表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/262

第4話 ~皆さんと仲良くなってきたのです~

第4話 ~皆さんと仲良くなってきたのです~


 全校集会が終わって、短い休み時間。

「おい野郎ども、連れション行こうぜ。集会長かったしよ。」

 と木島きじまさん。ええと、私とても行きづらいのですけれど。

「ふむ、俺も行っておくかな。仕方ない、付き合うとしよう。」

 工藤くどうさんもそう言って席を立ちます。

「付き合いというのは大事なものだ。」

 と立ち上がる柿沼かきぬまさん。

「僕も行っておこうかな。ロングホームルーム中に抜ける訳にもいかなそうだし。」

 毛野さんも行く様子です。そうなると私だけ残るのも何でしょうか…ええと、でもどうしたものでしょうね、これは…。

「よし行こうぜ、小山。」

 木島さんに腕を掴まれて、何だか私まで連行されてしまいました。あああ…どうしたものでしょうかこれ。


 皆さん小便器に並ぶ一方で、そっと個室に入る私。

「あれ、何だ小山、大か?」

 木島さんの声です。いえその…私、立って小便器で用を足すのが嫌いなのです、男子らしくて。でもそう答えるのも何ですし、これはどうしたものでしょうか。

「いちいち聞くな、察してやれ。」

 工藤さんの声ですね。助けられました。大体皆さんが用を足しているところなど見たら、私赤面して変な顔をされてしまうに決まっています。知り合って早々にそんな事はしたくないのです。

