第六話「戦地へ」
「えっと、こっちはok……よし! 後は印鑑を押すだけで完了だ!」
メディアからの電話から二日後、有里華から聞いていた通り既に戦地で戦っている部隊へ合流手続きとして、資料が送られてきていた。
いかにネビュラが専門の部隊と言えども扱いは法的に陸軍として扱われる。
この書類を書く事自体に不満は無い。
「あー! 頭が痛くなってくるわ!」
「こういうのは嫌いか?」
「寧ろ好きな人の方が少ないだろ……」
たわいの無い会話をしつつも、不備無く全ての書類に記入する。
「印鑑も押したし、後は役所に行くだけだな」
椅子から立ち上がり、役所への身支度を始める。
「出かけるのか?」
「ああ」
デルタからの問いに答えつつも、手を止める事なく準備をする。
書類をクリアファイルに纏め、鞄に詰める。
「じゃあ行ってくるわ!」
「俺は付いて行かなくて大丈夫か?」
「ガキじゃねえんだしいらねえよ」
和人は笑いながら部屋を出る。
幸か不幸か、部屋にから出ると同時に秀明とすれ違う。
一瞬気まづい空気が流れるが、和人はそのまま家を出て行く。
秀明も特に和人に声をかける事はしなかった。
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「んじゃあこれで受理したからね」
「ありがとうございます!」
半ば40か50の男性職員から受理と聞いて一安心する和人。
「いやー、まさかあの神崎さんの息子さんがねえ」
「ども……」
神崎さんの息子、和人からすればよく聞く言い回しである。
有名人の子であると、必ず初対面では誰々の息子、娘と言われるものである。
それは和人も例外では無く、本人からすればあまり気持ちいいものではない。
「いやいや! 気を悪くしたのならごめんね!」
和人の態度に気がついたのか、慌てて取り繕う職員。
気まずさに耐えかねてか、手短に処理を済ませてしまう。
和人もこれ以上口を開こうとはしない。
結局それからは事務的な会話しかなく、和人は帰路につく。
帰り道、今まで幾度となくメディア司令官の息子として見られてきた事を思い出し嫌気がさす。
——誰も俺自身を見てくれない。
同時に学校では和人自身を見てくれていたクラスメイトの事を思い出す。
今も何処かで戦っているのだろうか。
そう思うと、自分も人類の為に戦いたいとはやる気持ちが抑えきれない。
メディア司令官の息子だからでは無い、自分自身を見てもらいたいからでも無い。
自分自身を見てくれたクラスメイト達と共に人類と戦いたい。
宛ら英雄的な思考だった。
皆がいるからこそ和人は戦う事を選んでいた。
和人は足早に自宅へ向かう。