第04話:弟子(中)
西暦二一XX年。
IGAは相変わらず日本の平和を守護っていた。
しかしある日。
その日本で事件が起きた。
人類が宇宙進出する過程で、とある惑星で発見された〝金属生命体〟とでも命名すべき存在――それが正体不明の集団に強奪され、しかもその集団が、かつて峰岸梅が考案したものの、あまりに危険なために封印したハズの時空転移システムを復活させ……過去へと転移したのだ。
過去への転移の影響で、過去から見た未来たる現代に影響が出始める。
平和国家であるハズの日本が、時折、荒廃した景色に切り替わるという……未来が塗り潰される前兆たる、異常現象が起こる。
ただちに元の世界線へと戻すため、IGAは行動を開始した。
同じく梅が考案した時空転移システムを使い、過去へと局員を飛ばし歴史を修正するのだ。
そして、そのエージェントに選ばれたのは……。
※
椎名は約百年前の肘川市へと転移するなり、上司に言われた事を思い返した。
ちなみにマッパではない。梅の趣味なのか、確かに時空転移システムにはそんな弊害があるらしいと判明したが、堕理雄のひ孫にして最強魔女たる普津沢嬢の協力もあり、彼はなんとか服を死守したまま過去へと転移していた。
――よいか椎名よ。過去に行ったらすぐに当時のIGAに入局するのだ。あそこは百年以上前から日本のありとあらゆる情報が集まる場所。あそこに行けば目的はすぐに果たせるだろう。
そして思い返し終えると同時、椎名は行動を開始した。
まずはIGAの局員探し。局員のツテで入局するつもりのようだ。しかしIGAの局員の起源は忍者。海外風に言えばSPYである。そう簡単に見つかるとは思えないが、上司によれば当時のIGAはいろんな意味でクセモノ揃いだったという。
当時、二人の♰カオスオーナー♰がいた事が影響しているせいか。
とにかく探しやすいだろうという事で、椎名はとりあえず、キャラが濃い人物を探し始めて――。
※
――エラいヤツに絡んでもうた!!
どうやら声をかけてしまった相手は麻薬の売人のようだった。
ちなみに相手の顔と服装は、なんだか今の時代よりも前に流行ったらしい世紀末漫画っぽい感じだ。IGA局員と間違え……るか普通?
そして椎名が、その売人の言葉に気圧され、ついつい麻薬を買ってしまいそうになった……その時だった。
その売人の顔に、一人の男が鉄拳を叩き込んだ。
するとその瞬間。
椎名は〝運命〟のようなモノを感じ取った。
男の雰囲気を格好良いと思ったのも、もちろんあった。
というか椎名の父は彼が小さい頃に亡くなっており、そして父親をよく知らない彼にとっての、理想の父親像に近いのがまさに目の前の男性だった。
そして、運命を感じた理由はそれだけではない。
男には、なにやら上司と同じようなニオイ――裏社会に属する人間が放つ独特のニオイがあるのを感じたからだ。
もしかすると彼はIGAの局員、もしくは民間の協力者――公安などではエスと呼ばれる存在に近い存在かもしれない……と椎名は思った。
先ほど間違えて麻薬の売人に声をかけてしまった阿呆にしては、なかなか鋭い勘である。そしてその勘に素直に従い、椎名はすぐに男に声をかけ――。
※
「俺は弟子を取らねぇ主義だ。というか高校生を弟子にはできねぇ」
男は背中を向けながら椎名の弟子入りを断った。
しかし椎名は諦めない……どころか文句を言った。
「俺は高校卒業してるっスよ!? 高校生じゃないっス!!」
「なに? そうだったのか……だがどっちにしろ、そのガタイじゃ俺の弟子は無理だな。もう少し身長を伸ばしてから出直してこい」
しかし男の心は変わらなかった!!
※
それから男こと田井中は、断っても勝手に付いてくる椎名をまこうと肘川市内の路地裏をうまく利用して逃げ続けた。
だが田井中は知らない。
相手が、未来からやってきたIGA局員だという事を。
椎名にとっても、この肘川市は庭のようなモノなのだという事を。
年月を経ても、変わらないモノがあるという事を……。
※
とにかく逃げ続け、ようやくまいたと判断した田井中は肘川支部へと帰還した。そしてその出入口で彼は何やら呟くと、そのままドアを開けて中に入っていった。
田井中にバレないよう慎重に後を追っていた椎名も、こっそりドアに近づいた。いったい田井中が何をしたのかを知りたいのもあるが、百年ほど後の肘川支部と、ほとんど大差ない、今の時代の肘川支部に懐かしさを覚えたからだ。
すると、その時だった。
『フッ! 問題だ』
突然ドアから、女性の声が聞こえてきた。
まさか監視カメラでもついているのかと思い、椎名はギョッとしつつ自分の迂闊さを呪った。
『局長の娘さん達の今日の下着の色を、長女から順に十秒以内に答えろ』
「ふぁああああああああああ!?!?!?!?!?」
だがそんな自分の迂闊さを忘れるくらい、あまりにもハレンチな質問をされて、椎名はさらにギョッとした。
というか、椎名の存在をどうとも思っていないその声からして自動音声か。
ていうか、田井中は何と答えたのか????
『……拾……玖……』
そして、そんなギョッとした椎名の心境などどうでもいいかのように、無情にもカウントダウンは開始――。
『……捌漆陸伍肆参弐壱零ッ! フッ! 時間切れだな!!』
――して早々カウントダウンが早口に!?
『フッ! クセモノだ! 出合え出合え!!』
「へっ?」
そして椎名は、数人のIGA局員にいつの間にやら囲まれ――。