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第83話 ~全校集会に登壇です~

第83話 ~全校集会に登壇です~


 部活動紹介が無事に終わりまして、部の皆様にもお祝いして頂いて、帰宅しまして夕食の席です。

「…絢子あやこ、嬉しいのは解ったんだが、何も飯まで制服で食わなくて良いんじゃないか?」

「…絢姉あやねえ、意外に制服好きだった?」

 と、兄様と美琴みことさんに言われている私です。何となくこちらで過ごせるのが嬉しくて、夕食の準備も夕食もこちらで過ごしてしまっているのですよ。これまでは調理室と裁縫室限定でしたからね。

「ええと、まあ、そんな気がしなくもないですが、まあ初日くらい大目に見てください。」

 そう答える私です。

「んーむ、これが新しく買ってやった制服なら親として喜ぶところなんだがな、貰い物では嬉しさも半減だな。」

 今度はお父様がおっしゃいます。いえいえ、さすがにそこまでお世話をお掛けする訳には。

「その分は手術代にという事で大丈夫ですよ。どのくらいかかるか解りませんから、蓄えておきませんと。」

 そう微笑む私です。実際、保険適用できないとかなりかかりますから、大変なのですよ。

「質素倹約は良い事だけれど…絢子の歳ならお小遣いの増額をうるさいくらい要求して来そうなものなのにねえ。」

 えっと、何故それを兄様を見据えておっしゃるのですか、お母様。

「俺そんなにしつこく言ってないよ、母さん。今はちゃんと自分で稼いでるじゃないか。」

「今は、ね。高校時代に彼女を作りたいから小遣いを増やせと言われた時には、親としてどう指導してやったらいいのかと本気で困ったわよ。」

 そんな事を要求していたのですか、兄様…。それでできる彼女さんというのも嫌ですよ、なんだか。

「いやほら、男として良いところを見せたいって話があるだろう、そこは。」

「親の金でやっておいて、良いところも何もないと思うのだけれどねえ?」

「そもそもそんな金で釣られる女なんてろくなもんじゃないよ、兄さん。」

「そんな事のために小遣いをやっていた訳じゃないからな?」

 お母様と美琴さんとお父様から総ツッコミを受ける兄様です。でも反論しようがないですね、これは。

「…今は悔い改めて自分で稼いだ金でやることにしてるよ。それなら良いだろ、まだ。」

「まあそうね、また後期も単位落としたのが気にかかるけれど。」

 お母様の追撃が緩みません。

「いやあれは…進級に響くもんじゃ無くて保険で受けてた授業だから大丈夫だったって。」

「いずれにしろ落とした事実は変わらないからね、兄さん。」

 美琴さんも追撃に加わりましたよ。何とも言い難いですね、これは。

「まあまあ、兄様、おかわりはいかがですか?」

 ひとまずご飯茶碗が空になっていますから、聞いて差し上げましょう。

「おっ、頼む。なんか制服にフリルのエプロンで飯をよそうって、何かのゲームみたいだな。」

「ああ、兄さんがよくやってる銀色の丸いシールがついてるアレね。」

「何で美琴が知ってるんだよ⁉」

「しかもイヤホン音漏れしてるからね?」

「マジか⁉ 明日買い替えてくる!」

 なんだかよく解らない会話をしていますね、お二人は。まあ、立ち入らない方が良いお話というものもありますでしょう、きっと。

「はい兄様、ご飯と卵納豆ですね。」

「おう、ありがとうな絢子。やっぱこれで締めないとなー。」

 ひとまず美琴さんに追撃を受けた衝撃からは立ち直られたみたいです、兄様。良い事ですね。


「♪~」

 食器の片付けも結局制服のままです。まあ、いつも調理部でやっていますから、手慣れたものですよね。特に制服だからと困ることはありません。

「ああ、そういえばせっかく制服も女子になったのに、写真の一つも撮っていなかったな。明日朝、出かける前に撮るぞ。」

 と、晩酌をされているお父様がおっしゃいます。

「あら、良いわねえ。美琴も制服ね、それなら。」

「えー、そんな朝早くから制服着るの面倒なんだけど。」

 お母様の言葉に美琴さんから不満が出ている様子ですね。

「まさか俺スーツか?」

「兄さんはスーツ着てもいい男に見えないから別に良いんじゃない?」

「少しは変わるって言えよなそこは⁉」

 結局いつものやり取りですね…。まあ良いのですけれども。


 という訳で翌朝、朝ご飯の前に家族みんなで写真撮影です。一日遅れですが、公式女子デビュー記念という事で。全校への紹介は今日ですし、日取りとしては良い気が致しますね。カメラと三脚があるのは楽で良いですね、こういう時には。お父様が割と写真が好きなので、そこそこの道具をそろえていらっしゃるのです。次々買い替えるタイプではなくて、一つよいものを購入して長年使うタイプの方なのです、お父様は。もっとも、最近は画素数の進歩がすさまじいですから、もはや型落ちなのでしょうけれども…。

