第153話 ~冬休みに入りますのです~
第153話 ~冬休みに入りますのです~
無事に試験も終わりまして、もう今週が終われば冬休みなのです。試験が終わって部の冬休み前最後の活動日も終わって、家に帰宅した私です。
「ただいま戻りました。」
「あ、お帰り、絢姉。」
美琴さんの声が居間からしますね。のんびりテレビをBGMに本を読んでいるのでしょう。どちらも内容が中途半端になりませんか? と聞いてみたことがあるのですが、気になる話題の時だけテレビに集中するから良いのだそうで…。私にはそういう真似はできません。
さて、私は制服から着替えたらちょっとやりたいことがあるので、台所に行きましょうね。
やりたい事。なんでもいちごミルククッキーというものが世の中にはあるのだそうです。クリスマスプレゼントにかこつけて、この際調理部の皆様にいちごミルクの素晴らしさを知って頂こうという目論見なのです。我ながら何と壮大な試みでしょうか。今までの私では考えられなかった事です。いちごミルクは素晴らしい。その素晴らしさを皆様に解って頂いて、皆様にもいちごミルクを広めて頂かなくては。
「なんか絢姉やたらご機嫌だけど、何してるの?」
「ええ、美琴さん、とっても良い事ですよ。」
なにしろ素晴らしいものを皆様に広めようという試みですからね。良い事でないはずがないではありませんか。
「…なんか絢姉にしては変なテンションだね?」
「そうですか? 私はいつも通りですよ?」
「そうかなあ…。」
なにか微妙なお顔をされてしまいましたけれど…まあ良いでしょう、それよりいちごミルクですよ。レシピをもう一度確認して…ふふふ、ミルク生地といちご生地のマーブル模様のいちごミルククッキーなど、想像しただけで心が躍りますよね。サクッと食べればお口の中にきっと素晴らしいハーモニーが奏でられますよ。とても楽しみです…!
という事で焼いてみたのです。うん、ほんのりいちご色の生地とほんのりミルク色の生地がマーブル状になっていて、とてもかわいらしいのです。見た目もかわいらしいとは、やはりいちごミルクは素晴らしいですね。何とも愛らしくなりますよ、食べてしまうのがもったいなくなるくらい…。さあ、綺麗にラッピングして皆様にお配りしませんとね。これならきっと皆様もいちごミルクの素晴らしさを解ってくださいますよ、うんうん。
「…なんか絢姉、壊れてない?」
「え? 私はどこも壊れてなどいませんよ? 元気そのものです。」
思わず身に着けている衣類やエプロンも見まわしてみましたけれど、特にほころびているところもないですよ、美琴さん。
「いや、なんていうか元気すぎておかしいっていうか…。ちょっと落ち着いた方が良いと思うんだけど…。」
「美琴さん、試食試食。今日はとってもいいものですよ。」
「ほら、普段絢姉そんな事言わないし。もっとおずおずと『試食、お願いしても良いですか?』って聞いてくるのが関の山でしょ。やっぱり今日は何か変だよ?」
怪訝なお顔の美琴さんですが…とりあえずクッキーは受け取ってくれたのです。
「…何かメルヘンな色合いのクッキーだね?」
「そうでしょう、実にかわいらしいとは思いませんか?」
笑顔でたずねる私です。いちごとミルクの色合いが視覚的にも可愛らしいと思うのですよ。
「…どちらかというとちょっと食べるのに勇気がいるんだけれど…。」
「そうですよね、あまりにかわいらしくて、食べるのに躊躇してしまいますよね。」
「そういう意味じゃなくね…。」
何か美琴さん呆れ顔なのですけれど。どこか呆れるようなところありましたでしょうか、今の会話で。
「まあいいか、いただきます。…やっぱりいちごミルクなのね…。」
「ええ、素晴らしいでしょう?」
満面の笑顔でたずねる私です。美味しくないはずがありませんよね。
「…まあ、良いんじゃないかな。美味しいとは思うよ。」
「それは何よりでした。ふふっ、後はこれを皆様に配布して解って頂いて…。」
「…絢姉、やっぱり変…。」
何か美琴さんの半ば呆れたような声が聞こえた気もしますが、気にせず準備をしましょうね。楽しみなのです。
夕食後、兄様とお父様とお母様にも試食して頂いたのです。
「あー、まあ、いちごミルクだな。絢子らしいっつーか何というか…。」
「…まあ、美味しいとは思うが…ストレートの紅茶が欲しいな。」
「…確かに甘さが際立っているわね、私はブラックのコーヒーが欲しいかしら…。」
とのご感想を頂いたのです。ふむふむ、紅茶ともコーヒーとも合いそうなのですね。さすがいちごミルクです。お茶会の時にもお出しできそうですね。
「明日部の皆様にクリスマスプレゼントの前渡しとして配ろうと思うのですよ。」
お顔を見合わせる皆様。え、なにか問題でもありましたか?
