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第131話 ~二年目の文化祭、喫茶に出たのです~

第131話 ~二年目の文化祭、喫茶に出たのです~


「お疲れさまです。」

 そうあいさつをして、12時50分に調理室のバックグラウンドに入る私と菜々子(ななこ)さん。天野あまの先輩も小鶴こづるさんも程なく到着されて、交代に備えています。販売班の交代の面々もそろいましたよ。

「姫ちゃんは大丈夫だと思うけれど、小鶴さんは最初は無理しないでね。私達の補助をお願いね。」

 そう天野先輩が私と小鶴さんに声を掛けてくださいます。私もそっと小鶴さんの手を取って、軽く握ります。…ああ、緊張で軽く震えているのが解りますよ。

「大丈夫ですよ、何かあれば私達がフォローしますからね。練習通りにできればそれで問題はないのですから。小鶴さんなら、普段の力を出せればできます。緊張しすぎないでくださいね。」

 あら、なんだかきゅっと抱き着かれてしまいましたよ、小鶴さんに。

「…勇気をください、姫先輩。」

 抱き返して、頭を撫でてあげましょうね。

「一緒に、がんばりましょうね。」

 そう微笑みながら。


「どはぁー、疲れたぁ…。はい灯里あかりちゃん、交代。」

 中野なかのさんが最初に盛大な溜息と共にバックグラウンドに戻ってきましたよ。まあ、一年生の初日は仕方ないですよね、私も去年はそんなものでしたし。

「姫ちゃん、後をお願いしますねぇ。今年はなんだかお客様が多いみたいですよぉ。」

 続いて波奈はなさんが戻ってきて、私にエプロンを渡してくれます。

「これは応援要員入れた方が良いかもしれないね。去年の経験もあるし、早島さん、お運びメインでお願い。」

 最後に戻ってこられた小早川こばやかわ部長がそうおっしゃって、菜々子さんは素直に解りましたと答えていますよ。

「ふふん、私これから井上いのうえ君と…」

「終わったら聞いてやるから今は黙りなさいね沙樹子さきこ。」

 交代になって休憩に入る沙樹子さんが何か言おうとしたのを制して、ホールに出て行く菜々子さん。私も続きます。天野先輩と小鶴さんも続いて。結構机、埋まっていますね。

「お会計お願いします。」

「はい、こちらでお願い致します。」

 すっと私が対応に入ります。ちなみに一応伝票は作ってあるのですが、部員以外には解らない略号になっています。今回ですと『タ1、ア2、テ3、ク6』といった具合です。ちなみにこれは『ダージリン1、アッサム2、ディンブラ3、クッキー6』の略号です。もう濁点を振るのすら省略されております。これで注文からお会計までやります。品数少ないですからこの程度の略号で済むのですけれどもね、品数が多いとこれでは済みませんね。

「お一人様600円になります。…はい、400円のお返しです。誠にありがとうございます。」

 などというようなやりとりをしてゆきます。その間に茶器を片付けたり机を拭いたりするのが小鶴さんの一番の役割になります。一応、分担があるのですよ。お会計は二年生と三年生が交代で出ますが、片付けは一年生が主担当。紅茶をいれるのも二年生と三年生が主担当です。

「ありがとうございました、またお越しくださいませ。」

 そう笑顔で、お客様方を入口までお見送りします。

「お、やってんな。」

 う、この声は兄様。本当にいらしたのですね。

「あれ、去年と格好変わってる。」

 美琴みことさんももちろん一緒ですね。

「とりあえず4人でお願いね。」

 とお母様。

「はいはい、お席にご案内いたしますね。」

 やれやれ、交代早々家族の対応ですか…。


 席に案内してバックグラウンドに注文を…。

「えっ何? 姫ちゃんのご家族がいらしているの? それじゃごあいさつくらいしないと…。」

 お休みに入ろうとされていた小早川部長がそうおっしゃって、私を連れて応対しに…。あ、菜々子さんも美琴さんと少しお話していたみたいです。

「調理部長の小早川こばやかわ美絵みえと申します。本日はお越しいただきまして、誠にありがとうございます。ただいま紅茶もご用意いたしますので、少々お待ちくださいませ。」

 と、一礼される小早川部長。注文を受けた菜々子さんがバックグラウンドに伝えに行っていますよ。そうすると紅茶をいれるのは…どうも今の配置だと小鶴さんになりそうですね。天野先輩はお会計に出ていらっしゃいますから。

