記念SS ファンの生き様
「ギルマス!この依頼なんですけどちょっと見て貰っていいですか!」
「こっちの買取額も確認お願いします!状態が悪いので査定額をちょっと下げたいんですが下げ幅がちょっとわからなくて」
「すいません!3番窓口で冒険者の方がギルマスを呼べって騒いでいるんですがどうしますか」
「食堂の方から、今日はお客様が多くてお酒と食材が夜までもたないのなんとかしてくれって要請が来てます!」
今日もいつものように慌ただしいですね……私は内心でそう呟くと溜息を洩らしてしまいました。
とはいっても私がやりたいと言って始めた仕事です。この仕事は私達のすむ世界を確実によくしてくれるという確信があります。私の残りの生涯をこの冒険者ギルドのために費やすに値すると即座に判断したのです。やりがいが無い訳ありません。
「わかりました! その依頼は確かにちょっと疑問がありますね。依頼人のところへ職員を派遣してもう一度内容を確認してきてください。おそらくモートさんが適任です!」
「買取額に関しては私に頼らずにアル君までの決済で構いません。彼の査定に間違いはありません」
「3番窓口! 呼べと言われたからと職員を派遣していたら回りませんよ! まず苦情の内容を聞き出してください。制度に関するものなら内容を聞き取ってください。金銭的な苦情については私達は相場からしっかりとした値段で対処してますので聞く必要はありません。もしごねるようなら……今日、ギルド護衛にあたっている契約冒険者は誰ですか? ……ああ、なら構いません彼に任せて下さい。ただし、用件が非常時案件にかかわるものであった場合は真偽問わずすぐに別室に案内してください。こんなのは想定された規定集通りの対応ですよ!」
「食堂の要請については最優先で対応。ギルド単独の収入源ですから大事にしてください。アル君の査定は終わって……ますね。では彼に仕入れの指揮を任せますのですぐに対応してください」
それにしても、フジノミヤ様から教えて頂いたこの冒険者ギルドという組織は本当に凄い形態です。まず今まで好き勝手に動いて、自己責任で戦って死んでしまっていた探索者達に危険のない仕事も斡旋することとで収入を安定させました。
そしてそこで得た収入でちゃんとした準備を整えさせてから実力に見合った依頼や探索を行わせることで探索者……いえギルド登録後は冒険者ですね。冒険者達の危険を軽減しそして順を追った成長を促すことが出来ます。
そのため新たに冒険者になろうとする者も増えました。もちろん、そんな初心者にはギルドから回復薬などをほんの少し優遇した価格で販売したり、盗賊などの武器を最低限の整備をして安く払い下げたり、初心者同士のパーティ結成を促したりするなどの支援も行っています。
ギルドが機能し始めてからは冒険者達の死亡率はかなり下がったと思います。噂はすぐに広まり、支店を増やそうと塔を管理する街の領主に打診をしただけで即座に許可が下りて、塔にほど近い良い場所を無料で提供されるなんてことも1度じゃありませんでした。
おかげで今は主塔持ちの街にはすべて支店を出すことが出来ました。まだ登録にはフレスベルクまで来てもらう必要はありますが、これからギルドカードを作るための設備などを増産し各街で登録も出来る様にしていかなくてはなりません。
私がそんなことを一生懸命していたらいつの間にか私は皆からギルマス、つまりギルドマスターと呼ばれるようになっていました。
なんとも気恥ずかしい呼び名ですが、フジノミヤ様がいつの間にか広めていたらしく……フジノミヤ様のファン1号としては有難く拝命するしかありませんでした。
「ギルマス、フジノミヤさんがカウンターにいらしてますけど……」
「すぐに1番応接室にご案内してください!」
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「今日はどうされました? フジノミヤ様」
「いえ、特に用事はないですよ。ちょっと顔を見せに寄っただけだったんですけどいきなり連れ込まれてしまって」
ああ! またやってしまいました。ついついフジノミヤ様のことになると我を忘れてしまいます。
