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アナザーエンディング ~海の幸、山の幸~

アナザーエンディング ~海の幸、山の幸~


 大学三年生の夏休みに性別適合手術を終えた私は、無事に仙台に帰ってきたのです。

 仙台駅で新幹線を降りて、新幹線中央改札から荷物を持って出ます。ああ、返ってきましたね。

「おう、お帰り、姫。」

 えっ? あら、木島さん。どうしてこちらに?

「ただいま帰りました。どうされたのですか、わざわざ…。」

 そういえば何時に仙台に着くのかと聞かれましたけれど、まさか改札で待っているとは思いませんでした。

「んにゃ、まぁ、な。」

 なんだか珍しく歯切れが悪いですね。

「姫よぅ、これまで姫は『自分にゃ恋愛はできない』って思ってただろ。」

「えっ? ええ、どうして解ったのですか、木島さん?」

 ちょっと意表を突かれてしまいましたよ。でもそうですね、手術してちゃんとするまでは無理だと思っていました。

「今でもそれは変わらねぇか?」

「…手術をしてちゃんとすれば、と思っていました。これから考えよう、というところでしょうか…。」

 それが偽らざる本音というところです。ようやく少しは考えられるようになったかな、という。

「そうか。…姫は気付かなかっただろうけど、俺、姫が受け入れられるようになるまで、待ってたんだぜ?」

「え?」

「迷惑かとも思って、他の奴の事も考えたし実行もした。まぁ結果は知っての通りなんだが。でもいつも言ってる通り、俺はいつでも本気だかんな?」

 木島さん…何を?

「姫、改めて言うぜ。俺と付き合って、出来たら一緒になってくれ。」

 えっ…! そ、それは…。私は…木島さんの事は…。いろいろな想い出が蘇ってきます、高校時代に助けてもらった事、大学に入ってからも一緒に過ごしてきた事。その中で、私は…。

「…私で、良いのですか?」

「んにゃ、姫じゃなくちゃ駄目なんだ。」

 もう、そんな事を…。嬉しいですけれど、恥ずかしいですよ…。

「…これから、よろしくお願いします。」

「こちらこそだぜ、姫。」

 そうして、私と木島さんのお付き合いが始まったのでした。


 それから1か月ほどして、いろいろ諸手続きも終わって、皆様でお祝いの機会を設けてくださったので、一緒に木島さんとお付き合いを始めましたという報告をしたのです。

「…名実ともに、姫の駄犬になった訳ね…。忠実に仕えなかったら私に言いなさいね、姫?」

 そうおっしゃる菜々子さん。ええと、まあ、そうですね。

「…まあ、木島の奴をまともに相手をしてくれるのは姫くらいだろうか…。」

「…だからといって木島君に姫はもったいない気はするんだけど…。」

「…まあ、これからの様子を見てみなくては解るまいよ。」

 なんだか工藤さんも毛野さんも柿沼さんも、微妙な反応なのですが…。

「もう、これでも木島さんは…。」

「良いんだって、姫。俺は姫が知っていてくれればそれで。」

 なんだか一斉に脱力する皆様。えっと、どうされました?

「見せつけてくれるわね、この駄犬は…。」

 一緒にお祝いに来てくれている沙樹子さんがそんな事を…。

「まあ、良いのではないかしらねぇ。木島さんも、意外と良いところはありますからねぇ。」

「そうだねっ、まあ浮気したら私も許さないけどねっ。」

 そう波奈さんと有紀さん。ええと、まあ、それは、その。

「…駄目ですよ?」

「しねぇから安心してくれ。」

 小首をかしげて見せたら、木島さんにそう苦笑されてしまいましたよ。

「…行動で示して頂戴ね。」

 そう釘をさす菜々子さんでした。




 皆様の懸念をよそに交際は順調に進み、私と拓真たくまさんの仲も深まって行きました。大学を卒業するころには皆さんもご縁が深まったものか、工藤さんと菜々子さん、毛野さんと波奈さん、柿沼さんと有紀さんのカップルも成立していたのです。

 卒業前に私も就職活動をしたのですけれど、あまりうまくいかなくて、なかなか就職先が決まらず…このまま行くと就職浪人、というお話になってしまいました。困ったなとは思うのですけれど、やっぱりどうしても、性別違和者だという事でハンデがついてしまう部分はあるのですよね。