「うちの娘がいつもお世話になっております。部長さんには昨年からの難しい時期を適切にサポートしていただいて、一同感謝をしておりますよ。」

 そうお父様がおっしゃいます。えっと、隣に私もいる状態で言われますと恥ずかしいですけれどもね、でもそうですよね。

「いいえ、私達は何も…。小山さん本人の努力ですよ。大変な時期を乗り越えてくれて、ほっとしたのは卒業された先輩方も含めまして、調理部一同同じ気持ちでした。半年間大きな問題もなく過ごせていると聞いて、私も安心しているところです。」

 微笑んでおっしゃる小早川部長。そうですね、いつも皆様見守ってくださいますものね…後輩達にもなんだか慕われつつ見守られている感じがするのですけれどもね。

「…紅茶をお持ち致しました。ディンブラのお客様…。」

 あ、小鶴さん。兄様と美琴さんですか。そっと配膳して、アッサムとダージリンは少々お待ちください、ただいまお持ち致します、とまた戻って行きました。

「今の娘が小鶴さんと言いまして、小山さんに直接指導を担当してもらっている娘ですよ。一年生の中では一番紅茶をいれるのが上手ですし、調理に向かう姿勢も真面目で謙虚なのです。小山さんの指導の賜物ですよ。」

「褒め過ぎですよ、小早川部長。小鶴さん本人の努力のお陰です。」

 さすがに恥ずかしくなってきて、つい口を挟んでしまう私です。

「…アッサムとダージリンでございます。小山先輩にはいつもお世話になりまして…。ありがとうございます。紅茶とクッキー、お口に合いますと良いのですが…。」

 残りのものを配膳しに来た小鶴さんも、そう言って一礼してくれました。うう、なんだかすごくこそばゆいですよこれ。

「ぜひ日頃の指導の成果を見てあげてください。それでは、ごゆっくりお過ごしくださいね。いつもありがとうございます。」

 そう一礼して、小早川部長はバックグラウンドに戻られました。

「私も仕事に戻りますね。小鶴さんの紅茶、ゆっくり楽しんでいってください。」

 そう微笑んで、配置に戻る私です。ふう、家族相手に対応というのもなんだか慣れないですよね。まあ仕方ないですけれども。


 小山家一行のお会計は天野先輩が担当してくださいました。クッキー10個買って行ってくれましたよ。お父様、職場で配るとか言っていましたけど…恥ずかしいですから止めてください。確かに調理部の自信作ではありますけれどもね。その間にも3組ほどのお客様がいらっしゃって、私と菜々子さんが交代で応対に出たのでした。


「なんか今年の調理部はレベル高ぇな。」

「うん、これは他の奴らにも教えてやろうな。良い目の保養だぜこれ。」

 なんかそんなお話が聞こえてくるのですけれど。聞こえていますからね、そこの三年生男子の先輩方。良いですけどね、クッキー追加で買ってくれましたし。菜々子さんが笑顔で落としましたよ。『追加注文でクッキーの増量もできますけれども、いかがなさいますか?』と笑顔で聞いて、見事注文を勝ち取ってきたのです。菜々子さんも接客応対、上達しましたよね。できたらウェイトレスさんに注目して来てくれるより、提供している紅茶とクッキーに注目して来てほしいと思うのですが、さりとて接客品質を服装の面でも向上させよう、と提案したのは私な訳でして。図に当たったなという感じもして何とも微妙な気分なのです。あ、飲み終わってお会計みたいですね。小鶴さんと菜々子さんが片付けに入りましたよ。