私は……本当は探索者になりたかった。ですが、小さいころから祖父と父から商売を叩き込まれました。
夢を諦められずに隠れて剣を振ったりもしましたが……結局私には戦う才能はありませんでした。
……いや、才能が無いというのを言い訳にして祖父と父に逆らえない自分を誤魔化していたのでしょう。そしてそんな私のことを私以上に祖父と父は分かっていたのだと思います。
だから、私が本格的にベイス商会に携わる前に少しでも探索者気分を味わえるようにと修行という名目で行商に出してくれたんだと思います。
私はいろんな街といろんな塔を渡り歩きました。そこでたくさんの探索者たちと話をして商売をして……やっぱり私には探索者は無理だったんだと心から納得することが出来ました。
そう理解してしまったことは残念ではありましたが、そう分からせてくれた祖父と父には感謝しています。
それからの私は行商を続けながら、探索者の方達と話をしたり商売をするのが楽しみになりました。
ベテランの方達の冒険譚はわくわくしましたし、伸び盛りの中堅探索者達のちょっと無謀な冒険譚にはひやひやしました。中でも私が好きだったのは駆け出しの探索者達をほんの少し商売でおまけしてあげて探索を支援することでした。
そんな時に出会ったのがフジノミヤ様でした。初めて会った時からなんとなく気になる雰囲気をお持ちの方でした。塔に入るのは初めてだったらしく、身のこなしもとても戦闘経験が豊富とは思えませんでした。
しかし、同行している女性の1人は明らかに達人の動き方で全く隙がありませんでしたし、もう1人はなんと侍祭様を連れていました。私が内心で「なんて魅力的なパーティなんだろう」と、そう思った時にはもう後先も考えずにパーティリングを先行投資していました。
そして、それが間違いではなかったことは次の日にもう証明されたんです。レイトークの塔で起きた第一階層階落ち事件。通常の階層の魔物よりも遥かに上の階層の敵が出てくる『階落ち』……これが初心者が集まる第一階層で起きたのです。
塔のロビーは騒然としていました。まだ朝も早く腕のある探索者が来るには早い時間です。戻ってこない探索者達の生存は絶望視されつつありました。そんな時です! フジノミヤ様達がロビーに現れたのは。
フジノミヤ様達は事情を知ると、出来る範囲で生存者を助けに行く。そう言って颯爽と扉の向こうに消えていきました……そしてそれから1時間もしないうちに中にいた探索者達が脱出してきたのです。
私は震えました。昨日塔に入り始めたばかりのパーティが中堅すら尻込みするような塔に他人を助けるために突入しそれを成し遂げる。そしてあろうことかかなりの高階層から落ちて来て、しかも変異種だったという階層主をたったの三人で(何故か出て来た時にはパーティメンバーが1人増えていたので4人でしたが)討伐してしまったのです。
塔から彼らが出て来た時は思わず喝采をあげ涙が出そうになりました。詳しい話を根ほり葉ほり聞きたかったのですが、満身創痍の皆さんのことを考えすぐに私はフジノミヤ様を背負わせて貰い宿まで連れていきました。
私はその時におそらくフジノミヤ様達の『ふぁん』になったんだと思います。だから私はフジノミヤ様が次はどんなことをするのかが楽しみでならないんです。
そのために私はフジノミヤ様が望まれたことを全力で叶えます。
フジノミヤ様達の力を見込んで厄介ごとをお願いしたりもします。
フジノミヤ様達のために根回し出来ることがあればどんな些細なことでも、逆にどんな面倒なことでも労力は惜しみません。
それでいて見返りは求めません……いや、活躍した冒険譚だけは聞きたいです。
「それは失礼しました。私の早とちりでしたね」
「はは、別に構いませんよ。いつもウィルさんにはお世話になっちゃってますからね。こうして改まってお礼を言う機会があってもいいです。いつもありがとうございますウィルさん」
見返りなど求めていないのに、こうしてお礼を言われるのはとても嬉しいです。フジノミヤ様はこれからもいろいろと大きなことをする方だと思います。
だから私はファンとしてそんなフジノミヤ様を全力で支援して、これからも見守っていきたいと思っています。
それが私のファンとして生き様なのです。