 ひとまず用を済ませて個室から出て、手を洗ってハンカチで拭く私。

「ふむ、小山君は丁寧なのだな。」

 と柿沼さん。え、皆さん洗わないのですか。ああ、よく見たら手が濡れたままですね…そうですか、ハンカチで拭くまではしないという事でしょうか。

「ええまあ、性格でして。」

 私はそう曖昧に誤魔化します。何だかこういう返し方ばっかりうまくなってゆきそうですね。あまり良い事では無さそうな気が致します。

 お手洗いからの帰り、木島さんがきょろきょろとしています。

「何を見ているのだ、木島。」

「いやかわいい娘いないかなと思って…。」

 工藤さんに聞かれて、木島さんはそう答えています。

「入学早々物色するな! お前はそんなに餓えているのか!」

 ずびし! と工藤さんの手刀が木島さんの頭部に入ります。なんだかだんだん遠慮が無くなっているように見えます。仲が良くなってきた証拠でしょうか。

「なに言ってやがる! 高校生男子と言えば彼女の一人や二人や三人作って青春するのが当たり前だろうが!」

「一人はともかく二人や三人は人として駄目だろう! いずれにしろみっともないから止めろ!」

 木島さんと工藤さんがそう言い合いを始めます。別段喧嘩している訳ではない様子ですが…ええっと、微笑んで見守れば良いのでしょうか、これは。

「ふむ、その意見には僕も賛成だ。」

 柿沼さん、その意見とはどこを指して言っているのでしょうか。どちらに与しているのだかさっぱり解りませんよ。

「まあまあ二人とも、廊下の真ん中でそんな言い合いをしていたら寄ってくる人もいなくなっちゃうって…。ほどほどにしておいた方が良いよ。」

 毛野さんがそう場を収めにかかります。やれやれ、これで何とかなるでしょうか。

「なんだ、毛野は草食系男子って奴か?」

 木島さんがそう毛野さんに言っています。確かに大人しい印象はありますけれども。

「いや、人並みに彼女さんは欲しいとは思うけれど、そう思うなら普段の行動からきちんとしておかないといけないって思うだけだよ。」

「ほら見ろ、お前みたいに最初からがっついていたら来るものも来ないだろうが。」

 毛野さんの答えに工藤さんが早速追撃をかけます。木島さんはうぐっと詰まった顔をして、

「いやしかし、こういう事は行動あるのみだろう! 恋愛は一押し二押し三に押しって言うじゃないか!」

 と苦し紛れに答えています。工藤さんは頭に片手を置いて、

「よく解った、木島、お前は残念な奴なんだな。」

 と言っています。ばっさり切り捨てましたね。

「何だと! 中学校時代学年の女子全員に声を掛けたこの俺に対して何という事を!」

 …なんだか戦績は予想が着く気がするのですが、木島さん。

「で、どうせ全部撃沈したんだろう。違うか?」

 工藤さんがそう決めつけます…が、私も同じことを考えていました。

「うぐっ、何で解るんだ…? やめろ! そんな目で見るな! 俺の心の傷をえぐるな!」

 何だかだんだん木島さんが可哀想になってきました。年頃の男子とはいえ、ここまで餓えた人も珍しいですよね。行動力だけは称賛に値するとは思いますが…明らかにマイナスに作用していますよね、それは。

「どうせ尻軽男だの節操なしだのさんざん言われていたんだろうが。手に取るように解るぞ?」

 工藤さんは追撃の手を緩めません。これはそろそろ止めてあげた方が良いのでしょうか。

「何でわかるんだ⁉ 女子全員から蔑まれた眼で見られて口もきいてもらえなかったさ!」

 そこまで行ったのですか…いえまあ、無理もないでしょうか。そんな女子なら誰でも良いような告白をされても願い下げですよね…。私もメンタルが女子の人間として、やっぱりお断りすると思います、それは。

「また高校でも同じことをするつもりかお前は! 少しは学べ、この学習能力ゼロ男が!」

 工藤さん、知り合ったばかりの人に対して容赦がないですね。特段口が悪い方という訳ではないご様子ですけれど、木島さんに対してのツッコミは厳しいようです。

「うるせえ! 俺は俺の道を行くんだ! 邪魔をするな!」

 木島さん、やっぱりそれは駄目だと思いますよ。高校でも同じような評判を立てられて終わるだけだと思います。

「友人としてさすがに最初から失敗が見えている道をお勧めはできないかなあ…。」

 今度は毛野さんが、やんわりと牽制を入れます。私もそう思います。先程からずっとコメントできないでいるのですけれど。

「ううっ、毛野までそういう事を言うのか…。俺には俺の生き方があるんだ、否定しないでくれ…。」

 なんか格好いい風に言っていますけれど、その実ものすごく滑稽なのですが。さすがに私も止めに入りましょう。

「木島さん、そろそろ止めにしておいた方が…早速女子のみなさんがひそひそ話を始めていますよ。」

 周囲で話を聞いていた女子達が、一斉にこちらを見ながらひそひそ話をしているのです。これは明らかに最初からあいつには要注意ね、という印象を与えてしまった様子ですね。

「おおっ、早速超絶格好良いこの俺の噂話が広まったか⁉」

「真逆だ大馬鹿者が!」

 木島さんの都合の良い解釈に工藤さんが容赦なくツッコミを入れています。ええまあ、工藤さんの方が正解でしょうね、これは。

「そろそろ教室に戻らないともう鐘がなるよ!」

 毛野さんがそう言って強引に場を収めます。まったくもう、どうして廊下でこんな話をし出したのでしょうね、私達は。


 ロングホームルームの時間になり、改めて担任の清水しみず先生から性的少数者全般に関するお話があります。いわゆるLGBTと一括りにされている人々の事ですね。私自身はトランスジェンダーの問題にはそれなりに知識がありますけれども、他の性的少数者の事はあまり知識がないですから、良い機会とばかりに聞き入っています。実際に先生方が把握しているだけでも数組、女子同士や男子同士のカップルがいるのだそうですが、だからと言ってからかいの種になどしたら先生方や生徒会執行部からきついお叱りが来ますから決してそういう事はしないように、と釘を刺されました。あまりにひどい場合は停学や退学も有り得るとか…随分重い扱いをしているのですね。私自身も知識の更新になりましたし、結構よい機会を与えてもらった気が致します。