「うむ、良い写真が撮れたな。」

 と、満足げなお父様です。良い事ですね、それは。

「さ、さっそく朝ご飯に致しますね。」

 結局朝ご飯の用意は制服姿でになるのですよね、パジャマからそのまま制服に着替えてしまいますから。美琴さんは中学校が近くて登校するまで時間があるので、一回部屋着に着替えていますけれどね。兄様はもう大学生で私服ですから、そのままです。

「今日は全校生徒に紹介だったよな。絢子は大丈夫なのか?」

 そう兄様が心配をしてくださいます。昨晩は大変なやりこめられようでしたけれど、良い兄様なのですよ?

「ええ、まあ、もうクラスの皆様には受け入れて頂いていますし、調理部に手芸部の方々もいてくださいますから。そこまでの心配は…。」

 と言いながら、何となくみぞおちのあたりがしくしくと痛んで食の進まない私です。

「絢姉、心配なら心配って言って良いんだよ? 虚勢を張ったって仕方ないでしょ、ここで。」

 あら、美琴さん優しいですね。普段の厳しさが嘘みたいです。

「…ええまあ、心配はしています。さすがに全校生徒全員に受け入れて頂けるわけではありませんでしょうし、罵声の一つや二つ浴びる覚悟はしてゆきませんと…。」

 と、申しますのが本音ではあります。そこまで品の悪い生徒はいないと思いたいですけれど、昨年いじめに遭ったこともありましたから、いないとは申せません。

「…まあ、これでも飲め。顆粒状だからすぐ効くだろう。」

 お父様が渡してくださったのは、漢方系の胃腸薬でした。よくお父様が飲み会の後に帰ってきて飲まれているものですね。

「はい、ありがとうございます。」

 素直に頂くことにしましょう。朝からこんな調子では、元気が出るものも出ませんしね。一日の活動のためには、朝ご飯は大切なのですよ。


 登校しましたら、早々に清水先生が教室にいらして、私は理事長室に行くようにと指示を受けました。そういえば松本まつもとさんの姿も見えませんね。去年の全校集会の前も松本さん、クラスにいませんでしたっけね。理事長室で打ち合わせというところでしょうか。ともあれ、急いで向かいましょう。


「失礼します。」

 扉を三回ノックして、お返事を頂いてから入室します。

「おはようございます、理事長先生。」

「おはようございます、小山さん。今日はあまり気負わずにいてくださいね。…とは申しましても、全校生徒を前にしてはなかなか難しいかもしれませんが…。」

 そうおっしゃってくださる理事長先生。

「はい、でも、大事な事ですから。」

 そう答えるのが精一杯です。うう、喉がすっぱいですね。

「姫ちゃん、そんなに緊張しないでね。手まで震えているじゃない。」

 先に来ていらした絵里奈えりな先輩が、私の手を取って包み込んでくださいます。…あら、本当ですね、触れられて気付きましたが震えていますよ、私…。

「姫は初めてだもんな、まあ緊張するよな。俺も中学の最初の時は滅茶苦茶緊張したから、よく解る。」

 松本さんもそう言って、肩に手を置いてくれました。私はこみあげてくるすっぱいものを飲み下します。

「ありがとうございます、絵里奈先輩、松本さん。」

 ちょっと弱々しいものになりましたけれど、微笑みを返す程度の余裕は出てきました。

 そこに扉を叩く音がして、理事長先生がどうぞと一声。入ってきたのは新入生二人でした。男子制服が一人、女子制服が一人。

「これで我が校に公式に在学している性別違和者の生徒は全員ですね。今日は皆さんが主役になりますけれども、どうかあまり緊張をなさらないでくださいね。基本的なところは私が先にお話をしますから、皆さんは簡単な自己紹介程度で構いませんので。」

