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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第2章

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33/203

新装備注文

 それからディランさんが工房から戻ってきたのは体感で30分ほど経った頃だった。

 のっしのっしとカウンターまで来ると手に持っていた物をゴロゴロとカウンターに転がした。


「……これだ」

「これは…腕輪?もしかしてパーティリングですか?」


 カウンターに置かれた4つの腕輪を前にディランさんは頷く。

 なるほど…そもそもパーティリングは1つの重魔石を人数分に分割して作成するもの。微かとはいえ重力操作の力を持っていたバスターソードも性質としては近しいものがある。


「魔力を通せば互いに強く引き合う」


 通常のリングと違うのはリング同士の引き合う力のオンオフが出来るということか。ただパーティリングは今持っている訳で…今あるのを売却してこれをするという手もあるがウィルさんに安く融通して貰っただけにそれはさすがに気まずい。


「ただ魔力の流しすぎには気をつけろ。流せば流すほどこいつは重くなる」

「ほう!…それはいい。なぁソウジロウ」


 ディランさんの説明を聞いて蛍さんの目がキランと輝く。あぁ…なるほど。そういう使い方ね。

 俺は蛍さんの言いたいことを理解するとカウンターのリングを両足首と両手首に装備した。

 リュスティラさんとディランさんは何をしてるんだこいつみたいな訝しげな表情をしている。そりゃそうだろう。パーティリングを1人で付けてても全く意味がないんだから。


「あ,でも俺魔力出せないんだけど」

「ふん,おまえの腰にはそれだけは得意だという奴がおるだろうが」

「ん?……あぁ,そっか。葵,このリング4つに魔力を通してくれる?」

『山猿の言い方は気に食わないですが,お安いご用ですわ』


 魔力操作のスキルを持つ葵には簡単な作業である。ん?ということは葵をいつも持ち歩けば俺も屋敷で魔石製品を使えることになる。実はこれはかなり有り難い。

 部屋の灯りも俺だけランプだし,台所で水も出せないから1人で水を飲むときは探索用の水筒を使っているくらいだ。別に葵である必要はないだろうが誰かが常に傍についている訳にはいかないからな。


「お…おぉ……く!これは…」


 葵が魔力を流し込んでいるのだろう。両手両足に装着したリングがずっしりと重くなった上にそれぞれが引き寄せあってくっつこうとしてくる。

 こ,これは結構つらい… 

 なぜなら重りを付けたまま動くということだけじゃなく,くっつこうとするリング達を常に引き離そうと力を入れ続けなくちゃいけないからだ。


『とりあえずこのくらいでいかがですか主殿』


 葵の声に改めて自分の身体を確認すると…大体1つにつき20キロ位だろうか。地球との重力差や高濃度酸素の恩恵がなければ絶対身動き取れなかったレベルである。

 この世界でならちゃんと意識すればなんとか普通に動けるという状態である。


「うん。もう充分。結構きつい」


 俺は四つのリングをつけたまま軽く飛び跳ねたり,歩法を使って室内を歩いて感触を確かめる。

 かなり重いし,近づこうとするリングたちを離すために随時力を使っているので結構しんどい。けどレイトークでシスティナが作ってくれた重りを壊してしまって以来重りなしで妥協してきていたので丁度良いと言えば丁度良かった。

 武器では無くなってしまったので細かい鑑定は出来なくなってしまったが,簡易鑑定では『重結の腕輪』となり生まれ変わったバスターソードとこれからも一緒にいられることは純粋に嬉しい。ディランさんには感謝である。


