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沐浴場

「へぇ,ここが沐浴場か」


 部屋で短ラン,ボンタンを脱ぎこの世界の普段着に着替えた俺は桜ちゃんだけを持って3人で宿を出た。

 まあ,出たと言っても目的地は隣の建物の沐浴場である。


「はい。建物は円形になっていまして扉ごとに個室になってます」

「沐浴場ってことは水があるんだろうけど水源は?」


 この世界に上水道があるとは思えない。どっからか水をひいてくるなりする必要があるはずである。

 だが,ここにくるまでの間に近くに川などが流れているような感じは無かった。質のいい湧き水でも出てるか井戸などで地下水をくみ上げるなどしなければまとまった水を得るのは難しいのではないだろうか。


「ここには水を産む魔石である水石の大きい物が設置されています」


 簡単に受けた説明によると塔などの探索で手に入る魔石というものがあり,その魔石は属性を帯びていると生活に役に立つ道具になるらしい。

 塔探索での主な収入源というのが魔物のドロップするこの魔石の売却益だそうだ。

 その中で水石と言われる魔石は魔力を通すと水が湧き出す。

 沐浴場の構造としては真ん中に建てられた太く丸い柱の上に大きなお皿のような器を置き,その中心に水石を設置。そこから産み出された水が器に溜まっていく。 

 後は器の縁に周囲に設置した個室の数だけ切れ目を入れておくとそこから水がこぼれ続けるという仕組みらしい。

 流れ出た水はこの下の地中にある地下水溜まりに地中をろ過されながら次第に流れ込んでいき,その地下水は井戸水として街の生活用水として再利用される。


「つまり水源のないこの街が街としてやっていけるのは塔への移動手段があるということなのだな」

「はい。元々は地下水源のみに頼って作られた街だったらしいのですが、何代か前の領主の時水源が涸れかけたことがあったそうです。

 その時の領主は新たな水源の発掘や水の輸入などに予算を使わず,大金をはたいて塔への転送陣を設置しました。

 転送陣の設置はすぐに効果の現れるようなものではなく当初は住民達の反感を買ったようですが,その転送陣を目当てに塔探索者が多く訪れるようになったことで経済が潤い、更に魔石が安定供給されるようになったことで水不足などの問題も解消されました。

 そのころから人口が増え始めたので街壁を設置し,更に外町が形成されていくほどに街が大きくなっていったそうです」

「ちょっと待って。そしたら塔とこの町は持ちつ持たれつの関係だよね…塔が討伐されちゃうとこの街は困るんじゃないの」


 塔から得られる魔石を使うことで発展してきたこの街は塔が無くなってしまえば経済が立ちゆかなくなるのではないだろうか。

 塔を討伐するということは魔物の驚異を無くすという意味では意義があるが、その魔物から得られる物を生活の重要な部分に組み込んでしまうと塔が討伐できなくなってしまい本末転倒な気がする。

 もしかすると塔とのうまい付き合い方というのは魔物を外に排出させない程度に魔物を狩り、殲滅せず生かさず殺さずというのが一番いいのか?


「そうですね…その辺は世界の矛盾かもしれませんね。ただ塔を討伐するとその周辺はとても豊かな土地になるそうです。

 ですから塔がある地域は塔を討伐する意味もあると思います。ですがこの街のように離れた場所から塔の恩恵だけを受けているような所は表向きは塔討伐に反対はしないでしょうが、実際に討伐されては困ると思っているかもしれません」


 うん,地球だけじゃなく異世界でもいろいろあるんだなということがよく分かった。

 

「では行きましょう」


 システィナに促され受付で入場券を渡すと三人揃って沐浴場に入る。

 中に入ると休憩所になっていていくつかの椅子が壁際に置いてある。一緒に来た人と待ち合わせるための場所なのだろう。

 そこを抜けた先がT字路になっていて突き当りに扉がある。そこから一定間隔ごとに扉が並んでいてその先を見ると左右に伸びた通路はそれぞれ内側にカーブしていき徐々に見えなくなっていくのでやはり円形に作られているのだろう。


「開いている扉を選んで、中に入ったらしっかりと内から鍵を掛けてください。先に終わったら宿に戻られていても構いませんので」

「いいよいいよ。せっかく3人で来たんだから一緒に帰ろう。先に終わった人はここで待つってことにしよう」


 多分システィナは中で洗濯をする予定なので時間がかかることを想定してるんだろうけど,結局俺の洗濯物もシスティナに取られてしまったので自分の洗濯物を任せきりにして宿でくつろぐのはちょっと申し訳ない。