「…何か言われてもへこむなよな、絢子。」
そう兄様には言われてしまったのですが、この素晴らしいものに何を言われるというのでしょうか。大丈夫ですよ、うん。
翌朝になりまして…。
「それでは行って参ります。」
「なんか絢姉昨日から変なテンションだから、事故とか起こさないでね。気を付けて行くんだよ。」
そう美琴さんに釘を刺されました。え、私はいつも通りですよ?
「なんか変だよな…。足元気を付けて行くんだぞ?」
兄様にもです。まあ、お二人が心配してくださるのはいつもの事なのですが…。
「はい、気を付けて行って参りますよ。」
そう微笑む私でした。
「おっはよう姫ちゃ~ん!」
ほら、私よりもずっとテンションの高い方がいらっしゃるではありませんか。沙樹子さんがいつもの交差点で追いついてきましたよ。
「今日が終われば冬休みね、ふふふ、冬休みにはアレしてコレしてソレして存分に楽しむのよ、楽しみだわ~。かわいい娘達の写真もデータを送付して注文しないと…。ふふふ、私の年末は薔薇色、もとい百合色だわ…♪」
相変わらず沙樹子さんのお話にはついて行けないのですけれども…。何をそこまで考えていらっしゃるのやらです。
「それじゃまた放課後にね~♪」
結局私一言もしゃべっていませんよ、まあ良いですけれど…。
「いちごミルククッキー…?」
いつもの皆さんにも持ってきていたので、お渡ししようとしたら一斉に顔を見合わせられてしまったのです。え、なにか変でしたか?
「まあ、姫の作るものだから大丈夫だと思うけれど…。」
毛野さんがちょっと首をかしげながら…あれ? 喜んでもらえると思ったのですけれど。
「そういや姫は以前、いちごミルクゼリーを載せたクッキーも作ってたよな。」
あら、木島さん覚えていてくださったのですね。あれも自信作でしたよ。
「姫はどこまでもいちごミルクだな…。まあ、一途で良いとは思うが…。」
どうして苦笑するのですか、工藤さん?
「…まあ、甘味としては悪い訳ではあるまい。」
とりあえず柿沼さんは褒めてくれましたね。
「私も食べてみましたけれど、いちごとミルクの味わいがとっても美味しいクッキーでしたよ。レシピを作られた方は天才ですね。素晴らしいものを作られたと思いますよ。」
そう笑顔で語る私です。良いレシピを作って公開してくださったと思いますよ。ちょっと練乳を加えたりしてアレンジしましたけれどもね。
「いただきます…。」
あ、木島さんが真っ先に。
「…甘いなこれ。」
「いちごミルクですもの。」
微笑む私です。苦かったり塩辛かったりしましたら変でしょう?
「…姫はやっぱりお砂糖菓子でできている娘だよね、作るものまでお砂糖菓子…。」
あれ、どうしてそうなったのです、毛野さん?