「ディランさんあの子を生まれ変わらせてくれてありがとうございました」

「おまえ…」


 頭を下げて感謝を述べる俺をディランさんは驚いた表情で見ている。やはりパーティリング的なものとして作ってくれた物をただの重りとして使うのはまずかっただろうか。


「それだけ魔力通したそれを4つもつけて動けるのか……あぁいい。見りゃあ分かることだったな。見かけ通りの小僧じゃねぇってことだ」

「で,あんた達はどうするんだい。このままうちに注文してくれるってことでいいかい?」


 ディランさんの腕を見せて貰った限りでは全く問題ない。俺は視線だけでシスティナ,蛍さん,桜に了解を取るとリュスティラさんへと視線を向ける。


「では俺たちの装備の作成をあなたたちにお願いします」

「そうこなくっちゃ!じゃあさっきまでの要望をもう一回確認していこうか。

っと,せっかく契約も成立しそうだし立ったままっていうのもあれだね。2階に案内するよ。そこなら一応椅子があるからね」


 リュスティラさんはそう言うと俺たちを扉の奥に招き入れた。

 言われるがままに扉をくぐるとむわっっとした熱気が立ちこめている。先ほどディランさんが作業したときの熱が残っているのかもしれない。

 工房の奥にある階段を上るまでの間に工房を観察したが作業台や炉,様々な素材が並べられた棚など刀好きの俺にはどこかわくわくさせるものばかりだった。

 この夫婦ともし仲良くなれるようならいつか鍛冶仕事を教えてもらうのもいいかもしれない。ただ技術はそう簡単に外部に出せるものじゃないだろうから断られる可能性の方が高そうだが。


 2階に上がるとリビングのようなスペースで4脚の椅子が置かれたテーブル,壁際に2名掛けの小さめのソファー,台所,本棚などが置かれている。

 部屋の奥にはもう一つ扉があるがおそらくは夫婦の寝室のはずで俺たちがそこへ通されることはないだろう。この2人の寝室とかすっごい見てみたい気はするがそこは自重しておく。

 

「狭くて悪いね。えっとあんたがリーダーだよな?じゃあ,あんたともう1人。こっちに座ってもらって後の2人はあっちのソファーに掛けててくれ。順番に聞くからね。おまえさんはあたしの隣だよ」


