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第174話 ~噂に尾ひれはつきものなのです~

第174話 ~噂に尾ひれはつきものなのです~


 先日のしずかさんの一件以来、何となく秋山あきやまさんの噂を聞く機会が多くなりました。もともと沙樹子さきこさんが過剰なスキンシップをしていて話題になっていたところに、なんだかとどめを刺す格好になったみたいです。

 とりあえずいろいろ問題になりそうな気がしながら日々を過ごしていましたが、噂は広まるばかりの様子…。仲には性格の悪い人もいて、秋山さんが成績が良いのを鼻にかけて好き勝手に振舞っているとか、彼氏が学校外にいるのを良い事に校内で好き放題しているとか、いえいえそれはないでしょうという事までささやかれている始末です…。もっともこういう事は私自身が聞きつけてきたわけではなくて、周囲のクラスメイトが話しているのを小耳にはさんだり、毛野けのさんや菜々子(ななこ)さんが聞いてきたものを教えてもらったものばかりなのですが。

 とは申しましても、私も事実確認が取れた訳ではないのです…。一体何があったのか、遠目に見ただけでは解りませんからね。ここは聞き取り調査も必要でしょうか…。


 そんな事を考えながら登校していたら、いつもの交差点で沙樹子さんに追いつかれたのです。なんだか恨みがましいお顔をしていますよ。

「姫ちゃんがちゃんと監督しないから…!」

「おはようございます沙樹子さん、あいさつもなしに突然一体何のことですか。」

 そう睨まれましても、私には何のことやらさっぱりですよ。何か私に落ち度でもありましたか、最近。

「あの小娘のせいで私が文子ふみこちゃんに怒られてしまったじゃないの…!」

 ああ、ええ、まあ、これだけ悪意のある噂が広まっていたら、原因の一人の沙樹子さんは怒られますよね。ごく当たり前のことだと思います。静さんのせいというのはちょっとどうでしょう、全く責任が無い訳ではないですが、沙樹子さんには沙樹子さんの責任があるのではないかと思いますよ?

「それでどうして私が沙樹子さんに怒られなくてはいけないのです?」

「あの小娘の担当は姫ちゃんでしょう、ちゃんと指揮監督していないからこういうことになったのよ。だから姫ちゃんも連帯責任だわ。」

 なんだかひどい論理を言い出したのですけれど…。それは静さんは大事な後輩ですけれど、ですからと申しまして一から十まですべて面倒を見て指導をして監視している訳ではないですし、そんな事をしたら過保護を通り越して問題ですよ。

「担当も何もないですよ…。だいたいお花見で忙しかった間に、静さんのお世話までみられる訳がありませんでしょう。科学部さんの問題ですよ。確かにちょっと静さん浮ついているなと思って、入学直後から気にはしていたのですけれど。」

 一応そこは言っておきますけれど、言葉尻をとらえて反論されますよね、これ。

「ほら見なさい、問題があると見ていながら放置していたんだから姫ちゃんの責任よ。」

「入学早々先輩からそうきつい指導もできませんでしょう?」

 だいたいやっと夢見た女子生活になったばかりなのです。少々浮かれて夢を見るのは仕方がないではありませんか。普通の方にはそこは実感として解らないだろうとは思いますけれど。

「ちゃんと人としてやって良い事と悪い事の区別くらい教えておきなさいよ。」

「沙樹子さんにそれを言われると、静さんがすごく可哀想なのですが…。」

 どの口が人としてなどとおっしゃるのかとですね…。今年は一体何人チェックしているのですか、沙樹子さんは。私は結局何番目になったのでしょうね。あんまり知りたくないですが。

「まあ、私はちゃんとやって良い事と悪い事の区別はつけているわよ、その証拠に捕まった事も呼び出された事もないわよ。」

 どうだという顔をされる沙樹子さんですけれど…いえ、それは…。

「…単にうまく隠れているからと、たまたま運が良かっただけというお話ですよね、それ?」

 そもそも調理部みんなで隠ぺい工作しているようなものですからね、部外に話を出したらいい恥さらしだと…。そういう姿勢が良くなかったのかもしれません。

「露見しなければ罪にはならないのよ?」

「さっき人としてどうこうとおっしゃいましたよね?」

 明らかに人として駄目な論理ですよね、それは。これはどうしたものでしょうね、何を言っても無駄のような気がしてきました。どうがんばっても沙樹子さんは自分の非を認めるという事はなさそうな気がしますよ。