「さっさといくぞソウジロウ。私も水浴びするのは初めてじゃから楽しみじゃ。欲を言えば風呂に入ってみたかったがな」

「だね…よし!絶対いつか風呂を作ろう。五右衛門風呂とかならなんとかなりそうな気もするし」

「ほう,期待しておるぞソウジロウ」

「任せといて!」


 正直全く自信はないけど決意だけはある。この世界で生きていく上での目標の1つにしよう。


「お風呂というのはそんなに良いものなんですね。もし出来たら私にも教えてくださいね」

「もちろん!」


 そしてその時はぜひ一緒に入ってもらおう。風呂作成への俺のモチベーションはMAXである。

 その後それぞれで別れて個室に入った。中からドアに鍵を掛けると小さな脱衣所があり、さらに扉がある。俺は脱衣所で服を脱ぎ、全裸になるとタオル一本と桜ちゃんを持って脱衣所の先の扉を開けた。


 なるほどこんな感じなのか。扉の先は脱衣所と同じくらいのスペースがあり突き当りの壁の上からちょろちょろと水が流れ落ちていた。

 水量としては日本のシャワーに慣れた俺には全く持って物足りないが,普通の街では味わえないような贅沢なものなんだろう。

 とりあえず壁にある棚に桜ちゃんを置くと、水が流れ落ちてくるポイントに置かれたタライに溜まっていた水にタオルを浸しておいて、手で水を掬うと顔を洗う。

 うわ気持ちいい!冷たいというほどではないが水は綺麗なものだったし、この世界に来て初めて思い切り顔を洗えたという達成感が異常なほど爽快感を与えてくれる。

 その勢いでタオルを水から引き抜くと一気に身体を拭いていく。


「くふうぅ…」


 思わず声が漏れる。思えば日本にいた頃は風呂に入らずに寝るなんてことはなかった。

 いつも出来ていたことが出来なくなるというのは思ったよりもストレスが溜まるらしい。

 これでもかというほどに身体を拭き,頭から水を被って髪と頭皮を手櫛で洗った。石鹸やシャンプーが欲しいところだがさすがにそれは備え付けられていない。そもそも存在するのかどうかを後でシスティナに確認しておこう。

 もともと風呂は好きだが長風呂ではない。

 最後にエクスカリバーを零れ落ちてくる水で直に清めてタオルを絞り水滴を拭きとると桜ちゃんを手に脱衣所へと戻った。

 桜ちゃんも水浴びがしたいと訴えてくるが,錆びちゃうと困るので人化のスキルを覚えるまでは我慢してもらうしかない。

 そもそもどうやって育てるのかもよくわかってないが…

 ただ,『武具鑑定』


『桜  

 ランク: D+  錬成値33  吸精値 47

 技能 : 共感  気配察知  敏捷補正  命中補正  魔力補正』


 この『錬成値』というのを上げることが出来れば桜ちゃんのランクを上げることが出来るような気がする。

 レベル上げというからには戦いの中で使用すれば上がるのかもしれないので、塔に行くようになったら試してみる必要があるだろう。

 あとは『吸精値』。これについては完全に謎だ。これからいろいろ試してみるしかない。

 早く桜ちゃんとも話がしたいものである。


 さっぱりとした身体に衣服を纏い,満ち足りた気分で休憩室へと戻った。室内を見回すがやっぱり蛍さんもシスティナも戻っていなかった。

 蛍さんはお風呂も水浴びも経験がないはずだけど大丈夫だろうか。まあ水を浴びるだけだから問題はないはず。

 むしろシスティナがどうやって洗濯をするのかが気になる。まさか裸でタライにしゃがみこんでごしごし手洗いするのだろうか。そんなシュールな光景なら是非見てみたい。


 そんな他愛もないことを考えていると悠然とした足取りで蛍さんが戻ってきた。


「初めての水浴びはどうだった蛍さん」

「ん。これはこれで悪くないな。身が引き締まる感じがしてよい。

 これが湯の中だと今度はいい感じに弛緩できるのだろうな。これはソウジロウの甲斐性に期待せねばな」

「これは責任重大だ」

「さて,システィナはもう少しかかるだろう。時間がもったいないから訓練でもするか」

「え?」


 これから訓練ですか?ここで?さっきのシゴキ宣言はマジでしたか。


「なに心配するな。お前も楽しめる方法にしてやる」

 