「…コーヒーが欲しいな。」
工藤さんもコーヒーに合うと思ってくださった様子ですね。うんうん、良い事です。
「ふむ、クッキーとしてはともかく、甘味としては良いだろうか。」
あら、柿沼さんには好評みたいですね。嬉しいですね、これは。
「どうでしょう、いちごミルクの素晴らしさを解って頂けたでしょうか?」
笑顔でそうたずねる私です。
「えっと、まあ、姫がどれだけいちごミルクを好きかはよく解ったよ。」
「そうだな、いちごミルク愛がこもった品だったと思うぜ。」
「うむ、とてもいちごミルクだったな。」
「いちごミルクらしい甘味だったと思う。」
皆さんそう感想を。ええ、紛う事なくいちごミルクですよ。クッキーにしても美味しいだなんて、さすがいちごミルクですよね。
「何を駄犬どもは微妙な笑顔を浮かべているのよ?」
「あ、菜々子さん。おはようございます。菜々子さんは放課後部の皆様と一緒にですね。」
「おはよう姫。一体駄犬どもに何を与えたのよ?」
「とても素敵なものですよ。楽しみにしていてくださいね。」
あら、菜々子さん何か皆さんに問い掛けるような視線を送っているのですけれど。皆さんそっと目線を外しているのですけれど。なんですかこの反応は。
「…まあ良いわ、姫がそこまで変なものを作ってくるとも思えないし…。大丈夫でしょう。」
「少なくとも去年の早島さんよりは大丈夫っすよ。」
「木島君、あれはもう忘れようよ。思い出さない方が幸せな記憶だよ。」
未だに話題に出るのですか、あれは。毛野さんが正解だと思いますよ…。
「おいこらお前ら、失礼だろうが…。早島さんはちゃんとかぼちゃのマフィンも作ってきてくれたではないか。あれは非常に美味だったぞ。」
そう工藤さんがフォローしていますよ。
「うむ、あれは良い甘味だった。早島女史の腕は確かだ。」
柿沼さんもそううなずいています。でも私もそう思いますよ。
「けなすのか褒めるのか、駄犬どもはどっちなのよ、まったく。褒めても何も出さないわよ。」
「毒が出て来ないだけありがたいんじゃねぇすかね。」
「だから木島、その一言が余計だと言っているのだが…。」
菜々子さんの一言に木島さんがぼそりと言い、工藤さんがたしなめています。ええまあ、余計と言えば余計でしたでしょうか…。でも最近、菜々子さんそんなに皆さんに毒舌を発揮していないと思うのですが。随分和らぎましたよね、なんだか。態度がちょっと素っ気ないのは変わっていませんけれど。
お昼休みになりまして。
「姫はやっぱ飲み物いちごミルクなのな…。」
なんだか木島さんにちょっと呆れられてしまったのですけれど…?