「とにかく姫ちゃんはあの小娘を速やかにどうにかしなさい。姫ちゃんがやらないなら私がやるわよ。」

「やるって何をする気ですか沙樹子さんは。駄目ですよ、危険な事をしては…。」

 何をしだすか解らない気がしてきましたよ、これは。沙樹子さんどうも秋山さんの事となると見境が無いのですもの。

「ちょっとあの小娘を学校内で社会的に抹殺するだけよ?」

「やめてあげてください、入学したばかりで、しかも彼女はこの学校にいるしかない人なのですよ? 同じ条件で転学はできないでしょうから、中途退学するはめになったら大変な事になってしまいます。」

 うちの学校と同様の条件で受け入れてくれる学校がそうそうあるとは思えないですからね。他に行ってリスタートという訳にはいかないのですよ。それは私も一緒ですが。

「それならしおらしくおとなしくしていればいいのよ。姫ちゃんも咲良さくらちゃんもちゃんと弁えて行動しているじゃない。あの小娘ときたら調子に乗って乱行に及ぶとはどういう了見なのよ、一体。」

 うーん、確かに何がどうしてああいう事態になったのか、私も知らないのですよね。本宮もとみやさんの口ぶりからすると完全な事故ではないみたいでしたけれど…。

「とにかく姫ちゃんは責任を持って後輩を指導なさい。これ以上文子ちゃんに手を出したら許さないわよ。」

 そう言いおいて、沙樹子さんは先に行かれたのでした。やれやれ、朝から何だか災難でしたね…。


 学校に着いて、一年一組の教室に行ってみることにしました。もう静さんは来ているでしょうか。

「あれ? おはようございます、姫先輩。今日はまたどうしたんですか?」

「あ、おはようございます、すみれさん。早いのですね。」

 教室をのぞいてみたら、席に座っていた菫さんが気が付いてやってきてくれたのです。まだ人もまばらな教室ですから、する事もなくぼんやりしていたみたいですね。

「ええ、バスの都合で早めに来るしかないんですよ。自転車通学に切り替えようかどうかと迷っているところです。でも45分自転車こいでくるのも面倒なんですよね…。それでもバスで一時間かかるよりは良いのかなあ…。」

 …菫さんは一体どこに住んでいるのでしょうね。仙台市も広いですからね、まあそういう事もありますでしょうか。

「自転車は自転車で気が楽といえば楽ですけれど、バスに座っている方が安心といえば安心ですよね。どちらが良いとは一概には…。」

 私もちょっと考え込んでしまいます。私自身はバスで迂回ルートを通るのがちょっと嫌だったので、自転車にしましたけれどもね。

「姫先輩でも自転車ですもんね。私も自転車にしようかなあ…。」

「あの、菫さん、それはどういう意味ですか…。」

 困った微笑みを浮かべたら、微笑み返されましたよ。行間を読めというものですか、これは?

「それはそうと今日はどうしたんですか、朝からこっちに来るなんて。また何かありました?」

 そういえばそのお話をしていませんでしたね。ええっと、何をどう話したらいいものでしょうか、これは。

「朝に沙樹子さんと会いまして。静さんの件でこっぴどく怒られまして…。後輩をきちんと指導しろとおっしゃるのですよ。私がきちんとしないなら考えがあるとおっしゃるので、ろくでもない事になる前にと思ってやってきたという次第ですよ。」

 どうにもろくなことにならない気しかしないのです。あ、菫さん溜息をついていますよ。

「あの部長は本当に…。さっさと引退させて菜々子部長姫副部長にしましょうよ。その方がみんなのためですよ。」

「菫さん、そういう事を軽々しく言うものではありませんよ…。誰が聞いているか解らないのですし…。」

 一応周囲をうかがってみますが、聞いている人はいないみたいです。そう声高にお話している訳ではありませんしね、事が事ですから。

「完全に部長の勝手な逆恨みじゃないですか。静ちゃんが誰を好きだろうと部長にどうこう言われる筋合いはないでしょう。おかしいじゃないですか。」

「う…ん、正論ですね…。別に沙樹子さんと秋山さんはお付き合いしている訳ではありませんし…。あ、でも、秋山さん彼氏さんいるらしいですよ?」

 一応そこは言っておきましょう。

「それならそれで部長の方こそ問題じゃないですか?」

「先程から正論をびしびしと言いますね?」

 反論できないですよ、まったくもって。

「正常な価値判断ができる人間なら、誰でも同じことを言うと思うんですけど。」

「うーん、そうかもしれません。皆さん事情を知らないからああいう噂になっているのでしょうけれどね…。」

 明らかに沙樹子さんの方が悪いと思うのですが、秋山さんが悪いみたいに噂になっていますからね。おかしいのです。沙樹子さんが悪者で噂になっているならここまで気にしないのですが。因果応報ですよねと思っておしまいにしてしまうかもしれません、私でも。