 そう言うと蛍さんは周囲を見回す。


「そうじゃな。この休憩室の半分ほどでよかろう」

「えっと何をすれば」

「揉め」

「は?」

「私の胸を揉んでもよいと言っている。先ほども暴走していたお前のことだ大分溜まっているのだろう」


 そりゃあ溜まっているに決まっている。よく考えればこの世界に来てからは1人で処理するようなタイミングも無かった訳で。

 

「その力をめいっぱい使って私の胸を揉んでみよ。だが簡単に揉めると思うなよ。私はこの部屋の半分の中だけを使って避けるからな」


 ほう,つまりあのたわわな胸を餌に鬼ごっこをしようということですな。よし,受けてやろうじゃないか。公衆の面前であの爆乳を揉みしだいてやりましょう。


「その勝負受けて立つ!」

「ふん,そうこなくてはな。だがよいか,今は人は少ないとはいえここは公共の場。誰かにぶつかったり注意を受けたらそこで勝負は終了になる。もちろんシスティナが戻ってきても終了だ」

「…なるほど了解,ようは瞬殺すればいいってことだね」

「ソウジロウお前な…まあよい。やれば分かるだろう。いつでもかかってこい」


 既に俺には蛍さんのあきれたような顔は目に入っていない。着物から半ばはみ出した『あれ』しか見えていない。

 目の前にある『それ』に無造作に手を伸ばす。だが,『そいつ』はすーと滑るように遠ざかっていく。ち!小さな舌打ちを挟み更に追撃する。だが『あいつ』はどれだけ俺が追いかけても目の前からつかず離れずの位置をゆらりゆらりと逃げ回る。

 届きそうで届かない。

 それでも追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。追う。 

 追っている内に下半身に集中していた何かが収まり目の前を逃げる『やつ』を冷静に見れるようになってきた。

 『こいつ』は静かに動く。そしてぶれない。さらによく見ると思っていたよりも位置が低い。それに引っ張れるように俺の重心も下がる。そうだ!重心を低く,地面を掴み身体を放り投げるように…蛍さんに最初に教えてもらった低重力の動き方。

 そしてその後に教えてもらった正中線の維持とすり足のような上下動の少ない動きの歩法。それを意識した途端『胸』が近くに見えるようになった。

 そうだあれは蛍さんの胸だ。蛍さんの胸がぽよんぽよんと揺れながら俺の動きを導いてくれている。あの動きに合わせて身体を…


「ちょっとあんたら!いったい何してんだい!」

「あ…」


 急にかけられた声と共に何かがぷつんと切れたのを感じる。同時に視界が広がる。


「中の客が全然出てこないと思ったら…見てるやつらも邪魔なら邪魔って言えばいいじゃないのさ!」

 

 どうやら入り口で入場を管理していた職員が人が入れども出てこないのを不思議に思って確認に来たらしい。

 そこで鬼ごっこをしている俺と蛍さん,そしてそれを遠巻きに見つめていた野次馬達を見つけたらしい。


「いや…邪魔ではなかった…よな?」

「だな,一応半分は空いてたし。誰もぶつかったやつもいないしな」

「ああ…わざとぶつかりに行ったやつすら普通にかわされたからな」

「むしろいいもん見せて貰った。あの不思議な衣装であの身体だ」

「そうそう!こぼれそうでこぼれない。見えそうで見えないんだよなあれ」

「ははは!だからお前は前屈みなんだな」

「うるせぇ!お前もその山もりの股間を少しは隠せ!」


 好き勝手に盛り上がり始めた野次馬達に軽い頭痛を感じているのか職員がこめかみを揉みながら盛大な溜息をつく。

 ちょっと時間が遅くなってきていたので、待合室に女性がほとんどいなかったのもすぐに止められなかった理由の一つだったのだろう。

 この世界は街灯なんかはないため暗くなるのが早い。そのため女性の外出は早めに控えられるらしく、沐浴場を利用する女性のほとんどは夕食前に済ませることが多いらしい。


「ふん,ここまでだなソウジロウ。最初はどうなることかと思ったが煩悩を集中力に昇華してからの動きは悪くなかったぞ。

 その動き方を日常から心がけておけば戦闘中も無様な動きをすることはなかろ」

「…ははは」


 煩悩まで利用されて訓練させられたとなれば俺的にはもう笑うしかない。ここは悔しいとか情けないとか考えるよりも蛍さんが俺のことをそこまで理解してくれていることを喜ぶべきだろう。


「あの…お二人とも。何をしてるんですか?物凄い注目集めてるみたいですけど」


 沐浴場の奥から洗濯物を抱えて戻ってきたシスティナが白い目で俺を見ていた。

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