「ええ、好きですから。美味しいのですよ、いちごミルク。」
「とりあえず姫のいちごミルク愛の深さはよく解ったかな…。そのくらい僕の事も愛してくれれば嬉しいのだけれどね。」
「そうすると今度は毛野がクッキーになる訳か。」
「それは甘味として有り得ない味になりそうだな。」
なんか毛野さんが口を滑らせたら、工藤さんと柿沼さんが即座にツッコんだのですが…。毛野さんクッキーって何を入れたらそうなりますでしょうか。とりあえずすっごいベタ甘なクッキーができそうなのですけれども。甘すぎて持て余してしまう気がしますよ。
「ん、毛野の肉でミートクッキー作るのか?」
「ちょっと待ってくれ木島君、ミートクッキーって普通は犬の餌じゃなかったかな⁉」
「すっと女たらしの駄犬の肉で犬用の餌を作るのか。何か共食い感が半端ねぇな。」
「だから! 僕はその呼び方を認めていないと言っているでしょう⁉」
そもそも甘味ですらなくなりましたよ。というかお二人とも、食事前ですってば。そういう会話は慎みましょうよ。
「さすがにペットフードは作ったことが無いですね、そもそも身近にペットがいませんし…。」
「姫はちゃんと毛野も人間扱いなのな。えらいえらい。」
わしわしと頭を撫でられたのです。いえあの、学食では恥ずかしいですってば…。
「木島さん、恥ずかしいですから駄目ですよ…っ。」
顔を赤くしてそう抗議する私です。
「おう、ついうっかり。姫ちんまりとかわいいからな、つい。」
「ですから私、そんなに小さくないですからね?」
むしろ女子としてはトールサイズですからね。ちんまくないですよ。
「しかし学食で姫がいちごミルクとカレー以外を食べているところを見た記憶がないな。ずっとそれで飽きないのか、姫は?」
工藤さんがあごに手を当ててそう聞いてきましたよ。
「ええ、好きですから大丈夫ですよ。それに、カレーも毎日同じようでいて微妙に味が違うのですよ。そこを感じ取るのもなかなか楽しいのですよ。」
「…姫はそこまで繊細な舌を持っていてよぅ、何でいちごミルクになると盲目になるんだ?」
「まあ、またそこがかわいらしくて良いじゃないか、木島君。」
え、私そんなにいちごミルクの事になると分別無くなっていますか? そんな自覚は無いのですが…。おかしいですね…。
さてご飯を受け取って来まして。皆さんでいただきますしました。
「うーん、やっぱりカレーといちごミルクのハーモニーは絶妙ですね…。」
あれ、どうして皆さん微妙なお顔を?
「普通は一緒に食べたら、何がなんだか解らない味になると思うのだがな…。」
え、そうなるのですか、工藤さんは?
「牛乳なら給食で一緒に食べたこともあったけどね…。」
ああ、それはまたそれでいい組み合わせですよね、毛野さん。いちごミルクにはかないませんけれど。
「俺以前試してみたけど、解らなかったんだぜ?」
もう一回試して頂ければきっと解りますよ、木島さん。
「…カレー風味のお菓子というものもあるが、あまり甘いものとは合わせないと思うがな…。」
あら、柿沼さんまで。うーん、こんなに美味しいですのに。どうしてご理解いただけないのでしょうね。お互いがお互いを引き立て合う、素晴らしい組み合わせですのに。
「美味しいのですよ? ほらほら、一口ずつお試しくださいな。」
皆さんちょっと慌てて、
「姫、軽々しく自分が使っているスプーンを差し出すものではないぞ?」
「そうだよ姫、そういう事はもっとちゃんとしてからしないと駄目だよ?」
「おう、そういう事はちゃんとお付き合いしてからやるもんだぜ?」
「…僕もさすがに受け取るには恥ずかしい。」
などと言いだしたのです。あれ、でも以前皆さん、食べている途中のフォークで私にケーキを分けてくれましたよね? あれは良いのですか?
「むう、いちごミルクも提供しましたのに。」
「姫はもうちょっと自覚を持とうな、もう立派に女子なのだからな?」
工藤さんにそう重ねて言われてしまいましたのです。
「え? 何か問題でもありましたでしょうか?」
調理部ではよく沙樹子さんが食べさせ合いをしようとしているのですが…。あ、でも何だか皆様に呆れられていましたね。という事はやっぱり駄目なのでしょうね。うん、何か納得しました。
「…まあ、嫌がる事は止めておきましょうね。」
うん、ご迷惑をかけるのは良くないですよね。そういう事は止めておきましょう。
「諦めてくれたみたいで助かるんだぜ…。」
「それでは新品のスプーンを持って参りますから…。」
木島さんがほっとしているみたいですけれど、新品なら問題ないのでしょう、きっと。
「諦めてないよ姫は⁉」
「だからな姫、男子にそうやって食べさせるのが駄目だと言っているんだぞ⁉」
何か毛野さんと工藤さんに慌てられてしまいましたよ?
「え? 私いつもお菓子作ってきて食べて頂いているではないですか。ほら、現に今朝も。」
何か違うのですか?
