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第03話:弟子(前)

 田井中が椎名と出会ったのは、田井中がIGAに入って数年後の事だった。

 さらに言えば田井中が、彼の少し前に入局していた梅と、彼女が開発した銃火器の事でひと(もん)(ちゃく)を起こしたものの……いつの間にやら互いをリスペクトし合う仲になってから数年後の事。


 田井中は当時、肘川市に潜伏していた、海外の麻薬カルテル所属の密売人を捕獲するべく動いていた。


     ※


 相手が扱う、海外で合成された『マジピードイヒーヌードンピー』という麻薬は従来の麻薬以上に依存性がある上に、一度でも使えば、超人並みの強さを手に入れられるという恐ろしい麻薬だ。


 (ゆえ)に、その麻薬を摂取した中毒者(ジャンキー)の逮捕は、海外の警察組織にとっては、非常に難しい事らしく……海外のIGAのような秘密警察が最終的に鎮圧をしている、というのが、堕理雄達IGA弐課が掴んだ情報だった。


 田井中は、その経歴上、時々はピンチヒッターという形で所属をしている、その弐課が掴んだ情報に従い……売人のアジトへと足を運ぶ。


 できる限り気配を消して。

 周囲の風景に、溶け込みつつ。


     ※


 売人のアジトは、ギリギリ肘川市内に入る、とある高校の近くだった。

 まさか売人は、この高校の生徒に麻薬を売ろうとしてるのか……と恐ろしい想像をした田井中は、一瞬頭に血が(のぼ)りかけたが……すぐに冷静さを取り戻した。


 冷静さを失えば、判断力が(にぶ)くなる。

 今までの死闘の中で学ぶ以前に、()()()()()己の中にあったその結論が……彼を制したのだ。


 気配を消したまま、田井中はアジトへと近づいた。

 普通の一戸建ての小さい家にしか見えないその中から、下品な(わら)い声が聞こえてくる。


 中にいるのは……声の種類からして三人。

 彼らは母国語で話していたが、運良く田井中も知っている言語だったので、すぐに彼は売人達の詳細を知る事ができた。


 ついでに言えば、外に一人出ている事も。


 その事実を知った瞬間、外に出た売人が被害者を増やしている恐ろしい可能性が頭を(かす)め、田井中は、外に出た売人を先に片付けようと一瞬思った。だが彼はすぐに表情を引き締め直し……最終的には、アジトへと侵入する事を選択した。


     ※


 梅が開発した、特製のサイレンサー付きのコルト・パイソンと、専用のゴム弾は田井中が特に愛用している武器である。


 IGAに所属する前まで、(ひと)()がないかちゃんと確認してから犯罪者を殺害していた田井中にとって、この銃は、たとえ町中であろうとも、一般人に気づかれる事なく犯罪者を撃てる(すぐ)れ物だからだ。


 おかげで田井中の戦略の(はば)が広がった。

 IGAに入局して良かったと田井中はしみじみ思う。


 アジトに音もなく入る。

 顔をしかめるほどの悪臭が鼻をついた。

 麻薬の(にお)いと生活臭が混ざり合っているのだ。


 そんな中を田井中は、極力、(にお)いを()がないよう慎重に進み。幸運にも、かすかに(ひら)いていたドアから見えた、売人の一人の頭部を、()()()()()()()()()()()()という神業を(もっ)てして撃ち抜いた。


 と言ってもゴム弾だ。

 さすがに気絶で済んでいる。


 仲間が倒れた事で、ようやく他の売人が田井中の存在に気づく。

 彼らは母国語で何か(わめ)きながら、来日時にどうやって持ち込んだのか不明な拳銃を、ドアを()けるなり田井中へと向けた。だがすでに田井中は、コルト・パイソンの引き金を引いていた。


     ※


 アジト内の売人を片付けると、田井中は売人達を監視していた弐課局員に連絡を取り、売人達を頼み……外に出たという売人を追った。


 鎮圧した売人達の会話によれば、外に出た売人は、高校の通学路にて麻薬を売るつもりらしい。このままでは生徒達が主に危ない。田井中はすぐに路地裏へ入り、売人の捜索を開始した。


     ※


 路地裏は、第三者に見られずに売買するには絶好の場所……のハズだが、しかしそれらしい人物は路地裏のどこにも見当たらない。


 ならばと田井中は、捜査方法を切り替える。

 その高校へと(おもむ)き、警備員に不審者情報を訊く方法へと。


 生徒の身の安全のため、警備員は日夜、不審者情報などをいろんなルートで収集している。なので家々から情報を得るという、下手をすれば犯人に動向を知られる可能性がある方法を実行するよりも、そんな警備員に訊く方が、今回の場合は効率が良い。田井中はそう判断したのだ。


     ※


 田井中の読み通り、警備員は売人の情報を持っていた。

 どうやら売人は()(ほう)な事に、人通りが多い普通の通学路に出没しているらしい。


 なぜすぐに捕まりかねない場所で麻薬を売っているのかと、田井中は(あき)れつつ、売人の捜索を再開した。


     ※


 捜索を開始して一時間。

 ついに売人を発見した。


 売人は一人の少年に絡んでいた。

 どうやら彼に麻薬を売りつけようとしているらしい。


 それを見た田井中は表情を引き締め直すと……静かに売人へと近づき、その肩をポンと叩いた。


 すると売人は、ギョッとした顔を田井中に向けた。

 もしかして、職質を受けると思ったのだろうか。ならば見つかりにくい路地裏で売ればいいだろうに。


 田井中は再び売人に(あき)れながらも、その顔面に鉄拳を叩き込んだ。


     ※


「大丈夫だったか? 坊主」

 一撃で沈んだ売人を肩で背負いながら、田井中は絡まれていた少年に言った。


「こいつは俺が警察に運んでおくから、今日はとっとと帰れ。また絡まれないとも限らねぇからな」


 もちろん警察行きというのは嘘だ。

 売人はIGAを介してから、しかるべき場所へと移送される。


 そして田井中は少年に背を向けると、そのまま立ち去ろうとした……のだが、


「あ、あの!!」

 少年は、田井中の背中へと叫んだ。


「お、俺を……弟子にしてくださいっス!!」

 外に出た売人を弐課局員が知らなかったのは、局員がアジトを突き止める前に、その売人が外出していたからです(ぇ

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― 新着の感想 ―
[一言] 田井中カッケェ!! これぞハードボイルド( ˘ω˘ )
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