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第五話「それぞれの気持ち」

「はー! すげえよマジで!」


 時刻は18時を少し過ぎ夕飯時、和人は興奮冷めやまぬまま今日の夕飯の牛丼を食べていた。


「食うか喋るかどっちかにしろよ」


 そう言うデルタも嬉しさを隠しきれてはいない。


「ただいま……」


 和気藹々(わきあいあい)とする二人の前に秀明が帰ってきた。


「親父! おかえり!」

「あ、ああ……」


 いつもは長期間家に帰らないでいると明らかに不機嫌な態度で出迎える和人だったが、この日ばかりは上機嫌で自身を出迎える。

 そんな和人に違和感を感じるのは当たり前の流れで、秀明は思わず聞き返す。


「何かあったのか?」


 明らかに上機嫌な息子に自然と秀明もこの時ばかりはいつもより優しい口調で話していた。


「ああ! 実は——」


 しかし、次に和人から並べられ言葉の羅列に事態は一変する。


「なんてことをしたんだ!」

「えっ……」


 あの日以来、秀明は和人を叱る事が多くなった。

 その度に今の様に『何故こんな事をした!』『勝手に判断するな!』『どうして素直に言う事を聞けないんだ!』などと叱ってきた。

 だが、そうやって叱られ続けてきた和人でも、今回の件で何故自分が叱られているのかが理解出来なかった。


「な、なんで怒ってんだよ! 俺が何をしたって言うんだよ!」


 和人の叫びは当然だった。

 寧ろ和人からすれば褒められるとさえ思っていた。

 これで問題なくネビュラと戦える、俺でも役に立てる。

 そう思っていた矢先の出来事だった。


「お前はっ!……もういい、部屋に戻っていなさい」

「はあ!? 都合が悪くなったらそれかよ、いつもそうじゃねえか!」


 この時ばかりは、和人からすると理不尽が過ぎた。

 秀明もいつもならここで和人が引くはずが、今日は引かなかった事でいつもより怒っているのを理解する。


「何度も言わせるな!」


 しかし秀明も一歩も引かない。

 そのいつも通りの様子に和人は無言のままリビングから出て行ってしまう。


「親の心子知らずって所だな」

「黙れ」


 二人のやり取りを今まで黙って見ていたデルタが口を開く。


「しかし、今回は子の心親知らずとも言えるな」

「……黙れ」


 静かに唸る秀明に遠慮なく追い討ちをかけるデルタ。


「メディアの最高司令官としては優秀でも、父親としては少し足りないな」

「五月蝿い! お前に何がわかる! お前の様な化け物に!」


 秀明は直ぐに口を滑らせたとはっとする。

 しかし、自分が言った事を訂正しようとはしない。


「……その化け物を生み出したのは何処の誰か、まさか忘れた訳じゃ無いだろ?」


 デルタは一気に距離を詰め、秀明の顔とゼロ距離まで近づく。


「この事はあいつには言うなよ? 後裏でコソコソやってたみたいだが、そろそろ認めてやったらどうだ? 子供ってのは大人が考えている以上に早く成長するもんだ」


 言うだけ言ってデルタは和人の元へ向かう。

 一人残された秀明は力なく床に拳を突き立てていた。


---


「はあ……」


 自室のベッドで横になる和人。


「溜息ばかりだと幸せが逃げるぜ?」


 デルタがやってきた。


「なあ、デルタ」

「うん?」

「俺何かしたかな……」


 デルタには和人の問いに答える事は出来ない。

 和人はただ褒めて欲しかった、それだけだった。

 横になっていた和人は自然と眠りにつき、寝息を立てていた。


「……こう言う部分はまだまだ子供だな」


 デルタは起こさない様に小声で呟いた。


---


 翌日、和人はスマホから発せられる電子音で目が覚めた。


「う〜ん、誰だよ」


 寝ぼけ眼で見る画面には『非通知設定』とだけ表示されている。


「いや、ホントに誰だよ……」


 おそるおそる電話を取る和人。


「——神崎和人様ですね?」


 何処かで聞いた事のある女性の声がする。


「はい、そうですけど……どちら様?」

「申し遅れました、私メディア管理部の長澤有里華(ながさわゆりか)と申します」

「有里華さん!?」


 長澤有里華、どおりで聞き覚えがある筈だ。

 有里華は姉の莉里と親友と呼べる関係にある。

 しかし、姉がいなくなって以来自然と関わり合いも薄くなり、すっかり消息を掴めなくなっていた。

 だがまさかメディアで働いていたとは和人は思いもしなかった。


「いやあ、まさか有里華さんがメディアに……」

「はい、お父様にはお世話になっております」


 久しぶりの会話だからだろうか、何か違和感を感じる。


「あの、何で敬語なんですか?」


 和人はストレートに違和感の正体を暴く。


「昔とは状況が違いますので」

「状況が違うって、どういう」

「……本題に入ってよろしいでしょうか」


 正に有無を言わせぬ言い方に和人ははい、と答えるしか無い。


「神崎和人様、貴方の配属先が決まりました」


 有里華から発せられた言葉は和人が待ちに待った言葉だった。

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