第78話 ~先輩方をお送りするのです~
第78話 ~先輩方をお送りするのです~
早いもので、もう明日は卒業式になりました。とは申しましてもまあ、変わりなく授業はあるのですけれどもね。
ひとまずいつも通りに朝ご飯を作って、家族みんなで朝ご飯を食べて、片付けをして登校です。少しずつ暖かくなってきているとは申しましても、まだ寒いですね…。こたつさんはいつまで出していましょうか、迷うところです。…それにしても、明日は卒業式ですか。私も無事に卒業までを過ごせるのでしょうか。まもなく大きな節目を迎える身としましては、そんな事を考えてしまうのです…。その為に、私にできることは何でしょうね。
さて駐輪場に到着です。寒いですから早々に昇降口に向かいましょう。
「おお姫、おはよう。今朝もまだ寒いな、凍えてはおらんか。」
下駄箱で工藤さんと一緒になりました。相変わらず私は寒がりだという前提のようです。いえ、その通りなのですけれどもね。
「おはようございます工藤さん、ええ、大丈夫ですよ。ちょっと食堂に立ち寄ってホットの飲み物を買って行こうかとは思っていましたけれど。」
笑顔を返して、そうあいさつをします。やはり体の中から温めるというのは良いと思うのですよ。
「ふむ、またいちごミルクか。適度な量のホットコーヒーの摂取もお勧めだぞ。カフェインには血行促進作用と興奮作用があるからな、身体を温めてくれると言われている。」
やはり工藤さん、こういう時にもコーヒー推しなのですね。つい微笑んでしまう私です。
「ええ、でも好きなものですから。工藤さんのいれてくださったコーヒーでしたら、喜んで頂戴するのですけれどもね。」
「さすがに学校ではいれてやれんからなあ。また調理室をお借りできれば別だが、そんな機会は滅多にないだろうしなあ。」
と、少々思案顔の工藤さんです。工藤さんのいれてくださるコーヒーは美味しいのですよ。あまり私はコーヒーに詳しい訳ではありませんが、素直に美味しいと思えます。
「何を朝からお話しているんだい二人とも、工藤君も姫に何を言わせているのさ。ちょっとずるいと思うな。」
あら、毛野さんです。…私、何かそんなに変な事言いましたか?
「ん、ああ、別にそういう意図はないぞ。旨い物を馳走したいと思う心は持っていてもおかしくは無いだろう、特に味が解ってもらえるとなればなおさらだ。」
と、工藤さん。それは確かにありますよね、がんばって作ったものを喜んで召し上がっていただけると嬉しい、というのと同じことですよね。
とりあえず食堂に歩く私達です。なんだか自然とお二人とも一緒です。
「あら? 柿沼さん、どうされたのです、朝から食堂にいらして。」
食堂の椅子に座っている柿沼さんを見つけたのです。何か召し上がっているご様子。
「おや、おはよう皆。何、授業に備えて糖分の補給をしているだけだ、購買は朝から開いているからな。」
どうやら栗まんじゅうを楽しんでいた様子です。
「姫はまたいちごミルクかね。」
と反問されました。もう見抜かれていますね。まあこのところ毎朝買って行っていますから、当たり前ですよね。
「ええ、寒い日の朝はあれが恋しくなりまして。」
早速購入して、そっと頬に缶を当てる私です。
「はぁ…温かいです…。」
…ん、目を閉じて温まっていたらなんだか頬に触感が。
「いけないね姫、すっかり冷え切っているじゃないか、僕が暖めてあげるよ。」
「…毛野さん⁉」
目を開いたら毛野さんが間近で私の両頬を手で包み込んでいますよ⁉
「毛野、そういう行動が女子の誤解を招くとあれほど言っているではないか…。」
「一部では謎の人気があるようだがな、毛野君と姫の組み合わせに。」
謎の人気って何ですか柿沼さん。えっと、とりあえずとても恥ずかしいのですがこれどうしたものでしょうね。
「あ、あの、毛野さん、もう充分暖まりましたから大丈夫です、ありがとうございます。」
「そうかい? まだ冷たいような気がするのだけれどね。遠慮など無用だよ、僕達の間に。」
ですから毛野さん、そういう事をですね…もう良いです、何か言うだけ無駄のような気がしてきました。
ひとまず人のいない食堂で助かったという事にしておきましょう。
とりあえず朝から恥ずかしい真似をされた訳ですが、無事教室到着です。