「それはまだ良いのだが、手ずから食べさせるのは駄目だ。そういうものだ、姫。」
工藤さんが頭を押さえながらそう…。えー、皆さんたまにするではないですか。あれは良いのですか、そうすると?
「ほら見ろ、毛野がしょっちゅう姫に手を出すから、すっかり悪い感化されちまったじゃねぇか。」
「何を言い出すんだい木島君、それなら君も同罪だろう⁉」
そういえばよく毛野さんは私に食べさせてくれますよね。この前もお菓子を買ってきて私にあーんさせていましたよね。
「…今度から厳しく取り締まることにしような。どうも確かに変な勘違いをされている感が拭えないぞ。」
工藤さんも頭を押さえたまま…。
「…そもそも最終的にいつも食べさせられている姫にも問題はあるのだが。」
あら、そうなのですか、柿沼さん? だってご好意を受けないのは悪いではありませんか…。それに毛野さん、受け取るまで引き下がらないですし。
「常々姫は無自覚だと思っていたが、もしかするとそれは無知から来るものだったのではないか…。どうも何か根本的な物が抜け落ちている気がするぞ?」
「えっ、どうしてそうなったのです、工藤さん?」
そんな事は無いですよ、常識が無いと言われた事はないですし。
「おい毛野、お前お勧めの恋愛小説でも貸してやれよ。少しは勉強になるかもしれないだろ。」
「馬鹿を言うんじゃないよ木島君、姫はこの純粋なところが良いんじゃないか。そこをわざわざ壊してどうするんだい。」
何がどうしてそういう会話になったのかよく解らないのですが…まあ良いでしょうか。
「…毛野は姫には読ませられないような類の恋愛小説を読んでいるのか、そうなると。」
「そういう意味じゃないよ工藤君⁉ 姫が恋愛好きになったら大変だと言っているだけだよ⁉」
何か毛野さん必死なのですが…。えっと、私が恋愛を知ると何かまずいのですか? よく解らないのですけれど。
「まあ、姫ももう17歳だ。いつまでも夢見る少女ではいられまい。少しは知っておいた方が良い事もあると思うのだがな…。」
「だから工藤君、それを恋愛小説を読むことで補完できると期待しない方が良いよ⁉ あれはあくまで幻想の創作物なんだからね⁉」
「ああそうか、毛野みたいなのができて終わるんだな。姫が毛野みたいのになったらそりゃ困るなあ。」
「それもまたひどい言い様だね、木島君⁉」
何ともひどいやりとりになってきましたよ…。どうして私が皆さんにカレーを食べさせようとしたらこうなったのでしょうか。よく解らないのですが…。
「は? 姫が手ずから食べさせる? ちょっと駄犬ども、空き教室で事情を聴くからいらっしゃい?」
「待て早島さん、実行されたとは誰も言っていない。むしろ我々は必死に止めたのだぞ。」
教室に戻ってきてご飯を食べている間のお話を菜々子さんにしましたら、何か菜々子さんがそのように…。工藤さん、慌ててそう弁解していますけれど。
「何かまずいのですか?」
不思議な顔をしてそうたずねてみる私です。
「そういう事は好きな人ができてからやりましょうね、姫。」
「私は菜々子さんも皆さんも大好きですよ?」
小首をかしげて答える私です。
「…そういう意味では無くね…。はあ、どう説明したものかしらね…。」
あら、菜々子さんも困ってしまいましたよ。何でしょうね、これは。
「とにかく姫にはまだ早いという事でどうだろうか。」
そう柿沼さん。もう、またそれですか。
「私も皆さんと同じ17歳ですよ? 早いも遅いもないですよ? 同じ歳ですよ?」
そう主張してみるのですが…。
「実年齢の問題ではないわね。こういう部分では姫は小学生並、いや幼稚園児並かもしれないわね…。まあ、仕方ないのかもしれないけれど…。そんなことを考えて育つような余裕はなかったのでしょうしね…。」
そう頬に手を当てておっしゃる菜々子さん。えっと、そんなことってどんなことでしょうね? でもさすがに幼稚園児扱いは納得いかないですよ?
