第97話 ~一年生の修練です~
第97話 ~一年生の修練です~
5月第2週になります。先週は連休明けという事もあってごく短かったですね。柏餅は好評を頂けて幸いでした。私も小さな頃は特に疑問も抱かずに柏餅を兄様と一緒に食べていたものでしたけれども、今にして思うと小さな頃から桃の節句に菱餅と雛あられの方が嬉しかったなあ、なんて贅沢な事を思ってしまいますね。
まあ、最近は美琴さんと一緒に桃の節句になりましたから、良いのでしょう。もっとも美琴さんの方が『面倒だ』と言って、もうしまわれっぱなしなのですが、お雛様。
日曜日の夜、私は春キャベツを使ってロールキャベツを作ります。我が家はクリームシチューで煮るのが定番なのですけれど、何で煮るかは結構差があるみたいですね。調理部レシピでも何種類かありました。そこはお好みで、というところでしょうか。
「なんかいい匂いがするな…。」
「調理中に悪臭がしていたら嫌だよ、兄さん。」
居間でテレビを見ている兄様と美琴さんがそんな会話を…。世の中には強烈なアンモニア臭を放ちながら調理をしたり食べたりする食べ物もあるのですが、我が国の一般家庭でそういったものが一般的に食されるというお話は寡聞にして聞きませんね。くさやの干物くらいでしょうか、日本料理で明らかな悪臭と申しますと。もっとも匂いの感じ方も人それぞれですし、良い匂いも度が過ぎれば悪臭と波奈さんが言っていた通りですから、『良い匂い』と一口に申しましても、存外難しいものなのですが。
「今日の夕ご飯はロールキャベツですよ。お二人ともお好きでしょう。」
ルーを入れて少し煮込まないと味がしみこまないのですが、煮込みすぎると焦げ付くので火加減が目が離せないのです。そんな訳で背中を向けたまま私は声を掛けます。
「お、良いな。あれで食う白米がうまいんだよな。」
「私はロールパンが好きかな。シチューにはパンの方が私は合うと思う。」
という訳で、シチューには白米派とパン派の争いがここで生まれるのですよ、いつも。
「はいはい、両方準備してありますからね、仲良くなさってくださいね。」
私ももう学習していて、先回りして用意済みです。まったくもう、お二人とも注文が多いのですから。お母様がいつも食事時に不機嫌になっていたのが今ではなんだかよく解りますよ。文句ばかり言うのですもの、お二人とも。
という事で、ロールキャベツのクリームシチュー煮で夕ご飯です。これ一品でお野菜もお肉もたべられるという栄養的には優れモノなのですが、実は品目数はそれほど増えないのですよね。キャベツと挽き肉だけですから、使っているのは…。
「食べられるつまようじってのは無いもんかね。」
などと兄様がおっしゃいます。そういえばお隣の国には澱粉で作った食べられるつまようじがあると聞いたことがありますね。それでキャベツを留めればうっかりの怪我も防げますでしょうか。もっともキャベツの巻き方を工夫するとつまようじ無しでもちゃんと巻けるというお話ですから、そちらを考えた方が現実的でしょうけれども。
「兄さん、研究課題にしてみれば? 案外需要があるかもよ?」
などと美琴さんが混ぜっ返していますよ。
「俺工学系だからなあ。農学とか生物学だったらできたんだけどな。」
との事でした。うーん、まあそうですよね、ちょっと分野が違いますよね。
「そのくらいの手間を惜しむな。一本一本留めてる絢子の苦労に感謝しながら食べろ。大変なんだぞ。」
「あらお父さん、娘には甘いんだから。私の時にはそんな事言ってくれなかったじゃない。」
お父様とお母様がなんだかそんなやり取りを…うーん、そういわれればそうかもしれませんね。黙々とご飯を召し上がっていた記憶がありますよ。
「そりゃお前、子供はかわいいだろう。この歳で飯を作ってくれる子供なんて世の中滅多にいるもんじゃないぞ。」
「まあそうねえ、それは確かにそうなのよねえ。絢子もよくやってくれていると思うわ。」
なんだか急にこそばゆい会話になりましたよ⁉ 何ともコメントし辛いです、逆に!