 終わっての休み時間、早速木島さんがクラスの女子をチェックしている様子です。

「かわいい娘いないかなぁ…。」

 木島さん、思考が口からだだ洩れていますよ…。お隣の席で早速女子が眉をひそめていますってば。先程の件で懲りていないのですね。はぁ、やれやれです…。でも年頃の男子なんてこういうものなのでしょうか…。

「いい加減にしておけ、木島…。」

 工藤さんが木島さんの頭を押さえつけてそう言っています。ええまあ、私もそう思いますけれども。やればやるほど逆効果ですよ、木島さん。柿沼さんはそんな木島さんに眼鏡越しに解析不能な視線を投げかけていますし、毛野さんは苦笑しながら眺めています。私もこれは困った顔をするばかりですね…。木島さんにとって高校生活とは女子と仲良く過ごすための物の様子ですね。決してそれが悪いとは申しませんが、仲良くしたいのならばもう少し身の振り方を考えた方がよろしいのではないかと愚考する次第です。正しく愚考ですが。


 次の時間はオリエンテーションで、自己紹介の時間になりました。各自入ろうと考えている部活の事などお話になりましたが、柿沼さんはテニス部、木島さんはサッカー部、工藤さんはバスケ部、毛野さんはバレー部でした。

「小山実と申します。部活動は調理部を考えています。どうぞよろしくお願い致します。」

 と自己紹介をしたら、クラスの中にどよめきが広がりました。あれ、また私何か変な事を申しましたでしょうか。

「男子が調理部…⁉」

「珍しいな…!」

 という声が聞こえてきて、ああ、そういう事でしたかと納得する私でした。確かに珍しいですよね。でも私は運動部という柄ではないですし、部活動紹介で一番興味を持ったのは調理部だったのです。

 そのあとも皆さんの自己紹介を聞いていましたが、

早島はやしま菜々子(ななこ)です。部活動は調理部を考えています。よろしくお願いします。」

と、ロングヘアの美少女があいさつをしています。調理部のお仲間さんになるでしょうか。同じクラスにお仲間さんがいてくれるのは嬉しいですね。先程全校集会で自己紹介をしたばかりの松本まつもと浩紀ひろき君も改めて自己紹介をして、

「松本浩紀です! 部活は陸上部にする予定です! よろしくお願いします!」

 と、元気よくあいさつをしていました。彼は運動部に行くのですね。元気の良さそうな人ですから、向いていそうです。

 他には手芸部に入るという女子がお二人いたのが少々気になったくらいでしょうか。私自身も中学校時代には手芸部でしたから、手芸話ができたら嬉しいな、という気もします。でも男子生徒扱いのうちは難しいでしょうか…。悪目立ちしてしまいそうですしね。


 オリエンテーションが終わるとお昼休みです。班のみなさんは学食に行く様子。私も学食なのです。

「みんな学食か? 一緒に飯食おうぜ!」

 木島さんがいい笑顔でそう言いだします。もちろんそのつもりでした。木島さんもこうしていれば普通に良い男子に見えますのにね、何故女子の事となるとああ残念な人になってしまうのでしょうか。

 そんな訳で5人連れ立って学食に行きます。私は先に自販機でいちごミルクを購入して、カレーを頼みます。

 みんなで机に着くと、4人とも何か珍妙なものを見たような顔をしています。何かおかしなことでもあったでしょうか。

「…小山、いちごミルクでカレー食うのか?」

 工藤さんが恐る恐るという感じで聞いてきます。え、何かそんなにおかしいでしょうか。

「えっ、何か変ですか?」

 私は不思議に思って問い返します。私はいつもこの組み合わせなのですが…。

「…いや、小山が良いなら良いと思うが…。」

「…変な組み合わせだよな。」

 工藤さんに続いて、木島さんにまでそう言われます。

「ええっ、我が家では普通でしたよ?」

 …でも兄様も美琴みことさんも普通の牛乳で、いちごミルクにしていたのは私だけでしたでしょうか。

「…小山、調理部で大丈夫なのだろうな? 実はお前、味音痴なのではないだろうな?」

 そう工藤さんに聞かれてしまいました。ええと…そんな事はない、と思います、たぶん。

「普段作るご飯は家族からおいしいと言って頂けていますよ。ですからたぶん大丈夫です。」

 なんだか若干自信を失いながらも、私はそう答えます。柿沼さんも毛野さんも微妙な表情をしていますが…。

「…まあ、どろり濃厚ピーチ味よりは合うんじゃないかな。」

 と、毛野さんが解ったような解らないようなコメントをくださいました。確か昔のゲームネタでしたよね、それ。兄様がやっていた記憶があります。やっぱり毛野さんはゲーム好きの様子ですね。やや偏っているような気も致しますけれども。