 リュスティラさんはしゃきしゃきと席割りを決めると真っ先に椅子に座り先ほど使っていた筆記具を取り出す。

 そこには作って欲しいと考えていた装備の案がいくつか書かれているはずだ。

 俺は最初にシスティナを隣に呼ぶと座るように促す。

そして,全員が椅子に座ると同時にリュスティラさんが口を開く。


「さて,じゃあまずはあんたから確認していこうか」

「はい」

「あ,今までのやりとりで分かってると思うけどあたしはこんなんだからさ。堅苦しい言葉なんていらないよ。気楽にやっとくれ」


 一応年上の職人さん相手だったんでそれなりの礼を尽くしてたんだけどいいなら別にこっちはどっちでも構わない。


「じゃあ,俺からよろしく」

「あいよ。さっきまであたしが聞いてたのは…剣長が100㎝程度の長剣が1本。手甲と脚甲は一組ずつ。後は魔法に耐性があるような鎖帷子…と。

 板金プレート系を使わないのはやっぱり重くなって動きが鈍くなるからかい?」


 胸甲だけでもかなり重さがあるし2刀もどきを目指している俺は両手を振り回すことが多いから上半身にごてごて付いているのは動きにくいという判断である。


「後は予算と余裕と条件に合う物があるなら頭部を保護する防具ですかね…激しく動いてもずれたりしないで視界を妨げないような奴ですね」

「なるほどね…そうなると普通の金属製のかぶる防具は条件に合わないかもしれないね」

「鉢金のような物はどうですか?」

「はちがね?なんだいそりゃ」


 鉢金はやっぱり知らないか…パッと見は防具に見えないだろうしな。


「はちまきに金属片を取り付けた物を額に巻くんです。これだと視界は妨げませんし激しい運動をしてもあまりずれたりすることはないんです。

 ただ頭部を覆う部分はかなり少なくなるので物理的な防御力はかなり減るかな。

 その辺の物足りなさを魔材や魔石の効果でうまく埋め合わせられればいい防具にならないか」


 俺の言葉にリュスティラとディランは目を見合わせて声にならない会話をしている。ように俺には見える。


「面白い発想だね…確かにそれなら女性探索者にも無理なく装備が可能だしね。金属部分に魔材や魔石を組み込めば魔法への耐性を上げることも可能だろうね。

 これはうまく売り出せば頭部への防具の常識を変えかねないよ」

「それは良かった。情報料は制作代金から引いておいてください」

「なっ!…ちぇ!しっかりしてるね。分かったよその分は割り引いてやるさ」


 リュスティラさんが肩をすくめつつも割引を承諾する。魔材や魔道具は高いはずなので少しでも安くなるようにしておかないとね。


「次はあんたかい」

「はい。よろしくお願いします」

「はいよ。あんたは確か…長柄武器の強化,もしくは新調。ローブとブレストプレート,手甲,脚甲だったっけね」

「はい。後は鉢金はメンバー全員分を追加しておいてください。その分の代金は情報料からよろしくお願いします」


 にっこりと微笑むシスティナ。やっぱりか…


「へ?…ああ!もう!分かったよ!頭部防具4つ分は情報料としてうちで全部持つ。それでいいだろう!これ以上はこの件ではびた一文まけないよ」

「はい,もちろんです。ありがとうございます」

「あんたぁ…この子ら手強いよぉ」


 隣のディランさんに泣きつくリュスティラさんの背中をディランさんがポンポンと優しく叩いて慰めている。アンバランスなように見えて何気に仲の良い夫婦である。


「手甲にちょっと小型の盾のような形を加えることは可能でしょうか?」

「ん?手甲部分を少し広げるだけなら難しくないけどその分薄くなるから強度は保障できないね。形と強度を両方求めるとなるとちょっと女の子には重いんじゃないかね」

「ではそれでお願いいたします。私,ちょっとだけ力持ちなので。盾の部分には対物はさほど強くなくてもいいですが四属性辺りの耐性効果を付与して貰いたいです」

「そりゃ出来ないことはないけど…あんたたちそんなに高階層に潜ってるのかい?その割には今の装備は貧弱すぎる。かといって今あんたたちが求めてる装備は10階層どころか20階層30階層を戦えるほどの物だってことに気づいてるかい」


 俺達の求める装備の質が高いことにさすがに黙っていられなくなったのだろう。


「私達は最近全員が死にかけました」


 ん?どこかで聞いたセリフだな。


「私達は探索者の初心者でしたのでレイトークの1階層で戦っていましたが,2日目にその1階層に階落ちの魔物が大量に発生したのです。

 私達はそこの階層主…最低でも10階落ちの階層主。しかも変種と戦い辛うじて本当にギリギリで勝利して生き残りました」

「な!そんなこと聞いたことないよ!1階層に10階落ちで変異種の階層主だって?…ありえない」


 俺達の話がどれだけ常軌を逸した物なのかをリュスティラさんは分かるのだろう。蒼ざめた顔で唇を震わせている。


「その時私たちは1階層を戦うだけの装備しか持ち合わせていなかった…

 防具は全く役に立たず,手持ちの武器は相手にろくに傷を負わせられない。そんな状況で『装備に頼るな。自分自身の力を磨け』だなどと言っている暇はありません。

 わかりますか?その時私達がどれほど良い装備を望んだか…」


 実際は良い装備を望む暇もないほどに必死にあがいていただけ。装備について後悔したのは後になってからなのだが技師夫妻がシスティナの迫力に押されているので取りあえず乗っかっておく。


