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第7話 ~調理部に仮入部したのです~

第7話 ~調理部に仮入部したのです~


 学校が始まって4日目、放課後には早速部活動の仮登録があります。仮登録ですから、とりあえず少しの間活動してみて、来週末の本登録までの間は自由に動いて良いですよ、という事らしいです。もっとも、本登録後も事情があれば転部はもちろん自由だそうですが。実際に合わない、活動についていけない、思っていた内容と違った、等々、様々な事情で転部される方は毎年いらっしゃるそうです。この辺りの事もオリエンテーションでお話がありました。

 ただ学校としては部活動は教育の一環として必須と考えているそうで、特段の事情が無い限りは部活動には所属してほしい、という事でした。私はその特段の事情に半ば当てはまる存在で、運動部は避けるようにという指示が出ています。もっとも、私の運動神経では運動部に所属したところでいずれ退部勧告を受けるか、そもそも見学や体験に行った時点でやんわりと別の部を勧められるかすると思いますけれども…。


 まあそんな訳で、私は趣味の関係もあって高校では調理部に入ることに決めました。ですので向かう先は活動場所の調理室です。先輩方も気持ちの良い方が多いご様子でしたし、同級生の方々ともある程度お話できましたし、あまり心配は要らないでしょうか。ああでも、お一人お話できなかった方がいましたね…宇野うのさんという方でしたでしょうか。なんだか睨まれてしまいましたし、男子がいるのがお気に召さないご様子でしたし、少々そこが気掛かりです。

 同じクラスの早島はやしまさんには昨日朝に人物を見定めに来られて、一応認めて頂いた様子でしたが、その後お話はしていませんね。早島さんの事も少々心配ではあります。何しろ私の友人たちを『駄犬』呼ばわりする方ですからね…。私の事は何と表現されているのか、少々心配なところでもあります。


「失礼します…。」

 私はそっと調理室の扉を開けて、中に入ります。まだ先輩方もそろってはいない様子で、人数は少なめです。

「あら、来てくれたのね。少し待っていてね、じきにみんなそろうと思うから~。とりあえずそこの机に座っていてね~。」

 赤松あかまつ副部長さんがそう声を掛けてくださいました。

「はい、副部長。」

 私は答えて、指示された机に座ります。既に早島さんは来ていたようで、同じ机に座ります。

「お疲れさまです、早島さん。」

 私は笑顔で声を掛けてみます。どんな反応が返って来るでしょうか。

「あら、駄犬どもの主。もっときちんと駄犬どもを管理なさいな。今日も本当にうるさいったらありはしない事。騒音公害の上に環境型セクハラだわ。」

 あら…私飼い主にされてしまったのですか。でも私にあの4人を統御しろと言われてもそれは無理ですよ、皆さんの方がずっと強いですし。しかし相変わらず酷い言われようです。

「ええとその…友人たちが申し訳ないです、ご迷惑をおかけして。」

「何であんたが謝るのよ。駄犬どもの躾がなっていないのが悪いのだわ。」

 いえ、きちんと管理しろとおっしゃったのは早島さんなのですが…どうもこの方は性格がつかみづらいですね。毛野けのさんはきっつい性格と評していましたけれど、どうもそれだけでもない気がします。

「さすがに駄犬は可哀想ですよ。もう少し扱いを上げてくださいませんか?」

 私は困った微笑みを浮かべてそうお願いしてみます。いつまでも駄犬呼ばわりはいくらのなんでもひどいと思います。

「犬並みの知性と品性しかないから駄犬と呼んでいるのよ。哺乳類であるだけ感謝しなさい。ああ、むしろこれは犬に対して失礼かしらね。」

「そ、そうですか…。」

 そこ感謝するところですか…そうですか。そこまで品性が無いのは木島きじまさんだけで、他の3人は普通の男子だと思うのですが…ああ、でもこれも友人に対してひどい評価でしょうか。でも仕方がないですよね、木島さんは入学以来評価を下げるような行動しかしていないですし。