「噂ですか? うちのクラスでは何も出てませんけど…。何かそんなに問題になってるんですか?」

「えっと、三年生では結構な噂になっているのですよ。悪意に満ちた誹謗中傷にも似た噂が流れていて、ちょっと放置しておけないかなという感じなのです。私も、無関係という訳ではありませんからね。」

 一応関係者と言えない事もないかもしれないような気がする立場ではあるのです。沙樹子さんの一応友人ですし、静さんの直接関係のある先輩ですし。

「姫先輩に関係なんてありましたっけ? あったとしたら完全に巻き込まれ事故だと思うんですけど…。」

「一応まあ、静さんは私の後輩でもありますから。」

 立場的にそういう事になるという部分はあると思うのです。

「んっと、そうすると部長の事より静ちゃんの事の方が問題なんですか?」

「もしかするとそうかもしれないですし、そうだと困るからと確かめに来たのですよ。」

 なにしろまだ事実確認の取れていない事ですから、はっきりとは申せません。困った事ですが。

「部長に言われて静ちゃんをどうにかしに来たわけじゃないんですね?」

「あ、その心配をしていたのですか…。でも確かに、そういう文脈に聞こえそうなお話をしてしまいましたね。どちらかというと沙樹子さんから静さんを護らないといけないと思うので、実際何があったのかを確認しておきたいというところです。知らない事には沙樹子さんに言い返しもできないですから。」

 率直なところそういうお話です。憶測でどうこうと言い返しても仕方がないですしね。事実に基づいて反論をすればさすがの沙樹子さんでも無視はできないと思いますが…。

「姫先輩もともとそんなに口喧嘩得意そうじゃないですもんね…。まあ、そういうところが良いんだと思いますけど。でも駄目ですよ、相手に合わせてばっかりじゃ。」

「う…ん、気を付けます…。」

 どうして私は二学年下の菫さんにこんな事を言われているのでしょう…。何か美琴みことさんを思い出しますね。

「あれ? おはようございますです、絢子あやこ先輩。菫ちゃんとお話ですか?」

 すっかり話し込んでいたら、その静さんが教室に来ましたよ。見つけて声をかけてくれました。

「おはようございます、静さん。ええ、ちょっといろいろと部の事を。」

「調理部さんですか? もう先輩と仲良しさんで良いですね。科学部はまだちょっと壁があるですよ。」

 そう静さんは言うのですが…壁があってどうしてああいう事になるのでしょうか。私にはもうよく解らないのですが。

「そう…なのですか?」

「お花見で少し仲良くなれたら良いなと思ったですけれど、どうなったのかあんまりよく覚えていないのですよ。何か大切な事があったような気はするですが。」

 …うーん、覚えていないのですか…。一体何がどうしてそうなったのでしょう…。

「覚えていない…のですか?」

「静は雰囲気に酔いやすいのですよ。ついお花見の雰囲気に酔ってしまって、なんだか記憶があいまいなのです。気を付けないといけないと思っているですけれど、なかなか直らないですよ。」

 これは困った事になりましたよ…。沙樹子さんに静さんは覚えていないそうですとはとても言えませんし…。火に油どころか火薬を放り込むようなものです。燃え盛るどころか爆発しますよ、絶対。

「え、静ちゃん覚えてないの?」

「何かあったのですか、菫ちゃんまで?」

 小首をかしげられてしまいましたよ。これはとぼけている訳ではなくって、本気で忘れているみたいです、静さん。思わず顔を見合わせる私と菫さん。

「…どう処理しましょうね。」

「…部長にはお話しておいたとだけ言っておけば良いんじゃないでしょうか。後は科学部さんの問題だと…。」

 思わず菫さんに聞いてしまいましたが、でもまあそうと言えばそうなのですよね、この問題は。部で行ったお花見での出来事ですから、部内で処理するのが真っ当だというのは道理です。