 と、優しく理事長先生がおっしゃってくださいます。ありがたいですね…。


 全校集会まで時間がありますので、自己紹介タイムになりました。

「三年一組の野間のま絵里奈えりなです。MtFで治療中です。みんなの中では一番のお姉さんになるのかな。よろしくお願いしますね。」

 ちょっと冗談めかして、絵里奈先輩がそう自己紹介をされます。きっと緊張をほぐそうと気を遣ってくださっているのですよね、そういう方ですから。

「二年一組の松本まつもと浩紀ひろきです。FtMで同じく治療中です。男子として生活を始めて4年目になるかな。よろしくお願いします。」

 きびきびとお辞儀をする松本さんです。この方は何かと切れが良いですよね。でも、そんなところが素敵で、私も好きな方ですよ。

「二年一組の小山絢子です。この春から女子生徒扱いになりましたので、その点では新入生の皆さんと一緒ですね。どうぞよろしくお願いを致します。」

 微笑んでそうごあいさつをして、深々とお辞儀をします。

「一年一組の塩尻しおじりたすくです! FtMです、ホルモン治療は半年くらいでしょうか。プライベートではもう男子ですけれど、学校での男子扱いは初めてです。よろしくお願いします。」

 そうあいさつをしてくれました。私よりも長身な方ですね。

「…一年一組の芦口あしぐち咲良さくらと申します。MtFです。よろしくお願い致します、皆様。」

 体格は私と同じくらいでしょうか。緊張しているのか性格なのか、言葉少なでしたね。

「緊張しているでしょう、お茶くらいお出ししましょうね。」

 理事長先生がおっしゃって、隣室に…そういえば隣室には給湯設備もありましたね。って、生徒が理事長先生にお茶をいれさせるわけには参りませんでしょう⁉

「理事長先生、私がやります! お茶なら調理部員の出番ですから!」

 半ば強引にですが割って入ります。

「あらあら、何だか逆に気遣われてしまったわね。それでは小山さんにお願いしようかしら。生徒にお茶を入れてもらうなんて、文化祭以来ねえ。」

 なんだか理事長先生に微笑まれてしまいました。そういえば理事長先生、去年の文化祭で調理部にもいらっしゃってクッキーをお買い求めくださいましたね…。


 そんな訳で調理部流の紅茶をいれて、理事長先生も含めて皆様にお出しします。もちろん私の分もいれましたけれども。

「調理部でいれる紅茶は美味しいと聞いているわ。確かに、私がいれたものよりも色も香りも良いですね。日頃の努力ですね、小山さん。」

 理事長先生に直々に褒めて頂くとは、何とも面映ゆいのです。

「いえ、まだまだ先輩方にはかないません。精進しなくてはいけません。」

 と微笑み返しました。何となくですが、普段通りの事をやって少し落ち着きました。

「ふふ、姫ちゃんの紅茶は調理部二年生随一ですものね。緊張もほぐしてくれると思いますよ。」

 絵里奈えりな先輩がそう微笑んでくださいます。嬉しい評価ですね。

「えっ、家で飲んでいるのと全然違う…!」

「本当ですね、ストレートでもすんなり飲める…!」

 芦口さんと塩尻さんが、一口飲んでそう感想をくれました。ふふ、調理部の力を解って頂けたでしょうか。微笑んで謝意を表す私です。

「普段紅茶って柄じゃないんだが、これは飲めるなあ。うん、美味いと思う、姫。」

 今度は松本さん。松本さんにも微笑む私です。

「あの、ところで理事長先生の御前でまで『姫』はやめません? 芦口さんと塩尻さんの手前もありますし。」

 さすがに恥ずかしくって、そうお願いしてみる私ですが…。

「あら、気にしなくて良いのですよ。去年罰当番に来てくれた時にもずっとそうだったではありませんか。」

 と、理事長先生に笑われてしまいました。ええと、まあ、そうですね、今さらでしたね…。

「いまさら直せと言われても難しいかな。姫ちゃんは姫ちゃんだもの。」

 絵里奈先輩にも笑われてしまいました。うーん、そうですか…。

「悪いが俺も今更変えられる気がしない…。」

 松本さんもですか…。クラスでもすっかり定着していますものね、まあ仕方ないですよね。

「あだ名なんですか?」

 と塩尻さんに聞かれます。少しは緊張、ほぐれたのでしょうか。

「ええ、友人達に勝手に着けられてしまいましたら、何だかすっかり定着してしまいまして。」

 ちょっと困った微笑みを浮かべる私です。自称ではないのですよ、自称では。

「紅茶をたしなまれるお姫様なのですね、先輩は。」

 なんだかそう言われると、とっても恥ずかしいのですけれど、芦口さん…。

「ええまあ…。でもどちらかと言いますと、紅茶をいれるのはメイドさんのお仕事だと思いますけれどね。」

 なんか下手な冗談を言ったような気がしますけれども、私には姫よりメイドさんの方が似合っていると思います、はい。菜々子(ななこ)女王のメイドさん辺りでどうでしょうか。などと考えてしまう辺り、私も緊張でちょっとおかしくなっていますでしょうか。