「おう、おはよう。なんか珍しいな、揃ってやってくるたぁ。」
もう教室に木島さんが来ていました。えっと、何があったかまで説明することは無いですよね。恥ずかしい記憶は封印してしまいましょう。
「姫が寒さに凍えていたからね、少し暖めてあげたのさ。」
…私が黙っていても、毛野さんが言ってしまったら意味がないではありませんか。
「姫、とりあえず生徒会に訴え出るなら着いて行くからな?」
「木島君、僕はごく紳士的な事をしただけだよ?」
あれがですか…? 毛野さんの中の紳士の定義がよく解らないのですけれど。
「木島もだが毛野も少し我が身の行動を省みた方が良いと思うぞ。」
「同感だな。」
と、工藤さんと柿沼さん。えっと、まあ、否定できませんね、これは。
「それはそうと明日は卒業式だなー。あーあ、俺の大好きな先輩が学校からいなくなっちまうんだぜ。」
「木島君、『大好きな先輩』は何人いるのかな?」
笑顔で毛野さんがツッコみますが…そこ、つつくと面倒な事になりそうな気がするのですが。
「64人だな。」
「多いというべきか少ないというべきか悩む人数だな。」
片手で頭を抱える工藤さん。学年の女子は150人程度はいますから、存外選び抜かれてはいる…のでしょうか、本当に。何か騙されていませんでしょうか、これ。
「で、何人玉砕済みなんだい?」
ですからそこを聞きますか、毛野さん。
「僅か52人だ。12人はもう間に合わねぇ。」
「…木島君、意外と年上好みだったんだね? ところで僅かって言葉の使い方が間違っていないかな。」
そういえばこれまでの玉砕数が95回ですから、半数が三年生の先輩方という事に…。言われてみれば確かにそうなるのかもしれませんね。
「いや別にそんな事は無いんだが…そういえば多かったな。」
何でしょうねえこの会話。ひどい会話を朝からしている気がするのですが。少々切り替えましょう。
「私もお世話になった大好きな先輩が卒業されてしまいますから、寂しいですよ。調理部の先輩方には本当に良くして頂きましたから…。」
そう微笑みながら、浮田先輩、赤松先輩、山名先輩、尼子先輩のお顔を思い出す私です。この間チョコレートをお渡ししにうかがった時には皆様お変わりないご様子でしたが、お風邪など召されてはいらっしゃいませんでしょうか。
「文化部は前期一杯一緒だものねえ。僕らはインターハイまでだったから、そこまで三年生の先輩と直接の交流は無かったかなあ…。」
と、毛野さん。そうですよねえ…。大会の時期が違う部はそれより長い事もありますけれども…。
「個人的に仲の良くなった先輩は居るがな。お隣の大学に進学を決めたそうだから、遊びに来いと言われている。」
今度は工藤さん。この前お話に出た先輩の方は系列の大学に進学を決めたのですか。何よりですね。
「姫は調理部に特別想い入れがある様子だからな。惜別の念も格別だろう。」
そううなずいてくれる柿沼さん。ええ、その通りだと思います。
さて放課後になりまして、調理部は今日は活動日ではないのですが、臨時活動日という事で招集がかかりました。さすがに鈍い私でも何をするかの察しは付いています。卒業式の後に部をたずねていらっしゃる先輩方へのはなむけの準備。それ以外は考えられません。
「何を作るのかしらね。」
「うーん、何でしょうね。お祝いのお品だというところまでは想像がつくのですが。」
と、お話しながら調理室に向かう早島さんと私。
「とりあえず愚者を永久追放処分にすれば先輩方も安心して卒業できると思うのだけれど。」
「いえあの、それ他の部に不安要素を転移させるだけで、根治になっていませんからね?」
なんだか私もひどい言い様をしている気がするのですが、そんな気がするのです。
「あの愚者が根治などすると思う?」
「…最後まで諦めてはいけないと思います。」
さっき叩き落しておいて今更拾い上げても何にもならない気はするのですけどね、自分で言っていて。最近さすがに私も意外と自分、手ひどい批評をすることがあることは自覚してきました。早島さんや美琴さんの影響でしょうか。いえ、人のせいにしてはいけませんよね。
「昼にチャットで『卒業式でラストチャンスがあるかもしれないわ!』などとまた妄言を吐いていたわよ?」
「…どうやって大人しく見送って頂きましょうね、それは。」