「しかもうまいからな、大したもんだと思う。」
「最初の頃はお母さんと共同作業だったのに、もう一人で作ってるもんね。」
兄様と美琴さんまで…ええっと、何とも言い辛いですよ、これ。
「…兄様、ご飯のおかわりはいかがですか?」
話題をそらしましょう。もしくはいったんこの場を外しましょう。
「おっ、頼む。そのうえ気が利くと来たもんだ。これで事情持ちでさえ無けりゃなあ。」
「ねー、嫁ぎ先に困らなくて済むのに。神様も残酷だよね。」
なんですか、今日は褒め殺しなのですか。恥ずかしいですよ、もう。
夕ご飯が終わって自室に下がりましたら、スマホさんにチャットが来ていました。あら、古川さんですね。いまだに私の何を気に入って友人になりに来てくださったのか解らないままなのですが、こうしてちょいちょいとやりとりはあるのですよ。どう過ごしてた? という話題になったので、ロールキャベツを作って食べられるようじの話が出たことをお話してみます。そんなものがあるの? と驚いてもらえました。
その後も少し雑談を。古川さんも運動部ですから、インターハイ前で忙しいみたいですね。しばらくお話をしました後、お体にを気を付けてがんばってくださいね、とお送りして、お話は終わりました。大体いつもこうして何気ない日常会話をして終わるのですが…まあ、お友達ってそんなものでしょうか。私、あまり普通のお友達っていたことがないので、感覚が今一つつかめないのですが…。菜々子さんもお友達ですけれど、普通とはちょっと違う気が致しますし…などと申しますと菜々子さんに怒られてしまいますでしょうか。皆さんは男子の友人ですから、やっぱりちょっと異なりますしね。仲はとても良いのですけれど、やはりどこか埋められない距離や溝を感じる事というのはあるのです。
翌日、月曜日。今日は部の活動日ですね、と思いながら登校します。うーん、五月晴れの空が気持ち良いですね。見上げると結構日光が強くて眩しいのですけれどもね。美琴さんからは繰り返しUVケアをしっかり、と念を押されています。せっかく肌白くなったんだからそのまま保ちなさいと言われているのですよ。でも、色の白いは七難隠すと申しますものね。いろいろ難もある私の事、隠してもらえるのなら隠してもらった方がありがたいというものです。あ、ちなみにUVケア用品も菜々子さんの家からダース単位で卸して頂いて、美琴さんとお母様と分けて使っていますよ。ありがたい事です。
駐輪場に着いたら、沙樹子さんがなんだかとぼとぼと歩いていく様子を見かけましたが…声を掛けるにはちょっと遠くて、機会を逃してしまいました。うーん、まだお元気がないのですね。なんだかやっぱり気に掛かります…。いつも沙樹子さんからは被害を受けてばかりいますけれども、こういう被害の無くなり方は嬉しくないのです。元気なうえで行状を改めて頂かなくてはいけません。そちらが本筋でしょう。
教室に着きましたら、皆さんもう先に来ていました。
「おはようございます、皆さん。」
声を掛けて微笑んで、自分の机に鞄を置く私です。皆さんからもおはようのごあいさつ。
「何をお話していたのですか?」
と、小首をかしげて聞いてみます。
「インターハイに向けての状況確認、といったところだ。」
そう柿沼さんが教えてくれました。そうか、皆さんも運動部ですものね。
「うちも忙しくてなあ、放課後は下校時間までびっちり練習だ。のんびりできる暇がない。土日も基本的には出番だしな。」
今度は工藤さんです。ううん、本当にお忙しいのですね…。
「お陰で女の子探すのも休み時間くらいしかできないんだぜ。」
ええっと、それはしない方が良いと思いますよ、木島さん。いえまあ、恋愛は自由ですけれど、迷惑さえかけなければ。
「木島君は愛をばらまきすぎだから、強制的に制限されるくらいでちょうど良いんじゃないかな。姫もそう思うでしょう?」
あの、毛野さん、そこで私に振らないでくださいませんか? コメントに困るのですが…。
「何言ってやがる女たらし、愛想振り撒き歩いてるのはお前も一緒だろうが。」
「木島君まで何を言い出すんだい⁉ そんな事実は無いと言っているでしょう⁉」
何かやり合っていますが…とりあえず、通りすがりのクラスメイトの女子の目線が冷たい事がすべてを物語っていますよね。私、どちらにも味方はできませんよ?