「姫ちゃん、冗談下手。」

 絵里奈先輩に笑われてしまいました。うう、よく言われるのですよそれ。センスがないのでしょうね。

「まあ、姫はそういうタイプじゃないですから、絵里奈先輩。」

 松本さんもそう言いながら、可笑しそうにしていますよ。

「でも素敵ですね、女子らしくて。私もせっかく女子として通学できるようになったのですし、何かできるようになりたいです。」

 そう芦口さんが話してくれます。

「ふふ、調理部にいらっしゃるならば大歓迎ですよ。」

「あら、手芸部でももちろん喜んでお迎えいたしますよ。」

 私がそう申しましたら、なんだか絵里奈先輩ものってこられました。変なところで部員争奪戦になってしまいましたね。

「ええっと…明日までの検討課題にさせていただきますね。」

 との事でした。まあ、あまり困らせるものではありませんよね。

「調理部と手芸部は交流が深いですから、何かと一緒になる機会も多いですけれどね。いつもお茶会に招待して頂いていますし、私も紅茶のいれ方を習っているのですよ。」

 と、絵里奈先輩が紹介してくださいました。時折いらしては、天野あまの先輩に教わっていらっしゃいましたね、そういえば。

「さて、それではそろそろ参りましょうか。お手洗いは大丈夫ですか、皆さん。」

 理事長先生がそうおっしゃいます。念のため済ませておきましょうね。


 ステージ上にパイプ椅子が6つ。離れた位置に理事長先生用の1つが用意されていて、反対側に私達が座る5つが用意されていました。学年順に座って行く私達。

 程なく、生徒たちが入ってきます。…昨日の部活動紹介の時も思いましたけれども、ステージ上って目立ちますし、体育館の隅まで見通せるのですよね。全校生徒1000人以上の目が集まる訳でして…ううう、やっぱり緊張しますよ。

 特になんだか私に視線が集中しているような気が致します…。無理もないでしょうか、新入生で知らない生徒が壇上に上がっているならともかく、二年生で去年紹介されていなかった生徒が壇上にいるのですから、嫌でも目立ちますよね。二年生、三年生の皆様からの目線が刺さります。うう、怖い。でもここで怯むわけにはいかないのですよね…。これは必要な通過儀礼なのです。しっかり皆様に覚えて頂かなくては。何かと配慮もして頂くことになるのですから。と思いながら、また喉にはすっぱいものがこみ上げてきます。不快に感じて飲み下す私です。


 二年生の集まっている辺りを見ますと、一組の列を見つけました。

「姫~!」

「松本~!」

「しっかりなー!」

「あがってとちるんじゃないぞー!」

 そんな声が聞こえてきます。皆様、知っていて応援してくださっているのですね…。思わず松本さんの方を見ますと、松本さんも私を見て微笑んでくれました。

「まったく、良い連中だよな。俺達は人気役者か何かか?」

 と、やや苦笑交じりでしたけれどもね。

「ふふ、でもありがたいですね。」

 そう微笑み返して、一組の皆様に微笑みを返します。見えているかどうか、解りませんけれど。

 目を転じれば、三組では波奈はなさんが、五組では沙樹子さきこさんが、七組では有紀ゆきさんが私を見て、笑顔でいてくれます。小早川こばやかわ部長や吉川きっかわ副部長、宍戸ししど先輩に天野あまの先輩のお姿も見えました。皆様、私と目線が合うと軽く手を振ってくださって、応援してくれているのが解ります。…嬉しいですね。肩が少し軽くなった気がします。


 全校集会が始まり、最初は理事長先生からのお話です。この学校では性別違和の生徒を公式に受け入れている事の紹介から始まり、性別違和全般にわたる話から、性的少数者に関するお話も交えて、アウティングの危険性などをお話するのは昨年通りです。理事長先生もこれだけお話できる様に勉強をされるのは大変だったのではないでしょうか…。チャットグループでお話をした、初代の天本あまもと先輩と加藤かとう先輩を始め、諸先輩方の蓄積された経験というものがあってのものなのかもしれない、とも思いますけれども。でもその蓄積を生かすも殺すも理事長先生次第ですから、やはり理事長先生は並々ならぬ努力をされてきたのだと私は思います。


