三年後
「お館様、もう堪忍え」
「お館は相変わらず底なしの性欲、化け物」
俺の下で白い裸体と顔を上気させながら痙攣している澪と雫は、乱れて顔にかかっていた紫の髪と赤紫の髪をよけながら俺に降参を訴える。ふたりとの錬成は序盤はS気質のあるふたりが長年妄想してきた様々なプレイで俺を責め立ててくるが、結局は俺のスタミナを削りきることができずに反撃を受けて降参。だいたいがこのパターンだ。
「まあ、性欲というよりも魔力が底なしなんだけどな。魔力が尽きない限り【精気変換】で精力に転化できるし、毎日鍛えているおかげで体力も十分あるからな」
今日は澪と雫の番でこの部屋には俺とふたりしかいない。他のメンバーは順番が決まっていても流れとか勢いで人数が増えたり減ったりするんだが、澪と雫は必ずふたり一緒、なおかつ他のメンバーを混ぜないというスタイルを貫いている。かといって別にメンバーと仲が悪いわけではなくて、俺をひとりじめならぬ、ふたりじめしたいからということらしい。
ふたりが【擬人化】スキルを使用して人化してからすでに二年以上経つが、そのスタイルは一度も変わっていない。俺としては他のメンバーと澪、雫の絡みも見てみたいという気持ちもあるが、本人たちが言い出さない限り無理強いすることはない。
ただ、最初の夜のときとは比べ物にならないくらい俺の魔力は増えていて、最近は刀娘のタフさをもってしてもふたりだけでは俺を受け止めきれなくなっている。
「お館様、いよいよ塔の攻略も大詰めでありんすね」
「ああ、のんびり攻略していたとはいえ、まさか三年もかかるとは思わなかったよ」
右側に澪、左側に雫を抱えて横になった俺は小さくつぶやいて目の前に浮かばせた窓を見て感慨深い吐息を漏らす。
『富士宮 総司狼 業:-21 年齢:20 職:特級魔剣師
技能:言語/読解/簡易鑑定/武具鑑定/手入れ(極)/夜目/友誼+/添加錬成(極)
精気錬成(極)/敏感/刀匠/魔剣召喚(-)
特殊技能:魔精変換(極)』
約三年。この世界に転生してから過ごしてきた年月だ。詳しい日数は覚えていない、ただ俺の年齢は十七だったあの時から二十になっている。この間、スキルはほとんど増えなかったが、いくつかのスキルは『極』に達し、いつの間にか職が『特級魔剣師』へと変化していた。
唯一増えたスキルは、リュスティラさんの工房が隣に引っ越してきたのを機にリュスティラさんに弟子入りして、システィナの【叡智の書庫】から引っ張り出した刀鍛冶の知識をもとに武器を作っていたことで覚えた【刀匠】スキルだ。おかげで自分自身の力で刀を作ることができるようになったが、入れ替わるように【魔剣召喚】スキルがグレーアウトしてしまった。俺が作る日本刀はまだまだ未熟で魔剣のレベルには到底届かないし、今の俺の実力に見合うレベルにはないので、打った刀は冒険者ギルドに安く卸している。新撰組の主力が使っている武器ということで以外と人気があるらしいが、刀で斬るためにはコツがいるため、うまく使える冒険者はまだ少ない。
というわけで現状だと、澪と雫の村正コンビの後は、いま俺が使っている二本の刀が最後の地球産日本刀ということになる。スキルとして消滅したわけじゃないから、またいつか使えるようになると信じてはいるが、あの蔵にいた他の刀たちにもう会えないかも知れないと思うとやはり寂しい。
それにしても……この三年間も本当にいろいろなことがあった。いろいろあったけど、間違いなく充実した日々だったと思う。
あの領主会議のあとも基本的にばたばたしていた印象しかない。アイテムボックスに関する侍祭契約も結局六十日ほどで破棄されてしまい、それを機にリュスティラさんたちが危険回避のために、俺たちの屋敷沿いに引っ越してきた。ここならうちの従魔たちの警戒網があるから守りやすいと判断したからだ。ベイス商会の大工さんたちにお願いして塀の外には店舗部分だけを作り、工房と住居部分は屋敷の敷地内になるような形で建ててもらった。住居部分には水路を伸ばして温泉も引き込んであげたから、いつでも温泉に入れることをふたりとも大喜びしていた。
勿論、逃げるだけじゃなくリュスティラさんたちに絡んできた侍祭契約を破棄した領主たちの連合組織と対決もした。その結果、いくつかの都市のトップと統治組織が刷新されて、都市同盟がいろいろ変革されたみたいだけど、俺たちにはあんまり関係がないから詳しくは知らん。
その後も主塔の氾濫が相次いで、ギルドの指名依頼で各都市を転戦したり、塔の暴走を企てていた知恵ある魔物の集団と戦ったりもした。そのときにまた、新しい魔物と【友諠】を結んだりもして、さらにうちの屋敷が賑やかになったりな。
そんなことに巻き込まれつつも、合間を縫ってザチルの塔をしこしこと上り続けていた俺たちはおととい、とうとう最終階層だと思われる第二百階層に到達した。