「だから俺達は装備に妥協はしないと決めたんです。命がけで得たその金で出来る限り最高の装備を手に入れる。

 そのためにベイス商会に依頼をしてフレスベルク中から最高の技師を探して貰ったんです」


 その依頼は完全にウィルさんの好意で一銭もかかってないし,フレスベルク中を探してくれたのもウィルさんのこだわりだっただけだがそれは言わないでおく。


「なるほどな…」

「…こりゃ責任重大だね」


 案の定,技師夫妻はこの依頼がかなり重い物だと思い込んでくれたらしい。これで費用削減と完成品の質の向上が見込めるというものだ。

 ここまで計算してのシスティナのフリだとしたら交渉術恐るべしである。


「分かったよ。とにかくあんたらの要望を余すところなく言いな。私らの出来る範囲で最高の物を準備してやる。費用は払えるだけでいい。

 あんたらが払えるようになったら返してくれれば構わない」


 リュスティラの男前なセリフに感動した振りをしつつ俺は心の中でガッツポーズをするのだった。


◇ ◇ ◇


「よし!あんたの要望はそんなもんだね。

 武器に関してはやっぱり今のままじゃ素材的にきついから新調になる。そこは承知してくれ。

 こいつも技能付きみたいだがソウジの剣とは違ってまだ武器として生きているものを武器じゃない物にするのは勘弁して欲しい」

「いえ,当然のことだと思います。

 この子は訓練などでまだまだ活躍出来ると思います」

「そうかい。ありがとよ。

 じゃあ後ろの誰かと交代してくれ」

「はいはいはいはい!次はさっくっらでお願いしま~す!」


 後ろで暇していたのだろう。これ幸いとばかりに飛び起きて席を立ったばかりのシスティナの下に潜り込む。

 あっという間に背後を取られた形になるシスティナは一瞬驚いた表情を見せつつもリュスティラさんに笑顔で会釈して後ろに下がっていく。


「えへへ,桜だよ。よろしく」

「お,おう。

 じゃあその桜は何が必要なんだい?」

「えっとね,まずはクナイが欲しい」


 桜の勢いに押されつつリュスティラさんが聞くと俺の腕に胸を押しつけつつ桜が要望を伝える。

 忍者スタイルにとことんこだわりたい桜はサブウェポンとしてクナイを選択していた。サブと言いつつもクナイは格闘や投擲にも使えるしスコップや投げ縄の錘などにも使えたりする万能武器だ。

 一般的には10㎝程度の小苦無や15㎝程度の大苦無があるらしい。形としては両刃の尖った剣先にグリップがあり柄頭は輪の形になる。

 サイズが小さいためいくつも身につけておける上に桜の持ち味である機動力の邪魔もしないはずなのでかなり役に立ってくれるだろう。

 だが,当然リュスティラさんにはクナイがどんなものかは分からないので俺から若干のイラストを交えつつ説明しておく。


「普通の2本と四属性付与のやつを2本ずつね」


 なるほど…昨日は苦無が欲しいとしか言って無かったけど,苦無に『地・水・火・風』の四属性を付与してもらうことで相手に合わせて使い分けるつもりなのか。

 趣味に走ってるだけのように見せて桜もよく考えてるみたいだ。


「後は帷子かたびらがあるといいんだけど…ソウ様のやつだと桜にはちょっと邪魔なんだよね。もっと軽く薄くして欲しい。金属の糸みたいのがあればそれで編み上げてくれると最高かも」


 俺が依頼している鎖帷子のイメージとしては小さな金属の輪を組み合わせていくイメージだが,桜がイメージしているのはむしろ地球でいつも着ていたTシャツの糸が実は金属で出来てました的な感じだろう。確かにそれなら動きの邪魔にはならないし重さもさほどではないだろう。

 だが,防御力としてはいささか頼りない気はする。でも本当にそんな感じの物が作れるのならむしろ防具の下衣として重ね着するという使い方も出来る気がする。


「へぇ…なるほどね。金属を服のようにか…あんた。どう思う?」


 リュスティラさんが好奇心に満ちた顔で隣のディランさんを見る。


「…厳しいだろうな」

「だろうね。だけどやり遂げてこの技術が確立したら…ちょっとした技術革命になるね。おそらくいままで探索者か兵隊くらいしか買わなかった防具の購買層が全人類に広がるだろうからね」