 そんな事を感じているうちに理事長先生のお話は終わりまして、私達の自己紹介の番になります。最初は絵里奈先輩から。続いて松本さん。お二人とも堂々としたものです。

 私の番です。立ち上がらねば…うっ、膝に力が…入りません。視界が歪んでしまって、呼吸が苦しいです…。

「姫ー!」

 聞きなれた声が聞こえてきます。あれは工藤くどうさんの声…。

「がんばれー!」

「負けちゃだめだよー!」

「少しの辛抱だ!」

 木島きじまさん、毛野けのさん、柿沼かきぬまさんも…。そうですね、ここで負ける訳にはいかないのです。

「がんばりなさい、姫!」

 菜々子さんの声も聞こえてきました。

 動け、私。意を決して立ち上がります。

「しっかりな、姫。」

「大丈夫ですよ、姫ちゃん。」

 松本さんと、絵里奈先輩からも声をかけて頂きました。私は一つうなずいて、演壇に向かいます。

 お話を始める前に、一礼。

「二年一組で調理部の小山絢子と申します。昨年までは小山実の名前で男子として生活しておりましたけれども、治療が進みましたので、女子としての生活を始める事になりました。皆様、どうぞよろしくお願い致します。」

 よし、噛まずに、はっきりと言えました。深々とお辞儀をして、震える膝を誤魔化しながら席に戻ります。

 芦口さんと塩尻さんも、緊張した様子でしたけれど、簡単にあいさつをして戻ってきました。二人とも緊張で顔が青いですね…。仕方ないですよね、そこは。

 理事長先生が壇上に戻られて、締めくくりの言葉を述べられて、全校集会は終わりになりました。


 クラスに戻った私と松本さんを、クラスの皆様が迎えてくださいました。

「お疲れ、二人とも!」

「緊張したでしょ、特に姫ちゃん。」

「後は俺達に任せろよな、ガタガタ言わせたりはしねえからな!」

「もうみんなに話しても良いんだよね、友達みんなにきちんと話すからね!」

 そのような事を皆様おっしゃってくださいます。

「ありがとうございます、皆様。お陰で何とか無事に終えられました…。」

 ほっと一息、という感じで、微笑んでそう答える私です。

「お疲れさま、姫。…がんばったわね。」

 菜々子さんがそう言って、私を優しく抱きしめてくださいます。

「…はい、皆様のおかげで、何とか無事に。」

 そう答える私です。

「よしよし、よくやったな、姫。」

 工藤さんも頭をわしわしと撫でてくれます。

「お疲れさん、がんばったな。」

 木島さんが肩を叩いてくれました。

「精一杯がんばったね、姫なりに。」

 と、毛野さんが背中をさすってくれます。

「うむ、よくがんばった。」

 と、柿沼さんも背中をぽんぽんとしてくれます。

 私は菜々子さんの腕の中で、大きく安堵のため息をついたのでした。


 その後行われたロングホームルームでは、去年同様に性的少数者全般にわたる細かなお話を清水しみず先生からうかがいました。具体的に行われる配慮の内容も改めてここでお話があって、皆様に積極的に協力してくれるようにと促されていました。


 やれやれ、何とか無事に役目を終えられて一安心です…。結局、皆様に支えられて何とか、でしたね。このくらいでへこたれていては今後どうなるのかと思わない訳ではありませんが、ひとまず今日のところは、皆様に感謝を致しましょう。

 いつも本当に、ありがとうございます。


二年生になり、初めて全校集会での紹介になる姫。

ちょっと緊張しすぎじゃないかというくらい緊張しています。

でも、性格的に仕方がないでしょうか。

皆さん集会中に私語を発して良いのかというツッコミは置いておきましょうね。


そして序盤、兄様がなんだか物凄く情けない事になっています。

美琴さんに普段けちょんけちょんにされる訳が解ったような、そうでもないような。


※銀色の丸いシールがついてるアレ

一般社団法人コンピュータソフトウェア倫理機構の審査を通過した18歳未満者への販売禁止ソフト作品には直径25mmの銀色の円形のシールで、中央に大きく「(18)」とプリントされ「18歳未満お断り」と添えられています。

つまりは兄様、18禁PCゲームをやっているところを中学生の妹に見つかっていた上に音漏れしていて音声まで聞かれたというお話です。

せめて濡れ場じゃなかった事を願いたいですね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 姫は、今日をもって実から絢子になりました。でも、みんなは姫ちゃんなんでしょうね! 挨拶もサードシーズンと同じでした。実はサードシーズンを読んだとき二年生から性別を変えるのは大変だったと秋山…
[一言] 銀色の丸いシール 鷹羽がやっていた頃は、しゃべる作品は少なかったなぁ<遠い目
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