「人数は集まるのでしょうか、お館」
「たぶんね。依頼書では七日後を決行日にしてるし、今や新撰組は押しも押されぬトップクランだからね。要請に応じる冒険者は多いと思うよ」
その二百階層を攻略するにあたり、頭数が必要だと判断した俺たちがギルドに協力してくれる冒険者の募集をかけたのは昨日のこと。
今の新撰組はギルド唯一のSSランクパーティのクランだ。もともとSまでしかなかったランクなのに新たに上位ランクが設定されたのはそこに所属するメンバーが全員Sランク冒険者になってしまったからだ。当然俺もSランクだし、刀娘たちや侍祭のふたり、後から登録した霞や陽、グリィンまでがSランクに昇りつめていた。
これはギルドが発足したばかりの時期だったからこそのスピード昇格という裏の理由もある。だが、結果的に俺たちの知名度はうなぎのぼりになった。そのせいで目立たずのんびり暮らすという当初の目的は絶対に不可能になってしまったが、誰にも口出しされないだけの力を身に付けたことで結局、自由にのんびり暮らせるようになったので、結果としては上々だ。
それにうちはアイテムボックスや新装備の発案者としての利権で資金は潤沢。新撰組からの依頼は、報酬額は勿論のこと金払いのよさにも定評がある。
「システィナ殿とメリスティア殿がおられるので、危険も少のうございますしね」
「うちの侍祭様たちは優秀だからね」
俺の膨大な魔力をタンクとして利用したメリスティアの【魂鳴り】【魂響き】のコンボは味方全員にメリスティアの【回復術】による自動回復効果、澪の【祝詞】による支援効果を常時発動できる。自動回復で追いつかない怪我はシスティナが個別に【回復術(極)】で対応すればよほどのことが無い限りは死ぬことはない。勿論、それを頼りきりにされても困るが、うちの斬り込み隊長の蛍の前でそんな腑抜けた冒険者は手痛いお仕置きを受けることはもう周知の事実だから問題はないだろう。
「もし二百階層が最上階だとすれば、いよいよお館様も神さんになりんすね」
「う~ん、どうだかな。神になれるなんて普通なら眉唾もんだしね」
確かに石碑にはそんなようなことが刻んであったし、ザチルの塔を上るにつれていろいろわかってきたことも多い。それらを考えると……眉唾とは言いつつも完全にないとは断言できない。俺たちが塔の中で気が付いたこと。
その最たるものが文字だ。階層を上がるにつれて、階層表示の数字だけだった部分の模様に文字が併記されるようになった。それを集めていくことで今では日本でいう五十音表みたいなものが完成して、それを見れば誰でも読めるようになっている。塔内ではそれが読めるといろいろ役に立つ。低階層での恩恵はまったくないが五十階層を越えてくると安地部屋の方向を示してくれたり、隠し部屋のヒントを教えてくれたりする。俺に関しては【読解】があったので五十音表を作っても恩恵はないんだが、後続の冒険者たちにはいずれ役にたつはずだ。
結局俺たちは三年という時間をかけてザチルの塔を百九十九階層までを踏破してきたが、攻略していて気付いたことがある。それはザチルの塔の階層ごとの傾向だ。この塔は百階層くらいまでは魔物が少しずつ強くなったり、純粋に数が増えて配置されたりする。しかし、百階層を越えると今度は知恵と心を試されるような階層が増えてくる。
それは主の間に続く通路を見つけ出すためのギミックだったり、【幻惑】や【誘惑】などのスキルを持った魔物が出てくるようになり恐怖や怒り、悲しみ、快楽など様々な方向から精神を攻撃してくるようになる。この攻撃には俺だけが結構苦労したが、刀娘たちは文字通り鋼の精神で精神系の攻撃は効かないし、侍祭たちも厳しい修行で培った強靭な心と主への契約に基づく強い信念が攻撃を寄せ付けなかった。
俺は結構惑わされていたが、俺になにかあっても周囲のメンバーがいつでも物理的に喝を入れてくれるわけで……うん、痛いけど精神攻撃は即解除だった。
そんな戦いを繰り返して塔を上っていくうちに、体は勿論、心も研ぎ澄まされていくような気がしていた。もし、この塔をを攻略すること自体が神へと至るための試練だとしたら……
「神さんにはならないのでございますか、お館」
「神というのがどんな存在なのかわからないから、なんともいえないな。だけど、いまの生活を続けられなくなるくらいならなりたくない」
俺をこの世界に送ってくれた地球の神のように意識体のようになるなら、長く意識を残せても刀娘たちやみんなとえっちぃことができなくなってしまうわけで、それは嫌だ。
この姿のまま不老不死とかになって、刀娘たちと永遠に一緒にいられるようになる。とかだったら喜んで神になってもいいけどな。それに……実はちょっと考えていることもある。
どっちにしろ七日後の二百階層攻略がうまくいってからの話だ。




