第八話「修行」
-4月12日 AM9:00-
「さあ始めるわよ!」
朝早く和人は三鶴城と共に外に出ていた。
三鶴城曰く、いまのままの和人ではまともに能力も使えないからだと言う。
確かに、和人は炎魔装甲をする事が出来るだけで、その能力がどういうものかさえ知らない。
「貴方、能力の種類は炎だと言ったわね?」
「ああ、そうだ」
三鶴城はデルタに言う。
デルタも答える。
「炎だと言うなら私が適任だわ」
そう言って、三鶴城はオルギアを起動する。
初期のオルギアは和人らに配られたものとは違い、大きさや形など様々にバリエーション豊かなものだった。
そんなバリエーション豊富な中で三鶴城が選んだのは剣型の物。
もちろんオルギアではあるが、剣先は本物のそれと同様である。
そこに三鶴城がオルギアを起動させる事によって剣から炎が噴き出る。
「これが私のオルギアよ」
圧巻の一言である。
和人は初めて自身のオルギア以外の力をこの目で見た、三鶴城のオルギアからは同じ炎でも格の違いを感じる程のエネルギーを感じる。
「この炎はただの炎じゃないわよ?」
固まっている和人に向けて三鶴城が言う。
「ただの炎じゃないって……?」
「これの元は『コソの点火プラグ』。正確な能力は剣から炎を出す事じゃ無い、『どんな物にも炎を点火させる能力』よ」
三鶴城は得意げに言うが、和人はだいたいのイメージしか掴んでいない風だった。
三鶴城はオルギアをしまい始めると続ける。
「まあ今日は基本的な組手から始めましょう」
「組手ですか?」
「そう、武器無しの組手、学校でやった事あるでしょう?」
どうせそのような訓練もしたことがあるだろうと言う三鶴城の予想だった。
三鶴城の予想通り、和人は学校にて格闘術の訓練も習ってはいたが……。
「オルギアでの訓練では無いんですか?」
和人は不満そうに言う。
そんな和人に三鶴城はため息を付きながら言う。
「あのねぇ、貴方オルギア使って変身したんでしょ? その時武器は何か持ってた?」
「いえ……」
「でしょ!? つまり貴方は必然的にネビュラとの距離が近くなるし、武器が無い以上自分の拳一つで闘わないといけないの。」
「そう……ですね」
「だから、まずやらないといけないのはオルギアの使い方じゃなくて、貴方自身の強さの確認!」
いきなり三鶴城が和人目掛け殴りかかる。
「っ!?」
すんでの所で躱した和人は慌てて三鶴城と距離を取る。
「あら、いい顔するじゃない」
戦闘モードに入った和人に合わせ三鶴城もファイティングポーズを取る。
そのまま二人はジリジリと距離を詰める。
3m……2mゆっくりと二人の距離は縮まる。
丁度二人の距離が1mを切ろうとした時、和人は背丈の差を生かし、三鶴城のリーチ外から攻撃を仕掛る。
右腕で三鶴城の顔より上からの拳の振りおろし。
しかし、三鶴城も経験から、リーチ差で仕掛けられることは分かっていたのか冷静に対応する。
振り下ろしに合わせ、左手で防ぐ。
空いた右腕で和人の腹部目掛け渾身の力で殴りつける。
「ごぶっ!」
後方に3m程吹き飛ばされた和人は思わず蹲ったまま動けない。
「もう終わり? 案外脆いのね」
「はあはあ……冗談!」
和人は立ち上がると今日一番の速さで三鶴城に詰め寄る。
予想外の速さに一瞬三鶴城の動きが鈍る。
和人も好機と更に意表を突く為、足払いを試みる。
勢いよく振られた足はしかし、三鶴城を転ばせるには至らなかった。
「年季が違うのよっ!」
逆に蹴り飛ばされてしまう。
「いい? 気づいてるか知らないけど、ここは少数精鋭なの! そんな所に貴方が飛ばされたの、自分が司令官の息子だからって特別扱いされてないとでも思った? 十分にされてるわよ、悪い方にね!」
三鶴城は止まらない。
「あのデルタを見て、貴方達の能力を知って、こんな最前線に飛ばされた理由がわかったわ。でもそれは私の勘違いだったみたいね……貴方ド素人もいい加減にしなさい!」
和人には三鶴城がここまで奮い立っている理由が判らなかった。
ただ、負けたくない一心で立ち上がり食らいつく。
しかし、何度果敢に攻め込んでも、どんな方法で攻撃しても、三鶴城は全て一撃で跳ね返す。
その度に和人は倒れ込み、再び立ち上がる。
「いい? 現状足を引っ張ってるのは貴方の方。いくら強力な武器があっても、使い手が弱ければ何の意味もない」
話している最中ならと和人が右ストレートを叩き込む。
しかし、三鶴城は難なく受け止める。
「こうやって卑怯な手を使ってもね!」
そしてまた吹き飛ばされる。
和人は何度も殴られているのに対して、三鶴城は一度も和人の攻撃を受けてはいない。
和人は懲りもせず立ち上がるが、とうとう攻撃の手を止めた。
「あら? 諦めるの?」
「はい……『今は』」
今はという意味深な言い方に引っかかった三鶴城は思わず聞き返す、「どういう事」かと。
「今の俺じゃ、どうやってもあんたには勝てない……ここまでぼこぼこにされたら嫌でもわかる。要はこの程度の実力じゃこのまま戦地に向かっても犬死するだけだって言いたいんだろ……」
思わず目が丸くなる三鶴城。
実際に和人が言っている事は正解だった。和人だけでは無い、この一連の流れはこの部隊『アサルト第23部隊』の通過儀礼だった。
勿論過去に三鶴城もこの通過儀礼を受け、今の和人の様にぼこぼこにされた。
「そうね……で? どうするの?」
「俺を……もっと強くしてください! ネビュラと戦える様に!」
三鶴城は過去の自分と和人を重ねていた。
三鶴城もまた和人と同じように強くなりたいと叫んだものだった。
少しばかり干渉に浸りながらも答える。
「私は甘くないわよ?」
「はい! お願いします師匠!」
師匠と言う響きに照れるのを隠せない三鶴城。
「そっか、まあそうなるわよね」
先ほどの気迫はどこか遠くへ行ってしまった様だった。