「朝からまた何を騒いでいるのよ、また駄犬からミカヅキモに扱いを落とすわよ。」
あ、菜々子さんです。単細胞生物扱いも何か久しぶりのような気が致しますね。
「おはようございます、菜々子さん。葉緑体があって便利ですね、それは。」
微笑んであいさつをする私です。何かずれた気もしなくも無いですが。
「おはよう姫。姫が餌をやる必要もなくなるわね、水と日光があれば生きて行けるわよ。」
確かにミカヅキモでしたらそうですね。ではなくって、止めましょうね、私。
「それはそうと、特に今日は悪い事はしていませんよ。木島さんも先日121連敗を記録して以来大人しいものですし、毛野さんは最近はもう近寄ると女子の方から逃げますから、余計な愛想を振りまいてはいませんし。」
なんだか我ながらひどい言い様になった気が致しますが、気にしたら負けですね。
「どうして姫までそういう扱いになるんだい⁉ 僕は潔白だ、そんな事実はない!」
毛野さんはまだ名誉挽回汚名返上をあきらめてはいない様子ですが、日頃の言動が改まらない限り無理でしょうね。でもあれ、自覚無しにやっているみたいですから難しいでしょうね。
「とりあえず私のところに複数回苦情は来ているけれど。どうして私が駄犬どもの世話をしなくてはいけないのかしら。」
「俺達も別に世話になりたくはねぇですよ、早島さん。」
「そう思うなら少しは行動を慎みなさいね、無節操な駄犬は。」
あらあら、菜々子さんにしては珍しく困ったお顔で溜息ですよ。最近少し当たりが柔らかくなった気がしますよね。気のせいでしょうか。
「うむ、とりあえずもうどうあがいても学年内での評判は回復しないと思うのだ。」
工藤さんがそう腕組みをして渋いお顔です。
「それは同感だ。なぜ僕と工藤君まで巻き込まれているのかがいまだに謎なのだが。」
確かにそうなのですよね、どうして『あの四人』で一くくりにされたのやらです。私も一緒にいたはずですから、それなら『あの五人』になりそうなものなのですが。
「ちなみに姫は『学年で一番評判の悪い男子と付き合う奇特な人』と言われているわよ。」
「俺が聞いた話では『学年一毒舌な女王陛下と対等に接する奇特な女子』だったけどな?」
菜々子さんのお話にしろ木島さんのお話にしろ、『奇特な人』というのは変わらないのですね、私。まあ良いですけれど、変な人なのは自覚していますから…。
「うーん、どちらも私よりも周囲の方の扱いがひどいですね?」
そうコメントをしましたら、
「当たり前でしょう。」
「当たり前だろう。」
と、同時に答えられてしまいました。これは何とも苦笑するしかありませんね…。
お昼休み、いつも通り皆さんと学食に行きます。さていちごミルクを自動販売機で買って…と。おや。
「あ、ご無沙汰しております、姫先輩。」
「あら、芦口さん。お元気にしていますか?」
自販機の前でばったりと芦口さんと会ったのです。
「そちらの皆様は噂の…?」
「…ちなみにどのような噂です?」
「…えっと、ご本人方を前にして言うのははばかられる噂です。」
…左様ですか。いえ、芦口さんを責める気は毛頭ありませんよ。
「まあ噂はともかくとして、いつも仲良くしてくださる皆さんです。皆さん、こちらは後輩の芦口さん。」
「ああ、存じている。全校集会で姫と一緒だったからな。工藤だ、よろしくな。」
「姫の後輩か、よろしくな。木島だ。」
「姫の後輩なら格別目を掛けてあげないとね。毛野です、よろしくね。」
「柿沼だ、よろしく頼む。」
あんまり接点ができるとは思えないのですが、一応皆さん自己紹介です。うーん、でも私を通じで一緒になる事もありますでしょうか。そのままちょっと立ち話。
「先週は姫先輩、柏餅を作ってきたのだそうですね。塩尻君が嬉しそうに話してくれましたよ。そういえばきちんと食べた事って無かったなって。」
あら、芦口さんにまでそんなお話をしていたのですか。嬉しいですね、なんだか。
「ついたくさん作ってみたくなりまして。せっかくですからね、一緒に食べてもらいました。」
そう微笑む私です。
「良いですね、私も少しはお料理くらい、出来るようになると良いのですけれど。」
「ふふ、調理部で鍛えますか?」