「天野さん、何か今年の調理部は違うね?」

「そう? 変わったのと言えばエプロンと椅子くらいなんだけど…。」

 どうやら天野先輩とお知り合いの方々みたいです、先程の先輩方。

「いやいや、天野さんも可愛くなってるって。」

「お世辞を言ってもお会計はまけないよ。エプロンかな、姫ちゃんがデザインして、手芸部の人達と一緒に作ってくれたんだよ。」

 事実なのですけれども何か気恥しいですね。でも実際、天野先輩も華やかに見えますよ。

「姫ちゃんって…ああ、そちらの。へえ、そんな事までできるんだ。凄い後輩がいるね。」

「うん、自慢の後輩だよ。はい、一人800円ね。」

 そんなやり取りをされているのが聞こえてきます…。いえいえ、凄くないですよ、ちょっと変わっただけの普通の後輩ですよ。


 あ、またお客様ですね。あら、芦口あしぐちさんと塩尻しおじりさんと、一緒なのはクラスのお友達でしょうか。6人連れですから椅子を用意致しませんとね。

「小鶴さん、行ってらっしゃい。」

「…はい、姫先輩。」

 片付けが終わって定位置に戻っていた小鶴さんを促す私です。せっかく来てくれたクラスメイトの友人達ですからね、応対に出しましょう。

「…みんな、いらっしゃい。6人ですね、少々お待ちくださいね。」

 小鶴さん、ちょっと恥ずかしそうですが微笑んで応対していますよ。うんうん、がんばっていますね。椅子を二脚出して、6人席を作って、お通ししています。

「…紅茶は400円でダージリン、アッサム、ディンブラとご用意しております。クッキーは10個200円でお出ししております。いかがなさいますか?」

「えっと、紅茶は詳しくないんだけど、どう違うのかな、灯里あかりちゃん。」

 あ、やっぱりお友達から聞かれていますね。あらあら、でも小鶴さん、すらすらと説明できていますよ。物覚えの良い娘ですからね、そのくらいの解説は難しくありませんでしょう、日頃から言われている事ですし。

「…はい、承りました。少々お待ちくださいませ。」

 という事で、少々の間小鶴さんは芦口さんと塩尻さん達のグループにかかりきりになります。結構クッキー出ましたね、準備室から出してきませんと。

「菜々子さん、クッキーの準備を…。」

「ええ、解ったわ。」

 一つ微笑んで、バックグラウンドに直結させてある準備室に下がって、クッキーを出す作業にかかる菜々子さん。移動販売組も戻ってきては準備室で一休みをして、また販売に行っていますよ。今年は好調ですね。


「こんにちは~、みんな元気にしているかしら~?」

 あら、このお声は…赤松あかまつ先輩! あ、山名やまな先輩に尼子あまこ先輩もご一緒ですよ!

「まあ、先輩方、ようこそおいでくださいました。ちょうど席も空いております。さ、中へどうぞ。」

 天野先輩が代表して応対に出ます。

「あら、今年は机一つ増やしたのね~。準備は結局どうしたの~?」

「一昨日の午後を公認欠席にして、前倒しにしましたよ。先輩方からのご助言のお陰ですね。」

 そう赤松先輩と天野先輩がお話をされているのが聞こえます。

「一年生も5人入ってくれたと聞いていますよ。みんなよくやってくれているとも。」

 そう山名先輩が微笑んでいらっしゃいます。

「そうですね、みんな部活動に励んでくれていますよ。紅茶、どうします? 私がいれます? それとも、一年生にいれてもらいます?」

 えっ、小鶴さんにいれさせるのですか、天野先輩⁉ それは指導担当者として私も物凄く緊張しますよ⁉

「それじゃ一年生にお願いしようかしらね~。後輩の後輩はどこまで育ったのかしら、楽しみだわ~。」

 そう赤松先輩が笑っていらっしゃいます。

「ディンブラ3つとクッキー6セットですね、ありがとうございます。少々お待ちくださいね。」

 天野先輩がそう注文を取りまして、小鶴さんに指示を出しています。

「…えっ、卒業生の先輩方なのですか…⁉ わ、私がいれて良いのですか⁉」

 さすがに小鶴さん、ちょっと慌てていますよ。

「うん、ご指名なの。新入生の腕を見てみたいって。みんな暖かい先輩方だから、大丈夫だよ。小鶴さんの紅茶はもうお客様にお出ししても恥ずかしくないレベルに来ているから、安心していつも通りにしてちょうだいね。」

 天野先輩がそうおっしゃって、小鶴さんの背中をぽんと一つ軽くたたいていますよ。私もごあいさつにうかがいましょうね、とてもお世話になった先輩方ですし。

「ご無沙汰しております、赤松先輩、山名先輩、尼子先輩。お元気そうで嬉しいです。」

 先輩方の机にうかがって、そう頭を下げる私です。

「姫ちゃん久しぶりね。去年よりもっと女の子らしくなったかな?」

 そう尼子先輩が笑ってくださいます。

「そうですね、可愛らしくなったように思います。今年は喫茶のエプロン、お揃いなのですね。」

 山名先輩がそうおっしゃいます。可愛く…なったのでしょうか。そこはちょっと自信はないです。

「色々手を加えたのね、良い事だわ~。エプロンは手芸部さんの協力かしら~?」

「ええ、私がお揃いにしてはどうかとデザインをしまして、野口のぐち部長や絵里奈えりな先輩、石川いしかわ先輩のご協力で作って頂いたのです。」

 赤松先輩に問われて、そうお答えする私です。制作面では手芸部の先輩方の方が役割が大きかったですからね。私は補助に回っただけでした。

「あらまあ、それは後でお礼を言わないといけないわね~。そうそう、手芸部と言えば部長は明日、中里なかざとさんと一緒に来るそうよ~。私達より中里さんを選ぶあたり、部長らしいわよね~。」

