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第09話:魔影(前)

「はい、どうしましたか田井中さん?」


 田井中からの連絡に、堕理雄はワンコールで出た。

 自分や田井中以外の部下が入手した情報がどれもこれも、ただ地図を埋め尽くすだけで核心に(せま)れない情報ばかりだったので、今度こそ有力な情報を入手していてほしいと思いながら。


『普津沢、今朝梅ちゃんが言っていたあの配合……とても危険だと思うんだが』


 そして告げられたのは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 堕理雄は冷や汗をかきつつ「分かりました。(あと)で確認します」と言うと、田井中との通信を切り、すぐにコッソリートを(もち)いて己の部下全員に指示を出した。


「全弐課局員に告ぐ。()()()()()()()()()()()()()。彼は今肘川市✕○区◇▽町にいます。近くにいる者は彼の背後を取った存在の正体を確認してください。敵側の諜報員である可能性があります。うまくいけば敵の情報を取れるかもしれません」


 それは、先ほどの会話とはまったく噛み合わない指示だった。


 しかし、彼らはIGA。

 伊賀忍者をルーツとする存在。


 さらに言えば忍者とはスパイであり、それ(ゆえ)に味方とのやり取りは、敵側にその情報を知られないよう()()()()()()()()()

 そして田井中と堕理雄が、その暗号を(もち)いてどんなやり取りをしたかと言えば、



『普津沢、今朝梅ちゃんが言っていたあの配合……とても危険だと思うんだが』


          ↓


『普津沢、背後を確認してくれ。とても危険な状況だ』



 といった具合に配合は背後、とても危険の部分はそのままで伝えたのだ。

 自分が得た情報の意味を敵に知られぬように、日常的にありえる会話へと、得た情報を即座に変換する技術。IGAに入った時に誰もが最初に教わる初歩的な暗号変換術だ。


 しばらくすると、部下の一人から連絡があった。

 近所の新婚の主婦という『表』の顔を持つ、弐課所属の女性からだ。夕食の買い物を(よそお)って近くを通るらしい。


()(がし)さん、お願いしますね」

『了解だ!』


 冨樫という名の女性局員の返事を確認すると、堕理雄は次に田井中へと「田井中さん、近くにいた俺の部下を一人派遣しました。あと十秒で着きますのでそれと同時に動いてください」と連絡した。すぐに『ああ。了解した』と返事が来た。


 そして、十秒後。


 コッソリートを(つう)じ、バスッという音が聞こえた。

 参課特製のサイレンサーでほとんどの音を消された状態で、ゴム弾が放たれたのだ。堕理雄は静かに、状況が動くのを待った。


 そして、そのすぐ(あと)にコッソリート越しに得た情報は……彼を困惑させた。


『…………何も、いねぇ? そんな馬鹿な。確かに気配があったハズだ』

『い、今のって……いったい……? ま、まさか……アレが、動いたのか!?』


 ゴム弾が射出されてすぐに届いたのは、現場にいた二人の困惑した声だった。


「冨樫さん? 何を見たんですか? 状況を教えてください」


 堕理雄は自身の困惑を(さと)られぬよう、冷静な口調で冨樫に問いかける。

 こちらの困惑が向こうに伝わってしまえば、彼女の困惑に拍車をかける、と判断しての対応だ。


 すると冨樫は、なんとか冷静さを取り戻し始めたのか、


『だ、堕理雄課長……わ、笑わないで聞いてくれ』

 まだ慌ててはいるものの、報告を始めた。


『い、今……田井中さんの後ろで、ブロック塀の影が…………うわぁ!?』


 だが全ての報告が済む前に、異変は起こる。

 彼女の悲鳴、金属製の物の落下音、そして誰かが走り去る音を、コッソリートが連続で拾う。どう聞いても異常事態だ。


「……冨樫さん? 冨樫さん!?」


 異常事態が発生して困惑しつつも、堕理雄は何度も冨樫に呼びかける。だが彼女からの返事がない。敵から反撃されたのか、と堕理雄は即座に推測した。


「田井中さん、近くに冨樫さんはいませんか?」

 すぐさま彼は、弐課局員を呼んだ田井中へと確認を取る。するとすぐ『いたぞ』と返事が来た。


『彼女は電柱のそばで倒れてる。遠目だから詳しくは分からんが、少なくとも出血はない。気絶しているだけかもしれん』


「…………ふぅ。無事ですか」

 堕理雄はひとまず安心した。


『敵にやられたのか?』


「おそらくは」

 田井中の質問に、堕理雄は即答した。


『ならまずは……その敵を排除しないと近づけないな。彼女は俺の背後にいたヤツについて何か言っていたか?』


「影がどうとか言っていました。今まで肘川に出現した敵性存在からして、もしかすると影に潜伏できる能力を持った存在の可能性もあります。注意してください」


     ※


「影に潜伏できる、か。これはまた厄介な能力だな」

 コッソリートを片手に、田井中は苦笑した。


 IGAに入局ししばらくしてから、田井中は過去に肘川市に出現した様々な存在についてまとめられた資料を確認している。


 他県の犯罪者を始めとして……異星人未来人異世界人超能力者に魔法使いなど、途中から頭おかしいんじゃないかと思われかねない内容の資料であったが、しかしその資料を紹介してくれた堕理雄の家内がそもそも魔女なので彼はすぐに信じた。


「椎名、そこを動くな」

 謎の敵が、自分達の影に(ひそ)んでいる可能性を頭の片隅に置きながら、彼は弟子に指示を出す。


「影も同じ速度で追うだけだから、逃げても無駄だ。逃げではなく、(かわ)す事に集中しろ」


 師匠の指示を聞き、椎名は無言でコクコク(うなず)いた。

 それを確認すると、田井中は先ほど己の上着に風穴を()けたコルト・パイソンを(ふところ)にしまい……()()()()()()()()()()()()()

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[一言] 影に潜伏できる敵!? これは確かに厄介な……!
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