 確かにそうだ。この世界は決して安全な世界じゃない。街から出ないような人達だっていつ刃傷沙汰に巻き込まれるか分からない。日常的に重くてかさばる鎧は着れなくても衣服のように着られてそれなりに身を守ってくれるような防具があればこぞって買いにくるだろう。


「それはちょっと考えさせてくれ。というか時間をくれ。1人の職人としてはそんな発想を貰ったからには是非挑戦してみたい。

 だが今はあんた達の装備を一通り揃えることの方が先決だ。桜とやらの帷子はとにかく出来る限り目の小さい物を使ってやってみる。気に入らなきゃ返品してもらっていい」

「わかりました。是非お願いします」


 リュスティラさんの目が職人魂に燃えている気がする。異世界の発想がこの世界の職人さんのやる気につながってくれるなら俺も転移してきた甲斐がある。


「あとは桜も手甲かなぁ?あんまり重かったりは困るから薄目で対魔仕様で。後は魔道具で敏捷補正とか隠蔽率上昇とかあるといいかな」


 ていうか桜そんな中二な知識をいったいどこで身に付けたんだ。蔵の中にそんな娯楽は無かったはずなのに。


(ソウ様と共感でずっと繋がってたからなんとなくかな)


 ぐは!俺の知識だったか…まあ今更その手の趣味を否定する気はない。現実になっちゃってるしね。


「敏捷か…風属性の魔石で近い効果を得られるかもしれないが,あくまで風の力を利用するから空気が動いてしまうな。隠蔽というのは隠れやすくなるってことか?あんた,どうだい?」

「夜だけなら闇だな」。

「あぁ,なるほど…闇魔石で光を通しにくくすることで闇には溶け込みやすくなるね」


 さすがに認識阻害とか不可視化とかは無理だよなぁ…それでも限定的な効果を持たせることは出来るのか。


「どうする桜?」

「うん!それでいいよ。敏捷は主に魔物と戦う時に必要だし,隠密行動は夜が基本だよね」

「了解したよ。桜はそれで全部かい?」

「取りあえずそんなとこかなぁ。ありがとうリュティ。よろしく」

「ん?…ああ!私の愛称か。ふふっ,そんな風に呼ばれたのは初めてだね。確かに私の名前は人族には呼びづらいかもしれないね。それ,気に入ったよ是非使ってくれ」


 桜はリュスティラさんと笑顔を交換すると機嫌よく後ろへと戻って行った。随分リュスティラさんを気に入ったらしい。


「よし!じゃあ最後は」

「私だな」


 蛍さんが乱れているのにいやらしくなく着こなした着物を揺らしながら悠然と歩いてきて俺の隣に腰を下ろす。

 結局昨日の段階では蛍さんはあんまり具体的な案は出なかったんだよな…刀としての時間が長すぎて自分の身体に余計な付属品を付けることを嫌がる傾向が強い。

 思えばポシェットを腰に付けるのだって大分渋っていた。

 

「そんな目で見るな。ソウジロウ。お前の気持ちは分かっているつもりだ。お前を不安にさせた私への戒めの意味も込めてきちんと装備についても考えてきた」


 俺の視線に気が付いたのだろう蛍さんが苦笑とともに俺の頭を撫でる。


「まずは桜と同じで邪魔にならない程度の重さで手甲を貰おう。胴装備はいらぬ。 だが,もし出来るならぶらじゃぁが欲しいところだが…」


 ぶ!ブラジャー?蛍さんいきなりなにを!