普段どういうやり取りをしているのですか、早島さんと宇野さんは。
「フルニトラゼパムでも飲ませましょうか。寝ている間にすべてが終わるわよ。」
「綺麗な青い飲み物が出来上がりますね…ではなくて、それも傷害罪になってしまいますよ?」
「自己服薬ができない患者には日頃飲むものに混入して飲ませるのも有効だと医師も言っているのよ?」
「いえ、宇野さんに処方出ていませんでしょう。それはいくらなんでも論理が通りませんよ。駄目ですよ薬物の悪用は。」
「悪行を防ぐための使用は悪用ではないと思うのだけれど。」
「処方外で使っている時点で悪用ですからね?」
まったくもう、結局早島さんの言動も改まらないのですから。宇野さんの事ばかり言えないのではないかと私は思うのですけれどね。
調理室に到着です。
「お疲れさまです。」
「お疲れさま、二人とも。」
なぜかお玉を手にしていらっしゃる小早川部長。宇野さんが頭を抑えているという事は…何となく察しました。
「…何回目ですか?」
「私が覚えているだけで15回目くらいかな。」
はぁ、と大きく溜息をつく小早川部長。まあそうですよねえ…。数えるのももう面倒ですよね。
「愛を頂くのはこれで17回目です部長!」
「また今日も妄言を吐いているわねこの愚者は。それで部長、明日はどうやってこの愚者を抑え込むのですか?」
そうたずねる早島さんです。ええっと、穏当な手段があるならば私もぜひ知りたいです。
「私が聞きたいのだけれど、引退の時はどうやって行動を抑え込んだの?」
あら、反問されました。う、何か宇野さんが笑顔でこちらを見ているのですけれど。
「変な事をしたら友人たちに行状を知らせて更生の手助けをしてもらうと言ったのです、姫が。」
「あら、姫ちゃんなかなか良い手を思いつくね。それなら調理部は特に痛手も被らないし。今回もそうしようかな。」
早島さんの説明に、妙に納得した様子の小早川部長です。
「後生です部長、そんな事をされたら私が学校内で終わってしまうではありませんか、お止めくださいどうか。」
…あの、そういう事をしているという自覚があるのでしたら改めましょうよ、宇野さん。自覚がある上に女性であるという立場を利用して行っている辺り、悪質ですよ。
「では明日は大人しくしている事。今度友人たちの連絡先を聞いておこうかしらね。」
「ホットライン開設とか止めてください部長⁉ もう、姫ちゃんのせいで私がひどい目に遭っているじゃない!」
「姫のせいではないわよ、愚者の行いが悪いのだわ。友人たちに明らかにされてはまずいような後ろめたい事をしているのだから。」
尤も至極ですね早島さん。何も言うことがありません、それに関しては。まあとりあえず、着替えてきましょうか、いつも通り。
という事で、明日の準備です。お祝い事定番のいちごショートケーキを作るという事でした。
「一年生、入学当初とは違うというところを先輩方にお見せしなさい。」
と、吉川副部長から檄が飛びます。そうですね、もう1年近く一緒にがんばってきたのです、入学当時に作ったものからどれほど上達したかを見て頂かなくては。誠心誠意真心を込めて作りましょう。
「そう言っている私達も、成長したところを見せないとね。」
と、天野先輩が微笑んでいらっしゃいます。
「そうだね、先輩方にはお世話になったから。」
宍戸先輩もそう答えていらっしゃいます。そうですよね、一緒に活動した期間という意味では、二年生の皆様の方が長いのですものね…。
「受けたご恩の深さは私も同様ですから、しっかりやりませんとね。」
そう微笑む私です。
「ふふ、姫ちゃんは可愛がられていたものねぇ。」
「そうだね、大事にされていたよねっ。私達もお世話になったけどね。」
と、彦崎さんと八浜さん。
「私も大層かわいがっていただいたわ!」
「愚者はただ単に迷惑をかけていただけでしょう、特に浮田先輩に。」
何か対抗してきた宇野さんをばっさり切り捨てる早島さん。えっと、まあ、お二人の事も心配されていましたよ、先輩方は。私に対するものとはまた違う方向性で。
無事ケーキは出来上がりました。出来栄えを以前作ったものの写真と見比べてみます。
「…見栄えはだいぶ良くなったわね。」