「…科学部長さんにお話してみますよ。」

「…そうですね、それが良いかもしれないです。」

 不思議そうな顔をしている静さんを隣において、そう話を進める私と菫さん。これはどうにも困りましたね…。


 という事で三年五組にやってきたのです…。噂の秋山さんは何とも浮かないお顔をされていますよ。それはそうですよね、ご自身が良からぬ噂の対象になっていて、しかもそれが周囲の人たちのせいでご本人には責任が無いというのでは…。

 私が用事があるのは本宮さんです。科学部長として今回の件をどう処理するのか、聞いてみませんと。

「おはようございます、本宮さん。」

「おや、おはよう姫。最近よく来てくれますね。」

 そういえばこのところよく顔を出していますね。毎回心配をかけるような事ばかり相談している気がしますけれど…。

「また静さんの件で…。」

「ああ、噂になっちゃっているものね…。これはうちの学年だけなのかなあ。」

 ちょっと思案顔の本宮さん。どうなのでしょうね、一年一組ではお話は出ていないと菫さんは言っていましたけれど。

「沙樹子さんの件を知っているのは三年生だけですからね…。」

「ああ、調理部長さんの猛アタックを知っているのは三年生だけですか。それもそうですね。」

 猛アタックって…。ですから沙樹子さんには彼氏さんがいるのですってば。可哀想ですよ、もう。さっさと別れてもっと誠実な女の人を探した方が良いと思います。沙樹子さんも少しは目が覚めるでしょう、きっと。三年生だけというのには厳密には語弊があって、調理部の下級生組も知っているのですが。

「お花見の席でのことも一因ですし、科学部さんとしても何もしないという訳にもいかないと思うのですけれど、どう考えていらっしゃるのですか?」

「逆に聞きたいんだけど、どうしたら良いと思うのかな、姫は。実は対応にちょっと迷っているのだよね…。事情持ちの人だし、普通の恋愛ではないようだし…。なんだかどうしたら良いのか、うまく考えがまとまらなくて…。」

 本宮さんでも迷うのですか…。ちょっと意外です。頭の良い方ですから、すぱっと処理されるものだとばかり思っていました。それだけ私達の立場が分かりにくいという事でしょうね、これは。

「うーん、そういうデリケートな部分に触れる必要はない問題だと思いますよ、今回は。みんな見ている場でああいう騒ぎを起こして風紀を乱したことが問題なのですから、そこに焦点を当てて指導を行えばそれで事足りるのではないでしょうか?」

 至極当たり前のお話でそうなると思うのですが、いかがなものでしょうね。

「そうだねえ、そうなるかなあ…。それで良いのかどうか、ちょっと自信が持てなくてね。でも姫もそう思うなら、それで良いのかもしれないな。副部長とも相談してみますよ。僕らとしてもそのまま流すつもりはないですから、そこは安心してください。いや、後輩が指導を受けるのに安心も何もないかな…。」

 なんだか考えこまれてしまいましたよ…。

「けじめはつけた方が良いですよね…。」

 などと言えた立場ではないのですが。調理部内ぐだぐだですからね。とりあえずお玉はいれていますけれど、それできちんと事態が進んでいる訳では全くないですから。指導の問題なのか個人の問題なのか、微妙なところですけれど…。