 とおっしゃって、くすくすと笑う赤松先輩です。まあまあ、そうなのですね。それはそれで楽しみですね。

「…お待たせを致しました、ディンブラ3つとクッキー6つでございます。お口に合うと良いのですけれども…。」

 あ、小鶴さんを菜々子さんが運んできてくれましたよ。紹介しましょうね。

「一年生の小鶴灯里さんです。指導担当は天野先輩と私です。もし何かあればそれは私の指導に行き届かないところがあったという事ですから、私におっしゃってくださいね。」

 もちろん小鶴さんが傷つくような事をおっしゃる先輩方ではないと思っておりますけれども、ここは後輩をかばいましょうね。実際指導責任というものはありますから。先輩方も簡単に自己紹介をして、調理部をよろしくねとおっしゃってくださいましたよ。

「姫ちゃんはどうですか、後輩から見て。頼りになる先輩になりましたか?」

 そう山名先輩が小鶴さんに聞いていますよ。うう、これは何を言われるか怖いですよ⁉

「はい、いつも優しく丁寧に指導してくださる、素敵な先輩です。紅茶も調理の腕も、先輩のお陰で随分上達しました。」

 ちょっと頬を赤らめながら、小鶴さんはそう言ってくれましたよ。ほっ、沙樹子さんにやられてばかりの頼りない先輩ですとか言われなくて良かったです。

「で、早島はやしまさん、宇野うのさんは少しはまともになったの?」

 尼子先輩がそう…。えっと、これは何ともかんとも。

「いいえ、全く。腐敗が進んで手のつけようがなくなっておりますので、そろそろ廃棄処分を本気で考えなくてはいけないかと思っているところです。」

 何か諦めたようなお顔で菜々子さんがおっしゃいます…。ええっと、でもあんまり擁護できないです、夏休み中は本当にひどかったですし。あれで一気に評判を落としましたよね、沙樹子さんは。

「姫ちゃんとは全然別のベクトルで心残りだった後輩ね~。姫ちゃんはうまく行っているみたいで良かったけれど、宇野さんはやっぱり駄目なのね~。お玉もう壊れていないかしら、大丈夫?」