「ん?こいつは夜の布団の上では大変役に立つが,戦闘中はなぁ…」


 そう言って蛍さんは着ものの上から豊満な胸を揺らす。

 うん,蛍さんの胸に見とれたディランさんが悲しい胸のリュスティラさんに折檻されているのは気にしないことにする。


「最悪サラシでも構わんと思っていたんだが,これはソウジロウが好きだしな。出来れば形は変えたくないのでな」

「それは全面的に同意するけど,ブラジャーはどっちかっていうと洋裁店かなぁ」

「ふふふ,それくらい私にも分かっておるよ。だがぶらじゃあに防御能力があれば私も余計な装備をつけずとも良いし,ソウジロウも喜ぶし,戦闘面での不安も減じることができる。

 一石三鳥だと思ってな」


 な,なるほど…確かに俺にとってメリットしかない。さすがは蛍さんだ!

  

「もうここまで来たらどんな物を要求されても驚かんがそのぶらじゃあというのはどういうものなんだ?話の内容からして…その…む,胸に関するものだというのは分かるのだが」

「あぁ,そりゃそうだ。ごめんシスティナ。俺から説明するのもあれだし例のやつで説明よろしく」

「あ,はい。…えっと


 ブラジャーとは女性が胸部に着用する下着で、乳首の保護や乳房を支えることが基本目的。また補正下着としても使用され,この場合胸の形状を整えると共に形が崩れることを防ぐことも出来る。

 身体に合ったブラジャーを装着することで姿勢がよくなり心身の健康によいという効果もある。


 です」


 やっば!システィナのユニークスキルが超便利すぎる!普通ブラジャーの定義とか絶対にわからないから。 


「ちなみに基本的な形はこんな感じですかね」


 俺が覚えてる限りでブラジャーの形をメモして渡す。


「へぇ…面白いわね。確かに胸の大きな人達にとっては垂涎の装備かもね。

 ……私には関係ないけど」

「え,なんか言いました?」

「言ってないわよ!

 それで?それに何かしらの防御性能を持たせて欲しいってこと?」


 顔を赤くしたリュスティラさんが慌てたように話題を変えてくるが実は全部聞こえていたことは黙っていた方がいいだろう。


「そうじゃな。まあうまくできればでよい。

 後は私が作って欲しいのは…」




「え…蛍さん。なんでそんな物を」


 蛍さんが説明やイラストを交えつつリュスティラに要望した物は桜のクナイによく似た投擲用のサブウェポンだった。

 サイズは桜が求めていたものよりも小さい物で格闘には使えそうもなく完全に投擲用になるだろう。ただ全てにある変わった加工を蛍さんは依頼していた。


「まあうまくいくかどうかはわからんしな。

 完成したら見せてやろう。うまく行けば説明などなくても一目瞭然だろうよ」

「うん,わかった。楽しみにしておく」


 こと戦闘に関しては俺の中で蛍さんに対する信頼度は優に100%を超えている。その蛍さんがそういうなら敢えて問いただす必要なんかない。


「よし!分かった。あんた達の欲しい物は把握した。どこまで期待に沿えるか分からないが持てる知識と技術を全てつぎ込んで取り組ませて貰うよ」

「む!」


 職人魂に火がついた顔をする2人を見て俺は何故だか無償に嬉しくなってくる。この2人を紹介してくれたウィルさんには本当に感謝しなければならない。

 俺は一応持ってきていた布袋を懐から取り出すとリュスティラさん達の目の前にドスンっと置いた。


「ソウジ…これは?」


 自分の名前を棚に上げ,俺の名前が呼びにくいからと省略した俺の名前を呼びながらリュスティラさんが訝しげな視線を向けてくる。


「大金貨で90枚入ってます」

「きゅ!…90枚?大金貨が?」

「はい。今の俺達の全財産だと思ってもらって構いません。信用して預けますので思うがままに仕事に専念してください。

 もしそれでも俺達の頼んだ装備の代金に足りなかったとしても残金は必ず支払いますので」


 テーブルの上に無造作に置かれた大金にリュスティラさんは引き攣った顔をしたまま動かない。


「分かった。預かっておく」


 その袋をがっしと掴んで引き寄せたのはドワーフ系魔道具技師のディランさんだった。

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