「何ともね…。入学早々指導というのも可哀想だけれどね…。」

 本宮さんも憂い顔をたたえるのでした。部をまとめる立場も楽ではありませんね…。


 自分の教室に戻りましたら、もう皆様集まっていました。

「おお、おはよう姫。今日も何か用事だったか。」

「おはようございます、工藤くどうさん。ええ、ちょっと。」

 あまり細かい事情を話すとややこしい事になりそうな気もしますから、お茶を濁しましょう。

「噂の件かい? 姫も厄介な事に巻き込まれたねえ。」

 う、毛野さんに悟られてしまっていますね。ごまかせませんか。

「ありゃ宇野うのさんが悪いだろ。例の一年生も問題なしって訳じゃねぇけど。」

 ばっさり切り捨てる木島きじまさん。まあ、沙樹子さんの実像を知っているとそうなりますよね。

「いずれにしろ井上いのうえ君が哀れでならないのだがな…。どうしてあの宇野嬢に捕まったものか…。」

 そう眼鏡を直す柿沼かきぬまさん。一応同じ部の友人として心配はしているみたいです。

「沙樹子はどうやって引き留めているのかしらね…。知りたくないわね、なんだか…。」

 大きなため息の菜々子さん。私もなんだか想像がつかないのですが…。

「心の繋がりだけじゃねぇんじゃねぇか…?」

「姫の前でそれ以上言ったら殴るからね、木島君。」

 ん? どういう事でしょう、毛野さん。あら、菜々子さんが忌々しそうに首を振っていますよ。

「考えたくないわね…。」

 そう呟くようにおっしゃいましたが…。

「おはよう姫ちゃん。どしたの、今朝はなんだかみんなそろって静かだけど。」

「あら、山名やまなさん。おはようございます。ようやく普通に来てくれるようになりましたね。」

 この前まであいさつ代わりに抱き着かれていましたからね…。

「やー、この噂のさなかにできないっしょ。こっちまで噂んなっちゃうって。それはちょっとやだかんねー。この綾香あやかさん、こう見えて根は純情なんだよ?」

「自分で言うな自分で。すっげー怪しいっての。」

 即刻木島さんにツッコまれていますよ。苦笑するしかないです、これは。

「木島っちと同じ程度には純情だよ?」

「ねえ、それ不純って言うんじゃないかな。」

「おい待て毛野、俺はきちんと純情硬派だぞ?」

「貴様のどこが硬派だ、硬派という言葉に謝れ、木島。」

 なんだか賑やかになりましたよ。でも木島さんそう軟派な方ではないと思いますよ、工藤さん。

「どちらにしろろくなものではないわよ。いっそろくでもない同士でくっついてみたら良いのではないかしら。姫にたかる害虫が減ってせいせいするわ。」

 などと菜々子さんが言いだしたのです?

「…山名さんなぁ。考えた事ねぇなぁ。」

「木島っちは悪い奴じゃないけど、そういう対象じゃないかなー。」

 あら、お二人とも似たような。まあそんなものかもしれませんが。

「それで、純情な山名嬢は今回の件をどう見ているのだね。」

 あら、柿沼さんがなんだか珍しい。

「や、沙樹子ちゃんが悪いよね。でも誰も知らないんだよね、それをさ。噂が噂を呼んでひどい事になってるしさ。会長の友達も聞きつけてるらしくて、会長怒ってたよ? 呼び出して事情を聴くってさ…。」

 え、そこまで…?

「…秋山さんに非はない事案だと思うのだけれど。」

「うん、そう思うよ。でもね、会長は非がないなら堂々と呼び出しにこたえて申し開きできるはずだって言うんだよね。そりゃそうなんだけど、呼び出しがあったって時点でいろいろアウトだよねー。」

 菜々子さんが口元に手を当ててそう言ったら、解説してくれた山名さんですが…理屈は通っていますが、やっぱり呼び出しがあったという事実がものを言ってしまうという部分はありますよね。大丈夫なのでしょうか…。

「嫌疑は晴れたって公表した方がいい結果になるって会長は言うんだけどねー。まあそういう部分はあるのかな、一応生徒会のお墨付きって事になるかんね。悪い訳じゃないかもしれないよ。」

 うちの生徒会強いですからね、それはあるかもしれませんね…。山名さんの言う事も解らない訳ではありません。

「ま、任せておきなって。そういう処理は生徒会の領分だからさ。姫ちゃんが心配してるのは後輩さんの事でしょ?」

「あら、見抜かれていますね? ええ、まあ、そうです。」

 これは意外と山名さん鋭い?

「そういう娘だって姉ちゃんがさんざん言ってたからね。やっぱそうなんだね。うんうん、やっぱ姫ちゃんは良い娘だよね。」

「だからと寄ってくるのではないわよ、この毒虫。半径3メートル以内に近づいたら殺虫剤をふりかけるわよ。」

「菜々子ちゃんの愛情って激烈だよね。」

 何を言いだすのですか山名さんは…。

「殺虫剤をふりかける程度の愛情ってどれだけだよ…。」

 木島さんが呆れていますよ…。確かにそれが愛情ならかなり猟奇的な愛情ですよね?

「少なくともあなたに愛は無いから安心なさい。」

「ちぇ、残念。」

 何を言っているのですか、お二人とも…。


 数日後、気付けばもう連休の直前です。

 朝のホームルームでわざわざ噂の件が取り上げられて、そういう事を悪意のある噂に仕立てて騒ぐのはやめなさいと清水しみず先生がおっしゃっていました。先生方まで動くとなると、結構大きな事になっていたみたいですね…。

 もっとも結構うちの学校の先生方は細やかで、何かとこまごまとこういう注意喚起をするのですが。今回に限った事ではありませんし、いじめやいたずらがあった事実も普段から公表する方針ですから、特に意外という訳ではありません。