 赤松先輩が妙な心配をし始めましたよ。確かにお玉もあんまり叩いていたら壊れそうですよね、明らかに本来の用途ではありませんから。

「今のところはリベットの緩みは無いようです。しっかりしたお玉ですね、あのお玉は。」

 何を生真面目に答えているのでしょうね、菜々子さんも…。

「ずっと前の部長さんが、わざわざ金物屋さんに行って品比べをして買って来たらしいわよ~、あれは。」

 そんな舞台裏があったのですか、赤松先輩…。知りませんでしたよ、私…。

「それでは、ごゆっくりお過ごしくださいね。」

 みんなで一礼して、定位置に戻ります。結構お客様多いですね、今年は。クッキーがどんどん売れて行きますよ、これなら500個行けるかもしれません。


 しばし他のお客様の応対をしていましたら、赤松先輩たちの机からお呼びがかかります。

「はい、お会計でしょうか?」

「ううん、今度は姫ちゃんの紅茶の腕を見たいなと思ってね~。上達したかしら~?」

 追加注文ですか、今度は私をご指名で、赤松先輩…。

「解りました、銘柄は何になさいますか?」

「一つずつお願いするわね~。」

 うっ、これ飲み比べされるのですね、小鶴さんには緩かったですけれど、私には厳しく来ましたね…。

「承りました、少々お待ちくださいね。…小鶴さん、茶器の片づけをお願い致します。」

 そうお願いをして、バックグラウンドに下がる私です。お湯は薬缶一個で沸かせますけれど、ポットは気を付けませんとね…。

「…褒めて頂けました、一年生としてはかなり上出来の紅茶ですと…。姫先輩のご指導の賜物です。ありがとうございます。」

 茶器を下げてきた小鶴さんが、そう言ってくれました。

「いえいえ、小鶴さんの努力ですよ。先輩方に認めて頂けて、私も嬉しいですよ。」

 お湯の沸くのを待ちながら、そう答える私でした。


 そんな訳で私の紅茶も先輩方に試される事になったのですが…。

「…うん、上達していますね。私のレベルは超えられたのではないかと思います。」

 そう山名先輩がおっしゃいます。

「そうだね、私もここまでいい味は出せないかなー。さすがに天野さんの直弟子だね。」

 こちらは尼子先輩。そうですね、調理部随一の紅茶の腕をお持ちの天野先輩に日頃指導して頂いたのは大きかったと思います。

「同時期の天野さんにも負けないかもね~。姫ちゃんもがんばったのね~。」

 赤松先輩にもそう褒めて頂きましたよ。嬉しいですね。

「ありがとうございます、先輩方。」

 微笑んでお礼を言い、一礼してまた定位置に戻る私でした。

 先輩方はその後、天野先輩の紅茶も試されてから帰って行かれました。ちなみに天野先輩の腕の評価は『私達を完全に超えられた。』というものでした。


「いらっしゃいませ、お二人様ですか?」

 と応対に出る私…あら、どうもこのお二人には見覚えが…。ああ、科学部の米山よねやま絵理えりさんと、松川まつかわ乃蒼のあさんですよ。芋煮の時やインターハイの応援の時にお会いした記憶があります。

「はい、空いていますか?」

「はい、すぐご案内できます。こちらのお席へどうぞ。」

 そうお二人を案内します私。ご注文はアッサム二つにクッキー二つでした。紅茶をいれてお出しして、それとなく様子をうかがってしまう私と菜々子さん。どうしてもこのお二人を見てしまいますと、夏に沙樹子さんがとんでもなく拗らせて大迷惑をかけた件を思い出してしまうのですよね、お二人に責任は全くないのですけれども。

「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」

 菜々子さんが応対に出ましたが…。

「…いえ、クッキーだけで。」

 という声が。あら、あれは秋山あきやま文子ふみこさんではありませんか。米山さんと相席などされないのですね。

「クッキー5つで1000円になります。」

 え、5袋もお買い求めくださったのですか、秋山さん。ありがとうございます。内心でお礼を言っても、通じませんけれどもね。


「あ、いらっしゃいませ、松本まつもとさん。皆様もご来店ありがとうございます。」

「おう姫、今年は来られたよ。せっかく一休みするならこっちかなと思ってな。」

 嬉しいですね。合計で6名様のご来店です。さ、お席を作ってご案内しましょうね。

「少々お待ちくださいね、ただいまお席をご用意いたします。」

 と思ったら、もう菜々子さんが準備をしてくれていましたよ。慣れてきましたね、連携もお手の物という感じです。

「こちらへどうぞ。」

 ご案内して、注文を取る私です。やっぱり紅茶の種類と特徴は聞かれましたけれどもね。普通はあんまり紅茶の銘柄まで気にして飲まないですものね…。そもそも『紅茶』としか出していないお店の方が多いですし。

 トレー二枚で一気にお出ししてしまいましょうね。お待たせするのも何ですし。

「おわ、姫、そんな真似ができたのか⁉」

 何か松本さんに驚かれてしまいましたよ⁉ いえ、さすがに両手を使って二枚のトレーなら人間不可能ではありませんでしょう?

「さすがに二年目ですからね、多少慣れました。こちら、ダージリンでございます。」

 順番にお出しして行きます。ちなみにクッキー、二つずつ売れましたよ。12袋一気に売れた勘定になります。喫茶の方も売れ行き好調ですよ。

「ありがとうございます、ごゆっくりお過ごしくださいね。」

 どうやら部のお仲間さんのご様子ですが、陸上部さんは男子女子で部が分かれていませんから、男女混合ですね。でも、仲が良さそうで何よりなのです。

「あの子が噂の『姫』か? 普通の女子と全然変わりねぇじゃねぇか。」

「本人が聞いたら喜ぶぜ、岡本。」

 ん、陸上部の岡本さんって…え、一年生の時に喧嘩した相手でしたよね。和解して仲良くなったのですか、松本さん⁉ 何かそれは凄い気がするのですけれど⁉


 …その後も色々な人間模様が見られたのでした。喫茶に来る方も色々ですからね。校外からのお客様もそれなりの数、見えられましたよ。初日としては上々でしょうか。

 嬉しい事ですね。


文化祭初日、喫茶の当番に入る姫です。

一緒に入るのは天野先輩と、小鶴さんと、応援の菜々子さん。

姫を中心に連携もうまく取れているみたいです。


お客様方も色々な方が見えられています。

今年はお客様多い様子で、忙しいみたいですね。

姫は良い事だと喜んでおります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今年の喫茶はお客様も多いようでなによりです。卒業された先輩方にも来てもらって後輩としては嬉しいですよね! 小鶴さんも褒められたようでなによりです。明日はあのカップルが来るみたいなのでちょっ…
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