と、宇野さん。味も良くなっていると思いたいですが、そこは明日食べてみないと解りません。まだ何とも言えないところです。もっとも、これは先輩方にお出しするものであって、私達が食べるものではないのですが。
「以前よりはうまくできたかしらねぇ。」
そう微笑む彦崎さん。最初に作った時は彦崎さん、洋菓子作りの経験がほとんどありませんでしたものね。
「そうだね、出来栄えは良くなったんじゃないかなっ? 先輩方にはまだまだ及ばないけどねっ。」
八浜さんが笑います。確かに、二年生の皆様が作られたケーキのほうが、装飾も豪華ですし全体的に綺麗です。年季の差でしょうか。
「後は明日、先輩方に召し上がって頂いてどうか、ね。安心して卒業して頂ければ嬉しいのだけれど。」
早島さんも先輩方に想い入れはお持ちなのですよね…。あまり表には出されませんが、言葉の端々や雰囲気からそれとなく感じられます。
さあ、後は明日ですね。
卒業式を迎えます。在校生も参列です。それほど長い儀式にはならないという事でしたが…。
久々の校歌斉唱。うん、以前より少し高い声が出しやすくなった気が致しますね。これも治療の効果でしょうか。多少は声も変わるとは聞いていますが、個人差も大きくて一概には言えないそうですね。結構声の壁で悩む方も多いと聞いていますから、私はそういう意味では恵まれているのかもしれません。まだ男子として過ごしている今は、目立って仕方がありませんけれどもね。
式の最中、卒業証書授与の際に先輩方のお姿を遠めですが見ることができました。浮田先輩も赤松先輩も山名先輩も尼子先輩も、素敵な袴姿でした。楚々として、凛々しいですね。ちょっと憧れてしまいます。
式そのものはつつがなく終わり、私達は先に調理室に行って三年生の先輩方のご来訪をお待ちします。もちろん、冷やしておいたケーキも準備して、紅茶をいれる準備も整えて。私はついでに着替えも済ませて。
「お疲れさま。」
扉が開いて、往時と変わらぬ調子で浮田先輩がそうおっしゃいます。皆様とご卒業おめでとうございます、とお祝いします。
続けていらっしゃった赤松先輩、山名先輩、尼子先輩も同様にお祝いを。
「みんなにはお世話になったわね、引退後も調理室を使わせてもらって。お陰で無事に合格できたわ。ありがとうね。」
と、浮田先輩がおっしゃいます。志望されていた製菓の専門学校、合格されたのですね。
「私も無事合格したわよ~。」
今度は赤松先輩。赤松先輩は市内の女子大だそうです。
「私も無事、進学が決まりました。」
山名先輩もそうおっしゃいます。山名先輩も市内の女子大とのことでした。
「幸い私も合格できたわ。」
笑顔で尼子先輩もおっしゃいます。尼子先輩も市内の女子大とのことです。皆様仙台市内に残られるのですね。なんだかちょっと嬉しいです。先輩方からの嬉しいお知らせに、皆様でお祝いを申し上げます。
「お祝いのケーキを作りましたので、どうぞお召し上がりください。」
と、小早川部長。もう既にケーキは4つずつに切り分けられていて、すっかり準備が整っています。紅茶はこれからですけれどもね。
紅茶をいれるまでの間、久しぶりに三年生の先輩方とお話になります。もっとも私は紅茶をいれる作業を担当していますので、お話に混ざれないのですが…。
「少しは宇野さんましになったかしら?」
「浮田先輩が引退されてからますます増長しておりますよ。最後にまたお玉をくれてやってください。」
そんな心温まる会話が聞こえてきます。浮田先輩と早島さんですね。宇野さんが何か抗議している様子ですが、まあ信じてはもらえないでしょう。
「お玉はもう小早川部長に任せたわよ。まったく、あんまり手を焼かせるのではないわよ?」
そう苦笑していらっしゃいますよ、浮田先輩。…蒸らし時間も良い頃合いですね、これでお出し出来ます。
「紅茶が入りました、皆様どうぞ、ご賞味ください。」
実はここで先輩方にお出しする紅茶をいれる役割を担うのは、ちょっとした栄誉だったりします。その学年で一番上手な人がいれる事になっているのだそうで、一年生組で指名されたのは私でしたから。嬉しい評価なのです。
「ありがとうね、姫ちゃん。…うん、色も香りも申し分ないわね。」
「そうね~、良い出来だと思うわ~。」
と、浮田先輩と赤松先輩からお褒めの言葉を頂きました。山名先輩も尼子先輩も、微笑んで静かにうなずいてくださいます。