そう冗談めかして言ってみます。
「うーん、考えておきます。でもやるなら早いうちからの方が良いんですよね…。」
ちょっと思案顔になる芦口さんです。
「まあ、検討してみてください。兼部でも構いませんし、もともと交流のある部同士ですから、遊びにいらしていただいても全く構いませんし。」
実際、私も手芸部さんに遊びに行かせてもらっていますから、と微笑みます。
「そうですね、お願いしてみようかな…。灯里ちゃんも居るのだし…。」
「あら、小鶴さんとは仲良くなれたのですか?」
だとすれば嬉しい事ですが。
「ええ、お茶会の後、クラスでもお話するようになりまして。仲良しになってもらいました。」
あらあら、それは良い事ですね。交流が広まるのは嬉しいですよ。
「ふふ、いつでも歓迎しますからね。」
「はい、ありがとうございます。」
軽く頭を下げて、お話を終える私達。
「すみません皆さん、お待たせしました。」
皆さんの方に向き直り、そう言葉を掛けます。
「いや、構わないが…。普通に女子生徒同士に見えるんだがなあ。」
「だよなぁ。女子っつっても色々いるからな、その範囲からはみ出てるわけじゃないと思うんだが。」
何か思案顔の工藤さんと木島さん。
「うん、普通に良い子だったと思うけど。特に変な感じも受けなかったけどなあ?」
「…僕もそう思う。」
何か引っかかりを感じますが…何かあるのですか、毛野さん、柿沼さん。
「…何か、不審な点でも?」
少々不安に感じて、たずねてみる私です。
「…まだ、弁えぬ一年生もいるからな。」
工藤さんが少々苦い顔を…ああ、そういう事でしたか。私も察しが悪いですね。
「僕も諭したことがあるかな。まあ、物珍しさもあるんだろうけどね。」
「うむ、僕の部は当事者もいるからな、そのような事を言うものではないと指導している。」
毛野さんと柿沼さんも。まあ、皆さんは理解ある方ですからね…。
「俺んところは『芦口でも良いから彼女が欲しい』って一年が言うから『でも』って言い方はねぇだろうって怒ったな。『木島先輩に言われたくないっす。』って返されたけどよ。」
…あの、まだ5月ですよね。なのにどうして後輩からまでそんな軽い扱いになっているんですか、木島さん。
「まあ、そんな理由で来られても嬉しくないと思いますけれど…。」
少なくとも私でしたら嬉しくないです…。
という事で放課後になりました。調理部の活動日なので調理室に行きましたら…あら、芦口さんが来ていますよ。
「あ、姫先輩。今日は一緒に混ぜて頂くことになりました。よろしくお願いします。」
「あらあら、さっそく来てくれたのですね。一緒にがんばりましょうね。」
そう微笑み返します。
「そんな訳で芦口さんは天野さん班ね。姫ちゃん、波奈ちゃん、しっかり見てあげてね。」
「解りました、小早川部長。」
「承りましたわぁ。」
小早川部長にお返事を返す私と波奈さん。うちの班は大人しい後輩達ですし、余力もありますものね。小早川部長班は今は沙樹子さんが潰れてしまっていますし、吉川副部長班と宍戸先輩班はやや一年生の指導に手を焼いている感じですし、順当かなと思います。
「今日のレシピは牛肉とごぼうのしぐれ煮と、きんぴらごぼうね。ご飯も炊きますからね。」
との事でした。私の班は人数も多めですから、レシピは倍量ですね。ちなみにごぼうは今の時期が旬なのだそうです。通年で出回っているイメージの強いものですけれどもね。
今日は買い物は二年生と一年生で行きます。体験という事で芦口さんも一緒です。あら、小鶴さんだけではなくて、高城さんともお話できているみたいですね。良い事ですね。
「ふふ、姫ちゃんもすっかり先輩さんねぇ。」
「ええ、でも、波奈さんも後輩はかわいいでしょう?」
そんな会話をしながら見守る私達です。
戻ってきて調理です。結構切る量が多い調理になりますので、一年生三人にまな板の前に立ってもらってがんばって切ってもらいます。ちょこちょこと指導を入れる私と波奈さん。それを見守ってくださる天野先輩。時折私と波奈さんが手本を見せることもあります。…芦口さん、手先が器用なのか割と上手ですね。良い事ですね、これならレシピさえ覚えれば、自宅で作ることもできるのではないでしょうか。