「あら、何のお話をしているのぉ?」

 彦崎さんが柔らかな微笑みをたたえてお話に混ざってきます。ええと、彦崎さんにはとても聞かせられない会話でした。

「うちのクラスの駄犬どものお話よ。」

「だけん?」

 早島さんの答えに、彦崎さんは不思議な顔をしています。ええまあ、いきなり言われても通じないですよね。早島さんも扱いを改めるつもりはさらさらないご様子です。

「ええっと、私の友人達のお話です。」

「駄犬どもが友人だなんて災難ね。」

 早島さん、ツッコミが早いうえにひどいです。まだそんなに迷惑はかけられていないですよ。少々ついていけないところはありますけれども。彦崎さんはさらに混乱している様子ですが、どうしたものやらです。

「1組では犬を飼っているの?」

 いえあの、そうではないのです…。

「躾の悪い犬どもが大勢いるわよ。」

 早島さんはどうやら男子全般がそういう扱いのご様子ですね。友人達だけではなかったのですね…。何かこれ、いくらフォローしても徒労に終わるような気がしてきました。

「躾の悪い犬がどうしたの?」

 宇野さんが話に混ざってきました。

「うちのクラスにはそういうのが山ほどいるという話。他のクラスも大差ないでしょうけれどね。」

 早島さん、黙っていれば文句なしの美少女ですのに、口はあまりよろしくないのですね…。

「まあ、中にはかわいいわんこタイプもいるんじゃない?」

 宇野さんがそう言って笑ってらっしゃいますが、果たして何の事でしょうか。

「とりあえず目の前に躾の良い犬は居るわよ。」

 あら…私の事ですか。とりあえず駄犬ではない辺り、良い評価なのでしょう。

「…高評価ありがとうございます…?」

 と言って良いのでしょうか、これは。何かよく解らないのですが。先程から彦崎さんが不思議な顔をして会話を聞いていますよ。

「…あんたってつくづく変な人間ね。」

 早島さんに呆れられてしまいました。宇野さんはそのやりとりを笑って聞いています。

「皆さんお疲れさま…見学に来た人はみんな来たんだね。」

 八浜さんがやってきました。たぶん皆さんいらしゃるだろうなと思っていましたが、その運びになった様子です。

「お疲れさまです。同級生はこの5人になるのでしょうか。仲良くできれば嬉しいですね。」

 と、私は笑顔で返します。

「男子と馴れ合うつもりはないわよ?」

 宇野さんが笑顔でそう返してきます。えええ…のっけからそれですか。おや、何か小声で言っていらっしゃいますね。

「…調理部(私の花園)に男子なんか不要なのよ…。」

 ええと…宇野さんは男子がよほどお嫌いなのでしょうか。あまりそうは見えないのですが…。男嫌いという意味では早島さんの方が強そうに思えるのですが…。

 ん、早島さんも小声で何か返していますね、何でしょう。

「…まだ解らないけど、この子はちょっと違うかもよ?」

 ちょっと違うって…えっと、もしかして早くも何か悟られています、私? とりあえずその言葉を受けて宇野さんの視線が和らぎます。

「…まあ、少しくらいなら仲良くしてあげても良いわ。感謝しなさいよね。」

 何故上から目線なのだか解りませんが、どうやら感謝しなくてはいけないようです。

「ええ、ありがとうございます。」

 なんだかおかしなことになってきましたね。


「みんな集まったわね。それじゃ今日は基本のクッキーを作って、歓迎会ついでにのんびりお茶会をしましょう。」

 浮田うきた部長さんがそうおっしゃいます。クッキー作りですか、製菓の入門編という感じですね。でも1年生部員も経験者も多い様子ですから、少々物足りない方も出るのではないでしょうか。

 そんな訳でみんなで揃ってクッキー作りです。

「ちょっと彦崎さん、配合間違ってる。気をつけなさい。」

 吉川きっかわ先輩から注意が飛びます。

「あら…すみません。私ったら全然ダメな頭の中空っぽな娘でぇ…。」

「いやそこまでは言っていないから…ちょっとそこ、私がひどい事言ったみたいな空気止めてもらえる?」

 早島さんと宇野さんがひそひそ話を始めたのを吉川先輩が制止しています。早島さんと宇野さんはすっかり仲良しなご様子ですね。早島さんはあまり人と打ち解けない印象だったのですが、そんな事も無いのでしょうか。