 先生に聞いてみたら、一応全学年でお話はしたそうです。そうすると一年生もお話を聞いていることになりますね…。静さんはどうなりましたでしょうか…。


 放課後の調理部のお茶会にて、沙樹子さんが朝のホームルームで名指しで注意されたと文句を言っているのです。

「『過剰なスキンシップは止めましょうね、宇野さん?』ってこれ見よがしに言われたのよ。ひどいわよ、みんなの前でそんな事を!」

 と本人は言うのですが、誰がどう考えてもそれは間違っていないと思うのです。

「身から出た錆というものね。いっそ沙樹子はリン酸水溶液の中にでも浸かってみたら良いと思うわ。錆がボロボロと落ちて綺麗な体になるわよ。」

「何を言うのよ菜々子、この体のどこに錆があるって言うのよ!」

「錆がないならホコリが溜まっているわね、叩けばいやというほど出てくるわよ。」

「私は10年物の布団か何か⁉」

「それはだいぶ匂いもきつそうだし、綿もへたっていそうね。洗濯するより新調した方が良いわね。」

「物の例えで言ってみたらなんという言い様!」

「先に言いだしたのは沙樹子よ、私は感想を述べたまでだわ。」

 やれやれ、相変わらずですね…。結局三年生になっても、新入生たちが入ってきてもこれは変わりませんでしたか…。もうみんな『こういう部長だから。』と受け入れて諦めているみたいですけれどもね、一年生達…。


 気になって、帰宅後電話してみる私です。たぶん科学部さんの方でも対応があったと思うのですが。

「もしもし、小山です。急にごめんなさい、静さん。」

「あ、絢子先輩。静です。どうされましたですか?」

 今朝のお話の件で静さんも怒られたのではないか、と聞いてみる私です。

「はい、絵理えり先輩にすっごく怒られましたですよ。頭を叩かれてとっても痛かったのですよ。絵理先輩は普段優しいのですけれど、怒ると怖いのですね。あまり怒らせないようにしないとと思ったですよ。」

 そんな事をちょっとしょんぼりした声で話す静さん。

「何をしたのかは思い出せました?」

「思い出せはしなかったですけれど、お話は聞いたのです。静ちょっと調子に乗り過ぎていたですね。よく反省しなさいと言われてしまいましたですよ。でも仕方がないのです。」

 やっぱりしょんぼりした様子ですね…。元気な静さんらしくない様子です。

「絢子先輩は心配していてくれたですね。菫ちゃんから聞いたですよ。いつもお気遣いしてくださってありがとうございますですよ。」

 そう言われてしまいました。まあ、心配はしていましたね…。

「私も卒業された先輩方にはお世話になっていましたし、今もお世話になっていますから…。今度は私の番ですよ。頼りない上級生ですけれどもね。」

 自分で言っていて苦笑が漏れてしまいますけれどね…。でも頼れる上級生ですとはとても言えません。

「静にとっては絢子先輩も素敵な先輩ですよ。見習いたいところもいっぱいあるです。」

「あらあら、そう言ってもらえると嬉しいですね。ありがとうございます。」

 なんだか逆に気遣われてしまったような気もしなくもないですが…。

「今度から行動には気を付けますですよ。絢子先輩にもご心配をおかけしましたです。」

「そうですね、そうしてもらえると私も嬉しいです。順調に生活を送れるよう願っていますよ。」

「はい、ありがとうございますです。」

 それではまた学校で、という事で電話を切ったのでした。ひとまず科学部さんでもきちんと処理はなされたようですね…良かったでしょうか。


 なんだかよく解らない騒動でしたけれど、何だったのでしょうね結局…。毎回恒例で沙樹子さんが巻き起こしたように思うのは私だけでしょうか。

 静さんも悪かったのですが…。ひとまず反省しているみたいですから、まだ良いでしょうか。反省の色の無い人もいますからね…。


沙樹子さん、前回の騒ぎを受けてなんだか怒っております。

怒るのは良いのですけれど、姫にあたるなというお話で。

先輩なんだから後輩をちゃんと指導しろという論理だそうですが…。


さすがに姫ももう呆れて沙樹子さんには厳しい見方をしています。

多少は言葉でも言うようになった様子。

良い事なのか、そうでもないのか…。

そもそも言われるような事をする人が悪いのですが…。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やれやれ、沙樹子さん相変わらずですね! 姫もとんだとばっちりです。あれは姫に対するパワハラでは…… 静さんももう少し気をつけないと大変ですよ! 今回は事故とも取れなくもないかな…… …
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