小鶴さんと高城さんも包丁に慣れてきた様子で、だんだん手つきが良くなっています。うん、だんだん上達していますね。良い事です。まだまだ教えないといけないことはたくさんありますけれども、これならこなしていけるようになるのではないでしょうか。思わず波奈さんと顔を見合わせて、微笑み合ってしまいます。
「…切り終わりました。」
小鶴さんから報告が入ります。ボウルにはごぼうと人参と牛肉の山。
「それじゃしぐれ煮の方から始めましょうか。」
との天野先輩の指令に基づいて、一年生三人に調理手順を確認してもらう私と波奈さん。特に誤って覚えているところは無いですね。よし、やってもらいましょう。三人で交代しながらとなると、結構部分だけの調理になりますけれども…。
きんぴらごぼうも出来上がって、ご飯も炊きあがります。もちろんゲスト参加の芦口さんも一緒にご飯です。
「咲良ちゃん、上手だったね。私ちょっと負けてるかも。」
「そんな事ないよ、やっぱり灯里ちゃんの方が上手だよ。」
なんて小鶴さんと芦口さんがお話していますよ。でも、実際芦口さん、結構上手でしたね。ちょっと逃すには惜しい人材のような気がしますが、まさか手芸部から引き抜く訳にも行きませんし。時折遊びに来てもらうくらいが関の山ですよね。絵里奈先輩も紅茶のいれ方を習いにいらしていて、今ではもうずいぶん上達していますものね。調理にまで参加したのは私の知る限りでは初めての例になりますけれども、良いのではないでしょうか。
「どうだった? 芦口さん。」
あ、小早川部長も話しかけに行っていますね。
「はい、楽しかったです。灯里ちゃんも高城さんも親切にしてくれましたし、姫先輩も彦崎先輩もとても丁寧に接してくださって、ありがたかったです。…良い雰囲気の部ですね、調理部さんは。」
そう微笑んでくれました。
「それは良かったわ。ご飯も楽しんで行ってね。」
芦口さんの肩をぽんと叩いて、小早川部長が笑っています。
「いただきます。」
と皆様で唱えて、ご飯です。…今日の一年生の机は賑やかですね。
「咲良ちゃんも調理部来ちゃいなよ!」
福田さんがおかずをちょっと交換しながら、そんなお誘いを。
「えっ、でも、手芸も楽しいんだよ? みんなも手芸部にも遊びに来てよ、楽しさを教えるから。」
そう芦口さんが微笑み返していますよ。それも良いですね、相互交流で。
「それも良いかもね、でも急に5人もお邪魔したらびっくりされないかな?」
小鶴さんはそこを気にしている様子。裁縫室の容量的には充分入りますが。
「うちの部長と副部長なら大丈夫だよ、そのくらい暖かく包み込んでくれるから。」
と、芦口さん。そうですね、野口部長さんと絵里奈先輩なら、笑顔で迎えてくれると思います。あ、私も一緒に着いて行ってあげれば良いんですよね、これは。
「…興味はあるかな、やってみたい。」
と、赤井さんも微笑んでいます。
「良いね~、蒼穹ちゃんや佑月ちゃんとも会いたいしね~。」
高城さんもそう言って笑っています。これは社交辞令で終わらせるにはもったいない流れですかね。ちょっと立ち上がって、一年生の机にお邪魔しましょう。
「ふふ、みんな興味があるみたいですね。それでは今度、私と一緒に手芸部さんにお邪魔してみましょうか?」
そう提案してみます。
「…姫先輩が一緒に来てくださるのでしたら、心強いです。」
と、小鶴さん。他の皆さんもそうだね! と微笑んでくれています。これは近々、野口部長さんと打ち合わせてお邪魔する方向でしょうか。
なんだかおもしろい事になってきましたね。同じ家庭科系の部同士、仲が良いのは良い事です。
私も懸け橋になれますよう、ちょっとがんばってみましょうね。
古川さんとの交流は続いているようですです。姫はいまだに不思議がっていますが…。
芦口さんとばったり会って、誘ってみたらさっそく調理部に遊びに来てくれました。
お昼の姫とのやりとりの後、クラスに帰って小鶴さんとお話したのでしょうね、芦口さん。
ちょっと溶け込みに難のある様子も見受けられますが、友人も増えている様子。
後輩組もうまくやっていってくれるでしょうか。