「まだやり直し効くから大丈夫よ。美春みはるは言葉がきついだけで悪い娘じゃないから、勘違いしないであげてね。」

 小早川こばやかわ先輩がフォローを入れていらっしゃいます。でもまあ、お菓子作りはレシピに忠実にが鉄則ですから、配合量のミスは痛いですね。

「あら、大丈夫? 私がフォローに入るわね。」

 3年生の尼子先輩がそうおっしゃって、彦崎さんに状況を聞いています。追加で粉を足したり色々として、何とか配合比を規定量に戻したご様子です…その分、彦崎さんの作った種だけ異様に量が多くなりましたけれど。まあでも、お茶会を始めたらクッキーもどんどん消費されるでしょうから、少々多く作っても問題ではないでしょうか。こういう時のフォローは3年生の先輩のお役目のご様子ですね。


 クッキーが焼き上がるまでの間、先輩方が紅茶をいれてくださいます。

「今日はバニラのフレーバーにしたわ。これもおいおい教えて行くから、覚えて頂戴ね。」

 と、浮田部長さん。はい、早く覚えたいです。家でも美味しい紅茶を入れられるようになって、家族みんなに飲んでもらいたいですね。

 ああ、バニラの良い香りがして参りました。フレーバーティーは好みが難しいところなのですけれど、これならば特に苦手という方はいらっしゃらないのではないでしょうか。

「ミルクもお砂糖も用意してありますよ。必要な人は申し出てくださいね。」

 山名先輩が微笑みながらそうおっしゃってくださいます。これはミルクティーにして飲みたいですね。

「ミルクとお砂糖お願いします。」

 紅茶のそそがれたティーカップを受け取って、私は山名先輩のところへ伺ってお砂糖とミルクを入れて頂きます。席に戻ってくるくるとかき混ぜると、芳醇な香りが広がって参ります…うん、やはりきちんといれた紅茶は違いますね。

「そういえば昨日の説明で言い忘れたのだけれど、定期的に手芸部を招いてお茶会を開いているから、そちらの皆さんとも交流してみてね。同じ家庭科系の部活という事で友好関係にあるのよ。」

 と、浮田部長さん。

「それに、手芸部の中里なかざと部長と浮田部長は恋仲ですしね~。」

 赤松副部長さんがそう茶化すようにおっしゃいます。えっ、そうなのですか?

「ちょっと、1年生部員相手になんて事をばらすのよ…。」

 浮田部長さんが赤い顔をしていらっしゃいます。あまり表情を出さない方でしたが、こういう表情もされるのですね。

「良いではありませんか~。もう在校生の間では周知の事実なのですし、いずれ1年生部員も知りますよ~。それなら先に事実を知っておいてもらった方がダメージも少ないというものではありませんか~?」