「ありがとうございます、皆様。」
素直に頭を下げます私です。
「ケーキも上達していますね…。もうあれから一年近く経つのですものね…。」
山名先輩が、懐かしそうにそうおっしゃいます。きっと、私達が入部した当初、不慣れながらもみんなでがんばって作った時のことを思い出されているのでしょうね。
「うん、これなら安心して卒業できるかな。よくがんばったね、みんな。」
そう笑顔でおっしゃってくださる尼子先輩。嬉しいですね。
「姫ちゃんの事をお世話しきれないで卒業してしまうのが、ちょっと心残りね…。」
そう寂しそうに微笑んでくださる浮田先輩。
「そうね~、一番大変なのはこれからなのに、私達はもう遠くから見守るだけだものね~。」
赤松先輩も頬に手を当てて、いつもの微笑みを浮かべてくださいます。
「でも、姫ちゃんなら大丈夫ですよ。私は信じていますからね。」
そうおっしゃってくださる山名先輩。
「そうだね、見た目も中身ももう女子だと思うよ。きっと大丈夫。」
と、尼子先輩も笑顔でおっしゃってくださいました。
「はい、ありがとうございます、皆様。大変な事もあるかと思いますけれど、がんばって向き合って行きたいと思います。」
そう微笑んで、改めてお世話になりましたと深々とお辞儀をする私です。
続いて今度は二年生の先輩方の番になります。紅茶を担当されるのは天野先輩。ひとしきり、談笑に花が咲きます。想い出話、心配な後輩の話、そんなところが主なようで…今年の一年生は心配な子が多いから、という浮田先輩のお言葉が聞こえて参ります。えっと、まあ私もその一人ですよね。さすがにそれは自覚しています。
席に座って、そんなご様子を眺めている私です。懐かしい日々が思い出されますね、前期に浮田先輩を始め先輩方に見守って頂きながら活動をしていたことを思い出します。一番強く思い出しますのは、何故か浮田先輩がとてもとても仙台風冷やし中華を激推ししていた事ですけれども…。あの時はちょっと気圧されてしまいましたけれども、そのくらいの情熱がなくてはいけないという事なのかもしれませんね。今となっては懐かしいです。あれは家で再現してみて、家族に驚かれたのでしたっけ。さすがにお父様もお母様も知らなかったそうで…。どうして浮田先輩はその頃のレシピをどこから見つけて来られたのでしょうね。今でも不思議です。
文化祭の時に、皆様で力を合わせてクッキーを売り切ろうとがんばったのも懐かしいですね。あの時はいつもの皆さんにもお世話になりましたっけ。結局最後の最後までがんばったのですけれども、10個ばかり売れ残ってしまって…浮田先輩が大層落ち込んでいらしたのを覚えています。私は喫茶を任されて常駐でしたけれども、皆様は移動販売に出ていて大変そうでしたね。
ひとしきり、お話が終わったところで、先輩方を囲んで皆様で集合写真を撮ります。後程データを調理部全体のチャットグループに配信する、という事でした。
やがて時間も過ぎ、先輩方をお見送りする事になります。引退の時と同様、全員から手作りのお菓子が先輩方に贈られました。私はマドレーヌに、紅茶の缶を添えてお贈りしました。小早川部長は手際よく、贈り物を入れる白い紙袋も用意されていました。
お見送りが済んで、しばしの静寂が調理室をつつみます。あれだけお世話になりました先輩方も卒業されて、来月からは新しい生活を始められるのですね…。
お別れの時まで私の事を案じてくださった、心優しい先輩方でした。私はご縁に恵まれたと思います。
想い出を大切に、進んで行きたいですね。
三年生の先輩方が卒業です。
部を引退してからはそれほど接する機会は多くありませんでしたが、姫はお世話になったと感謝している様子です。
浮田先輩はじめ三年生の先輩方はやっぱり姫ちゃんのことは心配な様子です。良い先輩方ですね。
同時に宇野さんの事も心配していますが…。
そして序盤、毛野さんがついにやらかしました。
いやこれはアウトでしょう、他の女子に見つからなくて良かったですね。
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怪しいところで怪しい人に青色の液体を出されても決して飲んではいけません。