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魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ  作者: 伏(龍)
第4.5章

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記念SS フレイの休日

「あ、フレイさん。こんにちは」


 私達のパーティ『剣聖の弟子』のリーダーであるアーリに今日一日は休養日にすることを告げられ、暇を持てあましていた私はフレスベルクの街をあてもなくぶらついていた。


「な! ……ああ、ふ、ふふフジノミヤ殿!」


 そうしたら珍しく1人で街を歩いていたフジノミヤ殿に偶然出会ってしまった。な、なんていい日なんだろう今日は。休みにしてくれたアーリには感謝しなくてはいけない。


「珍しいですね。こんな時間にこんなところで会うなんて。今日は休養日ですか?」


「あ、ああ。ここのところ毎日、塔と依頼にかかりきりだったからアーリが今日は休みにしようと……」


 あぁもう! 頭の中では冷静に考えられているのに口に出す言葉はたどたどしくて、まるで挙動不審者だ。こんなことではフジノミヤ殿におかしな女だと思われてしまう。


「パーティ結成以降ずっと頑張ってますからね。ギルドランクも順調に上がってるみたいですし」


「そ、そうなんだ。フジノミヤ殿に言われてパーティを組んで、師匠達から稽古をつけてもらってなんとか戦えるようにしてもらったのと、新しくできたギルドのおかげで日々の収入が随分と増えたんだ。今では毎日少しずつだけどみんな蓄えが増えてる。毎日ちゃんとおいしい物が食べられて、ちゃんとした場所で泊まる事ができるから体調もいいし、やる気も出る。なによりいまなら1人になってもなんとか生きていけると思えるようになった。アルも自分に合った仕事を見つけて毎日が楽しそうだし、もし私に何かがあってももう路頭に迷うことはない。それもこれもみんなフジノミヤ殿のおかげだ……本当に感謝してもしたりない」


 気が付いたら次から次へとフジノミヤ殿のおかげで改善した私の人生を説明していた。しまったと思った時にはもう遅い。目の前のフジノミヤ殿はきょとんとした顔をしている。


 日頃から感謝しまくっていたせいでつい歯止めが利かなくなってしまった自分をいまさらながら呪いたい気分だ。


「そうですか! それは良かった。フレイさんは実力もあるし、人柄もちょっと騙されやすいという欠点はありますけどとても素直で律儀で好感が持てますし、本来であればそのくらいの生活は出来たはずだと思いますよ。今まではほんの少し歯車が噛みあっていなかっただけです。だから今の生活があるのは私の力じゃなくフレイさん自身の力だと思います。もし仮に私が何かをしたんだとしたら……ほんの少しのきっかけを作ったことと、ちょっとだけ背中を押したことぐらいです」


 はう! ……そんな笑顔でそんなこと言われたら顔が熱くなってしまうではないか。きっかけ……というのはあの夜のことだろうか……


 あの夜のことは私にとって忘れられない一生の宝物だ……初めて女として、本当に幸せを感じられる一時だった……出来ることならまた……は! い、い、いったい何を考えているんだ私は! フジノミヤ殿にはシスティナ殿や蛍殿のように、私のような汚れた女では足下にも及ばないような人たちがいるではないか。


「あ、あの……きっかけというはあの夜のことではなくて……戦闘の指導とアーリさんたちとパーティを組むことを勧めたこと……です、よ?」


「なななななな、なんだ! わ、分かっている。分かっているとも」


 ああ、またやってしまった。そんなこと考えればすぐに分かるではないか。ただ……私にとっては……今後も生きていく力をもらったと思えたのは……


「あの……もちろん、あの日のことをそういうふうに思ってもらえるのは私もとても嬉しいです……よ。フレイさん、とても綺麗でしたし」


「はうっ! ……」


 あぁ……だめだ、頭に血が………… ぷしゅぅ ……どこかでそんな音が聞こえた気がした。



― ― ― ― ― ― ― ― ― ―



 気が付くと視界の中には青い空と……誰かの首もとがあった。


 頭はやや固いがぬくもりのあるものの上に乗せられ、身体はどうやら木の長椅子のような物の上。そして、かすかな風を感じている頭と平耳を誰かに優しく撫でられている。平耳を撫でられることに関しては過敏になりすぎないように、毎晩アーリ殿に協力してもらって慣らしていたから、まだ少しくすぐったいが身悶える程ではない。それどころかむしろ……


「……気持ちいい」


「あ、気が付きましたか?」


 思わず漏れた言葉に、首もとだけが見えていた誰かが心配そうに覗き込んでくる。

 