 笑顔でそう疑問を返す赤松副部長さん。ああ、確かにそういうものかもしれませんね。

「私にも心の準備というものがあるのよ…。ばらすなら先に一言あってしかるべきでしょう。」

 浮田部長さんはまだ顔を赤らめたままです。でもこれは一理ありますね。

「あら、私言っておきませんでしたっけ~? そういえばあの時部長、中里さんと一緒で私のお話など耳に入っていないご様子でしたものね~。」

 微笑みをたたえたまま赤松副部長さんがそうおっしゃいます。

「…そうだったかしら、そういえば何か話しかけられたような記憶はあるような気がするわ。そんな重大な事ならもっときちんとお話をして頂戴な。」

「ええ、でも、あの時確かに『ああ、はいはい、解ったわよ。』っておっしゃいましたよ~?」

 浮田部長さんの反論に、赤松副部長さんは微笑んだままそう答えていらっしゃいます。

「…そう言うのは生返事って言ってあてにしては駄目な奴よ。本人は了解していないわよ。」

「でも言質はきちんと取りましたよ? 私達も聞いていましたから。」

 そう尼子先輩が仰っています。…どうやら調理部は部長さん一強という訳ではなく、他の3年生の先輩方も一定以上の力を持っているご様子です。

「…あなた達、そろって私をはめたわね?」

「まあ、そんな人聞きの悪いことをおっしゃらないでください。きちんとお話を聞いてくださらない部長が悪いのですよ?」

 山名先輩も微笑みをたたえたままそうおっしゃいます。でもこれは明らかにわざとですよね…。

「リアル百合なんて素敵…♪」

沙樹子さきこ、そういう事は頭の中に留めておいた方が…。」

 何か聞こえた気がしますが聞かなかったことにした方が良さそうな気がしますから聞こえなかったことにしておきましょう。何となく宇野さん、つついてはいけない気がしますし。

「…とにかくそんな訳で、今月も時機を見て手芸部の皆さんを招きますからね。あちらも一年生部員が見学に来ているそうだから、一年生同士友人を増やす機会にしてください。」

 強引にお話をまとめる浮田部長さんです。これは収拾しないと同級生たちにいつまでもいじられると思われたのでしょうね。そういえばうちのクラスにお二人ほど手芸部を考えているという方がいましたから、彼女たちが入部したのかもしれませんね。仲良くできれば嬉しいですね。


「1年生は来週月曜日は遠足ね。班の人達と仲良くなる良い機会だし、良い一日になると良いわね。」

 お茶をたしなみながら、小早川先輩がそうおっしゃいます。そういえばレクリエーションとしてそんな予定が入っていたのでしたね。

「そんな訳で来週の活動日は火曜日。忘れずに来ること。」

 吉川先輩がそう注意を入れてくださいます。

「普段は月曜日が活動日なのだけれどね、こういうイベントがあったり、お休みの日と重なったりしたときは動くから気を付けてね。」

 と、宍戸先輩が説明してくださいました。

「はい、解りました。」

 私は微笑んでそう答えます。来週は何をするのでしょうね…楽しみです。

「班の人達とって事は、あんたはあの駄犬どもと回るのね。ご愁傷様。」

 この言い方は早島さんですね。そういえばそうなるのですよね…なんだか大変な事になりそうです。

「そんなに品性下劣な人たちなの?」

 宇野さんが早島さんにたずねています。ええと…まあ、問題が無いとは申せませんが…。

「ええ、うちのクラスの中でも一、二を争うくらいうるさくて下劣な連中だわ。」

 あら…そこまでひどい評価をされていたのですか…。さすがに少々可哀想なのですが…。

「あら、そんな人たちと一緒で大丈夫なの? 小山さん。」

 八浜さんが真に受けてしまったみたいです。ええと、ここは少しは擁護してあげるべきですよね。

「ええまあ、悪い人たちではないですから大丈夫ですよ。」

「そうね、品性と知性の無いくだらない駄犬どもよ。」

 早島さん、せっかく持ち上げた端から叩き落さないでください。

「まあ、小山さんも大変なのねぇ…。」

 彦崎さんまで心配そうな顔をしていますよ…。どうして入学3日目にしてここまで評価を下げられているんでしょう、私の友人達は…。


 お茶会はそんな感じで、平和といえば平和な会話が続けられたのでした。

 ひとまず私、部内に溶け込むことはできてきている様子です。それは何よりですね。


調理部に仮入部して、早速お茶会になった皆様です。

基本和やかながら、小山さんは宇野さんに睨まれている様子。大丈夫でしょうか。

そして結構大事な事をさらっとばらされてしまった浮田部長さんです。

一応了解は取っていたという事ですが…これはセーフなのでしょうか。

ちょっと怪しいですよね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 女子は大勢集まるとちょっと怖いときがあると思うのは私だけでしょうか。高校時代のクラブでも女子が多かったのでやり込められることが多々ありました。小山さんも料理部と友人達と大変ですね。私はクラ…
[一言] 駄犬は木島くんだけです! とか言ってみたり(^^)
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