「それよりも、普段から飯を作るのか、小山は。なかなかすごいではないか。」

 工藤さんがそこを拾ってくれました。

「ええ、まだお母様に教えて頂きながらですけれど、最近は私が夕食を担当する事の方が多いのですよ。」

 私は素直にそう答えますが、四人が一斉に、

「お母様⁉」

 と素っ頓狂な声を上げます。

「すげえ…実際に使ってるやつ初めて見たぞ…。」

「俺もだ…居るのだな、使う人間が。」

「…僕も辞書には存在するが、使ったことは一度もない。」

「…口調からしてそうかとは思っていたけれど、やっぱり使うんだね…。」

 木島さん、工藤さん、柿沼さん、毛野さんの順にそうコメントをくれました。あ…そうですか、そういえばこれも普通は使わないですよね…。

「ええと…そう驚かれましても…。いつの間にかそういうふうに呼ぶようになっていただけで、別にわざと使っている訳ではないのですよ?」

 私はそう説明しますが、皆さんお箸を止めたまままだ呆然としています。そんなに衝撃的でしたでしょうか。

「…当然父親はお父様なんだよな?」

 木島さんがそう聞いてきます。

「ええ、もちろん。」

 私は素直にそう答えました。何だか皆さんほっとしたご様子で、

「良かった、父親だけ扱い低かったらどうしようかと思ったぜ。」

 という木島さんの意見にうなずいています。いえそんな事は…。お父様もお母様も良い親だと思っていますから、私は。

「なんつーかこう、小山はますます最近の男子らしくねぇなぁ。女子になった方が似合うんじゃねえか?」

 木島さんが笑いながらそういう事を言ってきます。ええまあ、メンタルは女子ですから、私。

「そういう冗談はやめろと先ほど注意を受けたばかりだろうが…。きちんと聞いてたか、ロングホームルームの話。」

「悪ぃ、途中で寝た。」

 工藤さんの言葉に木島さんが悪びれず答えます。ええまあ、お話長かったですしね…。なんか頬杖ついて動かないなとは思っていましたが…。

「とりあえず言動には気を付けないと生徒会から呼び出しが来る上に、処分まで喰らうって話だったぞ。お前など行状最悪そうだから身を慎めよ?」

 工藤さんがやや心配そうに木島さんにそう言っています。なんだかんだで友情は育まれつつある様子ですね。

「俺の行動にやましいところなんて一つもない!」

 あけっぴろなら何でも良いという訳ではないのですよ、木島さん…。


 どうやら私には愉快な仲間達ができたようです。メンタル女子の私が、どこまで着いて行けるかは解りませんけれど。


MtF的に立って用を足すのは有り得ない、というお話です。

まあ、これも個人差あると思いますけれども。

木島さんはさっそく女子を物色している様子です。

そして小山さん、味覚大丈夫なんでしょうか。珍妙な組み合わせだと思いますが。


※どろり濃厚ピーチ味

恋愛アドベンチャーゲーム及びゲーム原作アニメ「Air」に登場する、神尾観鈴さんの大好きなジュースらしき何かです。

毛野さんはどちらで知ったのか解りませんが、ゲーム好きとしてネタとして知っていたのかもしれませんね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 感想失礼します。 久々に小説を読んで笑ったような感じがします。今までと違ってとてもコミカルで面白いと思います。明日も楽しみにしています
[良い点] > 正しく愚考ですが。 アスターテですか。 [一言] 今回の主人公も濃いなぁσ(^_^;)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