝からだらけたりして!もっと元気だしなよぉ!」
(朝から煩いなぁ...。)
木塚は蓮木の前の席に座る。
「ほんっと、よく寝るよねぇ。」
「寝る子は...育つ...。」
「身長アタシとそんな変わんないじゃん!」
「....アタマが」
「うるさいなぁ!」
木塚は蓮木のあたまを弄りだす。
「まったくもう、口ばっかり達者になって...。あ!あんたつむじ右巻きなんだ!」
頭をいじられても、蓮木はそれをほっとく。
「右巻きって、自己中とかいうよね~。まさにハスキーそのもの。」
「そんないい加減な...。」
「ちなみにアタシは左巻きだもんね!社交性バツグン!」
「左巻きは....確かバカ....。」
「なんてこというの!左巻きのほうがいいもんね!」
そこで木塚はあるものを見つける。
「あ!白髪めっけ!」
「....嘘。」
「ほんとほんと、真っ白なのが出てるよ!抜いていい?」
「....ダメ。抜くと増える...。」
「えー。ちぇっ。こんどこっそり抜いてやろっと。」
そこに一人の生徒が教室に入ってくる。
「あ!ハスキーちゃん。キツネちゃん。おはよ~。」
「お!タヌキ!おっは~!」
「何してるの?」
「二人でつむじ理論についての研究。」
(.....してない)
「ねぇねぇ!タヌキってつむじどっち巻き?左巻きだったりしない?」
「へ?」
タヌキと呼ばれた少女は自分の頭を指でなぞる。
「ああ、え~と、たしか右巻だったはずよ。」
(....ふっ)
「あ!ハスキー!鼻で笑ったな!」
「多数派は....正義..。」
「でも私、つむじ二つあるのよね~。」
「え!?そんなことあんの!?」
「ほら」
タヌキは木塚に頭を見せる。
「ほんとだ...。新人類だ...。」
「...つむじ二つは...天才肌...だって。」
蓮木はスマホで調べてそれを伝える。
「ほえ~。確かにタヌキ成績いいもんね。」
「でも、髪の毛とか整いにくくて大変なのよ。」
その話題から、タヌキはあることに気づく。
「あ!キツネちゃん。ここハネてるよ。」
タヌキは鞄から小物入れを取り出し、そこからくしを出し、それで木塚の髪を整える。
「もう、女の子なんだから、髪の毛のお手入れはちゃんとしないと!」
「はは!短いから気にしないでいいかなって。」
「だめだめ!」
一通り終わると、今度は蓮木にも目が行く。
「あら。ハスキーちゃんの髪の毛もバラバラ。」
「....キツネにやられた。」
「ええ!キツネちゃん!女の子の髪そんな風に弄っちゃだめよ!」
タヌキは蓮木の髪を整えながら木塚をしかりつける。
「ごめんなしゃーい!」
木塚のその言葉に悪びれる様子はなかった。
「まったく~。ん?あら、ハスキーちゃん白髪出てる。えい!」
「いた」
「あ!」
「ん?」
タヌキはその抜いた白髪を片手にキツネと目を合わせる。
キツネは目をぱちくりさせていた。
「......白髪」
蓮木は頭に走った痛みの原因がそれだと気づく。
「....ダメだった.....かしら?」
「........」
朝学校で寝ると、ロクなことがない。
人物紹介
・田沼 咲
あだ名はタヌキ。おっとり系のお世話焼き。成績は優秀だが、ちょっと抜けてるとこがある。
古風な家系で育ったらしく、祖母は特に身だしなみ等に厳しい人だったらしい。
比較的高身長のロングヘアー。