「もう、菜々子さんまで。みんな今回は私の扱いがひどいですよ?」
「いや…何というか、他に扱いようは無いと思うのだが…。」
抗議してみたら、工藤さんがそう苦笑しているのです。むー、何か納得がいかないですよ。
「…その点はまあ、同感かしら。姫も大概鈍いわよね…。」
なんだか菜々子さんには大きなため息をつかれてしまったのですが…。変ですねえ…。
放課後になりまして。調理室でお茶を入れるのを見守る私です。うん、問題なさそうですね。
「ちょっと早いですけれど、クリスマスプレゼントにお菓子を焼いてきましたよ。皆様の分ありますから、どうぞ。」
そう手提げ袋からいちごミルククッキーを取り出す私です。
「またずいぶんファンシーな色合いのクッキーね?」
あら、沙樹子さんもそう思いますか。かわいいですよね、いちごミルククッキー。
「…また姫らしい一品が出てきたわね…。」
「…姫先輩らしい…のですか、菜々子先輩?」
あら、灯里さんには首をかしげられてしまいましたよ。
「ああ、灯里ちゃんは知らないわよね。姫はいちごミルクが大の好物なのよ。お昼に毎日学食で買って飲むくらいにね。今の時期だと朝もホットのいちごミルクで体を温めているくらいだわ。」
菜々子さんがそう解説してくださったのです。まあ、間違いないですね。
「…そうだったのですか。でも、いちごミルク美味しいですよね。」
思わず灯里さんの手を取る私。
「美味しいですよね、いちごミルク! あのまろやかな甘みとかすかな酸味が何とも言えず美味しいのですよ! 灯里さんにも解ってもらえるとは嬉しいです!」
「…ええと…その、解るように努力します、姫先輩。」
「姫、灯里ちゃん困っているわよ。普段にない勢いで食いつかないの。」
あら、菜々子さんにたしなめられてしまいましたよ。
「とりあえずそんな訳で、いちごミルククッキーですよ。きっと皆様に幸せを運んでくれますよ。赤と白はクリスマスカラーでもありますからね。」
クリスマスカラー云々は今こじつけたお話ですけれどもね。後付けです。さすがに緑と金色は載せられないと思いますが。
「姫ちゃんがいちごミルクねぇ。何となく似合う気はしますねぇ。」
「そうだねっ、イメージ的に似合う気はするかなっ?」
そう波奈さんと有紀さん。いちごミルクが似合うイメージですか、私。
「ちょうどもらったのだしお返ししようかな。この間姫ちゃんにちょうどいい本を見つけたから、買ってきたのよ。」
そう沙樹子さんが何かを鞄から出して…A4サイズの薄い本?
「間違えた、これは絵理ちゃんからもらった裏クリスマスプレゼントね。」
「沙樹子、そういうのはちゃんと紙袋に入れておきなさいな…。そもそも見つかったら没収よ?」
「仕方ないじゃない菜々子、絵理ちゃんそのまま持ってくる剛の者なんだから。」
ちらっと見ましたけれど、やたらと肌色が多かったような。気のせいでしょうか。
「で、こっちね。はいどうぞ。」
「あら、いちご料理の本ではありませんか。良いのですか?」
干しいちごからいちごジャムから、いろいろ載っているみたいです。いちごに特化した本は初めて見ますね。あ、ちゃんといちごミルクも載っていますよ。
「うん、さすがに新品じゃなくて古本屋さんだけどね。見た瞬間、これは姫ちゃんだと思って。たまには良いでしょ。」
そう微笑む沙樹子さんでした。
「ありがとうございます、沙樹子さん。」
「お礼に一つぎゅっとしてくれると嬉しいのだけれど。」
「えっと、こうですか?」
背中に手を回して、きゅっと。何かちょっと気恥しいですけれど。
「ふふ、姫ちゃんから抱き着いているのだから文句は言わせないわよ、菜々子?」
「…物で釣って抱き着かせるとは卑劣な手を…!」
何か菜々子さんとても不機嫌そうなのですけれど…良いのでしょうか。
「…私も姫先輩にクリスマスプレゼントのお菓子を焼いてきたんです。私もぎゅってしてもらますか?」
あら、灯里さんまで?