 自宅の自分の部屋でどうしたものかと思案していたら、拓真さんからチャットが。

『俺の伯父さんとこで和食屋やってんだけどよ、人が辞めちまって足りねぇって言ってんだけど、どうだ?』

 和食屋さんですか。良いかもしれませんね、和食は割と得意ですし。お仕事にできる程かどうか、ちょっと解りませんけれど…。

『良いですね、お話うかがってみたいです。』

 そう送り返しまして、今度行ってみる事になりましたよ。


「拓真の嫁か。それにしちゃ随分とまた品の良い娘が来たもんだな。」

「伯父さん、そりゃひでぇんじゃねぇかな。」

「お前がそんな上品なタマかい。」

 なんだかそんなやり取りが始まりましたけれど…まあその。

「んじゃま、包丁さばきを見せてもらおうかな。」

「はい。」

 高校大学と調理部で鍛えた腕を見ていただきます。

「ふん、まあ基本はできてるな。長く勤められるんなら来てもらいたい。」

「それはぜひお願いしたいです。」

 お料理でお仕事をするのも良いですよね。あんまり大学で学んだことは生かせないかもしれませんけれど…。

「よし、んじゃ来週から来な。まずは試用期間っつーことでアルバイト扱い、卒業したら正規採用って事にしような。」

「はい、よろしくお願い致します。」

 案外簡単に決まってしまいましたよ。

 こうして私は、和食屋さんで働くことになったのでした。




 卒業して一年ほどして、私も拓真さんもお仕事にも慣れてきた頃。そろそろ一緒にならないかというお話が出てきたのです。

「まだ早ぇかなぁ。」

「私は早く一緒に住める方が嬉しいですよ。」

 という事で、お話はあっさり決まったのでした。どちらの家族からも、新居も仙台市内でそう遠くないですから、反対は出ませんでしたしね。




 腕もだんだん上がってきて、いろいろな料理を任せてもらえるようになってきました。拓真さんもお仕事をがんばっていて、二人とも張りのある生活をしています。

 そんなある日、久々に日曜日にお休みを頂いた日に、皆さんから連絡を頂いて、拓真さんと一緒に会いに行ったのです。

「おお姫、木島。こっちだこっちだ。」

 そう工藤さんの声。レストランにはもう8人分の席が用意されていましたよ。工藤さんのお隣には菜々子さんが座っています。その向かい側に座る私達。

「工藤さんも菜々子さんもお元気そうですね。仲良くしていらっしゃいますか?」

「ええ、まあね。仁志はちょっと固くて融通の利かないところはあるけれど、基本的には良い人だから。」

「なんだか留保をつけられてしまったが…まあ、あまり否定もできんなあ。さて、皆を待つか。」

 少しお話をしながら待っていたら、毛野さんと波奈さん、柿沼さんと有紀さんもやってきました。

「姫も大変だよね、土日の休みなんて久しぶりでしょう?」

「そういうお仕事ですから、仕方がありませんよ。拓真さんとお休みが被らないのは残念ですけれどね。」

 そう毛野さんに微笑む私です。土日の方が稼ぎ時という事もありますからね、そこは何とも。

「皆に報告しておこうと思うのだが…今勤めている会社を辞めてな、菜々子の実家のドラッグストアの経営に入る事になった。…もちろん、籍を入れるのが先なんだが…。」

 そう工藤さんが。あらあらまあまあ、そうすると工藤さんと菜々子さん、結婚されるのですか。それは何と嬉しい…!

「あれ、工藤君もかい? 僕と波奈もまだ具体的な日程は決まっていないんだけど、式を挙げる予定でいるよ。決まったら改めてお知らせするね。」

 毛野さんもそう微笑んでいます。あらあら、何と。

「僕も有紀ときちんとすることにした。今、式場を探したりしているところだ。詳細は追って知らせる。」

 なんとまあ、柿沼さんもですか…。嬉しい知らせが三重にですよ。

「それは嬉しいですね…。おめでとうございます、皆さん。」

 そう笑顔でお祝いを言う私です。

「それでだな、二次会で姫の店を使えないかと思ってな。」

「何度かお邪魔しているけれど、お料理とても気に入っているのよ。雰囲気も良いし、借りられないかしら。」

 工藤さんと菜々子さんがそう。お店貸し切りは確か、以前に別のお客様でやったことがありましたね。そう説明します。

「へえ、そんな事ができるんだ。うちもそうしようか?」

「良いですねぇ、姫ちゃんのお料理で友達みんなを呼んで二次会ですねぇ。」

 そう毛野さんと波奈さん。私も腕を振るえるのが楽しみですよ。

「僕もお願いしたい。僕らにとっては、やはり姫は特別だからな。」

「そうだねっ、姫ちゃんの料理で祝ってもらえるなら嬉しいなっ。」

 あら、柿沼さんと有紀さんも。私もそうできれば嬉しいですよ。

「日取りが決まったら早めに教えてください、献立など考えますから。」

 そう微笑む私です。楽しみですね。…あれ、でもこれ、二次会の準備にかかりきりという事は、私、結婚式そのものには出られないですよね。まあ、良いでしょうか、そこは…。代わりに拓真さんに参加してもらいましょうね。




 そんな訳で、山海の珍味を取り揃えて、皆様のご結婚をお祝いしたのでした。旬のものを生かした献立を作ったり、それに合うお酒をお出ししたりと、いろいろ考える事も多かったのですけれど、いい経験になりましたよ。

 皆様のご友人方には私も知っている人が結構いらっしゃって、今度また来てみるとも言ってもらえたのでした。

 嬉しい事ですね。




 そうして私は、日々腕を磨きながら、お客様が美味しいと微笑んでくださることを励みに、がんばっております。

 拓真さんも私を大切にしてくれて、私は幸せです。

 皆様もそれぞれ元気に過ごしているとうかがっておりますし、嬉しい事ですね。

 こんな日々が、ずっと続きますように…。


アナザーエンドその2、木島さんエンディングです。

木島さんは姫が恋愛に疎いだけではなくて、引け目を感じていたことを気付いていたのですね。

その状態で押すのは駄目だと思っていたみたいです。

とは言え、高校時代に485連敗した後で告白されてもなかなかこう…という気はするのですが…。

まあ、姫はもともと木島さんの事は割と評価していましたから、惹かれるところもあったのでしょうね。


付き合い始めたと聞いた皆さんの反応がひどいのです。

まあ、木島さんですからね、仕方ないかと思いますが…。


…そして親戚の伯父さんまでこの扱い。

木島さんは何だと思われているんでしょうね、一体。


姫はみんなの結婚式の二次会を担当して、嬉しかったみたいです。

皆さん、結婚記念日などには食べにくるのではないでしょうか。

木島さんエンドは、板前・木島絢子エンドでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 本編中から木島さん推しでした。 不屈の男ですね。
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