第1話
にわかに吹きつけた一陣の風が、足許の砂をまきあげた。
ゆったりとした袖で目もとを庇って、ウーは風が吹き抜けるのをやり過ごす。
石を積んだ壁で周囲をかこわれたこの街は一見して砂の侵攻を許さぬ堅牢さを持って見えるが、砂というのはそれを上回る抜け目の無さでいつの間にか街じゅうに降り積もり貯まっていく。
熱砂の国で生きることはそのまま、砂と戦うことを意味しているのである。
広めにとられた路地に並んだ露店のひとつではまだ若い店主が億劫そうに手を伸ばして日除けに張った布が飛び去るのを防いでいた。
ウーに気付いて目を細め、男は日に焼けた面に人のよさそうな笑みを浮かべる。
「やぁ、今日は何をお探しで?」
男が露台に並べているのは、多種多様の香辛料である。
主には植物由来のものだが、なかには動物由来の怪しげなものも混ざっている。
曰く、火蜥蜴の尾の干物だの、一角獣の睾丸の油漬けだの。
要は呪いにつかう原料を扱う店なのだが、今日ウーが求めているものがここにあるとは思われない。
「僕のお師匠様が喉を傷めていて……」
それでも自身も腕のよい呪い師でもある彼ならば、己が考えているより余程いい対処の方法を知っているかもしれないと、ウーは躊躇いがちに口を開いた。
「質のいい氷砂糖でもあればと思っていたんだけど、あまり良いものがみつからなくて」
「飴玉の代わりにしようってんだね。ああ、そういや次のキャラバンの到着が遅れてるってねェ。それでイマイチなもんしか残ってねェんでしょうな。……ならコイツはどうです?」
そう言って店主が差し出したのは、しわしわに干からびた赤っぽい塊である。親指の爪くらいの大きさで、表面にうっすら粉をふいている。
視線に促されて、ウーは塊を口に含んだ。
「……酸っぱ!!」
「ははは、坊っちゃんにはまだ刺激が強かったか。しがんでると甘くなるんで、飴玉の代わりになるんですよ」
刺すように舌を攻撃する酸味に涙目になりながら、ウーは服の中に手を入れる。ウーには強すぎる刺激だけれども、ずっと年配の師匠にはちょうどいいかも知れない。
「坊っちゃんはやめてよ。ここではただのウーなんだから、そう呼んでくれなくちゃ」
懐から取り出した小銭を渡すと、店主は言うまでもなく渡した銭の分の商品を手早く計量し、油紙でくるんで懐にちょうど納まる大きさの包みにしてウーの手に持たせてくれた。
「王様の御令息を一介の商人が呼び捨てに? そりゃ畏れ多いことで」
男はおどけたようにウーの顔を覗き込んでくる。確かにウーの父はこの国の王である。だが、嫡出子ではないウーは今はただの学生という身の上なのだ。なにしろ王には四八人の愛人がいる。こどもの数はそれ以上である。
「……からかってるでしょ?」
「バレたか」
少し困ったようにウーが睨むと、店主は悪気なく肩を竦めて見せた。
「じゃあな、ウー」
「じゃあね、我が名付け親殿」