 ……それは、当たり前のように当然ながらやっぱり間違いなくそうであろうと気が付いていた人……


「フジノミヤ殿! も、申し訳ない!」


「あ! 動かないで! ……いきなり動くとまだふらつくかもしれないから……それに、もふもふするのも気持ちいいですし。もう少しこうしていませんか?」


 一気に正気に戻り慌てて起きようとした私を、胸元を優しく抑えて再び頭を太ももの上に戻したフジノミヤ殿はいたずらっ子のような笑みを浮かべている。今抑えたその手に私の胸がばくばくとしているのを気が付かれなかっただろうか……


「……ここは?」


「フレスベルクの噴水広場ですね……」


 頭と平耳を撫でられながらちょっとだけ視線を巡らせると、混迷都市フレスベルクには似つかわしくないほどに静かでのんびりとした時間が流れている。


「この街にこんなところが……」


「大分端っこの方ですし、周囲にはあまり店もないような場所です。私も家の者に聞くまでは知らなかったんですが、たまにぼんやりしたい時なんかは来るんですよ」


 この世界ではあまり見ないさらさらとした黒髪を風に揺らしながら目を細めるフジノミヤ殿。


「いいところだな……私もまた来てもいいだろうか?」


「当たり前ですよ。この場所は私のものではないんですから」


「そ、そうか……そうだったな……ありがとう。フジノミヤ殿」


 よく分からないが、この場所はフジノミヤ殿が1人でのんびりする大切な場所の1つだったような気がする。そんな場所を成り行きとはいえ教えてもらえたことが私は単純に嬉しかった。


「さて、ちょっとお腹がすきましたね。その辺をぶらぶらしながら屋台をひやかしに行きませんか? もちろん私が誘ったので全部奢ります」


「わ、私と一緒でいいのか?」


 この状況だけでも充分に幸せなのに、更に一緒に街を歩く? そ、そそ、それではまるでこ、こここ、恋人同士みたいではないか。


「え? もちろん全然いいですよ。1人だとなかなか屋台巡りも回りづらいですし、一緒に来て頂いた方が助かります」


「そ、そ、そうか! じゃ、じゃあ同行させてもらおう」


「本当ですか! じゃあ、早速行きましょう。こっちに行くとおいしいと評判の屋台があるんですよ」


「わ、わかったから、そんなに急かさないでくれフジノミヤ殿」



 フジノミヤ殿の膝枕は名残惜しかったが、その後の食べ歩きもとても楽しいものだった。なぜだろうか……食べたことある料理もいくつかあったにも関わらず食べた物全てがおいしかった。


 ここ数年こんなに笑ったことはあっただろうか……こんなに心安らいだ日はあっただろうか……そしてこんなにも時間が経つのが惜しいと思うことはあっただろうか……


 ああ……やはり私は……


「フジノミヤ殿……」


「はい。どうかしました? そろそろ暗くなってきましたし、宿まで送りますよ」


 繁華街からは少し外れ、喧噪もやや遠くなった路地。点灯したばかりの魔石灯と落ちる寸前の夕日の明かりが私達の影を細長く伸ばし、不思議な雰囲気を醸し出している。だが、その雰囲気にあてられた訳ではない。


「もし……もし私がまた挫けそうになったら」


「え?」


 突然、雰囲気の変わった私にフジノミヤ殿が戸惑っている。もしかしたら拒否されるかもしれない。あきれられるかもしれない。嫌われてしまうかもしれない……それでも私はこの人が……


「あの日のように私を受け止めてくれるだろうか?」


 ……不思議だった。


 今日はフジノミヤ殿と偶然出会ってから、ずっと嬉しくて、恥ずかしくて、緊張して、焦って、まともに話せなかったのに…………こんなにも大胆でこんなにも恥ずかしいことがすんなりと言葉に出来る。


「…………」


「駄目……だろうか?」


「いえ……そうではなく……正直に言っていいですか?」


「ああ……覚悟は出来ているから言って欲しい」


「私は男です。しかも結構スケベだという自覚もありますから、フレイさんのような綺麗でスタイルのいい女性からまた(・・)あの日のようなことをして欲しいと頼まれたら断れないです」


 今日一日、年上の男性のように落ち着いた態度で私をエスコートしてきたフジノミヤ殿が初めて動揺しているように見える。私の思いきった言葉で動揺させることができたことが、ちょっと嬉しい。


「でも、私には他にも一緒にいたい女性達がたくさんいます。フレイさんならフレイさんだけを見てくれる方もきっと現れると思うんですけど……」


 それは分かっていたこと。フジノミヤ殿のような方のところにはもしかするとこれからももっとたくさんの女性が集まってくるかもしれない。


 それでも……私をあの地獄から救ってくれて、私達姉弟に未来をくれて、傷のある私を優しく受け止めてくれて、癒してくれたフジノミヤ殿が私は……


 だから私は身体の中にある残った全ての勇気と溢れる想いの全てを込めて口を開く。



「あなた()いい。あなたが好きなんだ」


 私の渾身の言葉……その想いにフジノミヤ殿はこの日一番の笑顔を私にくれた。


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