「ありがとうございますね、灯里さん。」
沙樹子さんから離れて、今度は灯里さんをきゅっと。灯里さん私より小柄ですから、ちょっと包み込むような格好になってしまいます。
「…姫先輩の腕の中、暖かいですね。」
「灯里さんも、暖かいですよ。」
何となく心地良いのです。灯里さんも優しく抱き返してくれていますよ。
「…姫、それなら私も用意してきたのだけれど。みんなに配ろうかと思ったけれど、姫だけにあげれば私にも抱き着いてもらえるわよね?」
え、菜々子さん何を言い出すのです?
「菜々子が嫉妬に狂った…!」
沙樹子さんが何か面白そうに茶化しているのですが…。
「いえ、ちゃんと皆様にお配りくださいね? でもありがとうございます、菜々子さん。」
きゅっと。
「菜々子、顔が赤いわよ~?」
「うるさいわね、良いところなんだから黙りなさい、この馬鹿沙樹子。」
あれ、なんだか菜々子さんしっかり私を捕まえて離してくれないのですが…。まあ、良いですけれど…。
他にも何人かクリスマスの前渡しにとお菓子を焼いてきている方がいて、ひとしきりお菓子の交換会みたいになったのです。さすがに皆様少量ずつですね。私もクッキー5枚と、大した量ではありませんでしたし。
「姫ちゃんのクッキーは紅茶が進みますねぇ。」
そう波奈さんが。あら、そうですか?
「うん、クッキーにしてはだいぶ甘いかなっ。」
あら、そうでしたか、有紀さん。
「そこはまあ、いちごミルクですからね…。姫なりのこだわりなのでしょう…。」
菜々子さんが拾ってくださいましたよ。ええ、配合にはこだわりました。元のレシピからだいぶ色々自分好みにアレンジしましたからね。
「ふふ、いろいろこだわりがありまして…。」
つい語ってしまう私です。
「…それはこの甘さになる訳ね…。お茶お代わり要る人、私いれるわよ。」
「あら、部長がどういう風の吹き回しかしら。いつもなら『部長なんだから平部員がいれなさい!』と言って私に叩かれているのに。」
「うるさいわね菜々子、自分が欲しい時くらいいれるわよ、一緒にみんなの分入れるくらいしたっていいでしょ。」
そう反論している沙樹子さん。まあそれは、そこまで手間も変わりませんものね。あら、皆さん頼むみたいです。では私も頼みましょうね。
「沙樹子さん、私もお願いします。」
ゆっくり紅茶とお菓子を楽しみましょうね。菜々子さんのお菓子も灯里さんのお菓子も美味しいのです。お二人ともそうお伝えしたら、だいぶ喜んでくれましたよ。
冬休み前の学校は、こうして終わったのでした。
明日からは冬休み、あまりだらけずに過ごさなくてはですね。
好みのレシピを見つけてテンションが上がり過ぎたみたいで、なんだか姫が壊れています。
普段にないテンションと勢いです。
いちごミルク愛がちょっと強すぎたみたいです。
姫らしいと言えば姫らしいですけれど、良いんでしょうかこれは。
ちょっと危ない気が…。
今回は沙樹子さんが大人しい上に、なんだかクリスマスプレゼントまで用意してきているという。
珍しい展開になりました。
沙樹子さんは姫が好きで抱き着かせているのか、単に菜々子さんをおちょくりたくて抱き着かせているのか。
今一つそこがはっきりしませんね。